Another Way2
ゼロは行政特区日本の記念式典においてユーフェミア・リ・ブリタニアと共に行政特区日本に参加することを宣言した。そのことはエリア11だけでなく、ブリタニア本国やその他ブリタニアの支配地域ですら大きく報道され、世界的なニュースとなっていた。ブリタニアの皇子であったクロヴィス・ラ・ブリタニアを殺害したと自ら宣言したテロリストがブリタニアに協力するとなれば前代未聞の出来事だったのだから。
そして兄を殺された筈の皇女――第三皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアが自らの皇籍と引き換えにゼロの罪を帳消しにした。全く他人には理解しようがないこれらの一連の出来事に世界はまだ上手くついて行けていないようにも思える。
でも、状況は確実に進んでいた。
そもそも俺はユフィに《ゼロを撃て》と命じるつもりだった。だけれどもユフィはゼロである俺の考えを上回るような発言をしたのだ。
――その名は捨てました。
それがどんな意味を表しているか、皇族であればよく知っている筈である。いくらユフィがお飾りの、見せかけの役に立たない皇女だと影で云われていたとしても、それがわからないほど子供でもない筈だ。そう、わからない訳がない。
だか、彼女は本気だった。本気だったから協力しようと思えた。とても難しい厳しい一手だけれども、彼女の手を取りたくなってしまった。信じたくなってしまった。
――だから……。
“ルルーシュ・ランペルージ”に妹が増えた日
「ル、……ゼロ。特区の範囲を広げるというのはフジに沿ったこの地域を含めるということで良いですか?」
ユーフェミアは地図を指差しながら確認する。
フジにある行政特区内の会議室にはユーフェミア、スザク、ギルフォード、カレン、そして仮面を被ってゼロとなっている俺、その他主要な面々が揃っていた。ギルフォードはコーネリアがユフィのことを心配して付けたお目付け役というところだろうか。
自分の騎士を敢えて妹につけるということはそれだけ彼女が警戒していることを示している。それは《ゼロ》がこの場にいるからであるということは一目瞭然のことだった。
「ああ、その場所は重要な役割を果たす。物資の運搬をするにしても非常に重要で便利な場所だろう」
ゼロとしてそう同意する。ユフィは一生懸命特区を成功させようと努力している。そもそもユフィだって俺の妹なのだからこうして協力するようになったことによって護るべき対象の一人になる。
あの時、彼女に俺を撃てと命じさせようとは思っても、彼女を撃ち、日本人たちを決起させることは出来なかった。
それにしてもあの時点で取ることが可能な選択肢はそう多くなかった。
一つは予定通り彼女に俺を撃たせること。二つ目は彼女に今のように協力すること、そして三つ目は彼女を撃ち殺すこと。
三つ目の選択が最もハイリスク・ハイリターンな選択肢だった。そしてそれを取らなかった。その選択をすることが憚られたのはゼロとしての覚悟の弱さか、それともその選択による犠牲の多さか。人としての心が捨てきれなかったのか。
でもこれで良かったんだと思える。そう俺に思わせることの出来るのは彼女の思いの強さでもあった。ここまで彼女のことを評価してしまうのは妹に弱い自分の欠点でもあるかもしれない。
行政特区日本はまだぼんやりとした思いの形でしかない。けれどもそこに住まうことになる人達は現実に生きており、人生をそれによって左右されることになるのだから細かいところはしっかりと詰めていかなければならないだろう。そこまで計画して初めて、行政特区日本は成功できるかもしれないという段階に駒を進めることが出来るのだから。
「わかりました。ねぇゼロ。そろそろ休憩にしませんか? 二人でお話したいことがあります」
ユフィの言葉に後ろに控えていたスザクが目を見開いて露骨に反応した。
「私はよろしいですが、二人で、などあなたの騎士が許さないのでは?」
ゼロは仮面の奥からスザクの翡翠の色をした瞳を見つめる。そしてカレンはその言葉に驚いたかのようにこちらを見る。
「ユーフェミア様、ゼロと二人きりなどとは……」
スザクの言葉にカレンも別の意味で同意する。
「そうです、ゼロ。こんな口だけのお姫様、信用できません!」
スザクとカレンの意見は完全に一致していた。そしてギルフォードも彼らに賛同するように頷いてみせる。
「大丈夫です。ゼロ、わたくしと二人の時は仮面を外してくれますよね? 物理的な意味ではありません、あなたが《ゼロ》という存在になる時にかぶる《ゼロという仮面》を、です」
ユフィの言葉にスザクは言葉を震わせながら確認する。
「ユフィ、君は……もしかして、ゼロの正体を……?」
「ユーフェミア様、姫様がいないからといってあまり勝手な行動は……」
ギルフォードもそう云ってユフィの行動をコーネリアの騎士という立場から咎める。
「ゼロは非常に優秀で信用に足る人物です。ですからこうして特区日本をお任せしているのではないのですか?」
ユフィの言葉、素直に嬉しく思う。けれども彼らがゼロを警戒するのは当然でもある。ゼロはユーフェミアの異母兄クロヴィスを殺害しているのだから。
「確かに彼は優秀ですが……」
「なら大丈夫ですよね? さぁ、ゼロ。隣の休憩室に行きましょう。スザク、お茶を淹れてもらえますか?」
ユフィに促され、俺は隣の部屋へと向かう。カレンが不安気な表情をしているが、心配いらないと伝える。そしてドアを開け、部屋に入る。そこは窓がなく、内側から鍵をかけることが出来るちょっとした応接間のようになっていた。監視カメラもなく、盗聴器もないことは確認済みだ。
「……イエス、ユア・ハイネス」
背後でスザクがそうユーフェミアの言葉に従う返事をする。彼の様子からしてユフィはまだ彼に皇族でなくなるということを話していないのだろうか。
「ごめんなさいね、ゼロ。行政特区日本がここまで順調にやってこられたのはあなたのお陰なのに……」
「構いませんよ、何せ私がしてきたことを考えれば当然のことですから」
その言葉にユフィはゼロがしてきたことを思い出したのだろう。眉を下げて哀しげな表情をする。そう、彼女はゼロがやってきた罪を帳消しにするつもりなのだ。
コン、コン、とドアをノックする音が聞こえ、俺とユフィは扉へと視線を向けた。
「ユーフェミア様、お茶の準備が出来ました」
「わかりました。私が受け取ります」
ユフィはドアを開けて、スザクからトレーに載った紅茶を受け取る。スザクは一瞬こちらをチラリと見たが、それは何か企んでいないかと確認するような、牽制するような強い視線だった。
「では、こちらには入ってこないでくださいね。これは命令です」
ユフィはスザクに心配をかけないように優しく微笑んでドアを閉める。そして内側からロックを掛けた。
まぁ鍵など気休めにしかならないだろう。これくらいの作りであればスザクやカレンなら一撃で破壊出来るだろうから。
「ねぇ、あなたは行政特区には参加してくださらないのですか?」
ユフィはドアを閉めるやこちらへと向き直すとそう尋ねてくる。
「何を……私は既に参加しているではないですか」
ゼロとしての言葉を彼女へと向ける。そうするとユフィはむっとした様子でこちらに近づいてくる。
「その仮面を外してください。私はゼロではなくルルーシュ、あなたに訊いているのです」
彼女は相変わらず頑固だった。自分がやりたいと思ったら妥協しない、確かにそれは恵まれた環境によるものだったかもしれないけれど。けれど……。
「……仕方ないな……ユフィ」
カシャリと音を立てて仮面を外す。さっきよりもはっきりと彼女の姿を見ることができるようになる。桃色の柔らかい髪の毛に優しい淡い色をした紫の瞳。ちょっとわがままなところも昔と変わらない。彼女は誰にとっても魅力的なお姫様で、スザクが彼女の騎士になるということを選んだ理由もわかる気がする。
みんな彼女のことが好きになってしまうのだ。そんな魅力が彼女にはある。
「これで満足かい?」
ゼロとしてではない、彼女の異母兄ルルーシュとして、ユーフェミアの前でだけなら。
「ありがとう、ルルーシュ」
ユフィは心からの感謝の気持ちを笑顔にして向けてくれる、素直な子だった。
「俺は特区にはまだ参加出来ない」
そしてユフィの疑問に答える。そう、今は未だ特区にルルーシュとして参加することは正直難しい。もし今現段階で参加しようと思えばアッシュフォードを離れなければならない。ナナリーはまだ中等部の学生だし、彼女の仲良くしている友達だっている。少なくともナナリーの意思を確認しなければ参加を決定することは出来ないだろう。
それに俺には未だやらねばならないことがある。
「ユフィ、確かに俺はゼロとして特区に参加して上手くいくようにサポートしている。だが、ブリタニアへの叛逆を止めるとは未だ云っていない」
そう、俺にはやらなければならないことが……。
「わかっています……、わかってるんです。まだあなたがゼロを辞めようとしないのはそのためだと……でも……他に方法はないのですか? ルルーシュ」
ユフィは苦しそうな表情で告げる。可愛い妹を困らせて、それでもやらなければならないと自分で自分を苦しめているだけかもしれないけれども。
「他に何か方法があるとでも云うのかい?」
そんなものなどありはしない。ブリタニアがブリタニアであることが……即ち俺とナナリーの脅威なのだから。
「内側から変えることは変えることは出来ませんか? 特区が成功すれば少なくともナナリーの安全は保証できます! ブリタニアも黒の騎士団も武装は解除されるし、私達もいます。だからルルーシュ、皇族に復帰する気はないですか? だってあの黒の騎士団をつくったのはあなた、充分に実績を上げている。それはあなたの力でしょう? それだけのことが出来るのならブリタニアを中から変えることだって……!」
ユフィの言葉に俺は息が詰まりそうなくらい苦しい思いが蘇る。あのときのことだ。
「……ユフィ、それはだめだ。俺はブリタニア皇族を憎んでいる。君も含めて」
愛する妹でもあるが、憎きブリタニアのいち員でもあるユフィ。
「もう一度皇位継承権争いに参加させられるなんて、ご免だ」
兄弟姉妹同士で血で血を洗うような醜い争い、いつ殺されるかわからない恐怖。俺とナナリーをまもってくれる人なんていないのだから。
* * *
先程の皇帝の演説でユフィが皇位継承権とブリタニアの名を返上するという発表がついに一般国民へ向けて成された。やはりスザクは知らされていなかった。異母妹のわがままに振り回されて可哀想なやつだなと思う。
でも、何だか少し安心した。スザクがユフィの騎士になった時、胸が苦しくなったことを思い出す。ナナリーの騎士に、と云おうと思ったそばからユフィに奪われたような気持ちになったのだと思う。
スザクは初めての友達で、特別だった。でも、アイツはゼロの手を取らず、ユフィの手を取った。本当にショックで……頭が真っ白になって……アイツが白兜のパイロットだと知って……敵だったとわかって……。
行政特区でならスザクともう一度手を取り合えるだろうか? 嘘偽りなく、もう一度今度は友達として……。
「ルルーシュ」
自室に戻り、部屋の電気をつける。そうするとC.C.がベッドに横たわっていたことに気がつく。
「どうした、学校は。またサボったのか?」
「全校集会、皇帝の顔を見たら気分が悪くなった」
前かがみで、荷物を床に置きながら正直に理由を告げると、C.C.は身体を起こし、立ち上がってこちらに向かってくる。
「父親の顔を見るだけで吐き気がする、か。可哀想なやつだな」
そう云って彼女に頭を撫でられる。完全に子供扱いされている気がするが、何だか本当に疲れてしまった。
「そういえばナナリーも先程帰ってきたぞ」
「ナナリーも?」
C.C.の言葉に頭を上げると、彼女の指先が頭から離れていく。
「そうだ。約束がある、とか云ってたが? まさか恋人か?」
「……ナナリーに限ってそんな筈は……」
足元がふらつくが、ナナリーに何かあったら一大事だ。恋人なんて冗談じゃない。俺は自室のドアを開け、ナナリーの部屋へと向かう。
コン、コン。とノックをし、彼女の名前を呼ぶ。
「ナナリー、帰ってきているのかい?」
するとナナリーの部屋のドアが開く。
「はい、お帰りなさい、お兄さま」
ナナリーと車椅子を押す咲世子が部屋から出てくる。
「C.C.から来客があると聞いたが……」
「はい、もうすぐいらっしゃると思います」
ニコリ、とナナリーは微笑む。その時、来客を知らせるチャイムの音が鳴った。
「あ、いらしたみたいですね」
「俺が、見てくるよ」
ナナリーの恋人、かもしれないなんて。もしそんなやつだったら絶対追い返してやる! そう思いながら住居エリアの玄関へと向かう。インターホンのパネルを操作し、カメラで相手を確認する。
「……ユフィ?」
ドアの前に居たのはキャップを深く被った少女だった。でも、顔を見なくてもわかる。彼女はユーフェミアだ。ナナリーの恋人ではなかったということか。でも、何故ここに?
玄関のドアを開ける。ユフィはキャップだけでなく服装もボーイッシュなもので、目立つ長い髪は短く見えるように頭の両脇で結い上げられていた。
「こんにちは、ルルーシュ!」
「や、やあ。ユフィ。ナナリーの云っていたお客さんって君のことだったんだな」
「さっきナナリーから直接連絡があったの。この間ね、実は番号を交換していて」
「そうだったのか。とりあえず中に入ってくれ」
ユフィと外で立ち話を続けるわけにはいかず、建物内へと入るように促す。
「ありがとう」
居住区の部屋へと着くと、ナナリーはそこで待っていた。テーブルには紅茶のセットが置かれており、咲世子がお茶の準備をしておいてくれていたようだった。
「ナナリー」
「ユフィ姉さま! いらっしゃい」
「この間の学園祭の時以来ね」
ナナリーはこの前の学園祭の時もそうだったが、親しかった異母姉に会えて嬉しそうだった。やはり女性同士、気が合うのだろう。
「あの時は驚きました。ユフィ姉さまが急に行政特区日本の発表をされたので……」
「私、ナナリーに参加してほしいと思って、考え付いちゃったの」
ユフィはあの祭典の時も云っていた。これはナナリーの為だ、と。
彼女は彼女なりにナナリーの幸せを考えてくれている。
「……でも……」
ナナリーは少し困ったように眉を下げる。
「ナナリーは嫌かしら。行政特区に参加するの」
ナナリーの為の行政特区。ユフィはナナリーに頷いてほしいのだろう。でも、ナナリーにだって意見はあるのだ。
「いえ、そうではないのですが……だって……お兄さまは……ゼロなのでしょう?」
「え……?」
ナナリーの言葉に俺は驚愕した。ナナリーは気付いていたというのか。俺が、ゼロで……人殺しだということに……。
「ゼロがユフィ姉さまの手を取った時にわかりました。だからさっきユフィ姉さまは皇位継承権を返上した。そうですよね?」
「ナナリー……お前……気付いていたのか……」
「やっぱり。お兄さま、私に嘘は吐けませんよ」
ニコリ、と微笑むナナリーに驚きを隠せなかった。我が妹ながら恐るべき洞察力。目が見えないはずなのに、声と状況と手を触っただけでそこまで推理できるとは……。
ナナリーに今までやってきたことを知られてしまうのは心苦しい気持ちになる。
「お兄さま、私はお兄さまを信じています」
ゼロである俺を受け入れてくれるなんて思ってもみなかった。何より俺はクロヴィスを殺しているのだから。
「ありがとう、ナナリー」
「私はお兄さまの妹です。危険なことはしてほしくはないけれど……お兄さまの目指す未来を尊重します。そしてユフィ姉さま、私はまだ特区には参加出来ません」
「何故なの? ナナリー」
ユフィは尋ねる。
「ゼロであるお兄さまの邪魔にはなりたくありません。あと、中学校は……卒業したいんです」
「学校……」
ユフィはナナリーの言葉繰り返す。彼女も数ヶ月前に高校を辞めたばかりだった。きっとユフィも卒業するまで学校に通いたかったのだろう。だから彼女もナナリーの気持ちは理解出来るはず。
「それなら仕方がないわね。学校、卒業したらまた考えてくれる?」
「はい、ユフィ姉さま」
ユフィの言葉にナナリーはふわりと微笑んだ。
「それにしても、君はもう皇位継承権を返上してしまっていいのかい? もう少し特区が安定してからでも……」
今朝の発表は急だった。スザクも知らなかったくらいだ。特区に関わる者も知らされていないだろう。返上すること事態はあの祭典の時に聞いていたが、まさかこんなに突然発表されるとは思っていなかった。
「ええ、構わないわ。これはお父様とも約束したこと。特区設立から三ヶ月後に皇位継承権を返上すると決めていましたから」
「そうか……」
「でも、今まで通りとはいかなくても特区には参加するつもりよ。特区は私が言い出したことですから」
ユフィは微笑んで言葉を続ける。
「新しい姓は隠して、ただのユーフェミアとして参加するわ。ある程度の権限は残してもらっているからだいたいは今までと変わりない筈よ」
「それは安心した。特区に君は絶対に必要だから」
ゼロだけでは特区は成り立たない。ユーフェミアとゼロが揃って初めて上手くいく可能性が出てくるのだ。
「……そういえば私、スザクを私の専任騎士から解任しました」
「ああ、スザクから聴いたよ」
スザクはユフィの皇籍返上について知らなかったのだから皇帝の発表の時、かなり驚いていた。
「君はもう皇族ではなくなるのだから仕方ないだろう」
「ええ、それは心配していません。ねぇルルーシュ、もう一度訊いてもいいですか? ナナリーがあなたのことをゼロと知った今、もう一度」
「……何をだ……?」
「皇族に戻るつもりはないの?」
ユフィの再びの問い、何度訊かれても答えは変わらない。
「ユフィ……それは……」
俺はブリタニアを憎んでいる。恨んでいる。前回ゼロとして会った時にユフィにはそう伝えた筈だ。
「では、ナナリーは?」
ナナリーはどうなのか。それは今まで実は聴いたことがなかった。怖くて訊けなかったんだ。もし、ナナリーが実は皇族に戻りたいと願っていたら……。
「……わかりません」
少し困った様子で眉を下げるナナリー。その返答に少しほっとした。
「今は七年前とは違うわ。私は皇位を返上したけれど、お姉さまには力があります。お姉さまはあなた達が日本に送られた後、ずっとあなた達のことを心配していたの。それに後悔してたわ。だって……マリアンヌ様が殺された日、お姉さまがアリエスの警備を担当していたのよ。何でテロに気がつけなかったんだって。今でも時々そう話しているの」
「……何だって? 姉上が?」
初耳だった。もしかしたらコーネリアが何か知っているのではないかとは思っていたが、母さんを護れなかったことを後悔しているだなんて……。
「それでずっと事件のことについても調べているのよ。まだ手がかりは見つかっていないけれど、でもあなた達が生きていると知ったら……絶対に二人を護ってくれると思うの!」
ユフィはナナリーの手を取りながら俺とナナリー二人に訴えかける。コーネリアがそんな風に考えてくれていたということも知ることが出来て嬉しかった。
「ユフィ……」
「ユフィ姉さま……」
その時、再び訪問者を告げるベルの音がなる。
「……俺が行ってくるよ」
廊下へと繋がる扉を開け、再び玄関へと向かう。すると咲世子が既に来客の応対をしていてくれた。
「ルルーシュ様、お客様です」
「……スザク……」
玄関に居たのはスザクだった。きっと政庁でユフィの不在を聴いたのだろう。
「もう戻ってきたのか?」
「うん……ユフィは政庁にはいなくて……」
スザクの言葉はほぼ想像通りのものだった。ユフィはスザクと入れ違いでここにやってきたのだから。
「知ってる」
そう告げるとスザクが驚いたように声を上げる。
「何で……?」
「ユフィは今ここにいるからだ」
そうして事実を告げてやる。
「ええええええっ!?」
緑色の大きな目をまんまるに開いて驚くスザクに苦笑しながら俺はスザクを部屋へと案内する。
「あら、スザク」
リビングに連れて行くと、ユフィは何でもないくらい自然にスザクを受け入れてしまう。対してスザクの方はまだ状況が掴めていない、というところか。
「ユフィ、何で……」
本当にこのクラブハウスにユフィがいることに驚いているスザクを他所にユフィは突然椅子から立ち上がると、面白いことを考え付いたときのように微笑みを向ける。
「私、決めました。今日から私は……私は、ユーフェミア・ランペルージになります!」
ユフィの言葉は驚くべきものだった。
「は? 何を云っている。ユフィ」
スザクの方を見ると、彼もさっきからずっと驚きっぱなしであるのがわかった。
「決めました。私がこれから名乗る姓は《ランペルージ》です」
ユフィと何故かナナリーも笑みを浮かべていた。