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False Stage1-04

GEASS LOG TOP False Stage1-04
約11,583字 / 約21分

 その夜はすぐに過ぎ去ってしまった。レポートは無事完成。ルルーシュは一度寮に戻ってからきっちり今日は学校に登校するように約束してくれた。友達がいる学校生活とはどんなものだろう。初めての友達が出来たことが嬉しくて、スザクはわくわくした気持ちのままシャワーを浴びる。
 一日中着ていたシャツを洗濯カゴに放り、新しい白いシャツに袖を通す。釦を急いで嵌めて、タイを留める。それからスラックスを穿いてジャケットを羽織る。
 部屋に備え付けられている姿見で全体を確認して、ルルーシュに手伝ってもらって昨日書いたレポートをファイルに挟んでバッグの中へと仕舞う。
 彼は一年間も学校を休んでいたというのに、簡単に歴史に関する考察を述べ、スザクに解りやすくレポートの纏め方を教えてくれた。それが教師に教わった時よりも簡単に頭の中に入ってきて、彼が本当は頭が良いということに気が付いた。
 この学院では最も優秀な成績を修めた者が寮の監督生となる。だから例えこの一年間学校を休んでいたとしても監督生の選出はその前の成績となるからルルーシュは実は監督生になることは出来たのではないか、とさえ思った。しかしそれを本人に尋ねたところ即座に否定されたが。
 何でも彼は体育が得意ではないのだという。それでも保健でカバー出来そうな気もするようにスザクには思えたが、とにかく彼は監督生にはなりたくなかったらしい。
 スザクは周りを歩く学生と同じように寮から校舎へと向かう。忙しない朝の時間。一日の始まりだった。
 校舎へ入り、教室へとたどり着く。一通り教室内を見渡したがまだルルーシュは来ていないようだった。監督生の少年やその取り巻きが教卓の前で一般生徒に絡んでいるのを横目で見つつ、彼がこの教室へ入って来るのを待った。
 一限目はこのホームルームで物理の授業。二限目が問題のブリタニア史だ。まだ朝のショートホームルームの始まる前の騒がしい時間を生徒たちは満喫しているようだった。
 ガヤガヤと雑談が交わり合い、喧騒へと変化していく。それがある瞬間にピタリと止まった。スザクは顔を上げて教卓へと目を向けた。しかしいつもならそこに居る筈の教師はおらず、皆の視線が教室後のドアへと向けられていることに気が付きスザクはすぐに背後へと振り返った。
「……ル…………ルルーシュ・ランペルージ……?」
 まさか、といわんばかりに監督生の少年は息を詰まらせた。
「……どうして……?」
 どうして、どうして、何故、どうして。
 そんな言葉が室内に静かに発せられる。ルルーシュは一年間学校を休んでいた。つまり第五学年に上がってから一度もこのクラスに訪れていないということだ。皆が驚くのも当然だろう。しかし、これらの言葉には驚き以外の意味合いも含まれているように聞こえた。
「良く、クラスに顔を出せましたね? ルルーシュ・ランペルージ」
 その言葉にルルーシュは足を止めて、静かに目を細めた。監督生はカツカツと靴音を立てながらルルーシュの前へと近寄ると、スッと視線を上げ、ルルーシュの顔を睨みつけた。
「貴方がこの学院に居ること自体が目障りなんですよ。一年前の出来事、お忘れですか? あなたが何故罰せられないのか不思議なくらいです」
 その言葉に顔色一つ変えることなくルルーシュは監督生の脇を通り過ぎる。そうしておそらく彼の席なのであろう、ずっと空席だった窓側一番後ろの席へと腰掛けた。その場所はスザクの座る座席の三つ後ろである。
 ガタリ、と音を立ててスザクは立ち上がる。そうして身体の向きを百八十度回転させる。それから数歩歩けば周囲は再びぞよめきたつ。しかしスザクは気にしなかった。
「おはよう、ルルーシュ。来てくれて嬉しいよ」
「ああ、おはよう。スザク」
 にこりとルルーシュは微笑みを向ける。スザクただ一人の為に。
 自分たちが言葉を交わしたことにより、更なる衝撃が教室内の彼らを襲ったようだった。
「っ、どういうことだ?」
「クルルギとランペルージが?」
 そのような言葉がポツリポツリと零れていく。スザクとルルーシュが皆の前で挨拶を交わし合った。ただそれだけのことなのに、このクラスに居る全員が驚きに包まれていた。
「……良かったな、お友達が出来たようで。イレヴンの……ね」
 皮肉を洩らす彼らに、何故ルルーシュが此処まで厭われているのかスザクには全く検討が付かなかった。
 ルルーシュは頭が良くて、面倒見が良くて、優しくて、スザクに対して偏見を持たなかった。対して他のクラスメイトはスザクに対して冷ややかだった。しかし、ルルーシュに対する態度はスザクに対してよりも何十倍も酷いもので、まるでその存在を否定するかのようなそれだった。
「どうして君達はルルーシュのことをこんなにも……」
 スザクが尋ねかければ口を開いたのは監督生だった。
「おや、ランペルージくん。クルルギ騎士侯は理由を知りたがっているようですよ?」
 ニヤリと笑みを携える監督生にルルーシュは僅かに眉を顰めた。
「…………話したければ、話せば良い」
 ただそれだけ、ルルーシュはゆっくりとした口調でそう告げる。このようなことになってしまった理由が気にならない訳ではない。しかし、こんな風に皆の前で話させるのはその内容がどうであれ些か酷なものだと思う。
「いえ、僕はそんなこと、どうでも良いです。ルルーシュと僕は……友達だから」
「クルルギ騎士侯。そんなことを皆の前で言ってしまって良いのですか? 後で撤回することは不可能ですよ?」
「撤回など、する必要ありませんから」
 スザクははっきりとそう断言した。勿論後悔などない。
「おい、スザ……」
「黙っていて」
 ルルーシュの言葉を制止するとスザクは監督生達をぐっと睨み付ける。
「僕はルルーシュの友達だ。それは僕らの問題であるし、君達には関係がないだろう? それにルルーシュはこの学院の学生だ。この教室に来てはいけないというルールは無いはずだ」
「確かに、そうですね。ルルーシュ・ランペルージはこのクラスに所属している。そして現在停学処分を受けている訳でもなく、この一年間の欠席は彼の意思です。通常ならば一年間も学校を欠席すれば留年となるでしょう。ですが、留年になったという訳でも無い。それは一体どういうことでしょうね」
 どういうことでしょうね。その言葉が意味していることはスザクにとって全く見当も付かなかった。
「そうかもしれないけれども、それは僕が詮索することではないと思うよ。シャントルイユ次期伯爵」
 そうやって言い返せば監督生は口を閉じた。それから薄らと口許に笑みを浮かべた。
「解りました。監督生である僕の意見に賛同出来ないとあらば、そうなってしまった責任を追及しなければなりませんね。ですが……っふふ、予鈴が鳴ってしまいましたね。教師が来る前にこの騒ぎは収めてしまいましょう。皆、席に」
 監督生がそう宣言すれば教室内は一瞬にして静まり返るそうして立ち上がっていた者も静かに席へと着いた。予鈴の音が鳴り終わると同時にカシャと教室のドアが開き、教師が入室してくる。
 スザクは不安げにルルーシュの方へと視線を送るが、彼の表情は何の感情も浮かべてはいなかった。

 授業が終わり、予鈴が鳴るとルルーシュは辺りを一瞥することもなく教室を出て行ってしまった。スザクが呼び止めるよりも先に彼の姿は何処かへと消えてしまった。
 やはり彼に学校に来るように言ったのは間違いだったのだろうか。スザクは不安に思いながら窓の外を見詰めていた。
「やはり逃げたな」
 監督生の取り巻きの一人である少年がそう吐き捨てるように零す。スザクが目線だけを彼らのほうへと向ければ監督生は口端を持ち上げた。
「ルルーシュ・ランペルージを学院に連れ出すとはやりますね。クルルギ・スザク。折角忠告して差し上げたのに」
 スザクはその言葉にぐっと眉を寄せる。
「ッ、何故ルルーシュのことをそんな風に!?」
 ルルーシュがそんな風に言われる所以などスザクには全く検討も付かない。どうして皆ルルーシュに対してそういった態度を取るのか。
「呪われているからだよ、アイツはな」
 別の少年が横からそう囁いた。彼の言葉の意味が全く解らない。どんな意図を以てして〝呪われている〟などといった表現を選んだのだろう。
「確かに……呪われているな。ルルーシュ・ランペルージは」
 スザクはこれ以上彼らの言葉に惑わされる訳にはいかない、とばかりに音を立てて座席から立ち上がった。荷物の入った鞄を持ち、そうして教室の扉へと向かう。そうすれば背後からスザクの耳へと言葉が投げかけられた。
「ルルーシュ・ランペルージなんかと関わっても不幸になるだけだぜ」
 一体それが何だというのか。スザクは段々と苛々してくるのを感じながら足を速めた。
「不幸になるなんて、勝手にそう思っているだけじゃないか」
 廊下を歩いていけば他の学年の生徒達がスザクの姿を振り返る。ルルーシュとスザクが仲良くしているという噂はあっという間に他学年まで広まっていたようだった。
 しかしそんなことは関係無い。スザクはルルーシュの姿を探す。また図書館に居るのだろうか。階段を下り、図書館棟目指す。
 夕日が差し込む木々の間を抜ければ図書館のある大きな建物へとたどり着く。急いで中へ入り、ひたすらに端から端までをぐるりと一周回ってみる。その間に本棚の間をも確認していく。しかし一向にルルーシュの姿は見当たらなかった。別の場所に居るのだろうか。
 今日のレポートは無事に提出出来た。そのお礼を言おうと思ったのにルルーシュはさっさと教室を後にしてしまった。一体何処に行ってしまったのだろう。もしかしたら学院外に出てしまったのだろうか。そうだとすれば今日はもう会えないかもしれない。
「明日はもう来ないのかな……?」
 今日の様子ではもしかしたら明日はもう来ないかもしれない。そんな風に不安に思いながらスザクはトボトボと薔薇園の横を歩く。そうすれば風に乗ってふわりと薔薇の芳香が鼻を擽る。
 夏にも日差しに負けずに咲いている薔薇があるのだな、と思いながらチラとその姿を確認した。
 煉瓦と金属製の飾りで見事な調和の取れた庭園は色とりどりの薔薇で飾られており、特に何重もの花弁に彩られるイングリッシュローズがとても見事だ。
「一体何処に居るんだろう」
 きょろきょろと見回しながら歩くが一向に彼の姿を見つけることは出来なかった。
 もう寮に戻っているのだろうか。スザクの寮はルミエール。しかしそこでルルーシュの姿を見かけたことは一度たりとも無かったし、今日の朝二人は図書館の前で別れたからルルーシュがその後何処へ向かったのかは知らない。用事があるから先に戻っていろと言われてしまえば仕方のないことだった。ルルーシュが暮らしているのがルミエールでなければ残りの寮はオンブレだけだ。オンブレ寮へ行けば彼に会えるかもしれない。
 今度はオンブレ寮を目指してスザクは歩き出した。場所はそれ程遠くない。
 少し歩けばすぐにダークブラウンの建物が見えてくる。ルミエールとはまた違った趣のその建物の周りには帰宅途中の学生の姿が見える。スザクがその正面玄関の前に立てば彼らは表情を硬くしながらこちらへと視線を向けた。
「あの……」
 一体誰に声を掛ければ良いのか。スザクは戸惑いながらも声を出した。しかし誰もスザクの声へ耳を傾けようとする者はいない。それもそうだろう。只でさえスザクは教室内で浮いている存在なのだ。突然自分の暮らす寮ではない寮にやって来て一体何の用だ、とでも言いたげな様子だ。
「あの、すみません」
 一人の少年に声を掛ければ彼は盛大に眉を寄せてみせる。
「名誉ブリタニア人が俺に何か用か?」
 名誉ブリタニア人の癖にルミエールに住むなんて。そんな声が彼方此方から聞こえてくる。しかしそんなことはどうでも良かった。知りたいのはルルーシュの居場所だけなのだから。
「ルルーシュ……ルルーシュ・ランペルージくんはこの寮に住んでいるんですか? 知っていたら部屋の番号を教えて欲しい」
 ルルーシュの名前を出せば彼は目に見えて表情を変化させた。忌々しいことを、そんな風に。
「……ああ。ルルーシュ・ランペルージは確かにこの寮に住んでいる。何せ俺たちと同じで貴族の血は一滴も流れていないからな」
 それはスザクに対する嫌味だったのかもしれない。けれどもスザクはそんな言葉を聞き流し、知りたいことだけを聞き出す為に言葉を続ける。
「ならば部屋の番号を教えて欲しい」
「…………最上階だ」
 見たところこの建物は五階建てだった。そうなれば最上階とは五階ということになるのだろう。しかし通常寮というのは一つの階に数部屋それぞれ部屋が存在している筈だ。最上階というだけではすぐに探すことは出来ないかも知れない。
「最上階の何号室?」
「……行けば解る」
 そんな風にあしらわれ、スザクは肩を竦めてみせてから玄関へと入っていく。周りの学生たちの視線を感じるが、仕方が無い。自分も、ルルーシュも、目立ちすぎるのだ。それぞれ別の意味に於いて。
 煉瓦造りの階段は所々が欠けて、崩れている。それは何だかこの建物の歴史を示しているようでそれでも見窄らしい訳ではない。寧ろ年季の入った趣のある建物という印象であって此処に住むことに対しての嫌悪などは全く感じなかった。そもそもルミエールに住む者は感覚が普通とは違うのだ。軍の寮などこれの数百倍狭くて汚かった。それと比べなくともこの設備は充分に整っている方だと思う。
 軍で鍛えられているスザクの足ならばすぐに五階に到着するだろう。全速力で走り上ったとしても大した距離ではない。とはいえ誰かとぶつかったりするのも危ないからそれなりの早さで上っていく。
 カツカツと音を立てながら上ればやはりすぐに最上階へと辿り着いた。そこは真っ直ぐに廊下となっており、ドアが等間隔に並んでいた。黒い木製のドアは重厚感があり、アンティークなものだった。
 スザクは一つ一つドアの横に書かれている表札を見ていく。そこには部屋の主の名前が一つ一つ記されており、ルルーシュの名が無いか確認していく。しかし九つ目の扉を見たところでルルーシュの名前は見つからなかった。そうして一番奥の部屋の札も確認するがやはりルルーシュの名前は存在しない。その時だ。スザクは一つのことに気が付いた。廊下は真っ直ぐではなかった。一番奥の部屋の更に右側、そこにも廊下は続いているではないか。
 日本ではマンションと呼ばれるような集合住宅風の造りとなっているこの建物の廊下の左手側からは、階下を望むことが出来る。硝子の仕切りなどもなく飛び降りようと思えば簡単に飛び降りることが出来た。それなのにルルーシュはどうしてウラノスの離宮から落ちることを選んだのだろう。
 不思議に思いながらも角を右手に曲がればその先の廊下は八メートルほど続いており、右手には一切扉は存在しなかった。しかしその代わり廊下の突き当たりに一つだけ漆黒の扉が存在していた。
 スザクはすぐにその扉の前へ立つと、コンコンと音を立てて二度ノックした。しかし返事はない。横に金色のボタンがあることに気が付き、そこを指でぐっと押してみた。そうすればドアは自動的にシュっと空気音を立てて開く。勝手に入って良いものか、そんな迷いが生じるよりも先に視界に入ってきたのは更に上の階へと続く階段だった。
「一体この先は」
 上がっていけばそこには屋上の庭園が広がっていた。階下の薔薇園とは違う。もっとたくさんの種類の植物が色とりどりに花を咲かせている。中でも一際目立ったのは黄金のような輝きを放つ大輪を咲かせた向日葵だった。
「……懐かしいな」
 枢木神社の裏手に植えられていたたくさんの向日葵。向日葵畑としても有名だったその裏山はスザクにとっての秘密基地の一つだった。最後に見たのはもう何年前だったか。そんな風に思いながらもゆっくりと息を吐き出した。
「…………スザク?」
 不意に背後から声が掛かりスザクははっとして振り向いた。そうすれば階段を上がってきたのはルルーシュだった。
「……どうして此処に?」
「君に会いに来たんだ」
すかさず返答すれば彼にとってその答えが意外だったのか目をパチクリさせた。
「何かあったのか?」
「ううん、ただ君のお陰で今日のレポートをちゃんと提出出来たからお礼を言おうと思ったんだけれど……すぐに君、教室を出て行ってしまったから。昼休みだって何処かに行ってしまうし」
「そんなの、良かったのに。それに探させてしまったみたいで悪いな、少し出掛けていたんだ」
「そっか。通りで見つからなかった訳だ」
 理由に納得してスザクはうんと頷いた。そうして顔を上げれば彼はニコリと笑みを浮かべる。
「今日はいろいろやることがあったから。明日は一緒に昼食でも取ろう」
 ルルーシュの提案にスザクは大きく頷いた。
「うん、そうだね。学食? それとも購買で何か買うのが良いかな?」
「弁当で良ければ俺が作っていくが?」
「え、ルルーシュが?」
 思わぬ言葉に思わず聞き返してしまう。ルルーシュが料理を? 自分たちの年齢の男で料理をするような人間には出会ったことがなく、驚きだった。それは周りの人間が軍人ばかりだったからかもしれないが。
「料理が、趣味なんだ」
 意外なる趣味にスザクは驚きつつもニコリと笑ってみせる。
「うん、ルルーシュが良いなら君の料理、食べてみたいな。いつも変な創作料理ばかり食べているから……」
 もしルルーシュの料理の腕が最悪だったとしても少しは耐性があるから大丈夫だろう。でもきっとそんなことは無いだろうな、と頭の何処かで思った。
「……創作料理?」
 横に首を傾げながら聴かれた言葉にスザクはうん、と頷きながら説明する。
「上司の……セシルさんっていうんだけれど、彼女が日本食を勘違いしていて……ちょっと不思議な料理を振る舞ってくれるんだ」
「どんな?」
「ブルーベリージャム入りおにぎりとか……。あ、おにぎりって分かるかな? 手でお米を握って固めたものなんだけれど……」
 その言葉を聞いた途端ルルーシュの表情が僅かに硬くなったことに気が付いた。やはり普通のブリタニア人からしてもブリーベリージャムとご飯の組み合わせはよろしくないようだ。
「おにぎりは知っている。しかしブルーベリー……? 普通はサーモンとか塩漬けのプラムとか、そういったものなのだろう?」
 プラムとは梅のことだ。日本語で書かれた本を読んでいただけあって日本の文化にも詳しいらしい。ルルーシュは若干スザクの方を心配そうな表情で見詰めてくる。
「……ちゃんとしたもの、食べているか?」
「……たまには」
 セシルが作ってくれる時以外は寮でなら学食だが、だいたいその時間には間に合わないことが多いから部屋の簡易キッチンで自炊している。それと学校では購買でパンを買うことが多い。
「……余り変なものばかり食べていると身体を壊すぞ」
「うん。心配してくれて有り難う」
 ルルーシュの気遣いに涙が出そうになる。こんなに誰かに心配されることなど今まであっただろうか。
「日本食は今度練習しておくが……それ以外で何かリクエストは? 好きなものがあれば言ってみろ」
「…………デミグラスハンバーグ……かな」
 スザクの返答が以外だったのか、それとも想定通りだったのかは解らないがルルーシュは声を上げて笑いを零す。
「子供っぽいのが好きなんだな」
「ちょ……そんなに笑わないでよ!」
 子供っぽい趣味なのは自覚している。それでも好きなものは好きなのだから仕方が無い。
「解ったよ。デミグラスソースがたっぷり掛かったハンバーグ、だな」
 ニヤリと笑みを向けられスザクはとりあえず大きく頷いた。
「でもルルーシュ、そういえば君って何処に住んでいるの? オンブレの人には最上階って言われたんだけれど五階には君の名前、無かったし……」
「ああ、俺はオンブレ寮には住んでいないからな。最上階は此処、俺の庭だ」
「じゃあ何処に……」
 スザクがそう洩らせばルルーシュは付いて来い、とばかりに顔を奥へと向けた。スザクの居る場所よりも更に此処まで上ってきた階段から遠ざかったところだ。
「これは……」
 そこでスザクが目にしたのは階下へと降りることの出来る螺旋階段だった。
 石で造られているそれはくるくると渦のように下へと続いている。途中途中で淡い光がランプに灯っており、昔の城塞のような雰囲気を醸し出している。何故屋上に一度上がる必要があるのか不可解に思うが、ルルーシュは気にしてはいないようだ。
「すぐに着く」
 コツコツと足音が螺旋状の空間へと響き渡る。遠くで反響して返ってくる様子は何だか少し不気味だった。本当にこの先にルルーシュの部屋があるのだろうか。ルルーシュを疑うわけではないが、余りの暗さにスザクは不安になる。
 階下まで到着すると、そこには扉が一つ設置されているだけだった。重苦しい扉を開くと、ルルーシュはようやく口を開いた。
「此処が俺の部屋だ」
 視界に入ったのは薄暗い空間だった。
「……地下?」
 光が一切感じられないそこはから漏れ出た明るさだけで照らされていた。ルルーシュが右手にあった電気を付けるためのボタンを押してようやくその空間は僅かな明るさを取り戻した。
「ああ、そうだ。此処は地下だ」
「オンブレ寮の地下に君の部屋が?」
「そうだ。此処が俺の部屋だ」
 もう一度同じようにそう繰り返す。オンブレ寮の地下はオンブレ寮ではないらしい。寮のワンフロア分と同じ面積をルルーシュ一人で使用しているらしく、その広さはかなりのものだ。
 しかしその薄暗い部屋は綺麗に整っている筈なのにどうしてだろう部屋というより……。

――牢獄

 そんな印象すら抱かされる。綺麗に整えられた部屋で生活に必要なものは全て整っているようなのにどうしてだろう。
 それに一体何故この場所に彼は住んでいるのだろうか。どうして一般生徒のように寮の部屋に住まないのだろう。それはあの監督生たちの話していた〝一年前の出来事〟が関係しているのだろうか。それともまた何か別の……。
「暗いのは仕方が無いんだ。地下だしな」
「……うん」
 スザクは自分を納得させるようにそう返すが、やはりルルーシュがこのような扱いを受けているということに納得出来たわけではない。
「こんなところに何故住んでいるのか聞きたいのか?」
 ルルーシュはそっとその紫紺を細める。その表情は何処か悲しげで、沈んだものだった。
「……確かに気にならないといえば嘘になるかもしれないけれど……君が話したくないなら強要はしないよ」
 それが友達だと思うから。話したくなった時にいつでも自分に吐き出してくれれば構わないから。そう告げればルルーシュは静かに口を開く。
「有り難う、スザク」
 ルルーシュはキッチンへと向かい、とはいえその空間がキッチンとして区切られている訳ではないが、ポットを棚から取り出すと、同じく棚から取り出した金色の缶から茶葉を掬い、ポットに入れる。コンロの上に置かれていた鉄製のケトルに水をペットボトルから注ぐ。そうして火に掛けた。
「お茶を入れるから少しそこに座って待っていてくれないか?」
 アンティークソファーを指さしてそう告げる彼の言う通りスザクはソファーへ腰掛ける。床は板張りで所々ギシリと音を立てる。そしてふわりと柔らかくスザクの体重を吸収するそれは上質なものだった。
 彼の横顔を見詰めながら暫く座って待っていると、ふわりと良い香りが漂ってくる。
「一昨日作ったものだが」
 紅茶と一緒に出されたのは手の込んだクッキーだった。バニラとチョコレートの色をしたそれは数種類の形で作られ、まるで高級洋菓子店で売られているもののようだった。
「これ、君が作ったの!?」
 売り物にも見えるそれを作ったというルルーシュにスザクは思わず声を上げてしまう。料理が趣味と先ほど聞いたが、お菓子作りまでしてしまうとは。
 驚いている間にルルーシュはポットからカップへとお茶を注ぎ入れていた。茶葉の良い香りが鼻を擽る。
「ああ、良かったら食べてくれ」
 寧ろこちらから食べても良いですか、と断りを入れたくなるくらいに美味しそうなそれをスザクは一つ指で摘む。
「うん、凄く美味しそう。いただきます」
 口へ運び、歯で囓ればサクリとした歯触りと香ばしいさが口いっぱいに広がる。中心に苺のジャムが付いていたのでそのジャムの酸味がクッキーの甘みを調和させる。とはいえ砂糖は余り使われていないようで男のスザクであっても食べやすいものだった。
「美味しい!」
「それは良かった」
 自分の分のティーカップにも紅茶を注ぎながらルルーシュは嬉しそうに笑みを洩らす。男二人での些細なお茶会だったが、不思議と違和感はなかった。相手がルルーシュだからだろう、と何となく思いながらスザクも微笑み返す。ルルーシュは確かに男だが男臭さを一切感じさせない。普段軍に居る所為かこんな風に紅茶やクッキーの似合うような男に巡り会うことは無かったから逆に新鮮だ。
「クッキーって作るの難しいの?」
 正直作り方すら知らないことに気が付いてスザクは尋ねた。
「いや、お菓子の中では比較的簡単に作れるものだ。難しいのはスポンジを膨らませるようなケーキや薄い生地を重ねて作るミルフィーユみたいなものかな。俺も時間がある時にしかなかなか作ることが出来ないから……」
「ううん、充分に凄いよ。僕なんて本当に簡単な料理しか出来ないし」
 作ることの出来る料理のレパートリーは少ない。カレーライス、シチュー、パスタ、味噌汁……それくらいだ。少ない。本当に少なかった。それでも軍務の帰りで時間も無く、作る気も起きないことが大半なので即席のカップ麺で済ませてしまうことも少なくなかった。
「……軍が終わった後でも事前に連絡してくれればお前の分も作っておくよ。もう少しまともなものを食べるべきだ。只でさえ成長期なんだぞ。偏った食生活は身体に悪い」
「何だかお母さんみたいだね。でも凄く嬉しい、有り難うルルーシュ!」
 スザクは生まれた時に母親を亡くしていたから実際の母親がどんな感じの存在なのかは解らない。それでももし母が健在だったらきっとこんな風にスザクを叱ってくれたかもしれない。
「とにかく明日はお前の好きなデミグラスソースのハンバーグ、作っていくよ」
「うん!」
 それから二人は暫くいろいろな話をした。主に話すのはスザクでルルーシュは聞く方に徹していたような気もするが、とにかく自分の話をゆっくりと聞いて貰えるような機会など今まで無かったから嬉しかった。勿論機密情報を話すようなことは出来ないけれど、変な上司の話や日本で暮らしていた時のことなど、ルルーシュは嫌がることもなく聞いてくれた。
 こんな風に友達と話すのはとても楽しく、時計を見ればいつの間にか夜になっていた。
「じゃあ僕そろそろ戻らなきゃ」
 今日は軍務も無く、一日中平穏に過ごすことも出来たが、明日からはまた暫く実験が続く。それにいつ実戦が入るかはもちろん解らない。最近は自らをレジスタンスと名乗るテロリストたちの動きが活発化していることもあり治安が悪くなってきているのは確かだった。
 きっと先日シュナイゼル・エル・ブリタニア宰相が特派を訪れたのも利用出来るものは利用するという考えがあってのことなのだろうと思う。何せロイドが開発した第七世代ナイトメアフレームは確かに最新鋭であることには間違いないのだから。
「ああ、気をつけて帰れよ。とはいえお前なら心配は要らないとは思うが」
 スザクはルルーシュと異なり職業軍人だ。何かあれば自分の身は自分で守ることが出来るだろう。そういった意味だと思う。寧ろ夜遅くに外に出て危ないのはどう考えてもルルーシュの方だ。
「今日はクッキーと紅茶とても美味しかったよ。ありがとう、じゃあまた明日」
「ああ、また明日、スザク」
 スザクだけに向けてくれるふわりと優しい笑顔にスザクは胸が熱くなる。他の誰にもルルーシュがこの笑顔を向けているところは見たことがない。自分だけのものだと思うと嬉しくて、幸せだった。
 ルルーシュと別れて螺旋階段を駆け上がり、そうして屋上庭園へと出れば来る前には薄らと屋上を照らしていた夕日は沈みきっており、少しだけ涼しい風がスザクの頬を撫でる。外灯が瞬き、辺りに咲いていた花々は明日へと向けて蕾を作っていた。
 これから毎日学院へ通うことが楽しくなりそうだ。嬉しさとわくわくと高揚した気持ちのままルミエールへと戻る為に足を運んだ。

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