「……どういう、ことだ…………？」
　ブリタニア皇宮の中心、煌びやかな衣装を身につけた貴族や皇族達がこぞって立ち並ぶ絢爛な雰囲気の中、スザクはひとり目を瞠った。何故、こんなことになっているのか検討が付かない訳ではない。しかし彼がこの状況を受け入れるとは思えなかったのだ。そう、稀代のテロリストゼロであるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがこのように皇族へと復帰するなど彼の境遇や考え方を知っている者ならば想像も出来なかっただろう。
　スザクは叫び出しそうな気持ちを抑え、目の前の光景をしっかりと凝視した。
　彼は緋色の裏打ちが施された漆黒のマントを羽織り、金糸で刺繍の施された皇族服を身につけていた。ついひと月程前、自分は彼に惨めな拘束服を着せて皇帝へ彼を献上したのだが、一体どうしてこんなことになっているのだろう。
「第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが戻って来た。慣れるまですぐには役職に就かないが、紹介しておこう」
　その言葉に辺りはざわめく。ヴィ・ブリタニア――それはかの有名な后妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの持つ名――その子供達のことは余り良く知られていない。とうの昔に死んだという噂だけが信じられている。
　それを今、皇帝は生きているとはっきり断言したことになる。――死んだ筈の皇子……それだけで貴族たちの注目を集めるのには充分だった。
　皇帝はそうしてルルーシュへと視線を送る。
　彼と引き替えにナイト・オブ・ラウンズの地位を手に入れたのだが、その後こうして現在まで彼と逢うどころか姿を見ることすらなかった。皇帝を、皇族を憎み、そしてブリタニアに叛旗を翻えすゼロというテロリストになった彼は自分の主であったユーフェミアを殺した。
　ユーフェミアは彼と母親違いではあったが妹だった筈なのに、彼は躊躇うことなく彼女を撃ち、殺害した。あんなに優しかった彼女を殺し、嘘を吐いた彼を許せる筈がなかった。それなのにどうして彼は今この場に居る？
　スザクはグッと拳に力を篭めたまま、その姿を凝視していた。

＊　＊　＊

　皇帝による定例の挨拶が終わり、ナイト・オブ・ラウンズであるスザクはベリアル宮まで戻る為に本宮の廊下を歩いていた。他のラウンズの面々と退屈しのぎの会話をしながら離宮に戻る気分ではなかった。だから彼らの言葉を適当に躱し、暫く時間をおいてから戻ることにしたのだ。
　突き当たりを曲がり、回廊へと出ればベリアル宮に向かう近道に出やすい。少しだけ足を速め、歩いて行くと、反対側から現れた姿にスザクはハッと息を呑んだ。
「……ルルーシュ…………」
　彼はスザクの声に反応するように下を向いていた顔を僅かに上げた。
「スザク、か」
　僅かに目を細め、訝しげな表情でこちらを見詰める彼に、スザクは眉をグッと寄せた。
「何故、皇族に復帰した？」
　出来る限り何の動揺も顔に表さないように慎重に質す。あれ程嫌っていた皇族に復帰する理由に検討も付かなかった。
「何故、か……。解らないのか？　俺を皇帝に突きだした張本人だというのに」
　冷たい声色で告げられ、スザクは更にその表情を険しいものへと変化させた。
「そんなの僕が知ったことじゃないだろ」
　何故彼が皇族に復帰したのかなど知るはずがない。知ってどうするというのだろう。彼がユフィを殺したというのは事実だというのに。
「……ふっ、良いだろう。俺はもう部屋に戻る」
　解らないのが悪いのだ、とでも言うようにルルーシュは踵を返し歩き出そうとする。だが、それをスザクは拒んだ。彼の腕を掴み、引き留めたのだ。
「……何をする」
　睨み付けるような視線を向けられ、二人の間の緊張は一気に高まる。つい一ヶ月前に銃を撃ち合った相手に冷静でいられるような性格ではなかった。
「……言えよ」
　ドン、と壁に彼の背を押し付け、両手首を壁に固定する。一瞬だけ驚いたように目を瞠っていたルルーシュだが、すぐにそれを取り繕い、強い紫紺の光を向ける。
「ギアスは何処にやった？　何故皇宮に戻って来た？」
　じっと睨み付けるような視線を送ると、彼は表情一つ崩さずこちらへあの見慣れた紫紺を向けた。
「馬鹿正直にお前の質問に答えると思っているのか？」
「いや。でも答えさせてやるさ、厭でもね」
　冷たく微笑むと、彼は目を細めた。