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False Stage2-06*

GEASS LOG TOP False Stage2-06*
約12,445字 / 約22分

「遅い」
 謁見の間の扉の前の広い空間へと戻ると、耳に入ってきたひと言目の言葉がそれだった。しかし、それを口にしたのは幸いなことにルルーシュではなくアーニャだった。
「いつ殿下が出てくるか冷や冷やした」
「ごめんって、アーニャ!」
 ジノはその高い腰を折り曲げてアーニャに謝罪する。スザクも同じように懸命にアーニャに謝った。
「ごめんね。本当にこんなに遅くなるなんて」
 まさかあんなに話が長引くとは思わなかったのだ、もし二人がルルーシュよりも先に戻ることが出来なかった場合、何があったのか訊かれるのは間違いなくアーニャだったのだから彼女が怒るのも無理はない。
「プリン」
 アーニャはぽつりと零す。
「「…………プリン?」」
 一体プリンがどうしたのだろう、と二人は顔を見合わせる。柔らかくて、ぷるんとした食感の甘いアレ。プリンとはあのプリンのことだろうか。
「プリンが食べたい」
 アーニャは表情を変えることなく静かに要求する。美味しいプリンが食べたい、と。つまり二人にプリンを代償として要求しているようだ。
「プリンが食べたいのか?」
 しかしそう答えたのはその要求を請求されたスザクでもジノでもなかった。
「ル、ルルーシュ殿下!」
 振り返ればそこに立っていたのは噂の皇子ルルーシュであり皆慌てて彼の方へと向き直る。しかし彼はそんな皆の慌てぶりに気が付くこともなくアーニャの方へとそっと近寄った。
「アーニャ、プリンならばアリエスにあるぞ」
「本当?」
 首を傾げて普段の感情の起伏が少ない彼女だが、この時ばかりは瞳がきらきらと輝いているように思えた。
「ああ、嘘は言わないさ。一昨日の夜に仕事が終わってから厨房を借りて作ったんだ」
「え、殿下、そんないつの間にそんな!?」
「それに殿下が作られたのですか!?」
 ジノもまさか、と言わんばかりに目を見開く。誰がこの冷静沈着で時に冷酷なことさえ言ってのけるルルーシュが夜中にプリンを作っていると思うか。
「料理するのは嫌いではないし、以前一度作ったら好評だったからな。たまに自分で料理をすることもある」
「……食べたい」
 その沈黙を破ったのはアーニャだった。そして二人は皇子ルルーシュに対してそのような要求をしたアーニャに心から敬意を払った。
「ああ。勿論だ、アーニャ。いつも多めに作るからまだ少し余っているんだ…………何だ、お前達」
 初めはアーニャに、後者はスザクとジノに向けられた言葉だった。スザクがジノの表情をふと覗けばそれはきらきらと輝いていた。
「私も殿下のプリン食べてみたい!」
「……解った」
 ジノを見上げると、ルルーシュは呆れたようにそう洩らす。そうして今度はスザクへと目を向けた。
「枢木、お前も来るか? まぁ甘いものが苦手というのなら無理強いはしないが」
 余ったら勿体ないからな。
 皇子にあるまじき発言をしつつ、ルルーシュはアリエスへ向けて足を踏み出した。
「い、頂きます!」
 スザクは今、ルルーシュが何を考えているかますます解らなくなるのだった。

 アリエス宮に到着すると、ルルーシュに招かれゲストルームへと足を踏み入れた。以前スザクが初めてルルーシュによってアリエス宮に呼ばれた時は行き成り皇子の私室に招待されたので、この部屋に入るのは初めてだった。
 来客が過ごす部屋ということを意識するまでもなく、優美に整えられた室内は宮殿全体と同じく白を基調にしており、そして天窓からは自然の光が取り入れられ、室内を照らす柔らかい明るさに、清々しい気分になれる部屋だった。
「すぐにプリンを運んでくるだろう。まぁ座れ」
 ルルーシュはそう告げてソファーへと座る。スザクやジノ、アーニャは彼の向かい側に腰掛けた。
「失礼致します」
 以前のルルーシュならば生活の為に食事や時にデザート類まで自炊していた。しかし此処での彼は皇子だ。それなのに厨房でお菓子を作るなど良く許されたものだ。以前のルルーシュの料理の腕は知っている。今でもそれはきっと変わらないのだろう。
 メイドによって運ばれてきたプリンはやはりとても美味なものだった。さすがルルーシュ、といったところか。やはり記憶がなかったとしてもそうした能力には差分がないらしい。
 この皇宮へとルルーシュが戻って来たばかりの頃は皇宮で働く人間も、彼自身も少し他人に警戒している面があった。しかし今ではだいぶ慣れてきたのだろう。メイドもルルーシュに対して笑顔を向けるようになったし、ルルーシュの態度も少し柔らかいものへと変化していた。
 それが何だかスザクにとってはますます学園に居た頃のルルーシュを連想させる。そしてやはり同一人物なのだと確信させられてしまう。
 普段は冷静で表情は硬い。しかし、ふとした時に零す笑みは最高に美しい。そしてその笑みは彼が信頼を寄せる者に対してのみ向けられる特別なものなのだ。
「おいしかった」
「そうか、それは良かった」
 アーニャがプリンの感想を告げるとふわりと彼の口許に笑みが浮かぶ。これは特別な笑顔だ。妹に向けるような優しい表情。彼にはたくさんの妹や弟が居るからきっと年下の者には無条件に優しいのだろう。――いや、例外も勿論此処にいるが。
「殿下ぁ! アーニャにばかりずるいですよ。私も殿下のプリン、大好きになりました!」
「…………それは良かったな、ヴァインベルグ」
 眉を寄せて鬱陶しそうに告げる様子は何だか可笑しかった。
「ああっ! ほら、また! ジノって呼んで下さいって!」
 名字ではなく名前で呼んで欲しいというジノの姿は正に鬱陶しいくらいに飼い主にじゃれつく大型犬だった。
「…………仕方が無いな、ジノ。これで満足か?」
「ええ、とても! これからもそう呼んでくださいね!」
「……全く騒がしい奴だ」
 そう零しながらもルルーシュの表情に曇りは無かった。
 スザクはそんな彼らの遣り取りを眺めながら気が付けばルルーシュの顔をじっと見詰めていた。軽く笑みを零すように口許を緩める彼の視線はジノとアーニャに向けられていた。しかし、ふとした瞬間、こちらへと目線を向け、そうして紫玉の瞳と目が合った。
 その瞬間、どきりと胸が高鳴った。瞬間、ルルーシュは先程ジノやアーニャに見せたような笑みとはまた異なる質の笑みを浮かべてみせたのだ。
 誘いかけるような妖艶なそれは決して兄弟や姉妹、そして友人に向けるものでもない。恋人や愛人、はたまた片思いの相手に向けるようなそれだった。
 果たしてそれはからかわれているのだろうか。それとも誘われている? はっきりとルルーシュの意図を掴むことは勿論叶わない。
「さぁ、もうそろそろお開きだ。私もまだ少し仕事が残っているんだ」
 ルルーシュはそう説明して皇族が臣下に手作りプリンを振る舞うという奇妙な会の終わりを告げる。
「まだ八時なのに、と言いたいところですがお仕事となれば仕方がありませんね。ルルーシュ殿下!」
 ジノは頷くとアーニャへ視線を向ける。彼女は目をぱちぱちと瞬きながらプリンの盛りつけられていた器を置いた。
「殿下のプリン、また食べたい」
「ああ、時間がある時に作ってやろう」

 そうして二人を帰せばルルーシュはふうと溜息を吐き出してみせた。
「この宮が騒がしいなど久しぶりだった」
 そう零す彼の口調は何かを懐かしむような静かなものだった。何だか心配になって後から彼の表情を覗こうとするが、彼は振り返ることもなく客間を後にする。
 スザクはゆっくりと自室へ戻るルルーシュの後を追いかけた。ルルーシュが主であるこの広い宮殿の中で使用されているのはごく一部の部屋だった。それ以外はきちんと管理されているものの使用することは滅多にないのだという。
 玄関ホールから真っ直ぐと伸びる絨毯の上を歩いて行くと二階へと続く階段が左右対称の形を以て広がっている。ルルーシュは焦ることなく一段一段優雅な仕草でその場所を上っていく。スザクは数段下からその姿を見上げていた。
 最近のルルーシュは本当に以前の、学院にいた頃の、ルルーシュに印象が近い。それでもスザクは思い出してしまう。キュウシュウでの出来事を。あの時のルルーシュも今のルルーシュもそして学院でのルルーシュも全てルルーシュだった。それは否定することなど出来ない。確かに死体の山を目の前にしても平然としていられるルルーシュのことは少し怖く感じた。それでも、ルルーシュのことが嫌いにはなれないのだ。
 きっと何か理由がある筈なのだ。ルルーシュがこんなことをしなければならなくなった理由が、きっと。
「そういえば」
 突然ルルーシュは振り返ることもなくスザクへと言葉を向けた。
「以前話したかもしれないが来月は私の十八の誕生日だ」
「ええ、伺っております」
 十二月五日。その日はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの十八歳を祝う誕生日。
「母上が死んでから一度も誕生会を開くことはなかったのだが……今年は久しぶりにこのアリエスに戻って来たからな。誕生会を開くことにした」
「……殿下が……ですか!?」
「夕方から兄上や姉上、それから弟と妹たちと親交のある貴族を招待しようと思うが、どうだろう?」
 どうやらスザクはルルーシュに誕生会についての意見を求められているらしかった。はっきりいってそういった行事やイベントごとにはまるで縁がなかったので一瞬進言を躊躇した。しかし自分の意見が少しでも役に立つのなら、と考え直すことにしてスザクは口を開いた。
「小さな会にするのならば親しいご兄弟たちをご招待されるだけで良いような気もしますが、やはりジノの言う通り貴族たちの反発を回避するのならばある程度の招待客が必要かと」
「ああ。お前の後見をやっているアスプルンドくらいこういうことに興味が無いのならばやりやすいがアイツは特殊だからな。実はこの話を持ちかけたのはシュナイゼル兄上なんだ。どうやらお前を含めて同じ意見らしい。それならば仕方が無い」
「シュナイゼル殿下が、ですか?」
「兄上は心配性だからな。俺がいつまでもまともな後ろ盾を築かないことを心配しているらしい」
 シュナイゼルがルルーシュのことを気に掛けているということは知っていた。それはこの皇宮内に暮らしていれば解ることだった。とはいえ、それが心から向けられたものなのか、それとも彼らの様々な計略が入り交じってのことなのかはスザクには解らなかったが。
「俺は表向き〝留学〟していたことになっている。だから留学先である英国からの帰国の挨拶も兼ねてそういった場所を設けるべきだ、と。総司令就任の時は慌ただしかったからな」
「そうでしたか。ですが、誕生会は来月の初旬頃ということですよね? もうあと一週間程度しか準備期間がありませんが……」
 友人を招くレベルの誕生会ならば三日もあれば準備は充分だろう。しかし数多い兄弟姉妹をはじめ、多くの貴族らを招くのだとしたらそれなりに準備する期間が必要な筈だ。ルルーシュは毎日忙しく働いているというのに一体いつ準備を進めるのだろう。
「ああ、そう思ってクロヴィス兄さんに会のプランニングを依頼した」
 あの人は暇人だからな。付け加えられた言葉は刺々しいものだったが、きっとそれはその兄を信頼しているからこそ出るものだった。
「それで……」
 ルルーシュは私室のドアが開くと、真っ直ぐ広間に向けて足を進める。そうしてクルリと身体を反転させてスザクの方へと向けた。
「お前、私に訊きたいことがあるんじゃないか?」
 ルルーシュの向けた笑みにスザクは胸がどきりと高鳴った。
「……それは…………」
「お前がこの離宮に来てから暫く経つがその間、私は一度もはっきりと説明することは無かった。説明は義務ではないからな。だが、お前は違う。知りたいことを教えて貰えず皇帝の言いなりとなって主でもない私に仕えなければならなかった。先日のことだってそうだ。私が強要したようなものなのにお前は拒絶しなかった。出来なかったのだろう? 私は皇族でありお前は皇帝に仕える騎士なのだから」
「そんな……こと……」
 確かにあれは強要されたことかもしれない。しかしその誘いに喜び、歓喜したのはこちらの方なのだ。頭でいくら否定したとしても本当はルルーシュのことがずっと好きだったのだから。
「……何故殿下は僕に抱かれたのですか?」
 恐る恐る事実を確認するようにスザクはルルーシュに近付いた。すると彼は少し顔を俯けながらゆっくりと息を吐き出した。
「……言っただろう? 力が欲しい、と。あれはその為に必要だった」
「抱かれることが……必要?」
 それは、一体どういうことなのだろう。戸惑ったまま彼へと視線を向ければ、彼は俯いたままポツリ、ポツリと零し始めた。
「初めは、そうだった。だが、あそこまでしようと思ったのは……相手がお前、だったからだ」
「僕……だから?」
 自分だから抱かれた? その意味は……期待しても良いのだろうか? それとも、何か他に別の意味があるのだろうか。
「ああ、初めは皇帝に命令されたんだ。お前に抱かれろ、とな。ギアスの因子は血液や人の体液中に多分に含まれている。自分の持つそれとは違う種類のものを体内に取り入れることによってその力は増幅され、そして強大な力を手に入れることが出来るということは既にギアス嚮団が研究済みだった。だから……」
「……ギアス……?」
 耳慣れない言葉にスザクはそのまま聞き返す。ギアスとは何なのだろう。何を表している言葉なのだろう。
「私が持つ力だ。お前もその素質を持っている」
 近寄ればカツリ、と靴音が響く。モノトーンに纏められた空間の中、静かにそしてゆっくりと、その鼓動の速さが速まっていくようなそんな感覚にスザクは息を詰めた。
 先程ジノと話したことが脳裏を過ぎる。嚮団というのはルルーシュが此処で云うギアス嚮団のことなのだろう。彼がこの単語を出すのは二回目だった。一度目は無意識に、そして今は核心としてその存在に触れている。
「僕も?」
 自分もそのギアスという不思議な力に関係しているのだという。今までそんなことを考えたこともなかったけれどもこうして改めて告げられると、驚くような不安なようなそんな気持ちに駆り立てられる。
「そうだ。だからこそ、皇帝はそう命令を下した。なぁ、気が付いているのだろう? 私のこの記憶が私自身のものではないということに」
「殿下、それは…………」
 ルルーシュは自身の記憶がおかしいということに気が付いていた? そうだとすればやはり自分の感じていたこの妙な感覚は確かに事実だったということになる。
 学院での出来事を余りにさっぱりと忘れてしまっていた彼におかしいのは自分の方だったのではないかと疑いを持ってしまうくらいだった。もしあの時ルルーシュを学院へと迎えに行ったのが自分一人であったとしたら自分の方がおかしくなってしまったのだと思っただろう。ジノとアーニャが共に居たからこそ、あの時の光景が真実であったということを確信出来るのだ。
「皇帝のギアスは人の記憶を書き換えるギアスだ。俺自身の記憶が書き換えられている自覚は、あった」
 ルルーシュはそこで一呼吸置いて、スザクへと歩み寄る。二人の間は至近距離で、手を伸ばせばきっとすぐに触れられるくらいだ。
 記憶を書き換える。果たしてそんなことが可能なのだろうか。いや、現実に今この目の前に居るルルーシュは記憶を書き換えられたというのだ。そして学院でのこと、スザクのことすら強制的に忘れさせられ、そうして新たに皇子としてギアス嚮団で過ごしたという記憶を植え付けられた。
「そのことに気が付いたのはお前とこうして同じ宮で過ごすようになってからだったが……お前は知っているのだろう? 以前の……記憶を書き換えられる前の俺を」
「…………はい。以前あなたは僕と同じ学院に通っていました。ルルーシュ・ランペルージと名乗って」
 ルルーシュ・ランペルージ。嘗て彼が学院で名乗っていた偽名。庶民であると彼は偽り、そうして庶民の暮らす寮の地下の部屋で暮らしていた。何故通常の部屋ではなくその場所に住んでいたのかは結局解らずじまいで、それでも彼はスザクが誘えば長い間行くことのなかった学院の教室へと足を運ぶようになった。
「やはり……」
 ルルーシュは床を見詰めて考えるような仕草をとってからフッと顔を上げた。
「俺の持つギアスは〝人に死を命令するギアス〟だ。キュウシュウでのこと。あの軍人達は自殺したんじゃない。俺があいつらに死ぬようにと命じたんだ」
「……死を、命令……!?」
 皇帝のギアスの厄介なものだと思ったけれどもルルーシュの力がそこまで強大なものだったとは。あれ程多くの人間へ一度に死ねと命令を下すことが可能なくらいに強い力だったなんて。それでも皇帝はルルーシュに更なる力を要求していた?
「皇帝はその力を俺に使わせようとしていた。何度も、何度も。少なくとも俺の信じていた記憶では既にあれの数十倍もの人間を殺したことになっている」
 それが事実なのかは解らない。それでもルルーシュにとってはきちんと記憶として残っているのだという。
「初めは勿論吐き気がしたよ。目の前で人が自分の頭に銃を向け、そして次々と発砲していくのだからな。いいや、それだけではない。ある程度の制限を課すことも可能で、酷い死なせ方をさせた者もいる」
「……そんな…………。でもそれは貴方の意思では、なかったのでしょう?」
「……命令だった。逆らえなかった。逆らったら自分も彼らと同じように死ぬ運命にあったのは目に見えていた。力を喪った皇族に待つのは悲惨な死だから。母さんが死んだ時、一度は覚悟したつもりだった。でもやっぱり死にたくなかったんだ」

――死ぬのは厭だった。

 それは人間として当たり前の想いで、誰も否定することは出来ないもので。
 ルルーシュは声を震わせながら言葉を続ける。自分の記憶が植え付けられた偽物で、真実は一体何処にあるのか解らない。それはとても不安なことだろう。自分が信じられないというのは一体どんな気持ちなのだろう。
「だが、俺が死ねば助かった人間はきっとたくさんいた」
 譬えそれが実際には起こっておらず、ルルーシュの記憶として植え付けられたものだとしても彼の記憶となってしまっていることは変わりない。それは偽物の記憶だ、と幾ら他人が言っても彼にとっては〝真実〟なのだ。
「でも、貴方が居たからこそ助かった人間も多く居ます。殿下の指揮は被害が最小限で、味方の犠牲も少なくて……」
「だが、敵の軍に属している人間は大勢殺した。シュナイゼルですらあそこまで大規模な掃討作戦は行わないだろう」
 シュナイゼルとルルーシュとでは立場が違う。シュナイゼルは宰相として帝国臣民の意見にも耳を傾けることが必要となるが、ルルーシュは政治には関わっていない。あくまで軍事の統制を司る総司令官として皇帝に任命されたのだからそこに臣民の意思は反映されない。
「そうだとしても、僕は貴方が居なかったらきっと……生きる気力を失っていたと思います。殿下は憶えていなくても……僕は貴方に救われました。生きる意味をくれたのが……ルルーシュだから……」
 大切な人を護るために戦う。それはスザクにとってルルーシュに出会うまでは選択出来ない選択肢だった。護りたいものなど無い。自分の為に生きるなどと言える程の価値など自分自身には無いと思っていた。
「枢木……いや、スザク。お前に頼みたいことがある」
「何でしょう、殿下」
 スザク、と名前で呼ばれて思わずパッとルルーシュの顔を見詰めてしまう。
「ルルーシュ、と呼べ。俺たちは友人だったのだろう?」
 その言葉は皇子としての命令ではない。〝ルルーシュ〟としての言葉だった。それが嬉しくて、スザクは目を細めて笑みを浮かべる。
「…………うん、そうだよ、〝ルルーシュ〟」
 スザクのすぐ目の前にまで歩み寄っていたルルーシュの手を取り、ぐっと力を篭める。
「俺は、記憶を取り戻したい。偽りの記憶などではなく本当の自分を。譬え何があったとしても……」

――受け入れる覚悟は出来ている

 ルルーシュの表情はこの皇宮に彼が戻ってきてから一度も見せることのなかったような柔らかい表情だった。スザクにはそれが何だか痛々しく感じられて思わず握っていた手をスッと自分の方へと引き寄せた。
「スザ…………」
 ふわり、と足元のバランスが崩れ、スザクの方へと体重が傾く。そうしてもっと強く腕を引けば、彼の細い躯はいとも簡単にスザクの腕の中へと収まった。
「ルルーシュ…………譬え君の持っている記憶が皇帝陛下の力によって書き換えられてしまったのだとしても、君の本質は変わっていないよ。優しくて、少し意地っ張りで、一度内側に入れた人間にはとことん甘い。学院でその恩恵を受けていたのは僕だけだったけれども、此処ではジノもアーニャも居る。みんな君のことが大好きなんだ」
 腕の中のルルーシュを覗くと、彼はそっとその瞼を下ろし、スザクの背に腕を回した。温かな体温は既に冬の訪れを暗示させる冷たい空気を除けて、柔らかく包み込む。
「……好きなんだよ、ルルーシュ。どんな君でも、僕は」
「……スザ…………ッ」
 スザクの名を呼ぼうとしたのだろうが、全てを言葉にする前にスザクはその唇を塞いでしまう。
「んっ……んん…………」
 キスの合間に洩れるくぐもった声が愛おしい。薄く目を開けて彼の表情を覗けば、その薄紅色に染まった頬が可愛らしかった。長い睫毛はその頬へと影を落とし、滑らかな白い肌の触り心地は至高のものだった。どんな記憶を持とうがルルーシュの本質は変わらない。幾ら皇帝の力であれど人の本質は変えることなど出来ないのだ。それはどうしてだろう。確信に近い何かだった。
 ゆっくりとその唇を解放すると、吐息が重なり二人の間を銀糸が繋ぐ。少し上がってしまった息はその口付けの激しさを物語っていた。
「……スザク……ッ、好き、だ……」
 眉根をぐっと寄せ、紫紺を細めてルルーシュはスザクの方へとじっと目を向ける。そうして頬を薄らと染めて告げられた言葉にスザクの心臓は激しく高鳴った。
「ルルーシュ……ッ!」
 腕の力を強めて、更に躯を密着させる。互いの熱がふやけて溶けてしまいそうなくらいに強く抱きしめた。
 もっともっと深く味わいたくて、背中に回した手をスルリと這わせて彼の身体を弄った。シャツの隙間から指を差し込み直接彼の身体に触れる。肌理の細かな肌は指触りが良く、ずっと触れていたいくらいだった。
「……っん、スザ……ッ」
 今度はルルーシュの方から赤く熟れた唇で塞がれ、スザクは彼にされるがまま唇を重ね合わせる。
 柔らかく、そして甘い香りがスザクの熱を更に昂ぶらせていく。
「……ッ、ルルーシュ……。好き、好きだったんだ。ずっと今も以前も変わらず……君のことが」
 何度だって君を好きになる。記憶が何度入れ替わろうがきっとそれは間違いない。こんなにも愛おしく思ったのは後にも先にもきっともう存在しないから。
「……スザ……。他の誰も信じることなど出来ないと思っていた。打算や計略、そして陰謀。皇宮には信じられるものが何も無かった。……でも、お前だけは違う。お前だけは俺自身を見詰めてくれた。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアではなくただの〝ルルーシュ〟を。……嬉しかった」
 そう思ったら気が付けば好きになっていたのだと彼は言う。そうしてあの時試すようにスザクに抱かれたのだ、と。
「そして……お前のことが……いつの間にか好きになっていて……。きっと以前の俺も、お前のことが好きだったのだと……思う」
 ルルーシュは顔を赤く染めて、そしてスザクの瞳をじっと見つめる。紫紺の瞳が僅かに揺れて自分のことを映す、そんなところまで愛おしい。
「ルルーシュ……ッ」
 密着した身体は既に互いの熱を充分に感じさせていた。硬く、屹立し合うそれを押し付けるようにして服の上から彼と自分を刺激させる。
「ん……っ……はぁ……」
 熱く洩れ出る息と高まる興奮にもう一度深く口付ける。舌を絡め合わせ、息が出来なくなるくらいに深く相手を求める。
「……スザク……でも、これ以上は……」
 ルルーシュが云わんとしていることは解った。確かに一度彼とはこれ以上の関係を結んだ。けれども今は皇帝の思い通りにはさせたくない、そんな気持ちなのだろう。
「うん、解っているよ。もう一度、君に触れたい。君の中を感じたい。……でも今は駄目だ」
 皇帝は記憶を書き換えたルルーシュに〝スザクに抱かれろと〟命じた。そして更なる力を得て、皇帝の思うが侭の駒として利用される。そんなことはルルーシュにとって許せないことだろう。記憶を書き換えられたことを知ったルルーシュならば殊更に。
 皇子であるルルーシュはその矜恃が高い。それは悪い意味などではなく、なくてはならない〝強さ〟だった。その強さがあるからこそ、ルルーシュは記憶を改竄された事実を知っても諦めないのだろう。
「いつか……きっとすぐに君は記憶を取り戻す。そして真実を全て知った上で……全てが終わったら、もう一度君に触れたい。深く君の中を感じたい。けれども君が好きだからこそ、無理強いはしないよ」
 大切だからこそ、無理になど出来なかった。好きだからこそ触れたいという想いは確かにあるけれども、そこまで大切に誰かのことを想うのは初めてだった。
「……有り難う……。それに力がこれ以上強まるのは……本当は怖かった。もし自分の意図しないところでギアスが発動したりでもしたら……お前ですら殺してしまうかもしれないんだ」
 そんなことになってしまったら耐えられない。大切な人を喪うのは母だけで充分だ。
 ルルーシュは薄らと目尻に涙を溜めてスザクに纏う。囁くように告げられた言葉にスザクは改めてギアスという力の恐ろしさを感じざるを得なかった。
「きっと、ギアスの力だって無効化出来ると思う。だって以前、僕と学院に通っていた時の君はそんな力を使ったことなんて一度も無かったよ」
 〝ギアス〟という単語すら彼の口から発音されることは無かった。だから信じたい――ギアスという力は消すことが出来るのだと。
「スザク……お前にそう言われると……凄く、安心する。何でだろうな。……お前の言葉ならば信じられる」
「有り難う、信じてくれて。だから……少しだけ、触れさせて……。中に挿れるだけが繋がる為の手段ではないよ」
 君に触れたい。君の熱を、感じたい。
 囁き掛けると、彼は頬を真っ赤に染め上げる。それが何だか可愛くて、思わず自然と笑みが零れた。
「……俺も……お前を、感じたい……」
 恥じらいながら告げられる言葉に、スザクは目の前が真っ白になる。気が付いたら彼の着ているシャツのボタンを全て外してその柔肌に指先を這わせていた。
「あ……ん……、スザク……ッ」
 喉元を食みながら胸の色付きに指を滑らせる。ぷっくりとした突起はスザクの指の動きによって形を変えて馴染んでいく。
 ルルーシュの背を少し押しながら、ゆっくりと壁際に彼を押さえつける。寝室はすぐ隣だったが、ベッドの上で自分を抑えられる自信は残念ながら存在しなかった。
「はぁ……ンッ、あっ!」
 爪先で擦るように嬲るとルルーシュの身体が跳ねた。以前も思ったけれども随分と過敏な反応に彼の身体が快楽に敏感であるということを知った。見ているだけで腰に響くくらい妖艶な姿に、スザクは息を呑む。
 胸を苛んでいた指を腹部へと移動させ、肋骨の上の薄くなった皮膚の上をゆっくりとなぞり上げた。
「ン……ッ、スザク……もう……早く……ッ」
 焦らすような動きに痺れを切らしたのか、ルルーシュは膝を立てて、スザクの脚の間へと膝頭を押し付ける。
「あ……ルルーシュ……ッ」
 服の上から擦り付けられ、スザクはルルーシュのズボンの前を解くと、自分もファスナーを下ろして、性器を露出させた。
「……ス、ザク……っん!」
 熱く昂ぶり合うそれを今度は直接に触れ合わせる。じわりと感じる熱に、ルルーシュは驚いて腰を引いた。しかし、すぐにスザクがもう一度引き寄せ、二人の絡まるそれを一緒に掴むと、上下に扱き始める。もう片方の手をルルーシュの手に添えると、それも同じように陰部へと導いた。
「熱……っあ……んんッ」
 二人の硬く勃ち上がった陰茎に二人の指先が絡まり合う。そして擦り合わせるようにして敏感な部分同士を扱いていく。トロトロと先端からは先走りの精液が溢れ、指を伝って零れ落ちる。反り返って膨張するそれを相手のそれに押し付ける。刳れた部分同士が引っかかり、絶妙な快感を生み出す。繋がるのとはまた別の快楽に二人は身悶えた。
「んっあ、ああっ、ひっ……んぁ……!」
 ぬるぬると滑り合うその部分がまた先程とは違う快感を生む。――限界だった。
 スザクは強く先端同士を触れさせると、互いにその白濁を吐き出す。腰を戦慄かせながら全てを吐き出すルルーシュの身体を押さえ、倒れ込まないようにそっと支える。豪奢な衣装が汚れてしまったことに気が付いて、スザクは顔を上げた。
「ごめん、染みになっちゃうかな……?」
「……気にするな。どうせそう何度も着るものじゃない」
 同じ衣装を同じ場所に着ていくことは少ない。それが貴族や皇族の中にあるルールでもあるのだという。だから気に病む必要は何処にもない、それよりも大事なのは別のものだ、と。
「……そんなことよりもお前の方が俺にとっては大切で……。お前が欲しいよ。お前が皇帝の騎士などでなければ俺が……」
 それはきっと皇族の選任騎士のことを表しているのだろう――ブリタニアの皇族は一人に対し一人の騎士を持つ権利がある。選任騎士は軍とは系統が異なり、主となる皇族の命令にのみ従うことになっている。しかし、残念ながらスザクはナイト・オブ・ラウンズに入るまでルルーシュが皇子であるということを知らなかった。もし、ルルーシュが皇子で、騎士を持つ権利を持っていたことを知っていたなら、きっと騎士にして欲しいと自ら彼に告げただろう。
 何故ならばスザクの願いはルルーシュを護ることだったから。大切な存在を護ることこそスザクの持つ唯一の願いだった。
「……僕も君のことを一番に護りたい……」
 一度ナイト・オブ・ラウンズに任命された者は皇帝の許可が無い限りその地位を退くことは出来ない。もし、皇帝に許可されたとしてもその後すぐに別の皇子の騎士となれば様々な憶測を立てられるのは避けられないことだろう。
「……待っていてくれ、スザク。すぐに記憶を取り戻してみせる……。しかし、皇帝に直接訴えるのは危険だ。何か方法を考えなければ……」
「焦らなくても良いよ。でもきっと必ず真実は見つかる筈だ」
 スザクは眉を下げて微笑した。

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