False Stage1-07
侵攻から三日が経過した日本軍との戦いは、全体の戦況を見てみればそれ程過酷なものではなかった。しかし、やはり八年前と同じように厳島の奇跡を呼んだ男は伊達ではなかった。それに彼はスザクの師匠でもあったのだ――藤堂鏡志朗は。
「ッ、強い」
彼の乗る専用機は限りなく第七世代に近いもので、斬月と呼ばれるらしい。スザクの動きを読んでいるのか先手を打たれ、難詰する。
右手前方から素早く攻撃を仕掛けられ、スザクは左手後方へと避けようとするがそこへすかさず暁と呼ばれる日本軍の量産機がスザクを狙う。日本と中華連邦はやはり手を組んでいた。そうでなければ此処までの技術を持ったナイトメアフレームを開発することは不可能だっただろう。
中華連邦が関わっているということはつまりインドとも繋がることになるのだ。このまま放っておけば何れブリタニアにとっての脅威となる可能性が充分にある。
――ガチィッ
機体同士がぶつかり合う。そうして火花が散る。いつものテストではこれくらいのスピードで攻撃すれば敵は大破するのに、今回はやり返されそうになるくらいだ。やはり実戦と模擬テストでは違うということか。
それよりもやはり大きいのは相手がスザクの師匠だからなのだろう。向こうは勿論ランスロットのパイロットがスザクであることを知らない筈だが、この感覚はどう考えても八年前に彼に稽古を付けて貰っていた時と同じものだった。
「ッく、」
弾き返されたアームを何とか前に押し出し、バランスを取り戻す。そうしてMVSを斬月へと突き出す。ランドスピナーがギリリと音を立てて地面と擦れ合い、砂埃が舞う。
北海道の広大な大地はKMF戦に適していた。山もあるが広い平野もある。それがそれぞれの相手に吉と出るか凶と出るかは勿論実力次第だったが、シュナイゼル宰相の指揮は的確でその戦略は小手先の戦術が無くとも充分に効果的で、ブリタニアが圧倒していた。
「よし、これで!」
右脚部を主軸としてぐるりと胴体を一回転させる。そうして両腕部を利用し、斬月へと力一杯MVSを振るう。そうすればその無理矢理な力に圧倒させるように斬月は弾き飛ばされ、そうして今度はスザクの味方なのだろう。ブリタニアの機体だということは解るが、白と青が強調された見たことのないデザインのKMFがその機体を抑え込んだ。
『意外とやるな、特派は!』
インカムを通じて聞こえたその声は明るい調子のもので、戦場という過酷な環境を楽しんでいるようにさえ聞こえた。
「此処はもう大丈夫です。後は僕が」
別の日本軍のKMFがスザクを助けた機体に攻撃を仕掛けてきたことに気が付き、スザクはそう伝える。
『ああ、こっちも少し忙しくなってきたみたいだ』
次々と現れる日本軍に彼はそう言って一人で立ち向かう。
それにスザクは師匠である藤堂との決着を自分自身の力で付けたかったのかも知れない。通信機を設定し、斬月へと連絡を試みる。
『……スザクくんか?』
聞こえてきた声は懐かしいもので、やはり報告通り斬月のパイロットが嘗ての師匠であるということが決定付けられる。
「藤堂師匠……」
やはり向こうも自分が枢木スザクであることに気付いていたようだった。戦い方で解るのだろう。譬えKMFに騎乗していたとしてもその動きは生身のものを反映する。昔からの間の取り方や剣を振るう時の癖がKMF戦であっても多少は出てしまうものだ。
『やはりスザクくんだったか。軍に入ったということは報告を受けて聞いていた……』
「え……?」
思わぬ言葉にスザクは息を呑む。
そして一体誰から。そんな疑問が脳裏を過ぎる。自分の周りにはブリタニア人しか存在しない筈で、日本人の保護者は居ないのに。
『君をいつ、日本へ連れ戻そうか決めかねていてね。そうしている間に君はブリタニア軍へ入ってしまった』
「そ、そんな……」
自分は日本に見棄てられた存在だと思っていた。しかし藤堂たちは今まで自分のことを連れ戻す機会を窺っていたというのか。そんな、まさか。
『誰が君のことを調査していたか、ということは勿論言えないがね。君は今ブリタニア軍に居るのだから』
思わず振るっていたMVSを止め、斬月との距離を取る。
「何でそんな……今更……っ!」
気が付けばスザクは叫んでいた。どうして今更、と。
『今ならまだ間に合う。ブリタニア軍から逃がすことが出来る。君に覚悟があるのなら……私たちと来るんだ、スザクくん』
「待ってください! 何で藤堂さんは止めなかったのですか!? こんな……戦争になるような事態は回避出来た筈ですッ!」
藤堂は父と親しかった。それなのに彼はスザクがブリタニアへと送られるのを阻止しようとはしなかったし、すぐに救い出すこともしようとはしなかった。そしてこの戦争を回避しようともせずにこうしてスザクと戦っている。彼ならば澤崎官房長官を止めることが出来たかもしれないのに……。
『君のお父上が同意したからだよ。中華連邦と手を組むとね』
「え…………? それは澤崎官房長官の独断じゃ……」
父も澤崎の計画に賛成していた? 確かに澤崎は父の政権で重要な役割を担っていたが、さすがにこんなことは許さないと思っていた。それなのに。
『いや、君が才能のあるKMFパイロットだと知ったことにより君の枢木首相は君をブリタニアから奪還し、中華の支援を受け、日本の更なる戦力の増強を図っている』
つまり父である枢木ゲンブが目指すところは日本がスザクと中華連邦の力を利用してブリタニアに勝とうとしているということだ。
「それは……、それはつまり日本が、父さんが、僕をまた利用しようとしているだけではないですかッ!」
『……しかし、それでも君は祖国の地に足を付けることが出来る』
「そんな理由で僕は……俺は、日本には帰りませんッ! ブリタニアには俺を待っていてくれる人が居ますッ! 打算も計略も無いッ、心から待っていてくれる人がっ!」
ブリタニアに戻る。そうしてルルーシュの笑顔を見たい。ただそれだけがスザクの願いだった。自分のことを利用するだけ利用して切り棄てるような親の元に帰る必要など無い。その為には藤堂を倒すことだって……。
『そんなにも護りたいものが君にはあるのかッ!?』
「ええ、僕にとって、大切な!」
ギィン、と金属同士が擦れ合う厭な音が響く。
「ッ、」
左腕部に斬月の攻撃が命中する。強い衝撃にスザクは眉を寄せた。やはり師匠、スザクよりも先を読む力には優れている。それでも……。
――負けるわけには……ッ
スザクはランスロットをもう一度大きく動かす。背後に回り込むように移動すれば藤堂はその早さに付いていけないのかパッと振り返るが、その時ランスロットの脚部が斬月の胴部へと直撃する。
――バギィッ…
割れるような音と確かな手応えを感じ、スザクはほっと息を吐く。風が強く吹き、砂埃が巻き起こり視界が遮られる。
「ッく……これで、何とか……!」
『……ッ、強くなったな……』
藤堂は苦しげにそう零すと、脱出装置が作動した。
「……藤堂師匠に……勝った……?」
大きく息を吸って呼吸を何とか落ち着けると、スザクはそう洩らす。絶対に勝てないであろう師匠に勝てた。それは大きな前進といえるのだろうか。
父親の考えなど知りたくはなかった。状況は自分が想像していたよりもずっと悪かったのだ。自らの子供を駒としか認識していない父親。利用出来るだけ利用して要らなくなったら棄てる。そんな風に使い棄てられるのは厭だった。
藤堂もそれに反対しないとは一体今まで自分は何を見てきたのだろう。
後悔と不安とそれからもっと別の感情がぐるぐると渦巻きながらスザクはそんな気持ちを取り除こうと首を左右に振る。そうして丁度その時、セシルからインカムを伝って帰還命令が出された。
『疲れているとは思うけれど、後でシュナイゼル殿下に報告をお願いしたいの。大丈夫かしら?』
気遣う風に言ってみせるが、これは命令だ。皇族の要請を無視することなど出来ないのだから。
「解りました、セシルさん」
『ええ、では気を付けて戻ってきてね』
「イエス、マイ・ロード」
結果はブリタニアの圧勝だった。それはそうだろう。ブリタニア軍を指揮するのは帝国の宰相であるシュナイゼルだし、後から聞いたところによるとグラストンナイツや皇帝の騎士であるナイト・オブ・ラウンズが二人も参戦していたのだという。日本はブリタニアの圧倒的な実力に降伏した。
KMFが使用されるようになってから戦争は早期に解決することが多くなったのだという。その分被害は少ないし、効率的だといえば確かにそうなのだろう。
そうして主犯である澤崎は捕らえられたものの、枢木首相や日本軍の一部は中華連邦へと逃げ去ったらしい。
藤堂が捕まらなかったことにほっとしたような気持ちになり、スザクはそれでは駄目だと自分に言い聞かせる。戦争を起こしたのは彼らなのだ。正式に裁かれ、そうして罪を償わなければならない筈だ。それが譬え自分の父親と師匠であったとしても。
アヴァロンへと帰還し、パイロットスーツを脱ぎ、シャワーを浴び終え、報告の為にシュナイゼルの元へと向かう。
シュナイゼルの居る場所は司令室でもある船橋へと足を進めれば突然背後から声が掛かった。
「へぇ、君が噂の枢木郷か? 先ほどの戦いぶり、私たちとひけをとらないくらい凄まじかった。良く生きて戻って来られたな!」
振り返れば金髪の髪を後で三つ編みした背の高い少年と、桃色の髪を結わいた少女がこちらを見詰めていた。
「あなたたちは……」
この声は先ほど藤堂と戦った時に援護に入ったKMFのパイロットのものと似ているように思えた。彼があのKMFのパイロットなのだろうか。
「おっと済まない。私の名はジノ・ヴァインベルグ。ナイト・オブ・スリーの名を皇帝陛下より拝命している。同じくこちらは……」
「アーニャ」
少女はポツリと自分の名前を洩らす。余りに簡潔な自己紹介にスザクがどう反応を示せば良いのか戸惑っていると、見兼ねたジノが付け加える。
「……アーニャ・アールストレイムで同じくナイト・オブ・シックスだ」
ナイト・オブ・スリーとナイト・オブ・シックスそのナンバーが表すのは帝国最強の十二騎士ナイト・オブ・ラウンズの一員だということ。
「では先ほど斬月との戦いでランスロットの援護に入ったのは……」
「ああ、私だ」
「ナイト・オブ・ラウンズの方、だったのですね」
ナイト・オブ・ラウンズが自分の援護に入ってくるとはまさか普通想像する筈もない。最前線はある程度自由に戦うことを許されていたからシュナイゼルからの特別な指示は無かったのもその事実に気が付かなかった理由の一つだろう。
それにしてもまだ二十代には達していないであろうこの少年と少女は本当にナイト・オブ・ラウンズなのだろうか。特に少女の方は幾ら何でも若すぎるように思える。
「若い、と思ったんだろう、枢木郷? このアーニャは史上最年少でナンバーを拝命したんだぞ」
確かにそのことにも驚いたが、それよりも驚いたのはナイト・オブ・ラウンズと名乗る二人が何の気兼ねもなくスザクに話し掛けてきたことだった。
スザクはランスロットのパイロットとはいえ無名の存在であるといっていい。確かにランスロット自体は徐々に認知されてきているが、そのパイロットが名誉ブリタニア人であるということは特別声を大にして言うようなことではないから余り知られていないことだった。
しかし、先ほどの言葉を思い返せば、自分はナイト・オブ・ラウンズに実力を認められたのだろうか。
「ですが、ナイト・オブ・ラウンズともあろうお二方が自分に何かご用でしたか? 呼んでいただければこちらから参りましたが……」
そう、何の用でナイト・オブ・ラウンズが二人も自分のところへやってきたのか、というところがまるっきり掴めなかった。まさか世間話をしに来た訳ではないだろう。
「いやぁ、私たちもこれからシュナイゼル殿下に会いに行くところでね。そうしたら枢木卿の姿を発見したので是非お話したいことがあってね」
話したいこと? まさか本当に世間話をしに来たというのだろうか。シュナイゼル殿下の元へ向かうまでの暇つぶしというのならばまぁ理解は出来るが。
しかし、それにしてもこれ程身分が違う相手に気安く話しかけられても対応に困ってしまうところだ。准尉とナイト・オブ・ラウンズでは天地程の差がある。
「それは一体……?」
スザクは顔を上げてジノを見上げる。スザクよりも頭一つ分背の高いジノはがっしりとした体つきで正に軍人といったところか。自分も決して背の低い方ではないが軍人の中では小柄な方にあたるかもしれない。
「君は、コルチェスターに通っているらしいな」
「え、あ、はい。そうですが……それが何か?」
突然に振られた学院の話題にスザクは目を見張った。
「あの学院に対して少し腑に落ちない部分があるんだよなぁ」
まるで独り言のように呟く様子をスザクとアーニャは見詰めていた。
「あの学校、おかしい」
アーニャはそう小声で洩らす。それは確かにスザクも感じていたことだったから妙に頷けてしまったが。
「……確かに普通では無いと思います。上流階級の集う学院ですから一般の学校とは違うところも多々あるかと」
無難な返答をすればジノはその碧眼を細める。そうして先程まで浮かべていた笑みを消し去り、眉を寄せた。
「いや、そういうことではないということは解っているだろう? 枢木卿。もっと根本的な……。なぁ、噂を聞いたことがないか?」
噂、と言われても一体何についてのことだろうか。学院内には様々な噂が渦巻いている。試験範囲の予測から自らの家と関わりのある皇族の話。それからスザクやルルーシュのことだって噂されていることは勿論知っている
「……この五年間であそこの学生の三人が死んだとか」
「三人も……!?」
思わぬ話にスザクは声を上げた。
ロロ・ランペルージが一年前に命を落としたということは知っていた。どのような経緯でそうなったのかルルーシュに聞くことは適わなかったが、あの学院で命を失ったのは彼だけではない……?
五年という短期間でそれ程多くの学生が命を落とすなど大規模な事故や事件がなければ有り得ない話だ。
「その内の一人とは友人だったよ……まさか学院なんかで死ぬとは思わなかった」
ナイト・オブ・ラウンズであるジノの友人が学院に通っていたということには驚かない。しかしその友人が命を落とした人物であるということにスザクは興味を持つ。
「そのご友人のお名前は……?」
「ああ、ロロ・ランペルージだ」
もしかすると、というその予感は的中した。しかしロロ・ランペルージはナイト・オブ・ラウンズと知り合いだった?
「え……?」
「仕事でたまに一緒になることがあってな。ナイト・オブ・ラウンズも機密情報局も同じ皇帝陛下の直属だから。歳も同じだったし……」
「皇帝陛下の……直属? ロロ・ランペルージが?」
ロロ・ランペルージが皇帝陛下の直属? 確かルルーシュはロロに監視されていたのだと言っていた。どうして皇帝陛下の直属機関に所属している少年がルルーシュを見張る必要があるのか。ロロはルルーシュの本当の従弟ではないということなのだろうか。疑問は尽きない。
「君はロロ・ランペルージを知っているのか?」
ジノは驚いたように目を開く。そうしてカツリカツリと靴音を鳴らしながら歩いていた足を止める。周りには人の姿が無く、話すのには丁度良い場所だった。それ程狭くはないが、広い訳でもない。こういった何か訳のあるような話をする場所としては適当だろう。
「…………いえ、名前だけしか……。あなたは、ロロ・ランペルージ郷が何の任務でコルチェスターに通っていたのかご存知なのですか?」
息を詰めるように慎重に言葉を紡ぐ。相手はナイト・オブ・ラウンズだ。下手な詮索をすることは危険だった。それに迂闊にルルーシュの名を出すことも避けた方が良いだろう。
「…………知りたいのか? 皇帝陛下の直属機関が何故あの学院に潜入していたのか」
ジノはそれまでの朗らかな表情を一変硬く真剣なものへと変化させた。
「それは……」
「いやー実は知らないんだよなぁ、これが」
返答に詰まったスザクにジノは少し屈み、アハハ、と明るく笑ってみせる。それから一歩前へ踏み出し、スザクの耳元へ囁き掛ける。
「だから……」
――君が真実を知ることの出来る立場になったら私にも教えてほしい
「何故、僕に……?」
ジノほどの地位を以てすれば部下に調べさせれば済むことだろう。しかし何故敢えてスザクにそれを頼むのか。それに真実を知ることのできる立場とは一体どんな立場だというのか。ナイト・オブ・ラウンズでは駄目だというのか。
「私では駄目なんだよ。あの学院に通っている者ではないし……それに君は信用出来そうだしな!」
そんな簡単に信用されてしまって大丈夫なのだろうか、と少々不安に思いながらもスザクは〝はぁ〟と何とも言えない返事をする。それをアーニャは面白そうに観察していた。
「記録」
携帯電話の画面をじっと見詰めながらこちらへとカメラのレンズを向けていたことに気が付き、スザクは慌てて助けを求めるようにしてジノを見上げた。
「アーニャは写真を撮るのが好きなんだよ」
「そう……なんですか……」
ナイト・オブ・ラウンズは普通では無い。それは解っていたことだが、やはり一般との常識とはかけ離れていたらしい。スザクはそんな二人に苦笑しながら再び船橋へと向かっていく。
「お二人もシュナイゼル殿下に報告を?」
「そんなところさ」
そうこうしている内にあっという間に船橋へと到着する。そこにはシュナイゼルが玉座に腰掛けていた。その横には以前顔を合わせたカノンが佇んでおり、彼は三人が姿を見せると、柔らかく微笑んでみせた。
船橋の両脇は硝子で出来ており、外の風景が一望出来る。現在雲のすぐ下を飛行しているようで夜の暗い海の見ることが出来た。
「ご報告に上がりました、シュナイゼル殿下」
ジノがそう告げて脚を折り、頭を下げると、アーニャとスザクもそれに倣う。
「顔を上げてくれたまえ」
シュナイゼルはいつもの微笑を浮かべて三人にそう命じる。それからようやく三人は顔を上げた。
「早速仲良くなったのかな? 君たちは」
歳が近い、ということを指摘しているのだろう。彼らはナイト・オブ・ラウンズだというのに他の軍人達よりも親近感を持てるのは確かだった。
「枢木卿とは一歳差ですしね!私たちくらいの歳の軍人は差ほど多くありませんから」
確かに一等兵やら二等兵ならば自分たちくらいの少年も多いだろう。しかし士官となれば話は別だ。
「ああ、そうだったね。枢木くんは君より一つ年上か」
「え……!」
思わぬ事実にスザクは声を上げて驚いてしまう。ジノの方が自分よりも年上だと思っていたのだ。
(確かによく考えればロロと同い年って言ってたし……)
ロロ・ランペルージはルルーシュの従弟だ。その彼と同い年ということはつまりルルーシュよりも年下ということでそれは自分よりも年下ということになる。
「おや、ヴァインベルグ卿は君より一つ歳が下なんだよ。知らなかったかな?」
スザクの反応が面白かったのかシュナイゼルは口元に笑みを浮かべながらそう告げた。カノンなどクスクスと笑っている。
「君たちを呼んだのは確かに先ほどの戦いの報告、ということもあるけれどもそれよりももっと重要な知らせがあるからだよ。本国に戻ったら私と一緒に皇帝陛下の元へ来るようにと命じられている。そのことを伝える必要があったからね」
「皇帝陛下の元に、ですか?」
スザクは名誉ブリタニア人であり、皇帝に謁見を賜れるような立場ではない。それなのにラウンズと、そして皇子であり宰相であるシュナイゼルと共に謁見するようにと命じられた?
一体誰に。そんなことは態々訊ねるまでもない。答えは出ている。帝国ナンバー2であるシュナイゼルに命令出来る人物などそもそも一人しか居ないのだから。
――シャルル・ジ・ブリタニア
この帝国を統べる皇帝である。シュナイゼル宰相に命令を下せるのはシュナイゼルよりも歳が上の兄姉だけだろう。しかし、立場的に云えばシュナイゼルよりも上に立つ存在は父であり、皇帝であるシャルルだけだった。
「そうだよ。重要なことだからね。このアヴァロンは夕方には本国に到着するだろう。そうしたらすぐに皇帝陛下に謁見することになるからね。覚悟しておくように」
その言葉に三人はそれぞれ〝イエス、ユア・ハイネス〟と頭を下げる。
皇帝陛下との謁見が終わったらすぐに学院に戻ってルルーシュに逢いに行こう。まる三日以上連絡することも出来ずにいたのだ。日本に行くと告げることすら叶わなかった。早く会って顔を見たかった。そして彼の気持ちを聞きたかった。
スザクは自室として当てられた部屋へ戻ると、窓の外を眺めた。もう時刻は明朝と云ってもいい時間だろう。しかし戦争には昼も夜も関係無い。戦わなければ命を喪うことだってあるのだ。
ルルーシュはどうしているだろうか。あの後監督生達は帰ったのだろうけれども心配だった。あの地下の部屋で独りきりで過ごしていることだって本当はとても心配だ。しかしその一方で自分以外の他の誰とも親しくなどなって欲しくないという独占欲にも似た気持ちが沸々と湧いていることにも、もう気が付かないふりは出来なくなっていた。
とにかく本国へ戻ったらあの華奢な肢体を抱きしめてしまいたい。こんなにも不安な気持ちになってしまうのはきっと戦争の所為だろう。自分の祖国を侵略したのだ。裏切り者だと日本人に思われても仕方ない。それでもスザクは父親を許すことは出来なかったし、日本という国に帰りたいとは思わなかった。僅かに残っていた祖国への愛はもう尽きてしまったのだから。
スザクはベッドへと近付くとぱたりと音を立てて横になった。ふわりとした柔らかい感触が頬を撫でる。狭い室内だけれども、充分に設備が整ったこの部屋は空調もしっかり管理されており、快適だった。ロイドやセシル、それに先ほどのラウンズの二人もそれぞれ別の部屋を与えられ、滞在している。
数日間続けての出撃は随分と体力を消耗させたようで、さすがのスザクも疲れを感じざるを得ない。柔らかな温かさを感じながらスザクはゆっくりと瞼を伏せた。