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False Stage3-05

GEASS LOG TOP False Stage3-05
約11,482字 / 約20分

「あれ……? 僕は……」
 気が付けばサロンの中央に立ち尽くしていることに気が付き、スザクは首を傾げる。確か先程までルルーシュと会話を交わしていた筈なのに一体どうしたのだろう。
 ルルーシュは何処に消えた? 辺りを見回して彼の姿を探すが、一向に見当たらない。
 舞踏会は既に始まっており、スザクはいつの間にか一人その中心に立っていた。
(もしかしてまたV.V.が?)
 ふと、そんな考えが浮かんだがさすがにそれは無いだろう。V.V.は去る直前に〝もう目的を果たした〟と言っていたし、もう一度ルルーシュに接触する利点は無い。そうでなければルルーシュが自らの意思で何処かへ向かったということになるだろうか。
(僕が心配しすぎなのかな……?)
 しかしV.V.はルルーシュの記憶を取り戻す際、彼のことを迎えに来た、と云っていた。嚮団に連れて帰ると言ったその言葉はどうやらルルーシュに近付く為の口実だったようだったが、ルルーシュを皇帝にすると告げたその言葉に関しては彼が取り消すことは無かった。
(つまりV.V.の目的はルルーシュを皇帝にすること?)
 だが、V.V.は皇帝のことを〝シャルル〟と親しげに呼んでいた。そんな彼がシャルル・ジ・ブリタニアを皇帝位から引き摺り下ろし、そして継承権が対して高くもない皇子を皇帝へと就けるなどということを果たしてするだろうか。
 考えても答えは出ない。ルルーシュは一体どうするつもりなのだろう。それを問う為にも早く彼を見つけ出さなければ。
 廊下を抜け、ルルーシュが向かいそうな場所を探す。トイレ、キッチン、私室、中庭……。
 しかし何処にも彼の姿は見えない。
(そういえば……陛下の姿も、無かったような……)
 その時、不意にパン、パン、と何度か破裂音が聞こえた。銃声のようなパーティー用のクラッカーのような、そんな音だ。しかし庶民のパーティーではあるまいしクラッカーなどといったそんなものは使用しないだろう。つまり後者は有り得ない。そう考えると自然と答えは導き出される。
「――ルルーシュッ!」
 気が付けばスザクは彼の名を叫びながら音のした方向へと走り出していた。
 そう、はじめから厭な予感はしていた。何故自分の記憶が飛んでいるのか、ルルーシュと部屋に居た筈なのにいつの間にかパーティー会場へと戻っていた。ルルーシュが何処に行ったのかも知らず、陛下の姿も見えない。そしてこの音……。
 この予感だけは外れて欲しい。それでも楽観など出来る訳がない。皇帝はルルーシュの記憶を改竄し、多くの人を殺させたような人物なのだ。油断など出来る筈がない。ルルーシュが無事でいてくれるならばそれだけで充分だ。
 衛兵達は今の音に気が付いただろうか。それ程大きな音ではなかったが、何度も繰り返し鳴ればさすがに気が付いたかもしれない。彼らよりも先にルルーシュの所へ向かわなければ。
 廊下を駆け抜ける中、メイド達とすれ違うことも無くシンと静まりかえる辺りは少々の不気味さを漂わせる。しかし執事やメイドたちは誕生会で客人の相手をすることに追われているのだろう。彼らをきちんともてなすことはやがては主であるルルーシュの評判に繋がるのだから。
 とにかく人の気配が感じられない階段を駆け上がり、廊下を真っ直ぐに進めば不自然に薄らと扉が開いている部屋を見つけ、スザクは不審に思い音を立てないように忍び寄った。そして嗅ぎ慣れた匂いに眉を寄せる。そう、戦場では何ら珍しくもない匂い。しかしそれがこのアリエス宮内で漂うことなど想像したくもなかった。そう、これは……血の匂いだ。
(もしかして、間に合わなかったのかッ!?)
 最悪の事態を想像する前にスザクは重厚な扉を勢いよく開いた。すると目の前に現れた光景はスザクの想像を遙かに凌駕したものだった。
 真っ赤に染まったその部屋の隅の壁に寄りかかるようにして座り込むルルーシュの姿。その隣にはピクリとも動くことなく横たわる皇帝の躯。スザクは急いで中へと駆け込んだ。
「ルルーシュ――ッ」
 ルルーシュの躯を包み込むように抱きしめる。そうして皇帝へと目を向ければ彼の既に息絶えていた。足元には小型の銃が転がっており、状況を見ればルルーシュが皇帝を暗殺したということは明らかだった。
「ルルーシュ……ッ、一体どうしたんだ!?」
 至近距離で詰め寄ったところでルルーシュは反応を示さない。スザクはルルーシュの頬を両手で支えると、自分の方へ向かせるようにして覗き込む。
「ルルーシュ、何が、あったんだッ!?」
 果たして目の前のこの光景は現実なのだろうか。自分の目すら疑いたくなるようなこの有様にスザクは狼狽した。
 何故皇帝が死に、その横にルルーシュがいるのか。何度も何度も彼の名を呼べば、虚ろだった目がようやく明かりを取り戻す。そうして掠れた声でスザクの名前を呼んだ。
「…………スザ、ク?」
「そう、僕だよ。スザクだ。ルルーシュ、説明してほしい。一体何故こんなことに?」
 ルルーシュの両肩を掴み、顔を寄せて彼を揺さぶり問い質す。こんな状態で全てを説明させようというのは酷だということは判ってはいたが、問わずにはいられなかった。
「皇帝は…………俺が、殺した」
 ゆっくりとした口調だったがその言葉をスザクの頭はなかなか理解しようとはしなかった。
「……ッ、何故――?」
「それが、俺の……役割だから……。兄上達と、約束、した……」
 ルルーシュの役割。それが皇帝を殺すこと? 兄達と約束したということは複数の兄または姉がルルーシュに皇帝を殺すようにと仕組ませた?
「謀反を、計画していたのか!?」
 ルルーシュの言葉が真実ならばブリタニア皇族の何人かが手を組み、シャルル・ジ・ブリタニアの暗殺を企て、そして実行に移したということになる。
「そうだ……」
 あっさりと頷くルルーシュにスザクは悲痛な想いを隠せずにいた。
 ずっと自分はルルーシュの味方のつもりだった。それなのにルルーシュは自分に何も告げることなく独りで背負い込んでしまった。こんなにも危険な役割を。ルルーシュを危険な目に遭わせるようなことは何としても防ぎたかった。それなのに彼の異母兄達はそんなこともお構いなしにルルーシュに危険な役割を押し付けた。
「何故、僕に話してくれなかった? 何で僕を信用してくれなかった?」
 信じて、そして話して欲しかった。ルルーシュの理解者で有りたかった。初めての友達であり、そして初めて正真正銘に好きになった相手だったからこそ裏切られたような気分だった。
「違うんだ、スザク。信頼、していたからこそ……お前を巻き込めなかった。お前はラウンズだし……」

――〝裏切りは最大の、罪〟

 彼はスザクに主を裏切らせたくなかったのだとそう洩らす。裏切りの騎士にはさせたくないのだ、と。円卓の騎士ランスロットは主よりも愛する相手を選んだ。しかしスザクはシャルル・ジ・ブリタニアに対して心の底から忠誠を捧げたことはない。どんな時も心にはルルーシュの姿があった。もし今、主を選べるのならば自分は迷わずルルーシュの手を取り、そして主と愛する相手をイコールで結び、方程式として結びつけてしまうだろう。
「それでも……僕は……」
「駄目だ。お前は皇帝の騎士。だからこそ、仇を取らなくてはならない」
 即座に否定され、スザクは一瞬息を詰めた。しかしすぐさま首を左右に振ってルルーシュの言葉を否定した。
 ルルーシュが云っていることはつまりスザクが皇帝を殺したルルーシュを捕らえて仇を取れということだ。そんなことが出来る訳がない。こんなにもルルーシュのことを愛しているのに誰がその彼を捕まえ、民衆の前に謀反者として差し出すことが出来る?
「でも、僕は皇帝陛下に忠誠など誓っていなかった! 僕は陛下よりも君の方が…………ッ」
 これは騎士として口に出してはならない言葉だということは判っていた。それでも云わずにはいられなかった。しかしこれは事実なのだ。自分の心は疾うに皇帝ではなくルルーシュに捧げられていた。一生、いや永遠に彼の傍に居たいと思うくらいに。
「間違ってもそんなことを口にするなッ。スザク、お前は騎士だ。そこに倒れて屍となった男の騎士なんだよ。だからお前は主の仇を討たなければならない。それにこれは俺の望んだことなんだ。だからこそ、お前に頼みたい」

――俺を、殺せ

「え…………? 何を……云って……」
 捕らえるのではなくルルーシュは今何と云った? 自分に何を命じた?
「言っただろう〝躊躇うな〟。俺を殺すことに」

――愛しているのならば、俺のことを殺すことに躊躇いを感じるな。これは俺が望んだことなのだから。

 先程ルルーシュが記憶を取り戻した後に見たような紅い色をした鳥が再び羽ばたき、脳裏に刻まれたその言葉が再生される。
「い……や……、やめて、ルルー……シュ……駄目……だ」
 ルルーシュを愛しているのに彼は自分に彼を殺せと云った。そんなの間違っている。駄目だ、殺したくなどない。駄目だ、厭だ、でも……。
 好き、好き、愛している。永遠に、君が死んでも。僕が君のことを殺しても。愛しているからこそ、僕は君のことを殺さなければ。そう愛しているんだから殺すのは当然だ。だって彼がそれを望んでいるから。

――彼の望みを叶えなくては

「うん、そうだったよね。僕は君が望むなら君を殺すことだって躊躇わないよ」
 スザクがにっこりと微笑むと、ルルーシュも満足そうに微笑を浮かべた。
「スザク、愛しているよ。これからも、永遠に」
「僕も、君のことを愛しているよ」
 スザクはそう告げると、懐から短刀を取り出した。宝飾できらきらと輝くその宝剣はこの場にふさわしいとっておきのもののように思えた。腰にさしてある長剣でないのは僅かでもルルーシュと離れたく無かったからだ。
「っん……」
 ルルーシュの襟元のボタンを外し、露わになった鎖骨の上へ口付けを落とす。それから首筋、頬、口許。それは別れを告げるような優しさを含んだものだった。ルルーシュはそれを拒むことなく受け入れ、そうして促す。
「……スザク……、さぁ、俺を……」

――殺せ

 死ぬならばお前の手で死にたいんだ。もうお前を手に入れるにはこの方法しかない。我が儘だということは良く解っているけれども最期くらい我が儘を言っても構わないだろう?
 ルルーシュは囁くように云うとスザクの唇に軽く口付けを落とす。それは触れるだけのものだったけれどもそれだけでもう充分だった。
「心配しないで、ルルーシュ。君を殺したら僕もすぐに後を追うから」
 左胸、心臓のある辺りをスザクは手でそっと撫でた。優しく、労るような手つきでその場所を確認する。
「……ああ、先に……待っている」
 耳許で囁くその声はまるでベットの中での情事を思い起こさせるような妖艶さを含んでいた。
 スザクはルルーシュを抱きしめたまま、短剣をルルーシュへと向ける。刃先はきらりと外から洩れ出る光を反射させた。そうして剣先が絹のシャツを裂き、肌を直接撫でた。触れた部分からはスッと鮮血が滴り、単純にそれが美しいと思った。

――この剣先を埋めれば、ルルーシュは死ぬ

 ルルーシュの顔を覗けば、彼はスザクのことを恍惚な表情を浮かべながら見詰めていた。とろけるようなその紫紺に魅了されながら、スザクはゆっくりと刃を埋めていった。
「う……く…………っ…………」
 その瞬間、目を見開き衝撃に耐えるルルーシュの姿が垣間見える。しかしそんな苦痛の表情すら今のスザクにはなまめかしく映った。やがて紅い血が突き刺さる刃を伝い、ぽたぽたと垂れ落ちる。確実に死を免れることの出来ない場所を的確に突いた為、ルルーシュの意識は既に喪われていた。
「………………え…………っ? 僕は、一体……何を…………?」
 ハッとしてスザクは手元を見ると、その手は真っ赤な血で濡れており、腕の中にはぐったりとしたルルーシュの姿があった。
「…………ル…………ルルーシュ…………? うそ……だ……そんな……、嘘だッ! 嘘だ! ルルーシュッ!」
 どうしてこんなことに!? ルルーシュは自分にルルーシュを殺せと言い、自分はそれを実行してしまった――ルルーシュを殺してしまった。
「ルルーシュッ、ルルーシュ――ッ!」
 涙が溢れて、視界がぼやけていく。ルルーシュの姿すらぼんやりと融けていく。それでもルルーシュのことを手放すまいとスザクは彼の亡骸を抱きしめる腕の力を強める。
「僕は、何で、そんな…………」
 そう零しながらも本当は解っていた。ルルーシュがそうさせたのだ。ルルーシュの持つギアスという力は人を殺す力だと言っていたけれども、それは自分自身にも当てはまることだったということなのだろう。
 生温かい血液がスザクの純白だった騎士服を緋色に染め上げる。しかしそんなことはお構いなしにルルーシュの躯を抱き寄せ、彼の名前を何度も呼んだ。しかし判っている通り彼からの反応は無かった。
「う……っ、僕は……どうしたら良いと言うんだ? 君がいなければ、意味が無いよ」
 スザクはルルーシュに突き刺さっている短剣に目を向けると、朧気にそれを引き抜いた。刹那、刃先からは紅い雫が飛び散り、傷口からはどぼりと血が流れ出す。
 思えばルルーシュは出会った時から死にたがっていた。コルチェスター学院在学中にそれを何とか説得することが出来たと思っていたのに。ルルーシュは自分にギアスを使い、そうしてルルーシュを殺させた。きっとそれはスザクを苦しめる為にやったことではない。この自分の手で死にたいと彼が願ったからこそのことなのだろう。
 ルルーシュを殺してしまった今、自分に生きる意味はもう無くなっていた。ルルーシュを護りたい一心で此処まできたがもうその意味も無くなってしまった。
「待っていて。僕もすぐに逝くよ、ルルーシュ」
 彼の耳元に顔を寄せて囁くと、スザクは緩慢な動作でその剣先を今度は自分の方へと向けた。
 もう一度、腕の中で眠るルルーシュの顔を一瞥して、短刀を突き立てようとしたその時だった。
「…………っん……、スザ……ク?」
 突如耳に入ってきた聞こえる筈のない声にスザクはハッとして短剣を身から離した。
「……ル、ルルーシュ…………?」
 死んだ筈の、聞こえる筈のないルルーシュの声が聞こえすぐさまもう一度彼の方へと目を向ける。すると茫然とした様子のルルーシュの姿が目に入った。先程まで死んでいたと思っていた彼は確かに呼吸をし、スザクのことを見詰めている――間違いなく生きているようだった。
「……どうして、俺は…………生きている?」
 彼も自分自身信じられないのだろう。確かにスザクはルルーシュの心臓を突き刺したのに彼は息を吹き返した。
 スザクに刺された場所を見詰めているが、そこは血で濡れていた為にスザクにはどうなっているのか確認は出来なかった。ルルーシュは恐る恐るといった仕草でその場所を指先で撫でた。
「…………嘘、だ」
 嘘だ、嘘だ、と何度も繰り返すルルーシュにスザクの方が痛々しい気持ちにさせられる。こんなことが現実にあるというのだろうか。死した筈の者が生き返る。そんな都合の良い現実が果たして。
「…………ルルーシュ…………」
 胸の中で悲痛な声を上げるルルーシュはスザクに纏うようにして声を絞り出した。
「……俺は、スザク……死にたいんだ……なのに……どうして……?」
 どうして死なない? もう一度、今度こそ殺してくれ、息の根を確実に止めて……もう生きていることは疲れてしまったんだ。だから……。

――殺してくれ

 その言葉にスザクは再び紅い光を見る。今度は迷うことなど無かった。
「ルルーシュ、ルルーシュ、ルルーシューッ!」
 僕が殺してあげる。君の望む通り楽にしてあげるよ。だから安心して眠ると良い。僕は決して君を独りにはしないから。
 スザクは持っていた短刀でもう一度ルルーシュの胸を深く突き刺した。何度も、何度も、繰り返し、繰り返し。
「あ…………ッ、スザ……ッ、ううっ」
 くぐもった苦しげな声もきっとすぐに途絶え、安らかなものへと変わるだろうから。苦痛はほんの僅かな時間。だから少しだけ我慢して。そうすればきっと君の願いは叶えられるから。
「ルルーシュ、僕がッ、殺してあげるから!」
 ずぶずぶとルルーシュから流れ出る血が短剣を染め上げていく。返り血がスザクへと跳ね、その頬へと飛び散る。それでも不快感は無かった。そう、これがルルーシュの血だから。
 驚きに目を見開いたままルルーシュはスザクに何度もその身を貫かれていた。それでも息絶える気配は無く、スザクは必死だった。
「どうしてッ! どうして死なないんだッ! ルルーシュ! 僕は、君を、殺さなければならないのにッ!」
 涙が溢れる。ルルーシュを殺すことが彼の望みなのに、どうしても叶えてやることが出来ない。死んだと思ってもすぐに息を吹き返し、こちらへと虚無の眼差しを向けてくる――耐えられなかった。
「死んでッ! お願いだからッ! 僕は、君を愛しているんだっ! だから……ッ!」
 グチュリ、と血液が飛び散る音がする。綺麗だった肌を切り裂き、肉片を飛び散らせ、それでもルルーシュに死ぬ気配は見られなかった。
「うっ……あっ、あ、ああ……ッ」
 ルルーシュの口から血が零れ出す。短剣が肺を突き破り、血が咽を逆流したのだろう。
「ルルーシュ、ルルーシュ、ルルーシュ――ッ!」
 スザクはルルーシュの名前を何度も繰り返し叫びながらその刃を突き立て続けた。

――おいッ、スザク! 止めろッ!

 不意に突如後ろから両腕を掴まれ、力尽くで短刀を奪われる。邪魔をするな、と睨み付けるように視線を背後へ向ければそこに立っていたのはジノとアーニャだった。
「あ…………あぁ、僕は…………」
 ジノの声に反応し、自分のしたことを遂にはっきりと自覚したスザクは顔を蒼白とさせる。何ということだ。自分はルルーシュのことを一度ではなく何度も殺し続けた。正気の沙汰ではない。ルルーシュを護りたいと心の中でずっと願っていた筈なのに。この手でルルーシュを傷付けてしまった。
「……そん、な」
 それにも関わらずルルーシュは死ななかった。それはまさに人間とは思えないような躯だった。
「スザクッ! お前も謀反に荷担していたのかっッ!?」
 必死の形相で詰め寄られ、スザクは目を瞠った。

――お前も……?

「皇帝陛下とルルーシュ殿下を殺したのかッ!? それにパーティー会場で銃を乱射したのはお前の仲間なんだろっ!? シュナイゼル殿下も、クロヴィス殿下も、オデュッセウス殿下も…………みんな、死んだ。殺されたッ!」
「――えっ…………?」
 みんな、死んだ? 一体どういうことだ。確かにルルーシュを刺したのは自分だけれども皇帝を殺したのはルルーシュだ。そしてそれ以外のことは何も知らない。シュナイゼルやクロヴィスが死んだなど。
「お前は、関与していないのか? それなら何故ルルーシュ殿下を……愛していたんじゃなかったのか……?」
 ジノはスザクの襟元を掴み、引き寄せるとじっとこちらを睨み付ける。愛する者を裏切ったのか、と問い詰めるように。
「僕、は……ルルーシュを殺したいなど願ったことは一度も無いよ」
「じゃあ何でッ」

――俺がスザクに殺されたいと願ったからだ

――え…………?

 する筈のない声が響き、ジノは素早く振り返った。そして視界に映り込んだその姿に驚愕した。
「……ルルーシュ……殿、下……? 何故、生きて……?」
 スザクもルルーシュの横たわっていた方向へと視線を移すと、彼は口許を汚す血液を手の甲で拭いながら、既に何事もなかったように立ち上がり、そして憂いを含んだ表情でこちらを見詰めていた。その躯には赤黒い血がこびりつき、悲惨な状態だったがそれにも関わらずルルーシュの美しさは全く損なわれていなかった。それよりも狂気に満ちたなまめかしさが際立っており、その稀代の美貌にスザクは息を詰めた。そんな驚きの中、アーニャは何も口にすることなく、三人の姿を見詰めている。
「さっき……までスザクの剣が……刺さっていましたよね……?」
 心臓の上をグサリと突き刺された状態で倒れていたところを確かにジノは目撃していた。それにも関わらずルルーシュは今、以前と同じようにジノやスザクへと目を向けていた。
「…………死ねない……」
「…………死ねない?」
 ポツリと彼の口から洩れた言葉にジノは目を見開いたまま同じ言葉を疑問として繰り返した。
「…………まるで、C.C.のようだ……まさか……そん、な……」
 C.C.とは一体何のことを言っているのだろう。人の名前だろうか。スザクはルルーシュの言葉に耳を傾ける。
 ルルーシュは独り何かの事実に気が付いたのだろうか。ポツリ、ポツリと言葉を紡ぎ始める。
「C.C.は不老不死だった。そして恐らくはV.V.も。だが、何故俺まで……? く……ははっ、俺が、死んだら困るだと……ははは……死なないじゃないか。飛び降りても助けられ、薬を飲もうにも邪魔をされ、銃で撃たれようという時には庇われて助かった……何故、俺は……死なない……? はは、これは……っ」

――一体何の呪いなんだッ!

 ルルーシュは声を荒げた。
 ルルーシュの過去をスザクは殆ど知らない。辛うじて学院で聞き出したのは偽物の従弟であるロロが死んだ――ルルーシュが殺してしまった――ということだ。しかしルルーシュが絶望を抱いていた原因はそれだけではなかった。ルルーシュはロロと逢う以前にも多くの者を喪っていた。何度も死のうとしたけれどもそれが叶うことは無く、そして遂には不死の躯となってしまったというのだ。
 それは一体どんな呪いだというのか。余りに痛々しい姿にスザクはルルーシュのことを見ているのが辛かった。愛する者が苦しんでいるのに自分は何も出来ないのだろうか。
「ルルーシュ……っ」
 スザクはルルーシュの躯を抱きしめる。落ち着かせるようにぎゅっと力を篭めた。
「あ……、ああ……ぁ……なん、で……っ……?」
 それは誰にも判らない。少なくとも此処に居る者たちに解決する力はなかった。スザクはルルーシュの細い躯を抱きしめながらジノの方を見遣ると彼は狼狽えた様子で疑問を投げかける。
「スザク、これはどういうことなんだ? 皇帝陛下が死んでルルーシュ殿下は死なない躯に? 誰が陛下を殺した?」
 意味が判らない、とばかりの言葉に反応したのはルルーシュ自身だった。
「…………俺だ、ジノ。俺が皇帝を殺した」
「ルルーシュ殿下、が?」
 皇帝を殺したことをあっさりと認めてみせたルルーシュにジノの表情が変わる。ジノはナイト・オブ・ラウンズだ。皇帝の騎士であるジノに皇帝を殺したことを堂々と宣言した。このままでは二人の対立が激しくなるのではないか、とスザクは危惧する。
「ああ、残念だったな。仇を討とうにも俺はどうやら死ねないらしい」
 不死の力を一体彼はどうやって手に入れたのだろう。ルルーシュ自身が不死になることを望んでいないことはスザクが一番良く知っている。その力を手にしてしまった彼はきっと今、心に絶望を抱いている。しかし自分には彼を癒すような力はない。そして現状を把握し、統制するような力も。ただただ慌てふためき、そして狼狽えるしか道は無かった。
「……にわかには信じがたいですが……確かに私はこの目で見ました。あなたが死に、そして今生きているという事実を。それならば仕方が無いですね。信じるしかありません。そして私にはどうしようも出来ない、この状況も、あなたのことも」
 ジノは未だに信じられない、という表情ではあったが、何とか目の前の光景を受け入れようとしているようだった。
「……ホールで何があった?」
 ルルーシュは持ち前の切り替えの速さで現状を把握しようとジノに訊ねた。先程のジノの話が正しければサロンで大変な事件が起こったということになる。
「……突然子供が銃を乱射して……殿下たちだけでなく……きっと殆どが死にました。私たちは何とか躱して陛下を護ろうとしましたが、姿が見えず……探していたらあなたたちの居たこの場所に辿り付いたという訳です」
「……子供?」
 スザクはジノの説明にまさか、と思い聞き返す。子供が銃を持ち、サロンに居た人々を殺したなど普通は到底信じられない。しかしそのような行動を取っても不思議はないと納得出来てしまうような子供をスザクやルルーシュは知っていた。
「ええ、長い金髪で眸の色は紫の少年です」
 やはり、と思った。長い金色の髪に鮮やかなロイヤルパープルを持った少年。見た目は少年だがきっと本当はきっと違う。舌足らずの口調で云う言葉は何とも残酷な色合いを含んでおり、そして事実冷淡な部分を持ち合わせているようだった。ほんの僅かな邂逅だったとしてもそれはすぐに判る。そんな少年はただ一人だけしかいない。
「…………V.V.だ」
「知っているのか?」
 スザクの言葉にジノは片眉を持ち上げる。
「ああ、さっきルルーシュはV.V.と呼ばれる少年によって記憶を取り戻したんだ。どうやってかは僕には解らないけれど……」
 簡単に説明すればジノは目を細めて追求する。ルルーシュが記憶を取り戻したということはその記憶が大きなヒントとなることは余りに易々と想像出来ることだったから。
「……では、学院でのことも?」
「……ああ」
「聞きたいことはたくさんありますが……此処は危険です。どこか別の場所へ」
 今度はルルーシュ自身が認め、ジノは情報が溢れて混乱する頭を掻きむしりながらルルーシュへと促した。
「いや、その必要は無い。寧ろV.V.に用がある。あいつは何か知っている。それを聞き出さねば。それに俺の身の安全など心配して良いのか? ジノ、お前も皇帝の騎士だろう?」
 そう、自分もジノもナイト・オブ・ラウンズ――則ち皇帝の騎士だった。それでもルルーシュに従いたいと自分は思う。これがルルーシュ以外の別の皇族であればそうはいかなかっただろう。もしかしたらジノも同じ気持ちなのかもしれない。ルルーシュは特別だった。自分が彼のことを愛しているということを除いたとしても彼は才能に秀でていた。だからこそそのカリスマ性が自然と彼に従いたくなる気持ちを生み出すのだろう。
「陛下やあなた以外の皇族が亡くなられた今、継承権を持つ皇族はあなただけです。もしあなたに何かあればこの国は立ち行かなくなります。それにこの先の政治がどうであれ、あなたを私の一存で断罪する訳にはいきませんし、それ以前にもうあなたを責める者は存在しないでしょう。しかし……V.V.とやらに会いに行くというのは本気ですか? あの少年はシュナイゼル殿下をはじめとした会場内にいた人々を殺したのですよ」
「何、どうせ死なない躯だ。いや、死ねるのならそれが本望か。だからお前達は付いてくる必要は無い。逃げればいい」
 確かにとにかく広間に行って事態を掌握する必要はあるだろう。ジノの云うことが本当ならば国家の危機を揺るがす大変な事態であるということは明らかだった。この国のナンバーワンとナンバーツーが同時に死んだのだから。
「……僕は一緒に行くよ」
 ルルーシュ一人を行かせるなど有り得ない。今までずっと独りで苦しんでいた彼を放っておくことなど誰が出来る?
 スザクはまっすぐに彼の紫水晶の眸を見詰めたまま断言すると、その瞬間彼の眸が僅かに揺れた。
「私だって」
 ジノもスザクに対抗するように告げる。そもそもジノはルルーシュのことを嫌っている訳ではない。主であった皇帝が死んだ今、自分達を率いるのは皇族であるルルーシュだ。譬えそれが彼の起こした弑逆によったものだとしても今、このような状況で彼を責めることは出来なかったのだろう。
「……私も」
 ジノに続いてアーニャもそう洩らす。これで三人のナイト・オブ・ラウンズが彼に付いて行くと宣言した。ルルーシュはそんな彼らの様子にルルーシュは眉を下げると、立ち上がる。
「…………仕方が、ないな」
 そうして血に濡れて重くなったマントを外し、床へと放ち宣言する。
「行くか、V.V.のところへ」
「「「イエス、ユア・ハイネス」」」

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