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Edge Of The World

GEASS LOG TOP Edge Of The World
約9,362字 / 約17分

 軍に入って何年が経っただろう。あんなに綺麗な人を見たのは初めてだった。男ばかりでむさ苦しい組織の中、彼だけが特別で一際目立つ存在だった。
「お前が枢木か?」
 そんな恋い焦がれた人が今スザクの目の前にいた。憧れた美貌を真近にして、スザクは息を呑む。彼は細身の躯に将校だけが着ることの許された特別な誂えの軍服を身に纏い、デスクの向こう側にある椅子に腰掛け、スザクを見上げている。
「はい、自分が枢木スザクです。閣下」
 スザクは直立し、彼のアメジストのような澄んだ紫色の瞳を見詰めながら敬礼する。この場所はエリア11の軍事基地の一つ、ヨコスカ基地だった。そしてその基地の中にある作戦司令室にスザクはいた。
「枢木一等兵、お前は先日KMF適性試験を受けたな」
「はい……」
 スザクは一週間前、エリア11統一KMF適性試験を受験していた。それはスザクが望んで参加したものではなく、受験資格のある者は全員受験が義務付けられていたからだった。
 彼はその試験のことを云っているのだろう。何か問題があっただろうか、と少し不安になりながらも、彼の顔色を伺うように目線をしっかりと向けた。
 スザクが不安げな表情を浮かべていると、彼は僅かに目を細め、そして口端を上げた。向けられた笑みにスザクはドキリと胸が高鳴り、鼓動が速まる。何て綺麗な笑みなのだろう、と。しかしその不敵な笑みに、彼の意図が含まれていることがどことなくスザクにも伝わってくる。
 自分では手の届くような存在である彼が今、自分の目の前にいるのには理由があるのだ。そう、スザクの人生を変えてしまうような大きな理由が……。
「テストの結果、このエリア11でお前が最も優秀な成績を修めた……。ブリタニア人も名誉ブリタニア人も同じテストを受けたが、一番はお前だった」
 ブリタニア人は名誉ブリタニア人に比べても装備はきちんとしたものを整えているし、訓練だってたくさんしている筈だった。それなのに名誉である自分が一番であったという事実は誇らしくもあるが、同時に妬みの要素にもなる。
 もし、目の前にいるのが実力主義を掲げている彼でなければスザクは邪魔者扱いされ、まともに軍務をこなすことも出来ないような配置に付くことになっていたかもしれない。
 しかし、彼はそういったことをするような人間ではないとスザクは知っていた。というより彼の実力主義は周知の事実であり、先日も爵位を持たない平民出身のブリタニア人に部隊長を任せるという人事を立て続けに行ったのも彼だった。
「面白い結果だと思わないか? お前は一等兵として扱われてきたというのに、純血派のジェレミアすら上回る結果を叩きだした」
 彼はクスリと笑みを零す。そしてスッと立ち上がり、ゆっくりと几案の前へと歩んでいく。その仕草さえも洗練された動きで、隙がなかった。スザクはその様子を黙って見ていることしか出来なかった。
「その並外れた能力、使えるな……」

――良い方向にも、悪い方向にも。

 彼はスザクの目の前まで来ると、静かに立ち止まる。胸元にたくさんのバッジが付いている軍服に身を包んだその躯は細く、とても軍人ような体格ではなかった。しかし、彼は将官であり、普通ならば一等兵であるスザクが話をすることすら叶わないような相手だった。
「喜べ、異例ではあるがお前を少佐に特進させる。尉官で充分だという意見もあったが、私の右腕になるとあれば尉官では割に合わないだろうからな」
 特進という言葉では足りない、超特進というくらいの出世を提示され、スザクは驚いたように目を見開いた。そして、驚きはそれだけではなかった。彼はスザクを彼の右腕にすると云ったのだから。
「……自分を……閣下の右腕に……ですか?」
「そうだ」
 迷うことなく肯定され、スザクは逆に戸惑ってしまう。KMFの適正試験だけで階級が幾つも有り得ない程に上がったうえに彼の右腕となることすら決まってしまったというのか。それとも期待しても良いのだろうか。嘗ての出来事を憶えていてくれていると――…。
 幾ら実力主義者であるとはいえ、今回の人事は流石にやり過ぎのような気もする。しかし、彼にはそれくらいのことをする力があり、彼に付いていけば自分の目的が達成される早道であることは充分解りきったことだった。
 そう、自分が軍に入った目的はエリア11を日本として取り戻すこと。ナイト・オブ・ワンになればその権利が得られるが、その道程は険しいといった言葉では表しきれないくらい遠いものだった。暴風が吹き荒れる断崖絶壁を命綱なしで渡るくらい難しいことだといっても良い。
(それでも……諦めたくなかった……)
 そして遂にチャンスが回ってきたのだ。これを掴まずに何を掴めば良いというのだろう。スザクに与えられた選択肢は一つしかなかった。
 それに恋い焦がれた彼に近付くことが出来るなんて考えてもみなかった……。いつも軍議に向かうその後ろ姿だけを目線で追っていたというのに。こんなにも近い存在になることが出来るなんて。
「枢木スザク、お前をこのルルーシュ・ランペルージ中将の補佐官に任命する」
 彼は目を細め、口元に笑みを浮かべる。そうして、その彼の表情を見詰めながらスザク彼に従う言葉を口にする。
「イエス、マイ・ロード」

 彼の補佐官に任命された時、彼のフルネームと真の階級を初めて知った。彼はそもそも余り表立って行動したりしない人物だ。しかし、重要な場面に周囲を見渡せば彼の姿は常にある。それが一体どういう意味を表しているか、スザクには解らなかった。
「キミが枢木少佐だね? おーめーでーとー! 今日から此処がキミのKMF開発のバックアップを担う特別嚮導派遣技術部だよ。ランペルージ中将から聞いてるよね?」
 彼から聞いていたのは《西棟の外れに停まっているトレーラーに向かえ》という言葉だけだった。
「ええっと、自分は一体……」
「あーやっぱり……聞いてなかったんだね……」
 目の前に佇むひょろりと背の高い白衣姿の男はまたいつものことだ、と洩らしながらスザクに説明していく。
「まずは自己紹介だけれど、ボクはロイド・アスプルンド。この技術部門の総括を担っていますー。で、あそこにあるKMFが僕の作った最高傑作自信作!」
 ロイドが背後を振り返り目線を向けた先には、ずっしりとその巨大な姿を見せつけるように置かれていた白いKMFが見えた。
「あれは……」
「ランスロット……キミが乗るKMFだよ。テスト機だけれど、良いデータが出せたらそれを応用させて量産機の制作に移ることが決まっているからね。よろしく頼むよー。枢木少佐ぁ!」
 ロイドはにやにやと笑うと、後ろから一人の女性が近付いてきた。桔梗色の髪にスザクと同じ橙色の軍服を身に纏っている。
「セシルくん」
 ロイドはギョッとした様子で彼女の姿を見詰める。彼女はカップが三つ載ったトレイを横にあった作業机に置き、ニコリと微笑む。
「スザクくん、はじめまして。私はセシル・クルーミー。ロイドさんの部下でランスロットのオペレーティングに携わっています。よろしくね」
「はい、枢木スザクです。よろしくお願いします!」
「良かったらこれ、飲んでね。身体が温まると思うから」
「ありがとうございます!」
 受け取ったカップを覗くと、何だか妙に赤い色をした液体がたっぷりと入っていた。これは一体何だろうと思いながら、口を付ける。
「っ……!?」
 余りの辛さに驚きながらもロイドの様子を見ると、彼は一切カップに手を触れようとはしなかった。
「ね、温まるでしょう? 赤唐辛子とジンジャーと山葵を混ぜたペーストを隠し味に入れたの」
 セシルの笑顔にスザクは顔を引き攣らせる。まずもともとどんな飲み物だったのかが解らないし、隠し味が隠れていない。そもそも元日本とはいえブリタニアの領地になってしまったこの地に未だに山葵が存在していたのか、とそんな疑問さえ考えさせられてしまう。
「はは……」
 特別嚮導派遣技術部――通称《特派》でスザクは空いた時間にテストパイロットとして実験や訓練をすることになったらしい。ロイドは結局セシルのお茶らしきものに口を付けることなく、スザクに説明を始めた。
「これから世界初、第七世代KMFランスロットについて説明するからちゃんと聴いててねー」
 ひと通りの説明を聞き終わり、簡単なテストを終えると、帰ることを許可される。今までであれば真っ直ぐに軍の男子寮に戻るところだったが、スザクは説明を聴いたら彼の元へ戻ってくるようにと聞いていたから、真っ直ぐに彼のいる部屋へと向かう。
 司令室の前まで来ると、扉を塞ぐように立ちはだかっていた衛兵達が左右に退く。スザクが扉をノックすると室内からは心地の良い声で入室を許可する返事が聞こえた。
「失礼します」
 室内へ足を踏み入れると、彼は手に持っていた書類をそのままに視線だけをスザクへと向けた。
「特派はどうだった? この間の適性試験はランスロットの適性検査も兼ねていたからな。きっとお前にピッタリの機体となるだろう」
 彼は静かに手にしていた書類を机上に置くと、印鑑を押した。そして脇に置いてあった書類ケースへと仕舞う。
「ええ、少しだけテストで騎乗してみましたが、シュミレーターだけでも凄く感度が良いというか……しっくりくる動きで……」
 巨大な機械であるというのに自分が実際に動いている感覚に近く、差異も少ない。
「……やはりお前を選んで正解だったようだな。これからは基本的にはお前はランスロットのパイロットとして動いてもらうが、有事の際には部隊には属さず、私の指揮下で動いてもらう」
 彼は満足気にそう告げる。そしてスザクは彼の言葉に深く頷いた。
「イエス、マイ・ロード」
 それからというもの、スザクは毎日ランスロットのテストを重ね、それが終わるとルルーシュの元へ報告に訪れていた。
「そうか、驚く程に順調だな。枢木」
 目の前で頷く彼は若くして将校となり、驚くべき活躍をしているらしかった。その功績が今の彼の地位を支え、スザクとの接点を作ったが、しかしスザクの前では常に執務に追われているようにも思えた。
「ええ、閣下が技術支援費を工面してくださってより順調になったとアスプルンド中佐が」
「必要な手は使うまでさ。話は変わるが、最近隣国中華連邦と膠着状態になっている。このままでは衝突は避けられないだろう。近いうちに実戦に参加ことを覚悟しておいてくれ」
「イエス、マイ・ロード」

 彼が言った通りキュウシュウブロック近海で突如交戦が始まった。スザクはランスロットの初めての実戦投入にパイロットとして参加が決定し、すぐさま彼と共にキュウシュウブロックへと向かった。
 現在キュウシュウブロックを管轄している貴族が戦闘の指揮を執っているが、ルルーシュが到着次第、彼に指揮権を譲渡することになっていた。そしてスザクの嘗ての同僚たちも歩兵隊として参加。事態は着実に変化していた。
 旧日本人たちの中に親中派と呼ばれる者たちがおり、彼らはこれを好機とばかりにブリタニアから中華連邦の配下へと鞍替えしようと画策していた。スザクにとってはただ上で支配する者が変わるだけだとしか思えなかったが、元日本国官房長官である澤崎敦が中華連邦亡命後、日本の奪還掲げて宣戦布告を行ってきた以上、嘗ての日本人が期待を持ってしまうのはやむを得なかった。
 その細々と、しかし確かに存在する不穏分子を名誉ブリタニア人で構成されたた歩兵隊で捕らえていく。同胞であった者たち同士を闘わせるという策は自分達がキュウシュウに到着する前に取られた作戦の一環だった。
「っ、馬鹿な……」
 ルルーシュはギリ、と歯噛みした。余計なことをするなと彼は事前に指揮権を持っていた男爵に念押ししていたのに、自分達が到着する前に名誉ブリタニア人達を戦闘に投入し、その多くを喪ってしまっていたのだ。
「……男爵、これはどういうことだ? 何故、名誉ブリタニア人の死者がこんなに多数に?」
「彼らは使い棄ての駒です。閣下、ですから多少喪ったところで、替えは効きます」
 男爵は何も解っていなかった。名誉ブリタニア人は数には入らないから《余計なこと》のうちに入らないと思ったのだろう。それ程に名誉ブリタニア人の人権は墜落しており、まるで奴隷のような扱いだった。
「ノブレス・オブリージュ、お前はその言葉を知っているか? かのコーネリア皇女殿下が掲げる政策の一つだ。高貴なるものの義務をお前は果たしたといえるのか?」
「ッ、しかし!」
 彼の表情は納得していないと言っているようなものだった。そして、彼は小さな声で呟く。
「男爵の私に偉そうに……ッ!」
 きっとルルーシュには聞こえていた。けれども彼はクスリと笑みを零しただけで言及しなかった。
「もう良い。今から全権を私が引き継ぐ。現在最前線にいる者たちを後退させよ。そして名誉ブリタニア人歩兵部隊を引け。ランスロットを投入する!」
「……イエス、マイ・ロード」
 男爵は眉をグッと寄せ、敬礼した。
「枢木はランスロットの準備に入れ」
「イエス、マイ・ロード」
 スザクも彼に敬礼を向ける。そして急いで準備をするべく、足を進めた。

 彼の手際は見事だった。あれだけ苦戦を強いられたキュウシュウ戦線で、ほぼ兵を喪うことなく澤崎と中華連邦を返り討ちに遭わせた。スザクの操縦するランスロットも最前線で活躍し、殆ど無敵に近い状態で、敵を討ち取った。
 スザクが艦橋に戻ると、彼は「良くやった」と云い、僅かに笑みを零した。――嬉しかった。
 二人で力を合わせれば、出来ないことなんてない。嘗て彼が自分に告げた言葉を思い出してしまった。そう、彼とは八年前に一時を共に過ごしたことがあったのだ。
 今では考えられないくらいその存在は近く、自分の手の届くところにあった。一度は離れてしまった自分たちだったが、こうして再びその存在を近くに感じることが出来るようになった。
 しかし、彼はスザクのことを枢木と呼び、スザクは彼のことを中将閣下と呼んだ。近いようで遠い、今までの離れ離れだった期間とはまた違った遠さを感じざるを得なかった。
「昔を……思い出すな……」
 男爵が下がり、他の者も下げ、入り口付近に衛兵が数人いる以外にこの艦橋はスザクとルルーシュの二人きりだった。
「憶えていらっしゃったのですか?」
 今まで、昔の話を一切しようとしなかった彼が、ようやく昔のことを懐かしむような言葉を零した。その事実にスザクは驚きの声を上げる。
「忘れる訳が、ないだろう?」
 彼も憶えていてくれたのだ。自分達が嘗て友人と呼べる存在だったことを。
「お前のことを、捜す為にこの地へ戻ってきた。そして、捜索させていたというのに、お前はすぐ足下にいたんだ。それに気が付いたのは適性検査の時だった」
 自分のことを探していてくれた?
 八年前、ルルーシュはブリタニアの皇子としてエリア11となる前の日本を訪れた。それは半ば人質のような扱いではあったが、スザクは同い年の少年とひと夏の間に仲良くなった。しかし、ブリタニアと日本は開戦したのだ。ルルーシュがいるにも拘わらず……。
「僕の……ことを?」
 開戦して暫く経ち、スザクはルルーシュと戦争の混乱の中、離れ離れになってしまった。そして日本は敗戦し、日本という名前を失くし、エリア11となった。スザクは日本を取り戻す為、何処かで生きているであろうルルーシュを探す為、ブリタニア軍に入った。
 しかし、ブリタニア軍に入って暫くした時、先にルルーシュのことを見つけてしまったのだ。だが、彼はスザクの知るルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという名のブリタニアの皇子ではなく、ルルーシュ・ランペルージという平民階級出身の将校としてその場所にいた。
「何故、軍に入ったんだ?」
 ルルーシュもスザクの行動に疑問を持っていたようだった。彼は真っ直ぐにその紫紺の瞳をスザクへと向けた。昔は互いに幼い少年だったけれども、その瞳の色だけは成長しても変わらない。
「日本を取り戻す為に。そして君に……もう一度会いたかったから」
 その答えに満足したように彼は笑みを浮かべる。
「……俺とお前なら出来ないことなんて、ない」
 彼はスザクの叛逆とすら取られかねない言葉を咎めることも否定することもなかった。ただ静かにスザクが思っていたことと同じことを彼も言葉にした。
「どうして君はランペルージという名を? 君はこの国の……」
「その名前は棄てたんだ。この地位と引き換えに」
 スザクが皆まで言い切る前にルルーシュは答えを告げた。そしてその与えられた答えにスザクは息を呑む。
「俺の目的も……スザク、お前と同じなんだよ」

――日本を取り戻す……。

 彼はブリタニアを憎んでいた。戦争後、その生存が発見され、再びブリタニア本国に戻った時、彼は皇族の特権を使ったのだ。皇位継承権と引き換えに、彼は地位と力を得た。
 そしてエリア11に自治権を持たせる為、それを使ったのだ。
「でも、わざわざ継承権を棄てなくてもそれは出来た筈でしょう? どうしてそんな回りくどい手を?」
「俺は、ブリタニアが嫌いだ。お前の故郷を奪ったブリタニアが……だから……」
 彼はスザクの耳許で囁く。
「世界の端……この地で、俺は……」
「ブリタニアを壊すんだね」
 二人の目的は同じだった。ようやくこの近いようで遠かった距離がグッと縮まった。
「そうだ、俺は……」

――ブリタニアをぶっ壊す

 嘗て彼が幼い頃、同じ言葉を告げた声がスザクの中で重なった。
「……スザク、後で俺の私室に来てくれないか?」
 彼は美しい笑みを携えながらスザクを見詰めた。
「うん、着替えたら向かうよ」
 もう上司とその部下という関係ではなくなっていた。同じ目的を持った同士だったのだ。ブリタニアにその身を置きながら、ブリタニアに叛旗を翻そうとしている叛逆者として二人は存在していた。そして、彼の言葉は信頼出来た。喩え長い間、彼とは離れ離れになっていたとしても唯一の親友だから……。

* * *

  ずっと彼のことが頭を離れなくて、他の将校たちを無視してでも彼を自分の近くに置いた。久しぶりに再会した時、彼は自分のことを閣下と呼び、自分は彼のことを枢木と呼んだ。嘗てのように名前で呼び合うことすら気軽に出来ないこの場所で、思いがけず彼と再会することになったのは今まで散々探していたゲットー付近ではなく、正に自分の膝元である軍の内部だった。
 こんなにも近くにいたということに驚いた。しかし、こんなにも近くにいた筈なのにその存在は遠かった。
 そして彼と共に戦線に出た。そこで彼の目的を知り、自分と彼が同じものを目指していることを知った。そう、昔から二人で力を合わせれば、出来ないことなんて何もなかった。今回のキュウシュウ戦線でもそれは同じだった。信じることが出来る唯一の存在だった。そして先程その気持ちがそれだけでなかったことに気が付いてしまった。
 気が付けば彼のことを目で追いかけてしまう。気が付けば早く自分の元に無事に戻ってきてほしいと考えてしまう。スザクという存在はこんなにも自分の中で大きくなり、そしてそれだけで息が出来ない程に苦しくなってしまう。
 この気持ちが如何なるものであれ、スザクには受け入れ難いものであるのはそれ程考えるまでもなく想像が付く。だからといってこの気持ちを隠しながら彼と手を取り合うことも難しいだろう。
 だからこそ、試すように彼を私室に呼んでしまったのだ。
 そして彼は今、ルルーシュの目の前にいた。
「ルルーシュ……」
 スザクはパイロットスーツから着替え、いつもの橙色の軍服を身に纏っていた。
「スザク……」
 目的は同じだと解った。しかし、自分はそれだけではない感情をスザクに対して抱いてしまっている。そしてそれを隠すことはこれ以上難しい。何故ならもうすぐにでも彼に触れたいと思ってしまっているから。
 叶わないのは解っている。けれども叶わないのならばいっそのこと決定的に違えてしまった方がきっと楽かもしれない。そうすれば頭を切り替えて目的の為だけに彼と手を取り合うことが出来るだろう。何たる自己満足に過ぎない行動だろう。けれども、そうせずにはいられなかった。
「ルルーシュ、……君のことが好きだ」
「……え……?」
 突然の言葉にルルーシュは戸惑った。スザクは今、何といった? 頭の中でその言葉をもう一度反芻する。確かに彼は自分のことを好きだと告げた?
「……君にとってこの気持ちがどれだけ迷惑なことかは解ってる。けれども、どうしても伝えておきたかったんだ。その……君、無防備だし……」
「……は?」
 ルルーシュはスザクの言葉に思わず間の抜けた声を出してしまう。スザクの言葉と、自分の気持ちを比べてみると、二人の気持ちは全く同じということではないだろうか。
「……驚かせてごめん。ずっと君に近づきたくて、君が軍議に行く時、いつも見ていた。あの背中を後ろから抱きしめたくて……」
 まさか想いが通じ合うなんてこれっぽちも考えたことがなかった。彼にこんなにもまっすぐに想いを告げられて、きっと顔は真っ赤に染まっているに違いない。
「……スザク、俺もお前のことが……好きだ」
 何とか絞り出した声は少し掠れていて、それでも彼がその言葉を聴いた直後、驚いたような顔をしてからすぐにそれが笑みへと変わったことで、自分の気持ちが彼にも通じたということがはっきり解った。
 スザクはゆっくりとルルーシュの方へと近付いてくる。そうして彼は腕を上げ、ルルーシュの頬へと指先を伸ばした。
 ゆっくりと壊れ物を触るような優しい手つきで、彼はルルーシュの頬へと触れる。そして静かに首を傾けながら顔を寄せる。
「ん……」
 優しく重ね合わされる唇に、ルルーシュはドキドキとしながらそれを享受する。きっとずっとこうしたかったのだ。再会してからというものの毎日スザクのことを考え、そして毎日顔を合わせたいが為に彼に実験の報告をさせた。
 目的も、気持ちも、彼と共有し、そして二人でやればきっと出来ないことなんてない。それは何となくそう思う訳ではない。その思いはもう既に確信に変わっていた。
「っ……スザク……俺は……」
 ゆっくりと唇を解放され、うっとりとスザクの表情に見惚れながら、ルルーシュは彼の耳許で囁く。
「お前に……騎士になってほしかったんだ……」
 皇族にしか許されない騎士を持つ権利。それをルルーシュは手放してしまっていた。だからスザクを騎士にすることは既にもう出来ない。
「……ルルーシュ……。今は無理でも……僕は君の騎士になるよ……」
 スザクの言葉が何を表しているか、ルルーシュには解る。
「皇帝陛下は弱肉強食を謳われている。だから君が……」

――奪えば良い

 喪ったもの全てを取り戻す為に……。
「ああ、お前は……俺の騎士になれ……」
「イエス、ユア・マジェスティ」
 スザクは最上の言葉と共に再びルルーシュに唇を重ねた。

fin.

Novels
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