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False Stage3-04

GEASS LOG TOP False Stage3-04
約10,210字 / 約18分

 ゆっくりと目を開ければぼんやりとした鈍い光が自分のことを照らしていることに気が付いた。その次の瞬間には自分のことを心配そうに覗き込むスザクの顔が飛び込んでくる。眉をぐっと寄せ、細められた翠玉の色はいつもよりもくっきりと鮮やかなように思えた。
「……ルルーシュ、ルルーシュ?」
 ぼんやりとスザクの顔を見詰めながら今までの光景が夢ではなく過去に本当にあった事実であるということをはっきりと思い出していた。
「あ…………ああ……そん、な」
 ルルーシュは言葉にならないようなくぐもった声を洩らす。それは思い出した事実が想像以上に自分の心に抉るような深い傷を残していたことを再認識させられてしまったからだろう。
 あんなにも深く自分の心に傷跡を残してきた過去の出来事を忘れていただなんて。皇帝のギアスとはそれ程までに強大で強力なものだったのだ。
 過去に背負った罪を償う為に何度も死のうとした。その度に自分ではなく他人が死んだ。一体どうしてそんなことになってしまうのだろう。何度も何度も自問自答してきた。そんな中に現れたのはスザクで、いつの間にか彼は自分が最も大切で失いたくない存在になった。
「ルルーシュ…………良かった……目覚めてくれて」
 ぎゅっと抱きしめられ、ルルーシュはその力強さに息苦しく思いながらも彼の背にそっと腕を回した。
「V.V.はいつのまにか行方を眩ませてしまったけれど、君を独りにはしておけなかったから……」
 V.V.の後を追わずに自分のことをずっとこうして抱きしめてくれていたスザクの身体は温かく、安心する。
 そのままスザクに抱きしめられながら思い出してしまった。コルチェスター学院で監督生たちに襲われる直前、こうして彼に抱きしめられて口付けられた。記憶を無くしている時はそれ以上のこともしたけれども全ての記憶を持った〝本当の自分〟はそれだけのことでも心臓が壊れてしまいそうなくらいドキドキしていた。
 まさか記憶を無くしている間に自分があんな大胆なことをするとは思わなかったが、それでもスザクが自分のことを受け入れてくれたという事実は嬉しかった。
「そう、か…………スザク、俺は……お前と…………」
 どうすれば良いのだろう。コルチェスターに居た頃はそれこそ戯れのような触れるだけのキスしかしたことが無かった。それなのにこうして記憶を取り戻し、そして偽りの記憶のまま過ごしていた頃の自分の行動を思い出すと嬉しいという感情と同時に顔から火が出そうな程の羞恥に襲われる。
「良かった、君が無事で……! V.V.に何かされると思ったから、僕は必死で……」
 ドキドキと高鳴るそれは今までの関係を思い出させ、そうして更なる期待と不安が頭を過ぎる。強い力でもう離さないといわんばかりに抱きしめられたまま、ルルーシュはその心臓の高鳴りが相手へと伝わってしまうかどうか心配で仕方が無かった。
「もし、また君を……喪ってしまったら……僕は……」
 髪を梳くように撫でられ、額が触れ合いそうなくらいに近距離で囁くように発せられた言葉はルルーシュのことを大切に想っているという意味を含ませた色合いだった。
 至近距離でその翠玉を見詰めれば、その色彩の鮮やかさに目を離せなくなる。そして彼の纏う衣装に彼が皇帝の騎士となってしまったことを再認識する。
「スザク…………お前は、皇帝の騎士になったんだな……」
「うん。でも僕は陛下よりも君のことを護りたい。だって僕は君のことが……」
 至近距離で囁かれる。恥ずかしくて、もうどうすれば良いのか解らなかった。記憶を書き換えられた時の自分はどうしてあんなに大胆な行動を取れたのだろう。自分自身不思議に思ってしまうくらいに今の自分の心臓は壊れてしまいそうだった。
「……好き、だから」
 告げられた言葉に反応するよりも先にふっくらと柔らかいもので唇を塞がれる。スザクの顔が目の前にあって、そのふわりとした前髪が自分の肌を撫でる。後ろへ倒れ込んでしまいそうなくらい力が抜けたが、すぐにスザクによって背を支えられ、啄むような口付けを重ねられた。
「……ッ…………はっ」
 長く続いた触れ合うだけのそれを止め、額だけを触れ合わせる。スザクの翠色の眸を凝視するのは恥ずかしくてそっと視線を下へと落とす。
「好きだよ、ルルーシュ。ずっと言えなかったけれども君のことが好きなんだ。君の記憶があろうが無かろうが、僕のことを憶えていようが忘れていようがそんなことは関係ないんだ。君の全てが好きだから」
 自分の全てを受け入れるという告白はこれ以上ないものだった。スザクのことが愛おしくてルルーシュは彼の頬を撫でながらそっと目を細め、心を決めた。
「…………俺もスザク、お前のことが好きだ」
 今更な告白なのかもしれない。記憶を書き換えられた時の自分は積極的にスザクを誘い出し、あんなことまでをやってのけたのだから。しかし学院の頃のことを思い出し、スザクとの出会いも全て取り戻したこの状態で同じように彼を誘えるかと問われたらそれはすごく難しいことだった。
 地下の部屋でルルーシュは光の寮の学生たちに襲われた。腕を、脚を、拘束され、無理矢理男達をねじ込まれた。痛くて、苦しくて、何度も叫び助けを呼んだ。スザクのことを何度も、そう――何度も。
 自分の躯は穢れている。それなのにスザクはそんなことを気にすることもなくルルーシュを抱いた。記憶が書き換わっていても自分は自分なのだとそう認め、そして受け入れてくれた。そんな彼をどうすれば拒絶出来る?
「……ぅん……ふ、あ……んんっ」
 今度は深く唇を重ねられ、舌を絡め合う。頭の奥で淫猥な水音が響き、躯の熱がぐんと上がる。

――忘れたのか?

 しかし不意に自分の脳内に直接語りかけるような自分自身の声が聞こえた。自分の中に居る何人もの自分が今の自分の状況を客観視している。これもその一環だ。

――お前の大切な者はいつもお前よりも先に死ぬ

 忘れてなど、いなかった。母マリアンヌ、実妹ナナリー、異母妹ユーフェミア、異母姉コーネリア、従弟役のロロ、そして何人かの親しかった人達。全員が死んだ。自分を置いて先に逝ってしまった。その内ユーフェミアとコーネリアはこの手で殺した。大切な者はいつも自分よりも先に逝ってしまう。それは勿論自分が望んだころなどではない。望もうが望むまいが自分に近付いた者達は命を奪われていった。これ以上そんな人生を歩むのならば、と何度も命を絶とうとしたのにそれにも関わらず自分はこうして生き存えている。

――スザクも喪いたいのか?

 しかしそのお陰でスザクと出会うことが出来たのだ。だがこの先もしスザクを喪ってしまったら? そう考えると今までに感じたことのないような不安に襲われる。もしスザクを喪ってしまったら自分はどうなってしまうのだろう。
 スザクのことは絶対に喪いたくない。スザクを喪ったら今度こそ気が狂ってしまいそうだった。

――絶対に、手放せない。それならばやるべきことは判っているのだろう?

 もう一人の自分が耳許で囁く。もう判っている筈だろう、と。
 ああ、解っている。喪ったものを全て取り戻し、清算する方法はただ一つだけ。しかしその選択肢を掴むにはとてつもなく大きな決意が必要だった。生きることの意味を教えてくれたスザクを裏切る行為であることは判っていたから。それでも、彼と共にある為にはそうするしかない。もう手段は残されていないのだ。選択肢など実際にははじめから一つしか存在してなどいなかった。

――ならば迷う必要は無い。お前が信じていればきっとスザクはお前を選ぶだろう。だから――…。

「ッ、……スザク…………お前に、一つだけ頼みがある」
「何だい? ルルーシュ」
 ルルーシュの背へと腕を回し、躯を密着させながら首を傾げた。温かく包み込んでくれる体温を感じながらルルーシュはそっと両目を閉じた。そして再度開いた時、スザクの真っ直ぐな翡翠の眸を逸らすことなく見詰める。すまない、と心の中で謝りながらルルーシュはそっと口を開いた。

――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる……

 顔を上げ、覗き込むようにこちらを向いたスザクの眸には真っ赤に染まったルルーシュの双眼が映し出されていた。
 そしてそれは囚われたように瞬き一つせず、ルルーシュの告げる言葉に呑み込まれていった。

* * *

 階下のサロンへスザクを連れて戻ればいつの間にかシュナイゼルやクロヴィス以外の兄弟たちも遅れてやって来ていたようだった。
「あら、ルルーシュ。主役が見えないと思ったらそんなところにいたのですね」
 第一皇女のギネヴィアは薄紫色のドレスの裾を引き摺りながらこちらへと近寄ってきた。その隣には第一皇子のオデュッセウスの姿が。ルルーシュは挨拶をすべく二人の方へと足を向けた。
「ええ、ご挨拶も遅れてしまいすみません。ギネヴィア姉上、オデュッセウス兄上」
「謝ることはないよ、ルルーシュ。誕生日おめでとう」
 オデュッセウスはにこやかに祝辞を述べた。この穏やかな長兄は昔から変わらず兄弟たちに接する。それは皇位継承権が高い余裕から来るというよりかは彼自身の人柄に因るところだろう。
「ありがとうございます」
 祝いの言葉に対する礼を告げ、彼らにこの会を楽しむようにと伝えると、足早に二人の前から立ち去ろうとするが、不意に少し離れたところから自分の名を呼ぶ声がした。
「ルルーシュお兄様!」
 振り返ると後ろから高く結わいた赤毛がふわりと揺れ動きながらこちらへと近付いてくる。そして貴族たちがルルーシュへと近付く者が通ることの出来るようにと端に寄り、道を空ける。そうして人々の間から姿を現したのは第四皇女カリーヌだった。
「お久しぶりね! ルルーシュお兄様!」
「ああ、久しぶり。カリーヌ」
 まだ身長の低い彼女に合わせ少し屈んで微笑むと、カリーヌは満面の笑みを浮かべた。
「お誕生日おめでとう、ルルーシュお兄様」
「ありがとう、カリーヌ。綺麗なドレスだね。良く似合っているよ」
「ルルーシュお兄様に誉めて貰えるなんて嬉しい! 今日のお兄様もすっごくかっこいいわ。それにブリタニア軍総指揮官就任も驚きました! あたしもお兄様みたいに活躍したいわ!」
 背伸びしながらそう嬉しそうに笑う彼女を見下ろしながらルルーシュは薄らと目を細めた。
「何れ君もすぐに公務に就くようになるさ。それまではたくさん遊んで、そして勉強すれば良い」
 出来るだけ優しい口調で云えばカリーヌは自らの決意を宣言する。
「はい! たくさんお勉強してルルーシュお兄様やシュナイゼルお兄様みたいにがんばりたい!」
 異母妹とそんな遣り取りをしながらルルーシュの思考は別の方向へと流れていた。それは〝自分が皇帝によって記憶を書き換えられる前に持っていた記憶〟と〝今目の前で起こっている現実〟との差が余りに大きかったからだ。
 ルルーシュの記憶が正しければ異母兄弟たちとこのような遣り取りをすることなどきっと決して有り得ないことだっただろう。ルルーシュはそっと眸を閉じて思い描く。
(……ああ、これは全て偽物だ)
 この光景自体が皇帝の創り出した偽物だ。そもそもギネヴィアはルルーシュのことを毛嫌いしていたし、カリーヌだってナナリーのことを嫌っていた。シュナイゼルは笑顔の下には全てを隠す仮面を付けており、唯一そのままなのはクロヴィスとオデュッセウスくらいだろう。
「お誕生日、おめでとうございます」
 カリーヌが去ると今度は周囲の貴族達からの挨拶を受けながら、ルルーシュは少し離れた壁際に佇むスザクへと目を向ける。すると下を向いていた彼は見計らったかのように視線を上げ、彼の翡翠と視線がかち合う。
 そんな微かな偶然に胸が高鳴るのは先程彼と想いを通じ合わせたばかりだからなのだろうか。
 ルルーシュは自らを嘲笑するようにほんの少しだけ口許に微笑を浮かべ、今度は玉座に座り、誕生会を愉しむ皇帝の元へと近付いた。
 皇帝の為に設けられた特別席。紅いベルベットの絨毯は真っ直ぐにその場所へと続いていた。ルルーシュは静かに彼の座る方へと近寄ると、顔を上げた皇帝にそっと耳打ちした。
「父上、そろそろいかがでしょうか」
「ああ、話……だったな」
 シャルルは重い腰を上げ、立ち上がる。そうして傍に居たナイト・オブ・ラウンズたちに席を外すことを告げると、別室へと移動する為に席を立った。
 他の招待客は舞踏会に夢中で、常ならば皇帝が席を外す際に鳴らされるトランペットの音は皇帝の命令により控えられ、気が付かれることもなく移動することが出来た。
 皇帝や皇子であったとしても常に護衛や騎士を連れている訳ではない。特に皇宮内であれば一人で動くこともあったし、それが出来ないような危険な場所であってはブリタニア皇室の権威が問われることだろう。とにかく二人きりで話したいと皇帝がひと言臣下に告げればそれは絶対的な命令である。そして二人は別室へと足を踏み入れる。
 ロマネスク様式の内装は厳格な風合いであったが、それでもこの部屋を使用していた人物は淑やかでありながらも型破りな面を備えた女傑だった。
 そうこの部屋は嘗て母――マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの私室だった。その内装は今でもまるきり変わっていない。それはルルーシュが彼女の生きていた時の状態のままにしておいて欲しいと願ったからではなく、この宮に仕える者たちもそう想っていたからなのだと思う。出掛けた主を待つかの如く毎日隅々まで清掃が施され、お陰で塵一つ見つけることが難しいくらいだった。
「……それで、話とは? ルルーシュ」
 低く、威厳のある声だった。しかし怯んではいられない。知らなければならない真実を聞き出し、そしてやらなければならないことを実行するまでは――もう後戻りなど出来ないのだから。
 ルルーシュはそっと瞼を伏せて呼吸を整えると、意を決したように開口した。
「ええ、お聞きしたいことがありました。では単刀直入にお訊ねしましょう」

――あなたが皆に掛けたギアスはあなたが死ねば消えるのですか?

 辺りは静寂に包まれていた。その中で自分の放った言葉だけが異質のようにすら思えてくる。重厚な大理石の壁はそんな音を反響させながら吸い込んでいく。
 皇帝の表情は変わることなく無機質なもので、彼の無情さを表しているようだった。しかし、口を開いた瞬間、僅かに片眉が持ち上がり、紫紺の眸が細まった。
「いいや、儂が死んだとしてもそれは変わらない。ギアスはギアスまたはコードを以てして以外取り消す手段は存在しない」
 皇帝は隠すことなくその疑問の答えを告げた。その声に動揺や驚きは見られない。あるのは静かな肯定の言葉だけだった。
「……解けたのか、儂がお前へと掛けたギアスが」
「ええ、その通りです」
 ルルーシュは頷き、そして認めた。
 ギアスは解けた。V.V.という謎の存在によって。彼の目的は判らないが、とにかく皇帝が自分に掛けたギアスを彼が解いたのは事実だった。
「そうか」
 しかし皇帝はそれだけ洩らし、それ以上に問質そうとはしなかった。そんな彼の様子にルルーシュは眉を顰める。どうして何も問わないのか、と。
「聞かないのですか? 誰が私のギアスを解いたのか」
「検討は付いておる」
 どうやら皇帝はV.V.のことを知っているらしい。思い起こせば確かにV.V.も皇帝のことを〝シャルル〟と親しげに呼んでいた。この国の皇帝である彼をそのように呼ぶことが出来る人物はほんの一握りに過ぎないというのに。
 しかし今はそのことを気にしても仕方が無かった。それよりも知りたいことが別にあるのだ。自分にとってはそちらの方が至極重大である。
 コツリ、と踵を鳴らしルルーシュは皇帝へと近付いていく。大理石の床には円形の図案が記され、その丁度中央に立っていた皇帝はマントを翻す。そんな仕草に一瞬足を止めるがすぐにもう一歩足を踏み出した。
「ではもう一つ。何故私をコルチェスターから連れ戻したのです? 母さんを、ナナリーを、護れずにユーフェミアやコーネリアを殺した私を罰する為にあの地下に閉じ込め、監視を付けたのでしょう?」
 そう、ロロは監視の役目を担った機密情報局の局員だった。皇帝直属機関とされる機密情報局は実際のところギアス嚮団にも関係しており、ロロも同じようにギアス能力者だった。そんなロロを従弟として自分の近くに配置し、監視させたのは紛れもなく皇帝で、そしてロロ自身も自分がルルーシュを監視しているということを隠そうとはしなかった。
「お前に死なれては困るからだ」
 その言葉が肉親の情による気持ちだったとしたらどんなに良かっただろうか。しかし自分はその言葉がそういった意味合いを一切含んでいないことを知っている。――皇帝は残忍だ。目的の為ならば自らの子供であったとしても平気で命を奪うだろう。そんな存在がルルーシュの命を本気で惜しむとは思えなかった。何か裏があるに違いない。
「……それはどういうことですか?」
 皇帝の言葉は一体何を表している? 何故自分が死んだら困るなどと云う? 譬え自分がギアスという力を持っていたとしても、そして命を落としたとしても皇帝にとって大した意味を持たない筈だというのに。
「マリアンヌとナナリーを殺され、ユーフェミアとコーネリアを殺したお前が自殺するのを防ぐ必要があった。お前にはギアスがあるからな。そう簡単に死なれては困る。現にロロが死んでからお前は幾度となく死のうとしたのではないか?」
 確かにロロを喪った哀しみ故、幾度となく命を絶とうとした。自らに宛がった銃は不発に終わり、毒を食事に混ぜれば別の者がそれを口にした。そして高所から飛び降りようとすればその身を受け止められてしまった。
 それだけではない。自分が皇子であったことを知った外部の者達が幾人もコルチェスター学院を訪れ、そして自分の命を狙った。しかしそれは全て失敗に終わっている。自分の代わりに死んだ者は一体何人いただろう。
「……だが、死ねなかった」
「それはお前の監視がロロだけではなかったからだ。機密情報局の人間は他にも学院に潜入していたし、そもそも監視役は機密情報局の人間だけに限ったことではない。例えば――枢木スザク。彼奴には自覚がないとしてもな」
 皇帝の言葉にルルーシュは目を大きく見開いた。
 スザクが自分に近付いたことすら皇帝には計算されていたというのか。自分がスザクを拒絶しなかったことも? そうであったのだとしたら一体自分は何の為に生かされている? そして何をさせられようとしているのだろう。全ては皇帝の手のひらの上で踊らされていた。所詮ただの人形に過ぎない人生だというのか。
「く……っははは……」
 途端に笑いが込み上げてくる。今までの人生は全て計算し尽くされたものだった。自分の意思など一切お構いなしに皇帝にとって良いようにつくられたものだった。そんな人生など何の意味があるというのだろう。
「お前のギアスの能力を高め、利用する。それがこの世界にとっては極めて重要なことであり必要なことだった」
「ッ――その為に、俺を、利用したというのか?」
 静かに真相を話す皇帝にルルーシュは声を荒げた。もう冷静さを保っていることなど不可能だった。
「ああ――そうだ。お前を利用していた。過去も、現在も、そしてこれからも、な。その為にユーフェミアにギアスを掛け、お前とナナリーの命を狙わせた」
「何…………だって?」
 皇帝は一体今何と云った? ユーフェミアにギアスを掛けていた……?
「ユーフェミアの突然の乱心は儂のギアスによるもの」
「そ、んな……」
 ルルーシュは絶句する。信じたくはなかった。しかし今の言葉が嘘だと断言することは出来なかった。いや、それよりもこれで納得出来た。
 花のように愛らしかったユーフェミアが突如マリアンヌや自分に銃を向けた理由は皇帝のギアスだった。彼女は何も悪くなかった。皇帝によって偽りの記憶を植え付けられ、そして自分達ヴィ家を憎ませられたというのが真実ならば彼女は一体何の為に死ななければならなかったというのか。
「お前の精神状態を追い詰め、ギアスを使わせる為の策だ。記憶を取り戻しているというのならば気が付いているだろう? お前のギアスは死を与えるものではない。確かに死を命じることは出来るが、ただそれだけではない。絶対遵守、それがお前の能力だった」
 そう、皇帝によって書き換えられた記憶ではルルーシュの能力は死を与える力だった。しかし本当は違う。本来の能力は死だけではなくありとあらゆることを〝強要〟出来る力だった。
「何故……そんな風に記憶を変えたっ!?」
 記憶を書き換えられた自分はそのことで思い悩んでいた。しかしそれすら全て計算し尽くされたものだったのだろう。この力は人を殺すのではなく救う為に――ナナリーを護る為に使うつもりだったというのに。
「ギアスの能力を最も効率的に引き上げるにはより多くの人間により強力な力を使うこと。〝死〟という人間本来の生命維持活動とは真逆の行動を取らせるということはそれだけ強大な力が働くことになる。それはつまりお前のギアス能力の飛躍的な向上を意味している」
「その為に……人を、殺させた?」
「侵略戦争すらその一部である」
 侵略戦争で多くの命を奪った。国の為、国民の為と思って行ってきたことが本当は全てこのギアスの力を強める為だったというのか。そこまでして何故力を得たい? 一国の支配では足りないとでもいうのだろうか。どちらにしても身勝手で自分のことしか考えていないということは明らかだ。
 拳を強く握りしめ、ルルーシュは声を荒げる。今にも皇帝に飛びかかっていきそうな勢いだったが、皇帝は怯むことなく平然と見下ろすままだった。
「…………ふざけるなッ! 自分がただ、力を手に入れたいが為に人々を俺に殺させた!? 俺はお前の道具などではない!」
 両手で皇帝の襟元を握り、詰め寄る。それでも皇帝は表情を崩すことなく冷たい声色で告げた。
「本当にそう言えるのか? その着ている服、食事、しいてはその命……一体誰が与えたと思う? 儂が居なければお前が存在することすら無かっただろう。つまりお前は儂の所有物の一つに過ぎない――則ち〝生きている〟とは言えないであろう?」
「ッ! 俺は、そんなッ!」
 ルルーシュはギアスを発動させようと両目を閉じ、神経を注ぐ。どんな命令でも一度だけ下せる力――絶対遵守。この力を皇帝に使ったことは無いはずだ。だから命じるだけで良いのだ。ただ一言〝死ね〟と。それだけで皇帝は死を選ぶ。譬えどんなことがあっても確実に、そしてその死に方を指定すればその通りに彼は死ぬ。だからこそルルーシュはすぐにその命を下さなかった。
 両の眼を真っ赤な色で染め上げ、そうして相手の心を捉える。そして囁くのだ。命が終わるその時を。
 しかし今回は違った。皇帝はまだギアスに囚われてはいなかった。
 皇帝は無表情を崩し、ニカりと笑む。それはルルーシュの怒りを挑発するようなもので、ルルーシュは更に鋭く彼を下から睨み付ける。二人の距離はとても近いものだった。
「ギアスで儂を殺すか? そんな姑息な手段よりも直接殺したらどうだ? そのポケットの中には銃が入っているのだろう?」
 確かにV.V.と会う直前、懐に小銃を忍ばせていた。しかしそれはギアスを掛けることに失敗した場合の最終手段のつもりだった。
 だが皇帝はルルーシュがギアスという力ではなく自分自身の力で真正面から戦うことを望んでいるようだった。ギアスは卑怯な力だ。本人は命じるだけで手を下す必要も無いのだから。そんな卑怯な方法を取らず正面から奴を殺す。ただそれだけのことだったのにルルーシュは一瞬だけ躊躇した。
「ッ!」
「さぁ、早く殺せ。今ならば抵抗するまい。思う存分復讐すれば良い。それとも貴様は銃も使えない臆病者か? それでも閃光と呼ばれたマリアンヌの子か?」
 マリアンヌ――閃光と呼ばれ、憧れだった母の名前。皇帝がユーフェミアに奪わせた存在。その母の名を出す資格などこの男になど、ない。
「死ねェェッ!」
 ルルーシュは銃を向け、引き金を引いた。

――バァン、パン、パン、パァァン!

 数発撃ち込むと血溜まりが出来る中、皇帝はズルリとその大きな身体を倒れ込ませた。余りに簡単な最期だった。
 皇帝を殺した。自分が、この手で殺した。マリアンヌやナナリーだけではない。ユーフェミアやコーネリアが命を喪う原因を作った男を。
「く……はははははははっ! はははははっ!」
 遂にやった。皇帝を殺した。
「ははは、あははははッ……」
 ルルーシュは嗤い続ける。
 皇帝は死んだ。自分が殺した。これで〝生きていない〟などとは言わせない。
 しかし、〝生きている〟ことを実感出来た今、生きる理由など疾うに尽きた。もう生きることには興味を失ってしまった。
「――…はは……、もう……疲れたよ、スザク」
 ルルーシュは父の亡骸の横にずるりと座り込んだ。

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