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背徳の花01

GEASS LOG TOP 背徳の花01
約8,546字 / 約15分

「スザク、本当に私、この学園に入学するの?」
 眉を下げながら心配そうにそう訊ねてきた桃色の髪に菫色の柔らかな瞳を持った少女にスザクは頷く。
「ええ、その通りです。ユーフェミア様、あなたは今日からこの学園の生徒です」
 目の前には鉄で出来ている校門と、校舎を囲う煉瓦の壁がずっしりと存在感を主張していた。その向こう側は今は見えないけれど、その先にある学園に彼女は今日から通うことが決まっている。
 小花柄の春らしいワンピースに小さなトランクを一つ抱えた少女は真っ直ぐに学園の方を見詰めていた。対して自分は白色の騎士服を纏っており、そのギャップに周囲からは不自然だと思われるかもしれない。騎士とは皇族や貴族に仕える者か、または軍人として戦場に立つ者を指す。しかし目の前の少女は庶民のような装いをしており、騎士が仕えるような存在に見えないからだ。
「急に転校することになっちゃって……びっくりしたわ。それにお母様が……あんなに突然死んで……しまう……なんて……ついこの前まで……元気で……いたのに……」
 ユーフェミアはその菫色の大きな瞳に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうだった。スザクは彼女へと身を寄せる。さらさらとした長い桃色の髪の毛が風にふわりと靡く。初夏の少し強くなった日差しの中、彼女は生まれて初めてひとりぼっちになったのだ。

――そう、三日前に自分が彼女の元を訪れるまでは……。

「コーネリア様のことは自分も残念に思います。しかし、きっと今……空からあなたのことを見護ってくださっていると思うのです」
 彼女を何とか慰めようとスザクは僅かに微笑んだ。これ以上彼女の哀しげな表情を見たくなかったから。
 哀しむことは悪いことではない。けれどもユーフェミアにはきっと笑顔が似合う。早く立ち直って笑顔になってほしいとそう願わずにはいられない。そんな風に思わされる程、彼女は純真で素直な少女だった。
「……そう……よね……。うん、そうに違いないわ」
 ユーフェミアはスザクの言葉に納得するようにそう何度も頷くと、菫色の瞳からは一滴だけ涙の雫が零れ落ちた。
 彼女は三日前、母であるコーネリアを亡くしたばかりだった。元々母子家庭で育った彼女は母を事故で亡くし、途方に暮れていた。周囲の人間は若くして天涯孤独となった彼女のことを憐れみ、しかし誰も彼女に手を差し出そうとはしなかった。そんな悲しみに暮れる中、自分は彼女の元を訪れた。正式には彼女の元へと派遣されたのだ。

――他ならぬブリタニア皇帝によって……。

 そう、彼女は知らなかったのだ。彼女自身が皇女であると。
 彼女の母親――コーネリア・リ・ブリタニアは紛うことなくブリタニアの后妃だった。しかし、暗殺未遂が続き、ある日突然皇帝も知らない間に彼女は姿を眩ませた。彼女の腹の中には一つの命が宿っており、その命を喪ってしまうことを彼女は恐れたのだ。
 この国で最も権力を持つ皇帝ですら、后妃に対する暗殺の脅威を取り除くことが出来なかった。后妃は自分の命ではなく腹の中に宿る娘の命を一番に考え、后妃であるという身分を隠し、一年が過ぎ去った。
 突然姿を消した后妃は一年経っても姿を現すことはなく、彼女は死んだものとされた。そうでなければ皇帝は再婚することが出来ないからだ。皇帝に親しい者達は、姿を眩ませた后妃とその腹に宿る皇女という存在よりも男児である皇子を望んでいた。後妻が皇子さえ産めば全て丸く収まるのだ、と。
 しかし、幾度か結婚と再婚を繰り返したものの、今の今まで皇帝は息子には恵まれることはなかった。
 そうしてブリタニア皇帝の実子はユーフェミア・リ・ブリタニア……ただ一人となったのだ。
 后妃は十六年前、彼女と共に一人だけ自分付きの騎士を従えて消えた。騎士の名はギルバート・G・P・ギルフォードといった。彼だけが唯一ユーフェミアが皇族であると知っていたのだが、彼は忠義に厚かった。
 コーネリアが死んだその日、ギルフォードは迷いながらも皇帝へと連絡を取った。ブリタニア皇室はコーネリアが逃げ出す程、恐ろしい場所だった。しかしながら母を亡くし、父親の顔を知ることもなくたった独りになってしまった少女をそのまま放っておくことなど出来なかった。彼女が唯一のブリタニア皇帝の娘だという事実を除いても、彼女は父親の顔を知るべきだと思ったのだ。
 そして、この自分は彼女の父である皇帝シャルル・ジ・ブリタニアによって彼女の騎士へと任命された。ユーフェミアをどんな脅威からも護り、無事に学園を卒業させ、彼女を立派な施政者として導く為に。
 その為にも彼女はこの学園で全てを学ぶのだ。この私立アッシュフォード学園で施政者となるべく全てを。
「ユーフェミア様、さぁ行きましょう」
 この学園で彼女は立派なレディになることを目指す。全寮制寄宿学校のアッシュフォード学園は貴族、皇族のみにしか門戸を開いていない。財力は勿論、家名、それ以外に何かしらの才能が入学には必要条件だった。一学年の数は多くて十名。中等部から高等部まで一貫教育を施している教育機関である。
「ええ、何だかドキドキしますね」
 ユーフェミアは少し緊張気味の様子ではにかんだ。そんな彼女へと視線を向け、スザクは彼女の緊張を解くように笑みを向ける。
「きっとすぐに慣れますよ」
 鉄の重たい扉がギギィと音を立てて両側へと開いていく。そうして学園の様子がはっきりと目の前に広がった。その光景はとてつもなく美しいものだった。
 手前には左右シンメトリーの庭園、今の時期は薔薇が咲き誇っており、その薔薇たちに囲まれるように真ん中には噴水があり、そこからは澄んだ水が降り注ぎ、虹を作っていた。
 その向こう側には長い石畳が続き、その更に先には石造りのまるで中世の城を模ったような校舎が堂々と佇んでいた。
「本当に此処って学校なのですか……?」
 思ってもみなかったくらいにこの学園は全てが最上級のものだったのだろう。ユーフェミアはスザクに思わず本当なのか確認してしまう。
「ええ、間違いなくこの場所はユーフェミア様が今日から通われるアッシュフォード学園です」
 敷地は見渡す限り広大で、普通の学校にある施設よりも何倍も大きく、そして特別な施設も多数存在していた。ヘリポートや滑走路まで用意されているのは、彼らが緊急時や私用、公用で学園からすぐに目的地へと迎えるように配慮された結果なのだという。
「何だかお姫様になったみたい……」
 ユーフェミアはそう洩らすが、彼女は間違いなくお姫様だった。しかしまだ実感が湧かないのだろう。三日前まで彼女は自分自身が爵位も持たない平民だと思い込んでいたのだから。
「すぐに慣れますよ」
 先ほど告げた言葉をもう一度繰り返し、微笑むとユーフェミアも笑みを返した。細まった菫色の瞳はその高貴な身分を表していた。
「お父様がこの国の皇帝陛下だったなんて……本当に信じられないの。お父様がいることだって知らなかったのよ。それなのに……こんなの映画の中だったとしてもベタだと思いませんか?」
「実際、そういうこともあるということですね」
 大体そういうベタな展開の映画は、貴族のカッコイイ男と結ばれ、永遠に幸せでした。めでたしめでたし……といった感じだろうか。そんなに都合の良いことが……と思うが、この学園のどの男子生徒と付き合ったとしても彼らの財力と身分と権力だけは間違いなく保証されていた。
 そう、ユーフェミアがこの学園に入学することになったのは、何も学業や教養だけを身につけるためではない。恐らく婿選びも兼ねているのだろう。彼女自身にはそのつもりがなかったとしても、皇帝は間違いなくそれを意図している。
 皇族であれば世継を作るのは当然のことで、それが出来ないようでは血筋を絶やすという結果になる。それは何としてでも避けなければならない絶対的重要事項。
 ユーフェミアが若い内に結婚し、子供を産んでさえしまえば思い悩む必要はそう多くない筈だ。だからこそ、この十代のうちに多くの貴族の嫡男と知り合えば意図しようがそうでなかろうとも皇帝の望むような結果になることだって充分有り得るだろう。
 確かな世継ぎさえ産んでしまえばその地位は安泰となる。その事実からコーネリア后妃のこともあり、皇帝がこの件に関してとても気にかけていることが伺えた。だからこそ、彼女の専任騎士としてナイト・オブ・セブンであった自分を任命したのだろう。
 二人は石畳の道を真っ直ぐ校舎の方へと目指し、進んでいく。両脇から咲き乱れる薔薇の香りがふんわりと周囲に漂い、心地が良い。
 スザクもこの学園に足を運ぶのは初めてだったが、既にこの学園の見取り図は頭の中に叩き込んであったから、何処を目指せば良いのか迷う必要はなかった。
「ねえ、スザク、あなたはどうして私の騎士になったの?」
 この国では騎士制度というものが未だに存在していた。皇族、貴族は自らに選任騎士を従えることが許されており、最上の騎士を持つことが彼らの一種のステータスであった。
 専任騎士とは主だけを護り、主だけの為に戦う騎士である。他のどの高位の人間でも彼らを操ることは出来ない。主の為に全てを尽くす専任騎士に憧れる騎士たちは多い。
 しかし、大多数の騎士たちは専任騎士の取りまとめる親衛隊の騎士として所属したり、軍属として軍隊の一部となるのが大抵だった。
 この学園ではそんな専任騎士を連れて歩くことが許され、場合によっては主の命令で騎士同士に決闘をさせ、相手の持つものを奪うこともひとつの嗜みとして許されている。そしてその結果は他の誰であろうとも覆すことは出来ないとされている。
「あなたのお父上であらせられる皇帝陛下のご命令によって、私はあなたの騎士となりました。しかし、あなたには選ぶ権利がある……。気に入らなければ他の騎士を選ぶことも出来ますよ」
 スザクの言葉にユーフェミアはその菫色の瞳をパチクリさせる。
「まあ、そんなことないわ。私にはあなたが必要なの。まだ何もわからない私を暗闇から救い出してくれたのは、スザク、あなたなのよ。気にいらない筈がないわ……!」
 スザクの言葉にユーフェミアは左右にかぶりを振った。そして突然に肉親を亡くし、途方に暮れていたところに現れたスザクに感謝しているのだと彼女は続けた。
「それは有り難きお言葉。騎士として誇りに思います。さあユーフェミア様、間も無く礼拝堂に到着致します。礼拝堂にこの学園の学園長であらせられるシスターがいらっしゃると伺っております」
「ええ、急ぎましょう」
 この学園の敷地はとにかく広く、移動時間だけでも大変なものだった。とはいっても校門から礼拝堂まではそこまで距離はなく、充分に徒歩圏内だ。
 校舎の手前、向かって右手側に礼拝堂はあり、その礼拝堂の建物は煉瓦造りの美しいものだった。その目の前でユーフェミアは心配そうに足を止める。
「学園長はとても良い方だと聞いております。きっと大丈夫ですよ」
 ユーフェミアの不安げな表情を確認しながら告げると、彼女は小さく頷いた。
「ええ……。行きましょう」
 礼拝堂の木で出来た扉を開く。木製の扉は細かい彫刻が施されており、美しく一つの芸術作品のようだった。床は大理石で出来ており、コツリと踵が鳴った。中へと入と聖書の物語を表現したステンドグラスが色とりどりに窓を飾り、荘厳な雰囲気を醸し出していた。
 そこに一人の女性の後ろ姿が見える。彼女が学園長だろう。
「失礼致します。シスターC.C.」
 声を掛けると彼女はゆっくりとこちらへと振り返る。透き通るような透明感を持つ若草色の髪がさらりと流れ、そして黄金の瞳がこちらへと向く。
 一見して少女にしか見えないが、彼女が学園長だということはすぐに解った。若草色の珍しい髪色はそうそうお目にかかることはないから。
「お初にお目にかかります、枢木スザクと申します。ユーフェミア様をお連れいたしました」
 スザクは一歩前に踏み出し、若草色の髪の女性へと挨拶をする。
「初めまして……。枢木スザク、ユーフェミアのことは聞いているぞ。そこにいる娘がそうだろう?」
 猫のような金色の瞳を向けられ、ユーフェミアはそれを肯定するように頷く。
「はい、私がユーフェミア・ギルフォードです」
 ユーフェミアの名乗った《ギルフォード》の名は偽名だった。しかし、ユーフェミアは今までずっとその名前を名乗って過ごしてきたから特に違和感はないだろう。
 ユーフェミアが皇族であることが知れたらこのセキュリティが頑丈だと云われるアッシュフォード学園であっても何が起こる解らなかった。更にユーフェミアの場合は直系の皇族である、次世代の指導者として皇帝自身から期待されていることもあり、念には念を入れていち貴族のフリをする方が安全だろうということになったのだ。
「初めまして。私は此処の学園長のC.C.だ」
 変わった名前だが、それが彼女の此処での呼び名だというのだから仕方がない。名前や年齢、いろいろな点で不思議なことが多いが、それも全て彼女に一任されているのだという。
「初めまして……今日からよろしくお願い致します」
「学年は高等部二年、ひとクラスしかないし、人数はそう多くないからすぐに馴染めるだろう」
「はい、よろしくお願いします」
 ユーフェミアは笑みを浮かべた。
「まずは入学祝いに一つ、これをやろう」
 C.C.はユーフェミアの前まで歩を進めると、小さなベルを渡した。縁の部分には幾つか突起があり、そのうちの一つには小さな紫色の宝石がはめ込まれていた。
「このアメジストはこの学園では《ギアス》と呼ばれている。良い行いをしたら一つもらうことが出来、十個集めるごとにベルのランクが一つアップして、三つのベルをギアスで満たせば生徒会に入ることが出来るぞ」
「ユーフェミア様、このベルとギアスが生徒のランクを表しているそうです。学園での待遇にも関係してくると聞いております」
 スザクはC.C.の言葉を補足した。
「まぁ、せいぜい頑張るが良い。さぁ、まずは寮に荷物を運び、その後九時から始業だ。遅刻するなよ」
「わかりました」
 ユーフェミアはC.C.の言葉に頷く。
「ああ、そうだ……くれぐれも私が理事長の愛人だという噂は信じるなよ」
 C.C.は目を細めた。
「えっと……はい」
 何の冗談なのか解らず、ユーフェミアは素直に答える。それが少し可笑しくて、スザクは僅かに笑みを浮かべた。

「何だか、すごく素敵なところなのね……」
 寮に向かいながらユーフェミアは辺りを見渡した。その様子を見詰めながらスザクは前へと足を進める。
 麗らかな日差しが降り注ぎ、色鮮やかなの薔薇の花が満開になっていた。そんな薔薇園の中を通り過ぎ、背の高い木々で少し影になっていた部分に、目的の寮が存在していた。
「こちらがユーフェミア様が住まうことになる第三の寮です」
 ずっしりとした佇まいのその建物は煉瓦造りで、昔の教会建築のようだった。
「ギアスのランクによって、寮が分けられているそうです。一つ目のベルを持つ者はこの寮で過ごすのだそうです」
 そうはいっても別に寮の建物自体はボロボロであるという訳ではなく、ただ単にギアスを持たないものが寄せ集められている寮だということなのだろう。
「早くギアスをたくさん集められるように頑張らなければいけませんね」
「ユーフェミア様なら、ご心配いりませんよ」
 生まれながらに気品も謙虚さも兼ね備えている。コーネリア后妃は庶民としてユーフェミアを育てたようだったが、やはりその元々の高貴さは拭い去れなかったようだ。
 しかし、それで良かったのだ。ユーフェミアには可能性がある。未来への可能性が。
「荷物はすぐにお運びいたしますから、まずは先に制服に着替えましょう」
 ユーフェミアはまだ私服のワンピースを着ている状態だった。今は午前八時三十分。それ程のんびりしなければ、充分始業に間に合う時間だ。
「ええ、わかりました」
 寮へと足を踏み入れるとそこには人影もなく、二人はエントランスホールから上がる螺旋階段へと登っていく。
「お部屋は二階の四号室だそうです」
 スザクは部屋の番号をユーフェミアに告げる。彼女の着替えから勉強道具などは既に部屋に運ばれている手筈で、彼女が今、両手で抱えているトランクに入っているのは彼女が今までコーネリアと共に暮らしていた時に大切にしていたアルバムだった。
 寮は二階建てで大理石で出来たチェック柄の床やアール・デコを彷彿とさせる細い線を組み合わせたような柱によって装飾されていた。
 一階の部屋が男子寮、二階が女子寮だった。そしてその二階には四部屋しか部屋はなく、廊下の一番奥がその四号室だった。
 スザクがセキュリティシステムに暗証番号を入力すると、シュッという空気音を立てて扉が自動で開く。
「さぁ、どうぞ」
 室内へと手を差し出し、ユーフェミアを先に部屋へと招き入れる。
 室内は人が一人住まうのには広過ぎるほどで、確かにこの館の大きさに対しての部屋数を考えれば妥当な広さといったところだった。床には塵ひとつなく、よく磨かれた大理石が敷き詰められており、その中央にはペルシャ絨毯が敷かれている。備え付けの額縁には美しい風景画が嵌めこまれており、その横にはピンク色のアルメリアの花が挿してある硝子の花瓶が置かれていた。
「此処に、今日から住まうのね」
「ええ、それがこの学園に入学する条件の一つとなっております」
 木で作られているずっしりとした学習机に、黒のアイアン製のクイーンサイズのベッドには柔らかでふわふわしたシーツが重ねられており、幾つもの生成りのクッションが置かれていた。それから大きめの本棚と隣に繋がるバスルームには猫脚の白い陶器製のバスタブ、大きな窓にはビロードのカーテンが引かれていた。生活感は感じられない。お城の一室のような空間だった。
 そして、一つだけユーフェミアがまだ開けていない扉がまだあったことに気が付き、ユーフェミアはドアの方を向いた。
「スザク、この部屋は?」
 ユーフェミアは訊ねる。
「こちらは私が使用させていただく部屋となっております」
「え……?」
 そう、選任騎士は学園においても騎士として主に従い、主に何か会った時にすぐにでも駆けつけられる場所にいる必要があった。だから寮でも共に過ごす決まりだった。
「それが選任騎士なのです。あなたの御身を護る為、ご理解ください」
 互いにプライベートなど殆ど無い。それは騎士という存在がそうであり、皇族という存在がそうであるから。この両者は信頼で成り立っている。
「……わかったわ。全てあなたに任せます」
 ユーフェミアははっきりと頷いてみせる。彼女は何も知らない一般人として暮らしてきたが、その心は強くこの国を率いていける才覚を感じさせた。
「ではこちらにお着替えが。ご自分でお召しになられますか?」
 行き成り着替えまで手伝うのはそういったことに慣れていないユーフェミアにとっては驚くべきことだろう。だからこの学園での時間は出来る限り彼女に任せたかった。きっと自由に出来る最後の期間だから。
「ええ、私一人で大丈夫です。今までも一人でやってきましたし」
「わかりました。ですが、皇宮に戻られた際には召使いが回りのことを全て行いますことをお忘れなきよう」
 皇族や貴族は身の回りの世話を全て家臣に任せるのが大抵で、この学園にも召使いを連れて住んでいる者が大抵だった。しかし今まで庶民として過ごしてきたユーフェミアにはとりあえず選任騎士だけがいれば良いというのが皇帝からの配慮だった。
 慣れるまではこれでいいだろう。そもそもユーフェミアが皇族であるということは学園には内密だった。真実を知っているのは学園長と理事長だけだからそれ程気負う必要はないだろう。
「では私は隣室におりますので、お着替えが済みましたらお声掛けください」
 スザクはそう告げ、一礼すると隣室へと移動した。
 騎士として、彼女の生活を護るのが自分の役目だった。遠く離れた祖国からこのブリタニアにやってきて、自分は軍人となった。そしてそこで身体能力を買われ、騎士のなる門戸が開かれた。
 先日まで、スザクはナイト・オブ・ラウンズとして、皇帝直属の騎士を務めていたが、ユーフェミアが発見されたことにより、彼女の騎士に任命された。次期皇帝の騎士には現皇帝のナイト・オブ・ラウンズから一人与えるしきたりになっている。そうすれば皇帝に何か問題が起きた際、引き継ぎをすることがなくても次期皇帝が国がスムーズに動かすことが出来る為だ。
 全てはユーフェミアを正当な皇位継承者として迎え入れる為――…。
 この何も知らない優しいお姫様に皇宮の恐ろしさを見せたくはなかった。しかし、彼女は皇帝の血を色濃く受け継ぐ皇位第一継承者であり、その願いは叶えられない。
 彼女は否応無く、ブリタニアの血がいかに醜く争ってきたのかを身をもって知ることになるだろう。その時、自分が彼女を支えられれば、と思う。
 それが、自分に出来る唯一の……。

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