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False Stage3-02

GEASS LOG TOP False Stage3-02
約9,949字 / 約18分

 夕食会が終わると、皇帝はルルーシュを傍に呼んだ。
「マリアンヌ、ルルーシュに話がある。少し連れ出すぞ」
 突然皇帝に傍に来るようにと告げられ、戸惑っていると、皇帝はマリアンヌへと目を向けそう告げた。一体何処に行くというのだろう。質問をしようと口を開き掛けたが、それは声にはならなかった。
「ええ、外は寒いから気をつけて頂戴ね」
 あっさりと頷くマリアンヌにルルーシュはどうすれば良いのだろうと思案する。しかし考えたところで皇帝の言葉に従うしか取れる選択肢など存在しないことに気が付いたのはそのすぐ後だった。
「ああ。さぁ、ルルーシュ付いて来るが良い」
「はい、父上」
 護衛を付けることもせず、皇帝はルルーシュを連れ出した。肌寒い夜の空気は乾燥しており、その冷たさに躯を震わせる。夜風に草や木の枝が葉を揺らし、かさかさと不気味な音を立てる。点在する外灯は温かい色味で周囲をぼんやりと照らすが、それでもすぐ先は闇に包まれている。向かっている先には石畳が続いているが、それも数十メートル先では闇の中だ。
 普段ルルーシュは外で遊ぶことを好まない。つまりシュナイゼルに付き従う時や公務の時以外でこの皇宮内を自由に行き来することは滅多にない。九歳ということを考えればそれでも行動範囲が狭いということは無いだろう。この皇宮の敷地はとても広大なものだ。皇子であったとしても足を踏み入れたことのない場所だって多く存在している。
 何処に向かっているのか判らずに戸惑うルルーシュに構うことなく前を行ってしまう皇帝に、ルルーシュは置いて行かれないようにと足を速める。
「父上、一体何処に向かっているのです?」
 その質問をしたのは何度目だっただろうか。何度も心中では呟いていたが、それを声に出したのは初めてだったかもしれない。
 自分達は一体何処へ向けて歩いているのだろう。話をするだけならば態々外に出る必要は無いと思う。内密の話だとしても人を下げれば良いだけの話で、態々危険を冒してまで自分達の会話を盗聴するような人間は居ない筈だ。そもそも十歳にも満たない皇子に皇帝が内密の話を持ちかけるなど普通に考えて有り得ないことだ。継承権問題の話をするにしてももう少し時期を待つのが通常だろう。
「心配は無用だ。時機に解る」
 風の音以外には何も聞こえない静かな夜道を歩いて行く。車を使わないということは目的地が差ほど遠くはないのだろう。
 植えられた草や花の香りが辺りを包む。この先にはエグゼリカ庭園が広がっている。
(目的地は……エグゼリカ庭園?)
 広大な面積を誇るこの庭園は皇帝の住まう本宮背面より三方に広がっていた。勿論この庭園の端から本宮殿まで行くには車か馬が必要だが、アリエス宮からもエグゼリカ庭園に歩いて出向くこと自体は可能だった。
 相変わらず静かな道には風が木々の葉を揺らす音だけが鳴り響いていた。話があると言ったのに二人の間には会話がない。そもそも皇帝は自分に一体何の話があるというのだろう。
 そのまま暫く真っ直ぐに木々の間を進んでいくと、スッとひらけた場所へと到着する。足元を見下ろすと、色とりどりの花の蕾が月明かりの下、夜明けを待っているようだった。
「会わせたい者が居る」
 不意に、皇帝は振り返ることなくそう言葉を洩らした。それは静かに、そして慎重に告げられた言葉だった。
「僕に、ですか……?」
 こちらから呼び出すのではなく、態々皇帝自ら皇子である自分を連れてその人物の元に足を運ぶ。それもこんな夜分に。その事実が表しているのは一体何だというのだろう。ブリタニア帝国唯一皇帝にそんなことをさせる人物とは誰だというのか。
 皇帝はルルーシュの問いに答えることなく足を進める。そうして石畳が広がり、その正面には小川の流れるようなひらけた場所へ到着した時突如、足を止めた。
 皇帝の広い背ばかりを目で追っていたルルーシュは皇帝が突然立ち止まったことに気が付き、周囲を見渡した。
 風の音に小川のせせらぐ音が混じり自然のハーモニーを響かせる。そんな中、木々の隙間からカサリ、と草が擦れ合う音が聞こえた。
「……来たか」
 シャルルは目を細めて口端を上げた。どうやら目的の人物が現れたらしい。ルルーシュは皇帝の視線の先へと目を向けた。そうしてその次の瞬間、息を呑んだ。
「久しいな、シャルル。それにはじめまして。シャルルとそして……マリアンヌの息子よ。私の名はC.C.」
 月明かりにより逆光となった所為で目の前に立つ人物の顔や姿をはっきりと認識することが出来なかった。しかし、透き通るような高い声や逆光に浮かび上がるシルエットから察するに若い女性のようだった。
 月光の眩しさに目を細めながらルルーシュはゆっくりとその明るさに目を慣らせていく。そうすれば次第に現れたのは十代半ばと思われる少女の姿だった。癖のない若草色の長髪は真っ直ぐに垂らされ、月明かりにきらきらと輝く。ぼんやりとした視界の中で細められた眸は琥珀色で、その薄く色付いた唇は僅かに弧を描く。その幻想的な容貌の少女は純白のドレスを纏っており、その薄く透けてしまいそうな布地は美しいドレープを纏いながらふわりと風に靡いた。
「C.C.さん……?」
 C.C.という名前は些か人間の名前のようには思えなかった。どちらかといえば記号とすら思えるその名にルルーシュは思わず彼女の名前を繰り返した。
「C.C.、で結構だ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
 呼び捨てで構わない、彼女は告げるとゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。長いドレスの裾からは細く白い脚が時折ちらつく。動く度に細くぴったりとした上半身の布地にその身体のシルエットが浮かぶ。艶やかな若草色の長い髪が腰の辺りをふわりと撫でた。
「随分と待たされたぞ、シャルル」
 背伸びをしてシャルルの耳元で囁き掛けるその仕草は凛として美しいものだった。しかしその相手はこの国の皇帝だ。普通のブリタニア女性ならばこのような振る舞いをすることなど出来ないだろう。皇帝という身分を気にする様子を見せない彼女にただ単純に興味を持った。
「……待たされるのには慣れているだろう?」
「ああ、充分過ぎるくらいにな」
 すぐ目の前まで彼女が近付く頃にはその琥珀色の眸もはっきりと見ることが出来た。感情の灯らないその目にはルルーシュとシャルルが映し出されている。
「ルルーシュよ、お前には〝力〟がある。我々皇族に脈々と受け継がれし王の力が……」
 シャルルは目を細めて、ルルーシュの姿を見下ろす。ルルーシュは硬い表情を浮かべながら皇帝と少女の両方を交互に見比べ、息を詰めた。
「〝力〟……ですか?」
 突然に皇族に代々受け継がれる力を自分も持っていると告げられ、ルルーシュは一体何のことだか検討も付かなかった。もし皇族の血を受け継ぐ者がそのような力を持つのならばどうして自分だけがこの場所に連れて来られたのか。
「そう、力だよ。ルルーシュ。今は未だ眠っている……至高の王の力さ……」
 C.C.と呼ばれる女性は少しだけ腰を屈ませると、ルルーシュを上から覗き込んだ。柔らかな胸元が目の前で強調される体勢だったがそんなことを気にしている余裕など無かった。そう、知りたかったのだ。
「あなたは一体何を僕に……?」
 恐る恐る疑問を口にする。皇帝は理由があってルルーシュをC.C.の元へと連れてきた。間違いなく彼女には特別な何かがある。しかし一体彼らは自分に何をするつもりなのだろう。
「お前の力を、目覚めさせる」

――お前が望むならば、な

 優しく囁くように告げられた言葉にルルーシュは目を大きく瞠り、息を呑んだ。自分に全てが委ねられているように見えるが、これでは半ば強制されたようなものだ。
 こうして人目に付かないような場所で態々この話をするということは彼女がかなりの重要人物であるということを示していた。
 そう、此処で断れば自分が皇子であったとしても無事でいられる保証は一切ない。下手をすればナナリーやマリアンヌにまで危害が及ぶ。それを判っていて彼らはルルーシュにそう訊いているのだ。
 背に冷めたい汗が伝うのを感じながらルルーシュは意を決して口を開く。こんなにも緊張したのは初めてだった。
「与えられた選択肢は……一つだけなのでしょう?」
 息を吐き出しながら、何とか言葉にすると横に立つシャルルはルルーシュを安心させるような穏やかな口調で説明を始めた。
「これはマリアンヌも望んでいること……。お前達兄弟の中でもっともこの血を色濃く受け継いだのはルルーシュ、お前なのだ」
「マリアンヌ母様も……?」
 母もこのことを知っている。暗にそう示す言葉にルルーシュは言葉を失う。
「そうだ。マリアンヌも望んでいる。ルルーシュ、お前の力が必要なのだ」
 再度強調され、ルルーシュはビクリと背を戦慄かせた。
「ですが……」
「恐れる必要はない。この力は生まれつきに備わっておる。ただ眠っているそれを起こすだけの話。お前に馴染んだ力はすぐに空気のようなものとなり、自在に操れるようになるだろう」
 生まれつき備わっている力を目覚めさせるだけなのだ、そう説明され、ルルーシュは暫し思考を巡らす。そしてようやく決意が整うと、微笑を携えるC.C.へと目線を上げた。
 母も父も自分に力を得ることを望んでいる。きっとその力は両親を助けることが出来るものなのだろう。力があれば永劫の安全と安心を約束され、きっと家族全員が幸せになれる筈だ。
「さぁ、ルルーシュ。こちらへおいで」
 見詰める先に立つ彼女は、緩慢な動きでその細腕をルルーシュへと伸ばした。そんな仕草に一瞬躊躇ってからその白く細い手に自分のそれを重ね合わせた。刹那、ふわりと突風が辺りを包み込む。少なくとも自分にはそう感じられた。そうして彼女の額からは眩い赤い光が発せられた。
「な、何!?」
 怖くなって手を引こうとするが、C.C.がそれを阻止する。物理的な拘束ではない。精神的な繋がりが離れることを拒絶したのだ。

――心配するな。これは私の記憶の一部だ

 C.C.の声と共に雪崩れ込む膨大な情報と、そして哀しく儚い記憶。映像のように脳裏に再生される彼女の人生の道のりは正に〝死〟に満ち溢れていた。
『魔女、ようやく追い詰めたぞッ! この女を殺すんだッさぁ!』
 数人の男達が銃を構え、少女に銃口を向ける。小汚い格好の少女はどうみてもC.C.だった。怯えて小刻みに肩を震わせる彼女を彼らは〝魔女〟と呼び、殺そうと躍起になっている。
 ルルーシュはその様子を傍観者として見詰めていた。干渉しようにも出来ないのだということは彼女の言葉で既に理解していた。そう、これは彼女の〝記憶〟なのだ。
『やめ……ッ』

――パァン

 彼女は記憶の中で銃弾を浴びていた。魔女、と罵られ若い軍人に頭を打ち抜かれた。土埃の舞う田舎道。ヨーロッパの何処かだろう。兵士の纏っている軍服はまだEUという連合が発足するよりもずっと前の古めかしいものだった。
 額を打ち抜かれた彼女は息絶えたまま横たわっていた。そんな彼女の服を上級兵士の一人がいとも簡単に破り、その華奢な肢体を露わにした。
『これで魔女になった罪、少しは贖うんだな』
 兵士が告げ、その横から上官と思しき一人の上級兵が前へと足を踏み出す。彼が下がれ、と命じると彼らは一歩後ろへ後退した。
『魔女だとしても躯は普通の女か』
 露わになった柔らかな胸部を掴みその上に刻まれていた傷跡を撫でる。舐めるような厭らしい視線で彼女の躯を見詰めながらズボンのボタンを外す音が最後通告のようで、ルルーシュは目を背けたくなった。それでも直接頭に送り込まれるようなこの光景からは逃げられなかった。
 ぐったりと既に息絶えた少女の躯を撫で回し、そうしてそのまま陵辱する。思わぬ光景にルルーシュは目を見開いたまま吐き気をこらえるのに必死だった。そして場面は直ぐに切り替わる。今度は別の場所のようだ。
 今度は中世を舞台にした映画に出てきそうな古めかしい場所だった。石を積んで作られた教会の高い塔が見える。その近くには羊飼いが羊を追い、馬車が舗装されていない地面が剥き出しとなった道を往来する。
『あの女が魔女です! 私は見ました。あの女の首が折れるのを。それなのにああして平然と起き上がって動いている! 魔法を使ったに違いない!』
『…………違う、私は…………』
 少女は何とかそれを否定しようとするが、剣を下げ、武装した若い男を前にして恐怖に震えていた。彼女は自分の主張を上手く言葉に出来ないようで男は農民の意見にしか耳を傾けてはいなかった。
『黒魔術は死罪と決まっている。魔女裁判に掛けられるか、それとも此処で死ぬか選ぶが良い。杭で心臓を打ち抜いて火で焼けば魔女も死ぬだろう。それともこの男がお前を陥れようとしているとでも云うか?』
 宗教裁判の中の一つ、魔女裁判を受けて生き残る為には自らが魔女であるということを認め、神に向かって告白をし、悔い改めなければならない。しかしそれをすれば周りの人間に彼女が本当に魔女であったということを示すことになり、更なる差別の対象として平穏に生きることは叶わないだろう。
 譬えそうでなかったとしても彼女は首を左右に振って否定する。自分は魔女などではない、と。この力は得たくて得たものではない。呪いなのだ、と。
『どうか……止めて下さい。騎士様。私は魔女ではありません……』
 か細い声で紡がれる懇願にも近い言葉に誰も耳を傾けようとはしなかった。
『剣で傷付ければすぐにこの女が魔女だと証明出来る筈です!』
 農民は蹲る彼女に近寄るとそっと背後に回り込み、持っていた短剣の刃先で少女の首筋を薄らとなぞった。
 じわりと広がる鮮血。ぽたりと一筋それは流れ落ち、男達は一瞬首を傾げた。これではただの人間ではないか、と。
 しかしそう思ったのも束の間、少女の首の傷はあっという間に塞がり、血の流れも止まってしまった。
「な……ッ、この……化け物! 不死の魔女がッ!」
 重厚な鎧を纏った騎士は持っていた長剣を抜くと、C.C.へ向けて勢いよく振るった。彼女は咄嗟に身を躱したが、右腕に深く刃先が食い込んだ。
『あァ……ッ……いや……痛いッ。うッ……ア――ッ! 止めてェッ――ッ!』
 そして腕に埋め込まれたその刃は抉るようにして彼女の肉を削いだ。しかしそれすらすぐに元通りの傷のないなだらかなものへと変化する。それを見た彼らは顔を恐怖に引き攣らせた。
『死ねッ、この魔女がッ!』
 今度は逃がさない、とばかりに騎士は彼女に剣を突き立てる。グサリ、と今度こそそれは腹部に突き刺さり、じわりと真っ赤な血が彼女の細い肢体を染め上げていく。腹部を切り裂かれる強烈な痛みに彼女はぼろぼろと眸から涙を零す。それでも彼女の意識は途絶えることなくそこにあり続けた。
『あ……あ……、いあアァ……ッ!』
『ッ、死なない――!? クソッ、死ね、死ね! この魔女がッ!』
 躯全体が痙攣し、大量の血で塗れても意識が残っている彼女は容赦なく何度も、何度も、突き刺され、遂に彼女は意識を失った。騎士もようやく彼女が死んだと思ったのだろう。ハッとした表情で我に返り彼女の死体から目を背ける。そのままC.C.の躯を道端へと打ち棄てると、農民達に去れ、と一言命じた。そうして映像はそこで途絶える。
「私は、幾度となく〝死〟を迎えた。死なないのではない。死んでも躯が再生し、意識を呼び戻す。決して痛みを感じない訳でもない。それでも人間にしてみればそんなことはきっと大差のあることなどではないのだろう。事実、私は殺しても生き返るのだから」
 ルルーシュは吐き気を抑え込むのに必死だった。しかし当の本人であるC.C.は至って平然としていた。
「私は不老不死の魔女C.C.。お前の力を覚醒させることの出来る数少ない存在だ」
 脳に直接語りかけられるように響き渡るその声にルルーシュは戸惑いを隠せなかった。
「君は……魔女なんかじゃないだろう……?」
 記憶の映像の中で彼女は必死にそう否定していた。譬え死が叶わないとしてもそれが魔女であるということにはならない筈だ。
「いいや、私は魔女さ。人間の理から外れ、そうして死ぬことすら出来なくなった。しかしこれで理解したろう? 私はお前の中の王の力を呼び起こすことが出来る。お前が望めば今すぐにでも、な」
「ギアス……それが力の呼び名か?」
 ギアス、と呼ばれる王の力。それは一体自分に何をもたらす? 家族を護れる強い力? それとももっと強大な……?
「ああ、少なくとも私たちはそう呼んでいる」
「……私たち?」
 どうやらこの力の存在を知っているのは自分達だけではないらしい。しかしそれでもその能力に精通しているのはごく一部であるということは間違いないだろう。そうでなければこのような場にルルーシュが呼ばれることなどない筈なのだから。
「ああ、ギアスについて研究する組織が存在している。私はそこの代表者だ。とはいえお飾りに過ぎないが」
「ギアスの能力とは一体何なんだ? 父上や母様も持っているのか?」
 ギアスという力が皇族に受け継がれてきたというのならば能力を持っている者は少なからず存在する筈だ。そして皇帝がこの話を自分に持ってきたということはつまり皇帝には何らかの能力があるということになる。
「ああ、シャルルも持っている。能力の内容については得てから初めて解るものだがしかし、きっとこれはお前を助ける力となるだろう……。醜い皇族同士の争いから勝ち残る為の術となる筈だ」
 そう、兄弟を兄弟とは思わないような残虐な戦いは歴史上繰り返されてきた。それは決して遠い昔の話などではない。父王シャルル・ジ・ブリタニアが皇帝になるに際しても国中を巻き込んだ戦乱となった。それなのに次の皇位引き継ぎが平和に為されるなどとどうすれば断言出来るだろうか。
「いつまでシャルルの庇護が続くと思う? もしシャルルに何かあればマリアンヌやお前の妹を護るのはお前だけだぞ? お前に一体何が出来る?」
 C.C.は暗闇の空間の中、ルルーシュの方を振り向き、そうして目を細めた。そうして告げられた言葉、それは確かに正論だった。
 今は父である皇帝が自分達を護ってくれる。しかしこれがその先も続くという保証は何処にもなかった。ブリタニア皇族は古くから競い合う血筋だった。親子兄弟関わらずに地位を奪い合い、そして血に塗れていた――歴史は繰り返される。
 そして自分には数え切れない程多くの兄弟が存在する。彼らが帝位を狙い出せば争いは避けられるものではなかった。何れ帝位をめぐる争いは激化する。それだけは確かなことだ。
「……父上と母様は本当に僕がギアスの力を得ることを望んでいるのだよな……?」
 再度確認するようにルルーシュはC.C.へとそっと近付く。彼女の顔を見上げれば、彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。もう自分が心の中で選んだ選択肢を彼女は理解しているのだろう。
「ああ、お前が力を得ることはあいつらの夢さ」
「……それならば、僕は」

――契約しよう、ルルーシュ。力を与える代わりにお前の役割を果たせ

――役割……?

――そうだ。お前には為さねばならないことがある

――それは、僕にしか出来ないこと……なのか?

――その通り。お前がお前にしか出来ないことを達成した時、真にお前は最強の力を得るだろう

――僕にしか、出来ないこと……

――さぁ契約の時だ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアよ。汝我の下、契約を遂行することを、誓うか?

――誓おう、覚悟は揃った。さぁ契約しよう、C.C.!

 次の瞬間、C.C.の額から再び眩い光が浮かび上がった。赤い、紅い、その光は辺り一面を包み込む。そうして左眼の奥がグッと熱くなった。
「ッ……ぁ……!」
 強烈な痛みに目をギュッと閉じ、前髪を押さえつけるように瞼に手を添えれば、次第にその熱が引いていく。今までに感じたことのない感覚に、ふらりと躯がふらついた。
 額を汗が伝う。荒い息を吐き出し、呼吸を整えながらルルーシュは静かに洩らす。
「……っ、は……ッ、これが……」

――これがギアスの力……?

「そうだ」
 C.C.はただひと言、同意の言葉を零す。ルルーシュは自身の中で目覚めた能力にただただ唖然とするばかりだった。
「こんなにも……強大な力を……僕は……」
 使わずとも解った。自分の得た能力は〝絶対遵守〟一言命じればそれを実行せずにはいられなくなる悪魔の囁き。
「ルルーシュ。強大な力には必ず制限がある。その力は一人に対し一度まで。二度目の命令は有り得ない。それを忘れるなよ」
 この時は何も解ってなどいなかった。いや、きっと今でも解ってはいない。何が自分の役割で、何をしなければならないのか。何故母や父は自分にそれを望み、何故自分に任せたのか。そして何の為に生きているのかすら……。
 瞼の上を抑えながら自分に宿る確かな力を感じていた。そうしてゆっくりと眸を開けばそこがもう現実の空間に戻っていることに気が付く。
「……やはりお前にはその才能があったか」
 シャルルはくははは、と笑い声を上げながらルルーシュのことを見下ろした。
 まるで彼は既に自分がどんな能力を得たのか知っているようだった。しかしC.C.に寄ればそれは有り得ないという。能力は発現するまで解らないのだ、と。それでも皇帝はルルーシュに才能があるということを確信していた。どうしてそんなにも信じられるのだろう。ギアスの力を得た自分自身でさえまだこの能力の無限の可能性を信じ切れていないというのに。
「父上には……解るのですか? 僕が、どのくらいの力を得たか」
 何処まで父は把握しているのだろう。そんな疑問を真っ直ぐにぶつける。相手が皇帝であれ、それ以前に自分の父親であることには変わりない。聞きたいことを聞いてもきっとそれは間違いではない筈だ。
「ああ、解るとも……。お前の才能は儂が一番解っておる。お前が手にしたその力は何れお前を助けるだろう」
「でも……どう使えば良いのか判りません……」
 左眼に持て余した熱はそう簡単に使って良いような力などではない。一体いつこの力が必要になる時が来るというのか。そんな時など来なければ良いのに。
「必要な時が来れば……自ずと力を使うことが叶う。心配は必要無い」
 それでも自分には護るべき人達が居た。その人達を護る為にはどんな手段だって取るだろう。そしてそれが一体どんな結末を招くかなどこの時には想像すら出来なかった。そう、まだ何も分かっていない子供だったのだ。
 暗い闇の中、ぼんやりと照らし出す月だけが全てを見下ろしているようだった。
「シャルル、約束は果たしたぞ。お前も私との契約を護れよ」
 C.C.は皇帝の方へと向き直るとその琥珀を細める。彼女と皇帝も同じように何かの〝契約〟を結んでいるというのだろうか。
「……勿論だ。解っておる」
 C.C.はその金色の眸をシャルルへと向け一瞥するとふわりとそのドレスを翻し、歩き出す。
「…………C.C.」
 ルルーシュは彼女を呼び止めるように腕を上げる。するとふわりと風に髪を靡かせゆっくりと振り返る。その口許には笑みが薄らと浮かんでおり、ルルーシュはその妖艶な仕草に息を詰めた。
「ルルーシュよ、お前も契約を果たせよ」
 その契約の内容を話さないのに一体どうやって果たせというのだろう。何れ解る、知る時が来る、そう何度も自分に言い聞かせてきた。それでも未だに答えは出ない。
 そう、この手が血に塗れる運命となったのは正にこの時だった。
「ルルーシュ、お前は先に戻っておれ、儂は未だC.C.に用がある」
 命令されてしまえばルルーシュには抗うことは出来ない。父の言葉は絶対だった――きっと今も昔も……。
「解りました」
 頷くと、ルルーシュはその場を離れ、アリエス宮へと足を進める。
「……父上は一体何を考えているんだろう……」
 ほんの僅かな邂逅。C.C.と呼ばれる少女に会ったのはこの一度きりだけだった。
 尊敬の対象である父を疑ったことなど一度も無い。母が絶大な信頼と愛情を寄せる皇帝を疑うことなど出来る筈が無かった。そして彼は自分のことを大切にし、そして見込んでC.C.の所へ連れて行ったのだろう。だからこそその期待に応えなければならないと思った。それこそが自分が家族に出来る唯一の行動だと思っていたから――少なくともこの時は……。

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