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False Stage1-08

GEASS LOG TOP False Stage1-08
約10,513字 / 約19分

「さぁ、皇帝陛下がお待ちかねのようだ」
 アヴァロンを降り立つと、夕日が沈み掛けた頃だった。そこでふとスザクは考える。今日はもしかしなくとも学院の新学期だった筈だ。日本とブリタニアを行き来したせいで日付や時間の感覚がおかしくなってしまったのだろう。ブリタニアの学校は日本とは違い九月に入学式を行うから今日でスザクは学年が一つ上がり、三年生となる。進級試験というものもあったのだが、ルルーシュとスザクは免除されていた。スザクの特殊な状況を考えればそれは納得出来るものだったが、何故ルルーシュまで免除されているのかは結局解らないままだった。しかしそれでも良い。明日からまた二人で学生生活を送ることが出来るのならば気にする必要のない些細なことだ。
 新学期ということは学生達ももう寮に戻っており、再び学院は活気付いているのだろう。ルルーシュは大丈夫だろうか。監督生達にあんな風に云われたばかりだ。何も無ければ良いが……。
 ルルーシュのことを考えている内に前を歩くシュナイゼルやジノ、アーニャは謁見の間へと入っていく。スザクもハッとしてその後をすぐに追いかける。
「スザク、遅い」
 アーニャはスザクの方を振り向くとそう小さく笑みを零す。いつの間にか呼び捨てにされているような気がするが、まぁ気にしても仕方が無いだろう。
 薄暗いその空間には背後から眩い光が差している。金色にきらきらと輝くそれに目が眩み、目を細める。
 そうすればシュナイゼルやジノは跪き、頭を下げた。スザクとアーニャも遅れてそうすれば、コツリ、コツリと足音が響く。
 目の前を通る暗い影はスザクよりも少し左手で動きを止め、そうして玉座へずっしりと腰掛ける音がした。
 許可されるまで決して顔を上げることは出来ない。左腕を腰へと回し、右腕を前へと出す。その不自然な体勢のまま、じっとその時を待った。
「…………面を上げよ」
 低く、威厳のある声にスザクはゆっくりと顔を前へと向ける。そうすればテレビのニュースや中継演説でしか見ることのないこの国を治める皇帝――シャルル・ジ・ブリタニアの姿が視界へと入る。
 軍服のようなデザインの皇帝服は大きなウロボロスの紋章が刻まれており、それはこの国のシンボルだった。何故自分がこの場所へと呼ばれたのか全く解らないまま、スザクはじっと彼のことを見詰め続けた。
「諸君、今回の活躍ご苦労だった。シュナイゼルよ、良くこの短期間でニッポンを制圧したな。捕らえた者達の処遇はお前に任せよう」
『イエス、ユア・マジェスティ』
 シュナイゼルがそう答えれば皇帝はうむ、と頷いてジノとアーニャへと視線を移す。そうしてシュナイゼルだけ先に用が済んだとばかりに下がっていてしまった。
 残されたのはナイト・オブ・ラウンズと自分だけ。何故このような状況になったのか解らないまま、皇帝の言葉を待つ。
「ヴァインベルグ、アールストレイム、そなたらの活躍も聞いておるぞ。そこで特別に任務を与えようと思う。その為に此処に呼んだのだ」
「……特別な、任務、ですか?」
 ジノはわくわくとした表情を浮かべ、皇帝の言葉へと耳を傾ける。アーニャは表情を変化させることなく、じっと前を見詰め続けていた。
「そのことを話す前に一つ、枢木よ……そなたの今回の活躍も聞いておる。しかし侵略した国はそなたの祖国であろう。何故戦いに参加した? シュナイゼルに要請されたから断れなかったとでも云うか?」
 確かにスザクのことをそう思っている人は多いだろう。しかしスザクは祖国に棄てられた存在であり、利用し続けられる存在だった。それを否定する為に、そして自身の護りたいものを護る為に戦争に参加した。
「……自分は、祖国に棄てられた存在です。ブリタニア軍に入るということは確かに自分にとって生きる手段でした。しかし学院に入って大切なものを得たのです。護りたいと思う大切な友人を。そしてそれを実現するにはブリタニアを護る必要があると思ったのです」
 スザクは出来るだけ正直に考えを告げた。それが吉と出るか凶と出るかは解らない。それでもはっきりと言うのは自分の決意の表れなのだと思う。
「ふ……はははは、確かにブリタニアに住まう臣民を護る為には軍に入り、この国への侵略を防ぐ。それは間違いではないな。それにニッポンはそなたへの援助を数年足らずで打ち切ったと訊いた。それをこの儂の前へと立てる程に這い上がってみせたという。全く面白い奴だ。気に入ったぞ。実力も儂シュナイゼルが認める程だという。そこで枢木よ、お前を円卓の騎士として認めよう」
 皇帝は低い声でそうはっきりと告げる。その声は威厳があり、人を従えさせる力があった。
「ナイト・オブ・ラウンズに……!?」
 思わぬ展開にスザクは喫驚した。しかし横にいたジノやアーニャは平然とその言葉を聞いている。ラウンズとはそんなにも突然任命されるものなのだろうか。まるでいつも通りと云わんばかりの表情を浮かべていた。
「そこでヴァインベルグ、アールストレイム、枢木。そなたらをある人物の護衛として付けよう。それが今回の任務である。この十年間で三十二回暗殺未遂に遭った者だ。ナイト・オブ・ラウンズとしてその者の護衛の役割を果たし、命を狙う者を捕らえてみせよ」
 十年間で三十二回も暗殺されかけた人物。一体どんな理由で狙われた人なのだろう。ナイト・オブ・ラウンズが直接に警護するということはつまり国の重要人物――皇族である可能性が高い。
「陛下、その人物とは…………」
 ジノが口を開く。そうすれば皇帝はニカ、と笑みを浮かべた。
「現在帝立コルチェスター学院に通っておる者だ。ルルーシュ・ランペルージと名乗って生活しておる我が不肖の息子だ」
「…………え?」

――今、皇帝は何と言った?

 ルルーシュ・ランペルージと云った? そして息子とも。ルルーシュ・ランペルージと名乗る少年はあの学院に一人しか存在しないし、皇帝の息子ということは皇族ということだ。それはつまりルルーシュは……。

――皇子?

「まず、学院から奴を儂の前まで連れ出して来ることが最初の任務としよう」
 学院の敷地から出ることを赦されていないルルーシュを学院から連れだし、そうして父親である皇帝の前に連れて来る。それがまず初めの任務なのだという。
 そこまで言い終えると皇帝はマントを翻し、謁見の間を出て行ってしまう。スザクやジノ、アーニャは思わぬ展開に顔を見合わせた。
「……なぁんとなく解ってきた気がする」
 ジノは呟く。スザクもアーニャもそんなジノを見上げた。
「〝コルチェスター学院〟に〝ランペルージ〟ね」
 ルルーシュ・ランペルージにロロ・ランペルージ。ルルーシュは皇帝の息子でロロは機密情報局の人間だった。そして監視対象はルルーシュ。段々と繋がりが見えてきたように思える。しかしルルーシュは自分が皇子であるという素振りを見せるようなことは無かったし、確かにあの時、ルルーシュはこう言った。

――〝下賎〟が庶民のことを表すのならば確かにその通り、俺の中にはお前達の云う〝下賎〟の血が流れている

 つまりルルーシュには庶民の血が流れているということになり、本当にルルーシュが皇帝陛下の血を引いているというのならばその言葉が矛盾しているということになる。
いや、待て。矛盾などさせる必要などないではないか。皇帝陛下が父親で、庶民の女が母親であったならば――それではルルーシュは皇帝の庶子?
そんな推測を立てたところで謁見の間を後にする。
「スザク、お前コルチェスターに通ってるんだろ? 知っているか? ルルーシュ……殿下のこと」
 ジノは彼の名前の後に殿下、と付けるかどうか少し迷ったのだろう。若干の間を開けてそう訊ねてきた。
「…………知っている」
 知っているも何もこの数ヶ月間ずっと一緒に過ごしてきた相手だ。彼が皇帝の子供であったなどと誰が想像するか。
 確かにあの研ぎ澄まされた仕草や博識さ。シュナイゼルを連想させるような部分も今思えば存在していたかもしれない。
「そうか。それなら手っ取り早く見つけられそうだな! とにかく準備をしたらコルチェスターに急がないと」
「……準備?」
 ジノは真っ直ぐに前を見詰め、スザクにもそちらへと視線を向けるように促した。そうしてスザクも前方へと顔を向ければそこには侍女達が数人待ち構えていた。

「このマントって意外に重たいんだね」
 スザクは完成したばかりなのだという緑色のマントの裾を両手で持ち上げながら歩く。
「まぁふわっふわのマント、って訳にはいかないだろ?」
「飛ばされちゃう」
 ジノとアーニャはそれぞれそう呆れたようにスザクを見る。表地のビロードと絹の裏地が光沢を放つマントは端々に金色のパイピングが施してあり、背には大きな文様が金糸で刺繍されていた。騎士と云いながらそれは豪奢であり、古くからの伝統を感じるものだった。
 スザクがナイト・オブ・ラウンズに入ると決まった直後、すぐにラウンズの制服を用意していたらしい。寸分狂わずぴったりとしたピークトラペルでダブルボタンのスーツ。それは純白色でその内側の黒いインナーとの対比が鮮明だった。
 ジノの家の車を使って学院まで戻ってくる。皇子殿下を迎えに行くのだから最上級の車を、と四人で乗ってもゆとりがたっぷりあるリムジン車で此処までやって来たのだ。しかし、きっとルルーシュはそんなことを気にしたりはしないのだろうな、と何処か頭の隅で思いながらスザクは正門から学院の敷地内へと歩んでいく。
 ジノとアーニャはそんなスザクの案内に付いていくように後ろを歩いた。
 静かな学院内は新学期が始まったとは思えない程。確かに既に時刻は夕方と呼べる時間を過ぎてはいるが、それでも深夜という訳ではない。いつもならばまだ賑わっているとはいかなくともちらほらと人の姿を見ることは出来る筈の時間だった。

――それなのに

 正門から数十メートル歩いたこの場所まで人一人見かけない。
 外灯がぼんやりと道を照らし、夏から秋へと変わる少しだけ冷たくなってきた風を肌に感じながらスザクはオンブレ寮を目指す。
 ルルーシュは元気だろうか。一緒に皇宮まで来てくれるだろうか。スザクがルルーシュの境遇を垣間見てしまったことを怒ったりはしないだろうか。
 不安と、そして数日ぶりの再会に期待が膨らむ。この妙な違和感は学院が余りに静かだからだろうか。それともまた何か別のことが原因だろうか。
 オンブレ寮の前まで到着すると、スザクは異変に気が付いた。木製のドアに嵌っている硝子の窓の向こう側にはオンブレの学生の為のサロンがある。その場所にオンブレの学生以外の――つまりはルミエールの学生の姿がちらほらと見えたのだ。
 一体どうしたことか。確かルミエールの学生がオンブレを訪れることなどないと訊いたのに。
 スザクは勢いよくその扉を開いた。

――バタンッ…

 ガヤガヤとざわめき合っていた室内はぱたりと静寂に包まれた。それは突然人が入ってきたことに驚いたからかもしれないし、入ってきたのが枢木スザクであったからかもしれない。そうでなければ入ってきたスザクがラウンズの制服を纏っていたからかもしれない。
 とにかく室内は先ほどまでの喧騒を一切感じさせない程に静かだった。サロンを見渡せばそこに居る学生の半数以上がルミエールの寮生であることに気が付き、目を瞠る。
「スザク? 此処にあの方が?」
 ジノは全くといっても過言ではない程に空気を読まずにそう訊ねる。
「その筈だけれど」
 スザクは背後からのそのジノの問いに振り向かずに答えた。
「何で君達が此処に居るんだ?」
 スザクは周囲のルミエール寮生たちへと目を向ける。いつもだったら見下すような、嘲るような視線を向けられるのに、今日は違った。
「……ナイト・オブ・ラウンズの……騎士服?」
 一人の少年がぽつりと零す。後ろから入って来たジノとアーニャに気が付くと周囲は更に騒然とした。
「ヴァインベルグ郷にアールストレイム郷……一体何故、このようなところに!?」
 ナイト・オブ・ラウンズであり実家が名家とあればやはり有名らしい。少年達は顔色を変えて彼らの周りに集まった。
「何故って? 任務だからだよ。皇帝陛下からのな!」
 何故皇帝陛下がこの学院にラウンズを寄越したのか。そして何故枢木スザクがナイト・オブ・ラウンズの衣裳を身に纏うっているのか全く以って意味が解らないとばかりに互いに顔を見合わせた。
「ルルーシュは部屋に居るかな?」
「は、はい! ですが……」
 スザクがナイト・オブ・ラウンズと共に行動し、そしてスザクがナイト・オブ・ラウンズの騎士服を着用している以上彼ら貴族よりもナイト・オブ・ラウンズであるスザクの方が立場は上になる。
「……ですが?」
 そこで一度少年の言葉は途切れ、表情が硬く変化する。スザクはその言葉の先を促すようにそう告げた。
「監督生のシャントルイユが……」
「まさか……ルルーシュの部屋に?」
 やはり厭な予感は当たってしまった。スザクの問いを頷いて肯定する少年が顔を上げる前にスザクは踵を返して屋上へ向かう為に足を踏み出す。ジノとアーニャは何が何だか、という様子でスザクの後へと続いた。
「一体何の理由でラウンズが……?」
 ジノがサロンを出ようとする直前、また別の少年が言葉を洩らす。
「皇子殿下を迎えに来たのさ!」
 残った少年たちの「え……」と驚く声が聞こえたが、もうきっと自分達には関係ないことだった。
「なぁ、スザク! 殿下はこの上に居るのか?」
「……地下の部屋にね」
「地下? なら何で上に上る必要が有るんだ!?」
 屋上庭園に上がると、いつも美しく咲いていた花々はグシャグシャと根本から手折れ、暗くてよく見えないが萎れているようだった。
「酷い」
 折られ、枯れ果てた草花を覗き込みアーニャは呟く。それはとても短い言葉だったが、彼女の優しさを表しているようだった。そんな姿を傍目にスザクは眉を寄せた。一体自分が不在の間何があったというのか。不安で胸が不自然に脈打つ。
(――ルルーシュッ!)
 足を早めて奥にある螺旋階段へと向かう。コンクリートで造られたそれはカツリ、カツリ、と足音を響かせ、そして反響させる。
 薄明かりの中スザクはルルーシュの部屋へと続く扉を開ける。鍵は掛かっておらず、簡単にその扉は開いた。
「ルルーシュ!?」
 呼べばそこには誰の姿も見えず、スザクは息を切らしながら周囲を見渡した。この部屋はリヴィングやキッチンが一続きになっており、間仕切りは殆ど存在しない。この場所にルルーシュの姿が見えないのならば残りは寝室かバスルームのどちらかだ。
 寝室やバスルームという最もプライベートな空間に踏み込むのは失礼な気もするが、それでも今すぐにルルーシュを見つけなければという不安と焦りがスザクをつき動かした。
 ガチャリというアナログ的な扉が閉開音を大袈裟に立てる。電気が殆ど点いていない寝室にスザクは一瞬目を細めた。しかし、段々と暗闇に目が慣れていく内に、そこに広がる光景を知覚した。
「ルルーシュッ!」
 ベッドの上にぐったりと横たわるルルーシュの姿。荒らされた寝室内。そして立ち込める異臭。
「……ん…………スザ……?」
 スザクが入って来たことに気が付いたらしいルルーシュは僅かにその紫紺を覗かせた。ぼんやりとした虚ろな表情を近付くスザクへと向けた。
「ルルーシュ!? 一体何がっ!?」
 ルルーシュのすぐ傍まで近寄り、声を上げて問いただせばルルーシュはようやく意識を取り戻したのか、大きく目を見張った。
 そうして顔を覗き込もうとベッドへ身を乗り出した瞬間、ルルーシュは身を固くして身を覆うシーツをぎゅっと握りしめた。
「お、俺に近寄るな!」
 カタカタと躯を震えながらルルーシュはベッドの端へと後退する。怯えたようなその行動にハッとしてスザクは動きを止めた。
「ルルーシュ……君……」
 スザクはベッドの上へと乗り上げると、パッとルルーシュの手首を掴み自分の元へと引き寄せる。
「やっ、スザ……ッ!」
 ルルーシュが身に纏っていたワイシャツの襟を引き、上から幾つかのボタンを外す。そうして顕わになった白い肌の上には無数の紅い痕が刻まれていた。それが目に入った瞬間、スザクはグッと顔を顰める。
「誰が、こんな……ッ」
「見るな! もう……止めてくれ。これ以上……俺は」
 肩を震わせながらそう懇願するルルーシュの姿にスザクは言葉を失った。そうしてその時、ジノとアーニャがこの寝室へ入ってくる気配を背後に感じた。
「……これは、一体……」
 電気を点けられ、今度こそはっきりと部屋の様子が視界に入る。綺麗好きな筈のルルーシュの寝室とは思えない程に荒れ果てていた。
 ルルーシュの横たわるベッドの上にあるシーツはぐしゃぐしゃに皺が寄っているし、横にある棚からは物が落ちて散乱している。床は汚れた足跡が幾つも残されているし、その上には血や……恐らく精液だと思われるものが付着し、それが乾燥して硬く固まった状態のベッドカバーが放置されていた。
「ルルーシュ。大丈夫だよ、僕だ。スザクだよ」
 安心させるように抱きしめてやればルルーシュは身を戦慄かせながらもスザクの身に纏った。
「……スザ……ク……」
 呼吸を落ち着かせるように背中へと手を回して撫でる。そうすればルルーシュはゆっくりと瞼を伏せた。
「……スザク、これは……どういうことだ? ルルーシュ殿下の部屋、なんだよな? お前が抱きしめているのが……その、殿下……?」
 まさか一国の……それもブリタニアというこの超大国の皇子である筈の人がこんなことになっているなど誰が想像したか。確かに命を狙われていると皇帝は云っていたが身体まで狙われているなど想像する筈もない。
「ああ、確かに彼がルルーシュだよ。皇帝陛下の云うことが正しければルルーシュはこの国の皇子だ」
 しかしルルーシュはそのことを一言たりともスザクに告げたことはなかった。隠していたのか、それとも話したくなかったのか。それは解らないけれどきっと今まで一緒に過ごした時間だけは本物だ。
「そうか……。スザク、どうするんだ? 殿下に無断で皇帝陛下の元に運ぶことになるが……」
 再び意識を喪ってしまっていたルルーシュを抱きしめるスザクにジノは後ろからそっと近寄る。スザクが振り返ればジノは僅かに苦い表情を浮かべていた。
「でも、病院に連れて行かないと……!」
 呼吸は浅く、彼の手首には抑え込まれたような鬱血した痕が残っていた。無理矢理に犯されたとしか思えないそんな痕跡が多々垣間見え、こうした奴を殺してやりたいという荒々しい気持ちが沸き上がる。
「それは駄目だ、スザク」
「え……?」
 病院に連れて行くのは駄目だと云うジノにスザクは瞠目した。
「私たちは皇帝陛下の騎士。陛下の命令が絶対だ。殿下を連れてくるように命じられたのだから病院へ連れて行く時間は無い。それに一般の病院に殿下を預けるなんてそれこそ……危惧している事態になりかねない」
 そう、ルルーシュは命を狙われているのだ。一般人が多く居るような病院などに連れて行けばそれこそ危険なのだ。ジノはそのことを云っているのだろう。それは解るが苦しんでいるルルーシュをそのままにしておくことも辛かった。
「……解ったよ」
 スザクはルルーシュのことを抱きかかえると、ジノとアーニャへと視線を向ける。そうすれば二人はそれぞれ頷いて部屋の扉を開く。ルルーシュの躯を持ち上げれば、余りの軽さにスザクはハッとする。以前落ちてきた彼を受け止めた時よりももしかしたらもっと軽くなっているかもしれない。身長はルルーシュの方が僅かに高い筈なのに。
「ルルーシュ……」
 そっと名前を呼ぶがルルーシュは浅く呼吸をするだけで反応は返ってこない。こうなってしまった原因を探したいけれどもルルーシュの安全の方が大切だった。ルルーシュがこれ以上苦しまないように、躯を揺らさないようにして慎重に階段を上る。
「ルルーシュ、僕は……」
 彼の秘密を知ってしまった。本当はこの国の皇子で、過ってロロという少年を殺してしまったということを。それでも彼はまだ自分のことを友達だと言ってくれるだろうか。
「僕は……」
 最後に逢った時、触れるだけの口付けを交わし合ったのは紛れもない事実。スザクの思い違いでなければきっとルルーシュも自分と同じ気持ちでいてくれたからこそあのキスに応じてくれたのだろう。

――それなのに

 スザクの留守中、ルルーシュは何者かに襲われた。そうして酷い屈辱を受け、心に、身体に、傷を負った。
(ルルーシュのことは僕が護ると思っていたのに……)
 結果的にルルーシュを護ることは出来ずにルルーシュは今、意識が無い状態でスザクの腕の中に居る。
「……ごめんね、ルルーシュ……。僕が傍にいれば……」

――君のことを護ることが出来た筈なのに……

 スザクはグッと奥歯を嚙み締めた。そうしてルルーシュの苦しげな表情を見ればすぐにでも病院に運ぶべきだと頭は警鐘を鳴らす。それでも皇帝の命令に背くことは出来ないのだ。
(もう少しの辛抱だから……)
 そう思って顔を上げれば目の前には監督生が立っていた。
「……君は……」
「…………ナイト・オブ・ラウンズが学院へ来ていると聴きましたが……まさか貴方がそのラウンズだとは。昇進、おめでとうございます」
 厭味のような笑みを浮かべて彼はそう告げた。きっちりと制服を着用した彼の姿は、既に学院の新学期が始まっていることを表しているようだった。
「ルルーシュ君のご体調はどうですか? 随分と酷い目に遭ったようですね。まぁ抵抗する方が悪いのでしょうが」
「……何だって?」
 監督生の言葉にスザクは眉を寄せた。今の言葉が表すことはつまり……。
「夏休みの期間、学院の敷地内で何が起こったとしても学院はその責任を一切取りません。それはつまり何があっても関知しないということですね。ですからその間にルルーシュ君に何が起こったとしても学院は何も対応はしません。休暇中の出来事は全て自己責任、ですから」
「……君が関係しているのか?」
「さぁて、そうかもしれませんね。ですが、そうだったとしても学院は僕を退校処分にすることはないでしょうね」
 この学院の方針だった。それでなくともいちいち休み中に起こった貴族同士の諍いにまで関与していたら学院の存続すら危ういというのだ。
「ッ、だから夏休みの期間を狙って、ルルーシュを襲ったのかッ!?」
「勿論。しかし私の誘いを断った彼が悪いのですよ?」
 誘い、それはきっと自分のものにならないかというそういった提案だったのだろう。だからこそ彼らは暴力の中でも強姦という方法を選んだのだろう。何れルルーシュが自分達の配下に入るように、と。そう一方的な性行為の強要は暴力だが、相手が受け入れた瞬間にそれは犯罪ではなくなる。だからこそその方法を選んだのだ。
「ルルーシュが、お前の誘いなどに乗る訳がない!」
 スザクは監督生に詰め寄る。そうしてその肩を掴んで壁際へと押しつけた。
「っふ、本当にそうですかね? こんなにも淫乱なのに?最後には自分から腰を振っていましたよ」
「そんなことッ!」
 スザクはカッとなってルルーシュの躯を抱きかかえたまま監督生へと詰め寄った。そうすれば彼はスザクを避けることなく口元へと笑みを浮かべる。
「もう新学期は始まりました。僕に何かあれば……間違いなく学院は動きますよ?」
 つまりスザクが監督生に手を上げれば学院がスザクを処罰することになるということだ。
「だから? 僕はもう決めたよ。学院を退学するってね」
「……何故?」
 思ってもみない言葉だったのだろう。監督生は眉を寄せた。
「僕は任務でこの学院にやって来たんだよ。その任務とはルルーシュ皇子殿下を皇帝陛下の元へとご案内すること。でもそのルルーシュ殿下は……」
「……殿下、だと…………?」
 一体どういうことだ。監督生は絶句する。ルルーシュには貴族の血が流れていない。それは本人も認めていた。しかし実際のところは貴族どころではない、皇帝の血を引いていたというのだ。
「そう、ルルーシュはこの国の皇子だ。君たちはその皇子を犯したんだよ。それって退校処分で済むのかな?」
 爵位剥奪は当然だろうけれども下手したら禁固刑とか……いや、もっと酷いだろうね。ニコリと笑みを浮かべてそう口にすると監督生の顔色は目に見えて蒼くなった。
「そんな……嘘だ……」
 監督生は目を見開いて俯く。そうしてガタリと膝を付いて蹲った。それを先に校門へと向かっていたジノやアーニャも冷めた目で見詰めていた。
 本当ならばルルーシュが皇子でなかったとしても彼らは罰せられるべきなのだ。しかしもしルルーシュに皇族の血が流れていなかったらルルーシュに遭った出来事は隠蔽されるだけだっただろう。それはきっとこの国の本質を変えなければ何一つ変わらないことで、それはつまりスザクの仕える皇帝が変わらなければならないということだ。
「どうか……皇帝陛下には……内密に……」
「……そんなことが出来ると思っているの? 僕達の任務はすぐにでもルルーシュを陛下の元へと連れて行くことだ。こんなに苦しんでいるルルーシュを、だよ? 病院へ行って処置して貰わなければならないような状態のまま陛下のところへ連れて行くんだ。陛下だってルルーシュに何があったか気が付かない筈がない」
 それは真実だった。こんな状態の皇子を連れて帰って何も無かったなどと言える筈がない。そうすればその原因を皇宮が調査するのは当然のことだろう。
「ぅ……うう……そんな……ッ、クッ」
 膝を付いて蹲る監督生を横目にスザクはジノとアーニャへと視線を移す。
「さぁ、ヴァインベルグ卿、アールストレイム卿、急ぎましょう」
「……ああ」
「うん」

Novels
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