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False Stage2-07

GEASS LOG TOP False Stage2-07
約13,724字 / 約24分

 この記憶は本当に信じられるものなのだろうか。そう自らに疑問を感じたのはキュウシュウから帰還した後だった。キュウシュウでは多くの人を殺し、そして必要な人物だけを捕らえた。どうせすぐに処刑される運命なのだから捕らえる必要は何処にもなかったのだが、全員を殲滅したとなると、連れて行ったナイト・オブ・ラウンズ達が不審に思うだろうから仕方のないことだった。だから今回だけは特別だった。何故ならば今までは単独で敵の中に潜り込み、そうして誰彼構わず〝殲滅〟していたのだから。
 誰それ構わず全員を皆殺しにする――それはギアスという力の存在を目撃されている可能性があったからだ。ギアスは門外不出の秘められた力でなければならない。そう言ったのは一体誰だったか。
 とにかくギアスという存在は隠さねばならないもので、無闇に使うのは危険だった。単独での潜入は上手くギアスをコントロール出来なかった場合の対処が楽だからだ。

――不要な者は殺せば良い

 その考えに基づいてずっと行動してきたのだ。ギアスのことを知った者は敵味方問うこともなく殺した。でもスザクだけは違った……。
 枢木スザクという存在に出会い、そして彼に惹かれてしまった原因、それは一言で言い表せるものなどではなかったけれども、彼には何かを感じた。もしかしたらそれは皇帝の言うようにギアス同士が結びつける何か不思議な感覚のようなものかもしれない。それがいつしか恋情にかわっていたのはきっとそんなに昔のことではない。
 手作りのお菓子を作ることが趣味という訳ではなく、それはギアス嚮団に居た頃に必要に駆られて覚えたものだった。
 幼い子供達が実験台として嚮首から力を与えられていたがその多くは力に耐えきれずに死んでいってしまう。しかしせめて少しでも喜んで貰えるようにルルーシュはクッキーやらプリンやらの子供が好きなお菓子を彼らに用意した。
 外部との連絡手段など無かったが、幸い暮らしていた施設には多くの食材が備蓄されていたから料理やそういったお菓子作りには困らなかった。
 彼らが美味しそうにお菓子を食べてくれるところを見るだけで安らぎを感じた。それでも彼らの多くは何れ死んでいってしまったが。
 実際に多くの兄弟が自分には居たが、それよりも彼らの方が庇護が必要な存在であったことは目に見えていた。
 自分は彼らの〝兄〟として振る舞った。それが嚮首よりの言いつけでもあったから。少しでも弟妹たちに喜んで貰えるように、彼らが少しでもあの場所の生活に楽しみを抱いてくれるように、ルル――シュは様々な工夫をした。
 そうすると、ギアス嚮団という環境に慣れてきたのか少しずつ能力をコントロール出来る子供達が増えてきた。〝ルルーシュ兄様のようにもっと操れるようになりたい〟と、
 憧れられ、そして彼らの手本となるべく自らも多くの場所へと潜入し、そして任務に堪えた。中でもEUの内乱に乗じて遺跡を探索した際はかなりの人数を〝殺した〟が始めこそ人を殺すことに恐怖を抱いていたがいつしかそれは只の満足感へと変化していたと思う。
 最早そんな感情すら今の自分では真実かどうかすら解らない。この生々しい記憶ですら創り上げられたものなのだろうか。自分自身の存在意義すら疑いかねないこの事態に苛立ちは募る一方だった。
 そこで下った皇帝からの命令。それは枢木スザクに抱かれろといったものだった。一体何を言い出すか、そう思ったのだが、彼には以前から興味があった。今思うにそれにはギアスという力は関係していなかったように思える。
 スザクを誘えば彼は簡単にその誘いに乗った。容易いと胸中で呟いてしまうくらいに。
 しかし、何故スザクはこんなにも簡単に自分を抱く? 上司だから逆らえないというのか、それとももっと別の理由がある?
 以前からスザクが自分を見る時の視線にそういった感情が含まれていたことには気が付いていた。はじめは何かの間違いかと思っていたが、どうやらそういう訳ではなかったようだった。つまりやはり記憶には無いところで以前から自分は彼と知り合いだったということだろう。元々同性愛者という訳でなければ一目惚れを男相手にするという考えは少々考えにくい。そう思うとやはり親しい仲だったのは間違いない。
 実際抱かれてみればやはりその予感は的中した。そして、スザクに対する自分の想いすら自覚してしまった。
 スザクのことが好きだった。それは一体いつからだろう。アリエスに住むようにと彼に提案したのは皇帝からの言葉があったからだ。それでもそれを回避する手段は幾らでも存在していた。そうであるにも関わらずに自分はスザクをアリエスへと招いた。もう既にその時点から彼に惹かれていたのだろう。自分にはない真っ直ぐな眼差しと、強く灯る翡翠の輝き。あの瞳に見詰められるとクラリとした熱を感じるのだ。自分の心に渦巻いていた不安と、彼に対する興味。様々な感情が一気に溢れ出す。
「……はぁ……」
 風呂に浸かりながら先程までの痴態を思い出してしまい、熱い息を零す。あんなにも自分の羞恥を投げ捨てたのは初めてだった。セックスというには些か語弊が生じる自慰にも近いような行為に二人とも溺れていた。
 きっと以前の自分もスザクのことが好きだったのだ。そうでなければこんなにも短い期間に彼のことをこんな風に好きになることなど有り得ないだろう。
「……スザク…………」
 ニッポンという小さな国から人質として送られ、逆境にも関わらずナイト・オブ・ラウンズになるまでにのし上がってきた彼はその経歴とは裏腹に心優しい少年だった。真っ直ぐなその考えや行動には決して裏表など無い。自分とはまるで真逆のような存在であり、憧れすら抱いてしまう。
 スザクが居てくれるだけで不安な気持ちが取り除かれるようで、彼の力は凄いと思う。
 ここに来てスザクのことばかり考えている自分に気が付いたルルーシュはギュッと瞳を閉じた。
「いや、駄目だ。それよりも来週の誕生会のプランについて考えなければ……。招待客リストは既に完成。招待状も発送済みだし、クロヴィスには料理から音楽、内装まで全てを任せた。後は招待する貴族の弱みを全てチェックして、交渉に切り出す。これで何れはニッポンの返還へと繋がるだろう。シュナイゼル兄上も協力してくれると仰っていたし……。あとは皇帝が来れば……」
 遠い昔、まだ母であるマリアンヌが存命していた頃、皇帝であるシャルルは良くアリエスへと足を運んでいた。それは実際の記録にも残っていたから間違いの無いことだろう。それならばシャルルがルルーシュの招待に応じる可能性は充分に考えられる。
 そうなればチェックが掛かったも同然。次期皇帝候補シュナイゼルをルルーシュが、クロヴィスが、擁立し、シャルルに叛逆する。そしてその混乱に乗じてルルーシュはシャルルに掛けられたギアスを解かせるという算段だ。
「……絶対に俺に掛けたギアスを解かせてみせる。そして真実を取り戻す」

――譬え何があっても。

 ルルーシュはゆっくりと瞼を伏せ、その計画をそっと脳裏に描き始めた。

「ルルーシュ、何とか間に合って良かったよ」
「……いろいろと無理を言ってしまってすみません、クロヴィス兄さん」
 ルルーシュは誕生会の会場であるこの広間に早くも姿を現した異母兄に謝ると、彼はニコリと笑みを浮かべてみせる。彼の目の前には色とりどりの花々が並んでいた。
「お前にものを頼まれるなんてなかなか無い機会だからな。それにお前とシュナイゼル兄上の計画はきっとこの先ブリタニアに必要なものだと思うぞ。とはいっても私は君たちのように考えることは苦手だが……」
 半円を描いた階段のすぐ傍に置かれた大きな花瓶には豪奢な花束が生けられている。慣れた手つきでそのバランスを調整しながらクロヴィスはルルーシュへと目線を送った。
「いえ、その舞台を整えて下さったのは兄さんですから」
 そうでなければこうして誕生日会という名の舞台を開くことも出来なかったでしょう。ルルーシュはそう続けると、クロヴィスが花瓶から抜き出した一本の薔薇を手に取った。青紫色のそれは〝マリアンヌ〟と名付けられたもので、この日の為にクロヴィスが創り出したものだった。
「君には花が良く似合うね、クロヴィス」
 その時背後から声が聞こえ、二人はパッと振り返った。そうすればこちらに向かってきたのはシュナイゼルの姿だった。
「まだ開場まで暫くありますよ? 兄上は少し遅れてくるくらいで大丈夫でしたのに」
「いや、私も少し手伝おうと思ってね。何せ君の誕生会を台無しにしなければならないのだから」
「しかし、私たちは兄上が皇位を継ぐことを望んでいます。兄弟たちの誰かが動き出す前にチェックメイトを決めてしまえば……」
 無駄な争いは起きない筈だ。それがゲーム上では反則の手だったとしてもこれはゲームなどではなく現実の世界なのだ。先に動き出さなければ出し抜かれてしまう。そうなる前に次代の皇帝を決める。
「父上の時のように兄弟が殺し合う事態は避けたいものですね」
「ああ、そうだね。出来ればそうありたいよ。だから出来る限りは穏便に済ませよう」
 このように強者だけが勝ち残るような世界を創り上げたのは皇帝なのだ。次の皇帝がその方針を転換すればきっともうそのような戦いの時代は終わるはずだ。そしてシュナイゼルにはその手腕がある。だからこそシュナイゼルを次の皇帝として就ければ全てが終わる。
 このことはスザクには説明していなかった。彼を心配させたくはなかったのだ。皇帝を殺す役目はルルーシュにある。皇帝に最も従っていると思われているルルーシュが皇帝に対してギアスの力を使うのだ。そして記憶を取り戻し、ペンドラゴンを去ろう。スザクが付いてきてくれるか解らないが、皇帝が死ねばスザクはどちらにしろお役ご免だ。
 華やかに施された飾り付けはルルーシュの誕生日を祝っているのだろうか。それとも新たなるブリタニアの誕生を祝うものなのだろうか。そのどちらもかもしれないが、アリエス宮はマリアンヌが死んで以来、初めて大勢の客人が訪れることになるだろう。皇帝がこの会に参加を表明したことにより、多くの貴族たちが招待にイエスと答えている。
 人々が集まるこのアリエスは絶好の舞台となる。ブリタニアという国が新しい幕を開けるのだ。
「ところで君の騎士たちは?」
「兄上達とお話するのにナイト・オブ・ラウンズが居ては邪魔でしょう? あちらに置いてきました」
 ルルーシュは向かい側の壁際に佇む三人へと視線を向ける。皇帝の騎士に皇帝に叛逆することを洩らす訳にはいかないということだ。とはいえ彼らが本当に皇帝に忠誠を誓っているのかは良く解らない。少なくともスザクはそうではないのだろうが。しかし、理由はそれだけではない。単にこの計画を他の者に――譬えスザクであったとしても知られたくなかった。
 計画に不確定要素は付きものだ。もしも彼らを介して他のラウンズ達に知られてしまえばとても厄介なことになる。彼らは自分達の支配化ではなくあくまで皇帝のみに付き従う存在であるのだから。
「そうだね。彼らには少し黙っていて貰わないと困るね」
 ナイト・オブ・ラウンズは味方であれば心強いが、敵となれば厄介な存在だ。どんな騎士達よりも実力を持ち、そして皇帝を護る。特にナイト・オブ・ワンであるビスマルク・ヴァルトシュタインは。皇帝も彼だけは別格に扱っている。
「ではシュナイゼル兄上、クロヴィス兄さん、私はもう少し最終調整の方に取りかかりますので、失礼致します」
 ルルーシュは軽く頭を下げて二人に挨拶する。
「良い誕生日になると良いね」
「きっとなりますよ、シュナイゼル兄上、ルルーシュ」
 クロヴィスとシュナイゼルは穏やかに微笑む。――もうすぐに計画は始まるのだ。
 ルルーシュは三人の護衛の元へと歩んでいった。色鮮やかに飾り付けられたアリエス宮は嘗ての輝きを取り戻したかのようだった。ルルーシュは独り、そっと冷笑を洩らす。父親に操られ続けてきた舞台のフィナーレはもうすぐだ。
「殿下、陛下は午後八時にいらっしゃるとのことです」
 ジノは近寄るルルーシュに皇帝の到着時刻を伝える。開場は午後七時からだから一時間遅れといったところか。
 しかしそれくらい何ら問題にはならないだろう。皇帝がこのアリエス宮内に来さえすれば不足など無いのだから。
「あと三十分ほどで客を入れることになっているからそのつもりで」
 自分の護衛として宛がわれている彼らを見渡し、そう告げれば彼らは右手をそれぞれ自身の前へと差し出し、頭を下げた。
「イエス、ユア・ハイネス」
「お前達も少し仕事だということを忘れて楽しんでくれ。ジノ、アーニャ。お前達は会が始まるまで暫く好きに過ごせばいい。私は少々スザクに用があるのでな」
「解りました。何かあればお呼び下さい。すぐに向かいますので」
「ああ、助かる」
 ジノとアーニャは頭を下げる。ルルーシュはスザクに目配せすると、その場を後にした。
「スザク、まだ少し時間があるから……」
 ルルーシュは階段を上がり、私室へとスザクを呼ぶ。誕生会の会場は一階と二階部分だけだったので私室のある上階は普段のままだ。勿論部外者の立ち入りは厳禁である。
 階段を上がりきり、真っ直ぐに伸びた廊下を歩む。部屋の前へと辿り着くと先にスザクを部屋へと入れ、パタリ、と扉を閉めた。そうしてこちらを振り向くスザクにルルーシュも彼の方へと視線を向けて見つめ合う。スザクは相変わらずいつものナイト・オブ・ラウンズの制服を纏っており、その重苦しいブルーのマントをすぐ傍に置かれていたコート掛けへと掛けた。
 きっとこの制服ももう見納めだろう。そう思えば良く似合っていたというだけで何だか少しだけ名残惜しい気持ちになる。
「スザク、キス……しても良いか?」
 何を血迷ったことを云っているのだろう。そんな風に自分を客観的に否定しながらそれでもスザクに触れたくて仕方が無かった。もうすぐ始まる〝計画〟に気持ちが昂ぶっているのだろう。皇帝に対して叛逆する。失敗すれば死が待っているかもしれない。そうなればもう二度とこうして触れ合うことなど叶わない――だから今だけは少し我が儘でいても良いだろうか……?
「……勿論だよ、ルルーシュ」
 ルルーシュはこちらを振り向き、足を止めたスザクの方まで近付くと、そっと瞼を伏せて顔を寄せた。
「ん…………っ」
 触れるだけのそれはそうしているだけでとても落ち着く。スザクには何も知らせるつもりは無い。彼を巻き込みたくはないから。だけれども彼を手放したくもないのだ。
 もし、計画が上手くいかずに皇帝が生き残ってしまったらスザクはどうなってしまうのだろう。少なくとも失敗した時点で自分は再び皇帝の都合の良いように記憶を書き換えられて一生利用されるか、それとも殺されるか、のどちらかだ。そのどちらになるかは皇帝が自分の持つギアスの力をどこまで重要視しているかによるだろう。
「ふっ……んん……」
 探るようにして舌を差し出せば、それを吸われて力が抜けてしまう。スザクに纏うように彼の両肩に手を置けば、彼はルルーシュの腰に両手を回して彼の方へと引き寄せられる。
「んっ……ん……」
 距離が狭まったことにより、更に深くなるそれに少し息苦しさを感じるが、不快なものではない。それよりももっとと強請ってしまいたくなるくらい心地の良いものだった。
「…………っ……はぁ」
 長い口付けが終わると、二人はそっと互いを見詰め合う。自分の目にはスザクの姿だけが映し出されていた。同じように翠玉の瞳にはまっすぐに自分が映っているのだろう。
「…………十八歳の誕生日、おめでとう。ルルーシュ」
「…………ありがとう」
 スザクの言葉は心から祝いの気持ちを表しており、素直に嬉しかった。眉を下げて目を細めれば、不意にスザクはポケットからがさがさと何かを取り出した。
 一体どうしたのだろう、と不思議に思いながらルルーシュは彼の動作を見守り続けた。そうして顔を上げたスザクにルルーシュはハッとする。
「会が始まる前に……渡しておきたいんだ。これを」
 ベルベットに包まれた小箱は綺麗にリボンでラッピングが施されていた。高級感の漂うこの包みにルルーシュは何だろうと首を捻りながらそれを受け取る。
「……良いのか……?」
「うん、開けて」
 囁かれ、ゆっくりとリボンの端を引っ張った。そうすればスルリと薄紫のリボンが外れ、そっと蓋を開いた。
「……これは…………」
 銀色の羽根のような形を模したピアスが仕舞われていた。ポイントには黒曜石と紫水晶、それから翡翠がそれぞれ散りばめられている。
「実はさ、君が正装しているところを見て初めて君の耳にピアスホールが空いていることを知ってね。似合うと思ったんだ」
 このアクセサリーを街で見つけた時、スザクは迷うことなくそれを購入していた。あの時はナイト・オブ・ラウンズに入ってからそれ程時間も経っていなかったからそれ程給料を貰っている訳ではなかったけれどもそれでもいつか渡したいと思っていたのだ、と彼は告げる。
 その言葉が本当に嬉しかった。贈り物を貰う機会は少ない訳ではない。しかしこんなにも心の篭もったものはきっと初めてだ。
「ありがとう。凄く嬉しいよ。付けてみてくれないか?」
 ルルーシュは手にしていた大ぶりのモチーフをスザクの前へと差し出す。
「うん」
 スザクは銀色のそれを受け取ると、ルルーシュの耳元へと指先を伸ばした。黒色の艶のある髪を耳に掛け、そうしてその白い耳を露わにすると、そっとそれをピアスホールへと当てて取り付ける。
 その瞬間、触れた金属特有の冷たさにピクリと背を震わせてしまう。
「…………付いたよ」
 ニコリ、と微笑まれ、壁の前に置かれていた姿見に自身を映すと、いつもよりも装飾が多いこの皇族服にぴったりだった。銀色の刺繍や黒い布地に映えるデザインだ。
「良く似合ってる」
 スザクは耳元にもう一度手を伸ばしてそっと触れる。
「……スザク……ありがとう」
 もう一度今度は笑みを浮かべて礼を言う。そしてこのスザクの為にも計画は失敗出来ないと改めて強く思う。
「さぁ、そろそろ招待客を迎える時間だ」
「そうだね、もうサロンへ向かおうか」
 スザクはルルーシュの言葉にニコリと微笑む。頷けばシャラ、と耳元の金属が揺れた。
 柔らかい曲線を描く階段を下りて行くと既に招待客達が続々と入場しているところだった。一般的な皇族の誕生会と比べると随分と小規模なものだったが、それでも数多くの人間がアリエス宮へとやって来た。色とりどりの衣装が広間に散らばる。クロヴィスは既に彼らと優雅に会話を楽しんでいた。シュナイゼルは一度宰相府に戻っているが、時期に再びやって来るだろう。
「おめでとうございます。ルルーシュ様」
「十八歳おめでとうございます、殿下」
 ルルーシュがスザクを連れて歩けば、彼らに口々に祝辞を贈られる。ここ最近急速に台頭してきたルルーシュは貴族達にとって未知な部分が多い。数年間の英国留学中の彼の動向は一切公表されず、そしてあの后妃マリアンヌの息子であるにも関わらず、その存在が殆ど知られていないということが益々彼らの関心をかき立てたらしい。
 実際のところルルーシュはずっと本国に居たのだが、その情報を知っている者はほんの僅かに限られている。恐らくスザクの言う〝学院に通っていた他の学生達〟はルルーシュについての一切を〝忘れてしまっている〟だろうから。
 シャンデリアのきらきらと輝くような光の中、着飾った白髪交じりの初老の男と豪奢なドレスを纏うブロンドの若い娘がルルーシュへと挨拶を告げた。
「おめでとうございます、ルルーシュ殿下」
「ああ、有り難う。エルランジェ伯爵、ええとそちらは……」
「娘のヴィヴィアンヌです」
 恭しく娘を紹介する伯爵にルルーシュは娘の方へと視線を向ける。ルビーの瞳がジッとルルーシュを見詰めていた。
 深紅のドレスを翻し、頭を下げてお辞儀する。そんな彼女に笑みを向けルルーシュは形式的な挨拶を返す。
「初めましてヴィヴィアンヌ嬢。私はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。こちらはナイト・オブ・セブンの枢木スザク卿です」
「直接お目に掛かれるなんて光栄ですわ。ルルーシュ殿下、枢木卿」
 スザクも簡単に彼女に挨拶を交わす。今回のこの誕生会には懇意にしている貴族以外も招待をしている。人が少なすぎても計画には差し支えるのだ。ルルーシュに対して興味を示す人間がこんなにも多く居るのなら利用するべきだ、と言ったのはシュナイゼルだった。
 このように彼ら父娘にもルルーシュに取り入ることが出来たら、という魂胆が見え隠れしていた。最上級のドレスを身に纏う彼女はきっとこの日の為に入念に衣装選びをしたに違いない。
 彼らを適当にやり過ごすと、スザクと目が合う。仕方が無い、とルルーシュが眉を下げれば彼はそうだよね、と笑みを零す。皇子であるからには女性のアプローチは避けられないもので社交辞令的に受け流す以外に選択肢は無い。
「お久しぶりです、殿下」
 その時、ルルーシュの背後から女性の声が掛かった。聞き覚えのあるその明るい響きにルルーシュはハッとして背後を振り向く。
 その場所に立っていた金髪の髪を結い上げ、ミントブルーのドレスを纏い、そして朗らかな微笑を浮かべるその女性には見覚えがあった。
「……久しぶりだな、ミレイ」
 そう、彼女はミレイ・アッシュフォード――自分よりも一つ年上のアッシュフォード伯爵家の一人娘だ。
「今の方は新しい婚約者かしら」
 ニコリと微笑んでみせる様子は昔から変わらずに姉が弟を心配するような雰囲気で、それでも自分の立場をわきまえているのか控えめな態度だった。
「いや、初対面だよ。最近台頭し始めたエルランジェ伯の娘だそうだ。それに新しい、なんて。君との婚約が破棄されて以来婚約者など居なかったが?」
「あら、そうでしたっけ?」
 クスリ、とミレイは笑みを零す。自分には婚約を取り交わすような女性と知り合う余裕など無かったし、こうして役職に就いたことにより、今でこそ取り入ろうとしてくる者達も居るが母を喪った皇子など誰も相手にはしなかっただろう。それにそもそもスザクという大切な存在がありながら女性とそういった関係を結ぶなど以ての外だろう。
「そんなことより、我が友人を紹介しておこう。こちらはナイト・オブ・セブン枢木スザク卿だ。現在は私の護衛を担当している。そしてスザク、こちらはミレイ・アッシュフォード嬢。我が母マリアンヌの後見であったルーベン・K・アッシュフォードの孫娘に当たるアッシュフォード家のご令嬢だ」
 簡単に彼女のことを紹介する。すると明るい性格の彼女は満面の笑みを浮かべてスザクへと挨拶した。
「はじめまして、ミレイ・アッシュフォードです。よろしくお願いします。どうか以後お見知りおきを」
「こちらこそよろしくお願いします。枢木スザクです」
 ミレイは元婚約者だった。母であるマリアンヌが死ぬまでは少なくともそう決められていた。勿論当人達の意思は反映されておらず、彼女が自分よりも一つ年上ということもありどちらかといえば姉のような存在だった。
 その記憶が本当のものなのか、それともそれ自体も改竄されたものなのか。それは解らない。しかし少なくとも彼女自身がルルーシュと知り合いだと言っており、そして今までの会話に食い違いは見えないのだから、彼女に関しての大まかな部分は改竄されなかったのだろう。
「しかし、どうして君が? 確かフランスに留学中だったと聞いていたが……」
 この確かなのか不確かなのか解らない記憶によればミレイ・アッシュフォードは十三歳からフランスに留学をしていた筈だ。
 活発な彼女は語学にも長け、アッシュフォードを立て直す為に勉学に励んでいると聞いていた。
「高校はこの間卒業しましたので。まだ帰国して間もないですが、すぐにこの国を出ることに決まりました」
 九月に卒業して先月帰って来たのだという彼女はすぐにこの国を去るという。ルルーシュは訝しげに眉を顰めた。一体彼女らに何があったというのだろう。
「……どういうことだ?」
「祖父と共にエリア11へ向かうことになりました」
「……エリア11に?」
 驚いた。エリア11といえばまだ制定されたばかりのエリアでありスザクの故郷であった場所だ。まだまだ治安も安定しない危険な地域であるというのに彼女と祖父であるルーベンはその場所へ旅立つことを決めたのだという。
「ええ、戦争で何もかもが無くなってしまったあの地に学校を創りたいのです。祖父の夢は全ての子供達に平等に教育を与えること、ですから」
 ミレイの父母はアッシュフォード家の再興を願っているが、祖父は自分達の幸せよりも別の夢があるのだという。既に留学中から多くの貴族たちと見合いを強いられてきたミレイは遂にそれに嫌気が差したらしい。
「……何れあの地にはブリタニア人が多く移住するだろう。そこでブリタニアもニッポンも関係無いような……自由な学校が出来れば良いと思う」
 ルルーシュはそっと笑みを浮かべてミレイへと近寄る。
「殿下…………」
「母さんならきっとそう言う筈さ。あの人はきっと人種などには拘らないだろうから。私がこのブリタニアに戻って来た今、今まであなたたちに世話になったお返しをさせて頂きたい。何か問題があればいつでも連絡して欲しい」
 それは本心だった。ミレイ・アッシュフォードやルーベン・アッシュフォードは貴族の中でも数少ない信用に足る人物達だった。自分が大切にしたいと思える数少ない人達。だからこそ、この場に留まらせるのは危険だった。
「有り難うございます。ルルーシュ様」
 ミレイは軽く会釈して礼を述べる。以前はもう少しフランクに接していたが、このような場では仕方が無いか。
「ではごゆっくり、と言いたいところだが……スザク、少し外してくれないか?」
「え、あ、はい」
 スザクを下がらせ、ルルーシュは廊下へ出ると、メインではない方の階段下の踊り場で二人きりになる。
「……殿下?」
「ミレイ、こちらへ」
 会場へと繋がる扉からは華やかなオーケストラが響き、客人達は優雅にダンスを踊っているのだろうと想像出来る。
 ミレイのすぐ傍まで近寄ると、戸惑うミレイにルルーシュは声を潜めた
「ルルーシュ様、一体どうかなさいましたか?」
「君たちアッシュフォードにはとても感謝している。母を後見し、そして私のことも気に掛けてくれた。君との婚約は解消してしまったけれども大切な存在であるということには変わりがない。だから一つお願いがある……今すぐこのアリエス宮を出てほしい」
 小声のまま一気にそう告げると、ミレイはきょとんとして目をパチクリさせた。まだ皇帝が到着してもいない内から帰ってほしいと言われれば意味が解らないと思っても仕方のないことだろう。それでも、彼女らを巻き込みたくはなかった。
「どういうことかしら?」
 彼女は目を細める。二人きりになったことにより、今までのよそよそしい態度は消えていた。
 階段の影となっている場所で二人はその華やかなパーティーとは不似合いな真剣な表情を浮かべていた。
「…………何かあるのね?」
 そして慎重にルルーシュに聞き返す。
「何れ、解るさ。だから…………スザクに送らせる」
 急いでこの場所を出てほしい。そう告げればミレイはハッとしたように目をパチリと開いてルルーシュを見上げる。
「解ったわ」
 ルルーシュはミレイを連れて二人を待っていたスザクの方へと向かう。
「スザク、悪いがミレイの体調が少々芳しくないようなので正門まで送ってやってくれないか?」
「イエス、ユア・ハイネス」
「ミレイ、ルーベンにはよろしくと伝えておいて欲しい」
「ええ、必ず」
 ミレイとスザクは踵を返してホールを後にする。そこにジノとアーニャがやって来る。
「殿下、今のは?」
 ジノはルルーシュに訊ねる。初めて見る女性がルルーシュと親しげに話していたことに驚いたのだろう。今まで他にそのような人物は存在しなかったから。
「ああ、母の後ろ盾を務めていたアッシュフォードのご令嬢さ。少々具合が悪いみたいでスザクに送らせた」
「そうでしたか。綺麗な方ですね」
「活発な人だ。貴族なんていうものに縛られるのは似合わない……」
 本当は明るく活発で、自由を何よりも望んでいる。そんな彼女との婚約がもし未だに続いていたならばきっと彼女は不幸になっただろう。エリア11という新天地で新たな生活を送ることが出来れば良いと本当にそう思う。
「……殿下、そろそろ陛下がご到着とのことです」
 ジノは独りそう洩らすルルーシュに眉を下げると、本題であったのだろう、そう報告する」
「もうそんな時間か。報告感謝する」
 柱時計へと目を向ければ確かに予定の時刻が迫っていた。
そうしてその時、トランペットの軽やかなメロディがサロンへと響き渡った。
「皇帝陛下、ご入来!」
 姿を見せた皇帝にルルーシュは目を細める。豪奢な皇帝服を纏ったその姿はいつも謁見する時と同じく、多くの護衛が彼の周りを取り囲んでいた。ルルーシュは足に力を入れて皇帝の元へと歩み出す。
「陛下、ご足労頂き感謝致します」
 彼の前で頭を下げ、敬礼すると皇帝はスッとルルーシュを見下ろした。
「我が息子、ルルーシュよ。お前ももう十八歳か。顔を上げて良く見せよ」
「……イエス、ユア・マジェスティ」
 ルルーシュが皇帝を見上げると、その歳を刻んだ指先がルルーシュの頬を撫でる。
「……マリアンヌに良く似ておる。この目元など彼奴にそっくりだ」
「父上…………」
 自分の中にある母マリアンヌの面影だけを追う男にルルーシュは内心溜息を吐き出す。
 どうしてだろう。自分の記憶が偽物であるかもしれないと気が付いてからこんなにも自分の気持ちが不安定になってしまうとは。この父親を殺すと決めたとはいえ、やはり父親は父親であることには変わらない。
(いや……覚悟は出来ている……)
 ルルーシュは拳にぐっと力を込めると真っ直ぐに今度は迷わずに口を開いた。
「陛下、後ほど二人でお話したいことが」
「ああ、もう暫くこの宴を楽しんでからにしよう」
 クロヴィスが用意したというオーケストラの楽団が演奏する音楽が流れ始め、皇帝はニヤリと嗤った。
「ええ、それではお楽しみ下さい」
 優雅なる音楽が流れるなか、ルルーシュは皇帝の前を後にすると、皇帝は自らの為に用意された専用の席に着き、宴を楽しんだ。
「皇帝陛下が態々来られるなんてやはりルルーシュ殿下は陛下のお気に入りでしょう」
「ええ、そうに違いないわ。殿下を見た時の陛下のお顔、あれはマリアンヌ様の面影を追っていたのだと思いますわ」
 噂話が彼方此方で飛び交う中、ルルーシュは皇帝暗殺の準備をすべく、自室へと戻ろうと、階段へと向かう。すると後からジノとアーニャもやって来た。
「お前達は此処にいて陛下の護衛を手伝っていれば良い。元々お前達はナイト・オブ・ラウンズ……陛下の騎士なのだから」
「ですが殿下は……」
「大丈夫だ。問題無い、此処は私の離宮だからな」
 ルルーシュは告げると、二人を階下に残し、私室へと向かう。準備は念入りに、そして計画に失敗は許されない。不足の事態などあってはならないことだった。
 一番巻き込みたくないスザクは同じくルルーシュにとって大切な存在であるミレイと共にこの離宮から逃がした。ジノやアーニャは自分達で何とか出来るだろう。これでもう条件はクリアしたも同然。急ぐ必要は無いが、余りゆっくりとしている訳にもいかない。
 階段を上り、自室まで足早に向かう。自室へと戻り、扉を閉める。そうして書斎の棚を上から順番に漁っていく。
「万が一の時は…………」
 ギアスを上手く使用出来なかった時は直接実行するしかない。それはルルーシュが決めたことだった。シュナイゼルやクロヴィスは無理することはないと言うが、それでももうあの男を許すことは出来なかった。
 記憶――それは個人の感情や意識すら変えてしまう大きなものだ。人格とは積み重なった記憶によって構成されていると言っても良い。その大切なものを全て剥ぎ取られ、全く別のものへと変えられてしまった。自分自身すら疑わずにはいられない。そんな状況が良い筈がない。

――ガタリ

 引き出しを引くと木材がぶつかり合う鈍い音が室内へと響く。そうしてその奥には小さな鍵の付いた小箱が見つかった。それを慎重に取り出すと、ポケットから取り出した小さな鍵を差し込んだ。
 カチャリ、小さな音が鳴ると両手で蓋を持ち、ゆっくりと持ち上げる。そこには細かい銀細工が施された小銃が収まっていた。
 そうしてそれを静かに手で持ち上げる。箱から取り出し、その重さを確かめた時、異変に気が付いた。
 現れた人影に暗殺者がパーティーに乗じて侵入していたのか、と思う。しかしそれにしては様子がおかしい。
「…………誰だ?」
 目を細めて物陰をじっと見詰める。いつもならば此処で姿を現すか、銃弾を向けてくる筈だ。しかし後者の場合ルルーシュにはその状況を回避することは出来ない。ギアスは相手の目を見なければ使えない。スザクはミレイと行かせたし、ジノやアーニャは置いてきた。此処で撃たれれば自分は死ぬかもしれない。――それは出来ない。
「姿を見せろ」
 ルルーシュはもう一度命令を下す。すると小さな影がゆっくりと動き始めた。
 そうして見えた姿にルルーシュは絶句する。
「…………何で、貴方が…………」

――やぁ、ルルーシュ。久しぶり

 こんな場所に現れる筈のない人物にルルーシュは目を瞠った。どうしてこんなところにあの方が……?
 そしてこの状況を見られたということは、まるで想定することもなかったことだった。

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