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背徳の花02*

GEASS LOG TOP 背徳の花02*
約9,195字 / 約16分

「では、本日は転入生を紹介しよう」
 高等部第二学年の担任教師であるヴィレッタ・ヌウは教壇に立ち、その脇に佇むユーフェミアを手で指し示した。
「ユーフェミア・ギルフォードだ。首都ネオウェルズから家庭の事情で両親と離れて暮らすことになり、この学園に転入してきた。皆仲良くするように」
 紹介され、ユーフェミアは教室内を見渡す。
 確かに今まで通っていた学校に比べてもひとクラスあたりの人数はかなり少ない。少人数教育ということもあるが、そもそもこの学園に入学出来る者は少ない。その為必然的に少人数制を取らざるを得ないということのようだ。しかし、この学園に入学するには多額の寄付金が必要で、それによって学園は更なる力を持ってきた。
 授業がひと通り終わり、休み時間を迎えると、肩まである金髪をかき分けながら一人の少女がこちらへと近づいてきた。自分よりも少し大人びて見える彼女に気が付くと、ユーフェミアは顔を上げた。
「私はミレイ・アッシュフォード。この学園の理事長の孫よ。訳あってみんなより二つ年上だけれど、気にしないでね! どうぞ、よろしく!」
 やはり、彼女は自分よりも年上の女性だった。しかし、訳あってというだけでその事情を知ることは出来なかった。
「で、彼は私の騎士のロイドよ」
 ミレイは自分の傍に控えていた長身の男の方を示しながらそう紹介する。
「僕はロイド・アスプルンド。ミレイ様の騎士です。以後よろしく。ユーフェミア様、枢木卿」
 へらへらとした態度ではあるが列記とした騎士であるのだという。歳は二十代後半くらいだろうか。メガネを掛け、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「ええ、よろしくお願いします」
 ユーフェミアはその様子に少し戸惑いながらもニコリと笑みを返す。
「こちらは私の騎士のスザクよ」
「よろしくお願いします。枢木スザクと申します」
 スザクは自己紹介をし、二人のことを交互に見た。
「「よろしくー」」
 すると二人からはなんともいえないフレンドリーな挨拶が返ってきた。この学園の理事長の孫とその騎士は随分と変わった主従なのだろう。
「早速今夜、あなたの歓迎会があるそうよ。学園全体でやるとか」
「まあ、それでもほんの四十人程度なんだけれどねー!」
 ミレイの言葉にロイドは付け足した。
 この学園は中高一貫校として第一学年から第六学年まであり、その人数は全体で四十人余りなのだという。一学年あたり六、七人というかなりの少人数教育であるから全体ではそのくらいの人数になる。むしろ生徒数よりも教員やその他学園関係者の方が人数は多いだろう。多種多様な教科を扱っているから普通の学校よりも教員の数は多い。
「楽しみだわ」
 ミレイの言葉にユーフェミアは笑顔になる。
「ダンスも踊ることになっているけれど、良かったわ、あなたはあなたの騎士と踊ることにすれば慌てて相手の男の子を探さずに済みそうだし」
 騎士が同性の場合はミレイが慌てて空いている男子を探す必要があったらしい。面倒なことにならなくて良かった、とミレイは零す。
「スザクと、私が……?」
「そうよ。今夜の主役はあなた達だし」
 ミレイは面白そうに笑う。そうしているとすぐ脇から一人の少女が近付いてくる様子が視界に入ってきた。
「あら、それはどうでしょう?」
 ミレイ達とのやり取りに突然口を挟んだのは長く絹糸のように美しい黒髪の少女だった。ユーフェミアより幾らか年下に見える彼女は、そのぱっちりとした翠色の瞳を細め、愉しそうにクスリと笑みを零す。
「初めまして、ユーフェミアさん、それと……お久しぶりね、枢木のお兄さま」
「……神楽耶……」
 スザクは静かに彼女の名前を呼んだ。そう、その少女には見覚えがあった。いや、見覚えなどという言葉では済ませられないくらいの関係だった。
「何? 枢木卿と神楽耶って知り合い??」
 ミレイとユーフェミアは二人を交互に見比べる。
「この方はわたくしの従兄です。わたくしは皇神楽耶。どうぞよろしゅうお願いします」
 神楽耶はニコリと冷たい笑みを浮かべてみせる。
「ええ、こちらこそ。それにしても枢木卿と従兄妹だなんて……すごい偶然なのね」
「果たして、偶然でしょうか……」
 ユーフェミアの言葉に答えるようにスザクは小さく零す。
 偶然とは思えなかった。自らの意思ではなくこの国に足を踏み入れた自分と、恐らく自分の意思でこの国に来た神楽耶。
 幼馴染のように共に過ごし、嘗ては婚約者でもあった彼女とこの学園で再会したことは決して偶然とは思えない。きっと彼女には何か意図がある筈だと思えて仕方がなかった。
「でも、神楽耶さん、先ほどあなたの言ってた意味って?」
 神楽耶はこの歓迎会の主役は歓迎される筈のユーフェミアやスザクではないと言ったのだ。歓迎される相手が主役ではないというなら一体誰が主役だというのだろう。その言葉を訊いて当たり前のような疑問が頭を過る。
「そうですね、確かに今日の歓迎会はあなた達の為に開かれるけれども、きっと主役はあなた達ではないわ……いつでも主役はゼロ様なの」
 彼女は《ゼロ様》とうっとりするような恍惚を含んだ表情でそう告げた。
「ゼロ……様?」
 《ゼロ》という決して人の名前とは思えないものにユーフェミアは疑問符を浮かべている。確かにスザクもその名前に疑問を持った。ゼロとは無。そんな名前を持つ人物が果たしているのだろうか、と。しかしその疑問はすぐに解決される。
「ゼロ様、と呼ばれている方はこの学園の代表でその呼称に過ぎないの。まぁ、何というか生徒会長みたいな役職のようなものよ」
 ミレイが説明した。ゼロとは生徒会長と呼ばれる代わりの役職のようなものだ、と。この学園では生徒会長のことをゼロと呼ぶ習慣があるらしかった。
「そうなんですね、早くお会いしてみたいわ」
 一体どんな方なのかしら、ユーフェミアはそう続けた。
 この特異な学園を仕切る存在ゼロ。確かにどのような人物なのだろうとスザクも思う。この国中の良家の子息子女たちを集めたこの学園においては誰もが特別である。その中で一際特別であるのは勿論皇族であるユーフェミアだが、ゼロという人物はどれ程までに優れた人物であるかは気になってしまう。
「なかなか学園にはお顔を出されない方なのですよ。でも、今夜は是非、と」
 神楽耶はキラキラと輝くような表情と声色でそう云った。
 この従妹の神楽耶にそんな表情をさせるような人物の顔を早く見てみたいとも思う。
「ゼロ様は優秀であるから最低出席日数を満たせばそれだけで良いということになっているみたいですわ。それに本当ならば大学に飛び級だって……あら、チャイムだわ」
 神楽耶の言葉と同時に始業のチャイムが鳴り、皆自身の席へと掛けていく。スザクはユーフェミアの席の後方へと控えた。次は数学の授業だ。武術や剣技などには自信があったが、座学に関してはさっぱりだった。この学園の授業のレベルはかなり高く、スザクには到底理解できなかった。

* * *

 オーケストラの優美な生演奏とグラスを鳴らす音や話し声で賑わう学園の大ホール。そこには盛装をした生徒達が集っていた。女生徒は色鮮やかで華やかなイブニングドレス、男子生徒はテールコートを身に着け、それぞれに談笑している。
 立食形式のパーティーで、まるで貴族達の開く夜会のようだった。この学園では生徒達の自主自立が重んじられており、その範囲内であれば飲酒も可能だった為、シャンパンやカクテルも振舞われていた。とはいえ、酒で粗相をすればこの学園の規範に反したという理由で退学処分を受けることになるだろうから、そのようなこの学園にふさわしくない行動をする生徒はまずいないだろう。
「歓迎会ってもっと簡単なものだと思っていたわ」
 庶民の学校とは全く異なる歓迎会の様子にユーフェミアは辺りを見渡しながら驚いたようにそう洩らした。
 彼女も盛装を纏っており、純白色のドレスが彼女を包んでいた。豊満な胸元には桃色の薔薇を模った宝石がキラキラと輝いている。彼女によく似合ったデザインで、思わず見惚れてしまう。
 他の学年の生徒からも歓迎の言葉を受けながら、ユーフェミアはスザクが手渡したシャンパンを少しだけ煽る。スザクは護衛を兼ねてその様子をじっと見護っていた。
「あ、ジノ様だわ!」
 その時、突然に一人の女生徒がホールに現れた金髪の男性を示して声を上げた。その声に周囲の生徒達は皆一斉に彼女の指さした方へと視線を向ける。
 ジノと呼ばれた人物はホールから階上へと続く階段の上の踊り場に佇んでいた。真っ白な騎士服を纏い、プラチナブロンドの髪を三つ編みにしている彼はそうして暫くすると背後へと振り返り、誰かと言葉を交わしているようだった。
「ジノ様?」
 一体それは誰なのだろう、とユーフェミアが首を傾げると、誰かが横から補足する。
「ジノ様はゼロ様の騎士よ」
 ジノと呼ばれる騎士はどうやらゼロの専任騎士であるようだった。そしてそのゼロの騎士がこの場にいるということは、つまり……。
「ゼロ様ッ!」
「ゼロ様がいらっしゃったわ!」
「ゼロ様ー!」
 学生たちは次々と黄色い歓声を上げる。ゼロと呼ばれる人物が姿を表したのだ。
 ジノの脇から姿を見せたのはブリタニア人には珍しい美しい濡羽色の髪に紫紺の色の瞳をした少年だった。一見少女であるかと見間違えそうな風貌だったが、彼は男ものの盛装を間違いなく身に纏っていた。黒い詰め襟とは対照的にそこから覗く肌は陶器のように白く、身体の線は細い。
 彼はマントを翻し、彼の騎士を従えながらゆっくりと半円を描く階段を降りてくる。その優雅な仕草には無駄な動きはなく、洗練されたものだった。
「皆様、ご無沙汰しておりました」
 ゼロは心地の良い声色でそう挨拶する。
「――そして……はじめまして」
 階段の下に佇んでいたユーフェミアの前でゼロは足を止め、右手を差し出すと、ユーフェミアの指先を持ち上げそこに口付けを落とす。その光景にあたりは騒然とした。
「私がゼロ、です。お見知り置きを」
 ユーフェミアの手を取ったままゼロは顔を上げて自己紹介をする。その仕草はまさに王子様といったものだった。ユーフェミアは少しだけ緊張したような恥ずかしがっているようなそんな様子で自らも名を名乗る。
「私はユーフェミア・ギルフォードです。ゼロ様、よろしくお願いします」
「こちらこそ。彼は私の騎士でジノ・ヴァインベルグといいます」
 ゼロは彼の騎士を紹介する。そしてゼロの騎士も彼に倣ってユーフェミアの手を取り、その指先へと口付けを落とした。
「ユーフェミア様。私はジノ・ヴァインベルグ。ゼロ様の騎士を務めさせて頂いております。どうぞよろしくお願い致します」
 ジノは身長が高く、スザクやゼロも高いのだが、それを遙かに上回るものだった。その姿はまさしく騎士として相応しく、彼の動作は軍人としても鍛えられてきたものだということを表していた。
「あ、ゼロ様、こちらは私の騎士の枢木スザクです」
「……ゼロ様、枢木スザクです」
 スザクは略式の礼をゼロへと向ける。そして頭を下げながら上目遣いで彼の表情を見る。
「枢木……スザク……」
 ゼロは眉を僅かに寄せると、聞こえないほど僅かな声でスザクの名前を呼んだ。しかし、それは一瞬の出来事で、すぐにそれを打ち消すような笑みに変化させた。
 そして彼はスザクから視線を外し、今度は再びユーフェミアへと向ける。そして静かに口を開いた。
「……どうか、私と一曲踊っていただけませんか?」
「え……ゼロ様が!」
「何であの子と?」
 ゼロの提案に方々から驚きの声が上がる。辺りは一気にざわめきたった。ゼロがユーフェミアをダンスに誘うということがきっと特別なことなのだろう。
 そんな周囲の声を聞きながら、ゼロの提案にユーフェミアは息を呑んだ。皆の尊敬と注目を集めるゼロが自分とダンスを踊る。それがこの学園においてどれ程名誉なことであるか、彼女は今まで知らなかった。だからこそ、周囲の反応にいちいち気を使ってしまう。
「でも、私……」
「大丈夫、一曲だけです。それが終わればすぐに貴女の騎士の元へお返しいたしますよ」
 彼はユーフェミアの耳許でそっと囁いた。
「……はい。ではお願いします」
 ユーフェミアがゆっくりと頷くと、ゼロはその白い手を差し出した。そして、ユーフェミアはその手に自身の手を重ね合わせる。
 まるでお伽話の王子様とお姫様のような二人の姿に周囲は息を呑んだ。スザクはその姿を少し離れたところからじっと見詰めていた。
「貴女のことを何とお呼びすれば?」
 ゼロはユーフェミアの腰を支え、リードしながらその紫玉の瞳に彼女のことを映し出す。
「……ユフィ、……えっと、ユフィと呼んでください」
 今まで母親にはそう呼ばれていたのを思い出し、ユーフェミアはその愛称を告げるとゼロは薄く笑みを浮かべる。
「わかりました。ではユフィ、次で右手にターンして」
 ユーフェミアはゼロのリードでターンを決める。ふわりとドレスの裾が揺れ、そうして静かなステップへと変化していく。オーケストラが奏でる音は心地良く耳に残る。ゼロとのダンスはとても踊りやすかった。ダンスは相手との相性もあるというが、息はぴったりだった。
 クルリクルリと何度かターンを繰り返し、ゆっくりとしたリズムで一曲目が終わると、周囲からは盛大な拍手が響き渡った。
「楽しかったよ。ありがとう、ユフィ」
「いえ、こちらこそ、ゼロ様」
 二人は微笑みあった。お伽話の王子様とお姫様がそこにはいた。
「わたくしの予想は外れたようですわね。あなたも充分《主役》でしたわ」
 神楽耶はスザクのところへ戻ろうとしたユーフェミアに囁く。ゼロと対等に主役としてその場に溶け込んでいたと褒められたのだ。
「それは何よりです」
 ユーフェミアは嬉しくなって微笑んだ。
 しかし、彼女はそのままその場所へ留まることなくゼロの方へと向かってしまった。そして彼女が近付いて来たことに気が付いたゼロは彼女の方へと歩んでいく。
「これは神楽耶様、お久しぶりです」
 彼は先ほどまでと同様に表情を崩すことなく見事なロイヤルスマイルを浮かべてみせる。
「ええ、ゼロ様。もう少し学園にいらっしゃってくださいね。わたくし、ゼロ様がいないと寂しくて死んでしまいますの」
 神楽耶の言葉にゼロは苦笑しながら同意する。
「それは困りますよ。分かりました。もう少し学園にも足を運びましょう」
「まぁ、嬉しい。ゼロ様、どうかわたくしとも一曲踊っていただけませんか?」
「神楽耶様がお望みなら……」
 そんな二人のやりとりを横目で見つつ、スザクはユーフェミアへと視線を戻した。
「ユーフェミア様、自分と、踊っていただけますか?」
 スザクはユーフェミアへと手を差し出す。ユーフェミアは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐにそれは笑顔へと変化して、彼女はその手に自分の手を重ねあわせた。
「スザク……、私、本当に大丈夫かしら……心配なの」
 今まで彼女が生きてきた世界とは違う世界へと足を踏み入れたばかりのユーフェミアは確かに不安がいっぱいだろう。でも、スザクはそうは思わなかった。
「あなたなら大丈夫ですよ。私も全力でサポート致しますから……どうか、肩の力を抜いて楽になさってください」
「ありがとう、スザク。心強いわ」
 身体を密着させるダンスに少しだけ戸惑いを見せながらもユーフェミアは美しかった。

* * *

「ッ、どうして……!」
 薄暗い闇の中、カツカツと鳴り響く靴音が反響する。辺りは既に闇に包まれており、周囲に植わる薔薇の香りだけがその存在を主張する。等間隔に設置されている外灯は薄ぼんやりと辺りを照らし、その中で月の光だけが煌々と輝いていた。
「……皇帝陛下のご命令だと伺っております」
 どうして、という疑問の声に後ろから付いてきた騎士は静かに答える。その声は無機質なもので感情は籠っていない。それが余計に怒りを増幅させるというのに。
「それは解っているッ、問題なのはどうしてその命令に抵抗することなく、従っているかということだ!」
 背後を振り返り、声を荒げながら告げれば、騎士は困ったように眉を下げた。
「……そればかりは私にもわかりません。所詮は人の心ですから……」
 所詮は人の心……移ろいやすく、そして儚く脆い。同じ場所に留まり続けることなどなく、常に変化を重ねている。彼はそう言いたいのだろう。しかし、信じたくはなかった。
「……どうか、落ち着いてください。――ゼロ様」
 自分の後ろから付いて来る騎士は宥めるようにそう言った。彼の言っていることは尤もだと頭では理解している。しかし、どうにも苛立ちを抑えられない。それ程までに自分のことを彼らは動揺させた。
「あの女は《俺》を破滅させる為に此処に来たのだろう? それも《あいつ》を引き連れて……!」
「恐らくそれが狙いでしょう。しかし、ゼロ様……動揺していてはそれこそ思う壺です」
「……動揺など!」
 ゼロは額に伝った汗を手の甲で拭う。
「くそッ!」
 歓迎会では何とか自分を抑えこんでいつも通りの自分を演じきったが、内心は怒りでいっぱいだった。何も知らなかった自分でさえも腹立たしい。何も知らなかった……いや、知らされなかったということが全てを表しているというのに。そう、つまり何も知らせる必要がないと判断されたということだ――…。
「そうですね……今度、彼らを誘ってお茶会でも開いてみたらどうでしょう? 彼らの意図を探るには最適だと思いませんか?」
 金色の騎士は思いついた、とばかりにそう口にする。お茶会、とは名ばかりのものになるだろうが確かに話をする機会にはなるだろう。
「……考えておこう……」
 そう声に出したところで自分の住まう宮殿へと到着する。硝子と大理石で造られた白亜の城が《ゼロ》へと充てがわれた寮だった。
「ゼロ様、どうか今日はゆっくりとお休み下さい」
 ゼロの部屋に到着すると、騎士は目を伏せ、ゼロの手を取りその指先へと口付けを送る。そうして上目遣いにこちらを見詰めた。碧い瞳が自分の姿を映し出す。
「……ジノ」
 騎士の名前を呼ぶと、彼は僅かに笑みを浮かべて頷く。
「……来い」
 ゼロは薄い唇を僅かに歪め、そうして騎士に命令する。
「イエス、ユア・ハイネス」
 ジノはゼロの左手の甲を掴むと、再度その指先に口付けを落とした。
 そのままゼロの私室へと入ると、ジノは待てないとばかりにゼロの唇に自らのそれを重ね合わせる。
「ん……っ……」
 柔らかく啄むように何度も繰り返して、ゆっくりと互いに目を開けて見詰め合う。
「忘れさせて、差し上げましょう……今日見た何もかもを……」
 静かにジノは告げた。
「……ああ、俺は……」
 再び口付けあうと、そのまま背後にあったベッドへと二人で倒れこむ。しかし、背中に衝撃はなく、あるのは柔らかくふわふわとしたシーツの感触だけだった。
 きらきらと光を反射させる金髪に手を差し込み、静かに撫でる。大型犬のようなその大きな体格に安心させられる。彼が自分の騎士になって、随分と落ち着いてきた筈なのに。
「私のことだけ、考えて……」
 ジノはそうしてゼロの首筋にキスを落とす。柔らかく喰むようなそれにゼロはぴくりと身体を震わせた。
「……ん……ッ……」
 ジノは胸元にキスを落とし、指先ではあかくぷくりと熟れた部分を撫でるように弄る。敏感な部分を刺激されてゼロは思わず声を上げた。
「あッ……!」
「ゼロ……様……」
 囁くように自分の呼称を紡いだその声にゼロは目を伏せる。自分のことを名前で呼ぶ者は少ない。そう、ジノでさえも普段は自分のことを《ゼロ》と呼んでいた。
 胸元から移動した指先は臍の窪みを伝い、そうしてその更に下まで辿っていく。内股を撫でるようにして触れられ、ピクリと反応してしまう。
 まるで焦らすように内腿とその周囲を指は辿る。肝心な場所へと触れようとしないそれにゼロは眉を顰めた。
「……ジノ……ッ」
 絞りだすような声で彼の名前を呼ぶ。そして彼はようやく下着の上から既に硬くなっていたその部分へと触れた。
「あ…………ッ」
 先走りの液体がコポリと垂れ、下着をじんわりと濡らす。そんなことには構わず、ジノは下着の上からそれを握りこんだ。撫でるように擦り、ゼロは頬を紅潮させる。直接的ではあるが、まだまだ足りない刺激にゼロは身を捩った。
「んぁ…………ッ!」
 ジノはゼロを握りこむ手とは反対側の手の指を下着のウエスト部分に滑り込ませ、スルリとそれを下げた。そうすると彼の性器がそこから現れ、今度は直に扱き上げる。
「あッ、……アア……ッ!」
 括れた部分を指でなぞり、幹の部分は根元から扱く。そして先端から溢れる透明の液体を塗りこむように先端を刺激する。
「ッ……はや………ッく……」
 早くお前が欲しい。何とか絞り出した声でジノに命令すると、彼は目を細めた。
「イエス……、ユア・ハイネス……」
 耳許でそう囁かれ、ゼロは彼の首へと両腕を回す。そうして口付けを交わす。舌を絡め、深くなっていくところでジノは自らのそれを取り出し、ゼロの蕾へとあてがった。
「あ…………ッ……」
 ゆっくりと入り込んできたそれにゼロは息を詰まらせる。
「ジノ……ッ……」
 咄嗟に彼の名前を口にすると彼は息を詰める。そしてグッと奥までそれが達し、その勢いで彼の背中に爪を立ててしまう。
「……はぁ……っ」
「ゼロ様…………」
 呼吸を落ち着けるように何度か息を吐き出すと、そのタイミングを見計らったのかジノは腰を動かし始める。既にに前からはポタポタと先走りの液体が垂れ、すぐに限界が押し寄せてくる。それでも何とか堪えながら、ジノの感触を確かめるように彼の髪へと指先を絡めながら、顔を近づける。
「……ジノ…………ッ」
「ゼロ様……ッゼロ……!」
 彼は繰り返しその《呼称》を呼んだ。透き通った青空ような綺麗な碧眼がこちらを映し出す。まさに騎士といった風貌の彼は背も高く、何時でも頼ってしまう。年下だというのが信じられないくらいに彼は良くやっている。

――そう、こんなことまで

 この関係は自分が望んだものだ。愛していないのに身体を重ねあわせる。それがこの心を落ち着ける為には必要なことだった。絶望に絶望を塗り重ねてこれ以上どうしようもない時に彼は目の前に現れた。
 誰かの温もりがなければ死んでしまうところだった。

――だからこそ……。

「名前を……ッ、呼んで…………ぁ……ッ!」

――ただ名前を、呼んでほしかった。

 そう、今だけで良いから…………。
「…………愛しています……ルルーシュ、様……ッ!」

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