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背徳の花03

GEASS LOG TOP 背徳の花03
約10,512字 / 約19分

「……ジノ様……こちらにいらっしゃるのですか……?」
 外には日差しが燦々と降り注ぐが、日陰となっているこちらは夜のように暗い。そもそもこの場所はゼロが住まう宮殿であり、一般の生徒は滅多に近づくことは許されない。
 その場所に自分は呼び出されたのだ。そう、敬愛するゼロの騎士によって……。
「お待たせいたしました、神楽耶様……」
 声がした方向を振り返るといつの間にか彼の騎士が薄暗い空間の中に佇んでいた。人の気配を感じなかったのに、と驚きながらも神楽耶は彼の方へと歩む。
「ゼロ様からの、お願いとは……?」
「随分と単刀直入ですね、神楽耶様……」
 ジノはニコリと笑みを浮かべる。
 ゼロから手紙が届いたのが今日の早朝。とても大切な頼みがあると書かれ、詳しくは今日のこの時間にジノが直接会って説明するといったものだった。ゼロからのお願いごとなど滅多にない。彼はこの学園において尤も権力を持っており、彼が願えばかなわない願いは無いと思われた。
 しかし、この神楽耶に直接そういった頼み事をするということはゼロの権力を持ってしてもそう簡単ではない願いなのかもしれない。
「今日はこんなにお天気が良くて、ゼロ様にお散歩をお勧めしたのですがね、断られてしまったのです」
 ジノは口元に薄く笑みを浮かべた。日差しはぽかぽかと暖かく、風も冷たくはない。花の良い香りが学園全体に漂い、何とも麗らかな午後である。それだというのにゼロは外出を是と思わなかったようだ。
「……それは勿体無い」
 ジノの言葉に神楽耶は思ったままの言葉を告げる。こんなに良いお天気なのに外に出ずに宮殿に引きこもりきりなのは勿体無い、と。
「ええ、そうでしょう? しかし……ゼロ様には心配事がありまして、それどころではないといったご様子なのです」
「……あのお方に心配事が?」
 ゼロに心配するような懸案事項があるのだという。昨日は珍しく転入生とダンスを踊ってみせたが、その時の彼にはそんな心配事があるような悩ましげな表情は見られなかった。
 ふわりと柔らかな風が二人の髪を揺らす。湿り気を含まない優しい風は日本のものとは随分と違って感じられた。ブリタニアと日本は違う。この短い学園生活をブリタニアで過ごすことは神楽耶にとってとても楽しいことだった。日本にいれば皇として一回りどころかそれよりずっと歳を取った翁たちと国の行く末について議論しなければならなかった。でも、この場所では学生として歳の近い友人たちと過ごすことが出来る。
 しかし、そんなこの学園に自分の従兄がやってきた。自分よりもずっと前に彼の意思を無視して彼はこの国へと送り込まれた。自分がこの場所にいることは自分の希望であったが、彼がこの場所にいるのは彼の希望ではなく、それが彼の仕事だからだ。
「はい、昨日から心を痛めていらっしゃって……そう、貴女の従兄のことです」
「……スザクがどうかなさったの?」
 そう、ゼロの心配は自分の従兄のスザクに原因があるらしかった。彼とスザクが何か関係しているのだろうか、と不安になりながらもジノの話に耳を傾ける。
 ジノは眉を下げ、不安げな表情を浮かべながらゆっくりと話し始めた。
「実のところ彼の主はゼロ様の立場を危うくしようとしていらっしゃるのです」
「……それは、一体……」
「つまり、ゼロ様の地位を奪い取ろうと目論んでおられるということです」
「……ユーフェミアさんが?」
 ジノの言葉に神楽耶は目を瞠る。あの転入生がまさかそんなことを考えているとは思ってもみなかった。皇族と関わりの深いあのゼロの地位を奪い取ろうとするなど普通の考えでは出来ない筈だ。そして自分の従兄はそんな人物の騎士をしているというのだ。
「そう、ですから貴女の従兄そんな危険な女性の騎士にしておくのは危ういとゼロ様はお考えです。ゼロ様はそんな貴女の従兄をゼロ様か貴女の騎士に、と」
 確かにその話が事実であるとするならば従兄はかなり危険な人物の騎士をしているということになりその立場は危うい。しかし専任騎士を第三者が辞めさせることは難しいし、あの頑固な従兄がそう簡単に自らが決めた主を変えるとは思えなかった。
「ですが、そんなに勝手なこと、幾らわたくしでも……」
「神楽耶様ならば出来るではないですか、そう……決闘をすれば」
 決闘……この学園において生徒たちに許された一つのルール。騎士同士を戦わせ、勝った方が負けた方へ条件を突きつけることが出来る。しかし、自分が負ける可能性もあり、そう簡単に仕掛けられるものでもない。故に決闘が行われた例は少なく、神楽耶もそうそうと決闘を挑めるような立場ではない。しかし……。
「……決闘……ですか……」
「ええ、そうです」
「……ゼロ様が……お望みなら……わたくしは……」
 ゼロがそれを望んでいるのならば、自分の立場が多少悪くなろうと構わなかった。ゼロのことが好きだった。ゼロの為ならば何でも出来ると思ってしまうくらい。だから……。
「……ええ、ゼロ様はお喜びになりますよ」

* * *

「ユーフェミアさん、そういえば先日のダンス素晴らしかったですわ」
 授業が終わった頃、自席でノートを取っていたユーフェミアが顔を上げればそこには神楽耶が立っていた。高等部の淡い黄色の制服を着ているが、その姿は少し幼く思えるのは彼女が数年分飛び級してこの学年に在籍しているからなのだという。
 碧色の瞳はスザクのものとよく似ていて、二人が血縁者であることを思い出させる。そんな翡翠の瞳を僅かに細め、神楽耶は笑顔を作った。
「ゼロ様とのダンスも、あなたの騎士とのダンスも……」
「ありがとうございます」
 ユーフェミアは素直に礼を告げる。彼女の後ろに立っていたスザクはその様子を何も言わずに静かに見詰めていた。
「だから……あなたの騎士……枢木のお兄さまを戴きたいの」
 しかし、彼女が続けた言葉は驚くべきものだった。ニコリと浮かべている笑みは決して冗談を言う時とのそれとは違っていて、その瞳は決して笑ってはいなかった。そう、これは本気の表情だ。
「え……っ……?」
 ユーフェミアは思わず首を傾げてしまう。そして困ったようにスザクと神楽耶を交互に見た。
「わたくしと決闘していただけないかしら? ユーフェミアさん」
 神楽耶はもう一度ニコリと笑みを向けてみせた。
「……神楽耶、どういうつもりだ……?」
 今まで黙っていたスザクはようやく口を開く。
 どうして自分のことを手に入れようとするのかスザクには解らなかった。彼女は確かに従妹ではあるが、この八年間会うことはなかった。それを何故今になってそのような手段に出る? ブリタニアに売り払われた自分を手に入れて一体何をするつもりだというのか。
「ブリタニアに売られたあなたを助けて差し上げたいの。今のわたくしならそれが出来るわ」
 人助けだ、とでもいうのだろうか。それならばそんなことはとっくに手遅れだということに何故気がつかないのだろう。自分はこの国に来て長い年月が経つ。そこでブリタニアに仕え、そうして日本への愛国心は遠に薄れてしまっている。なのに何故今更。スザクは眉をグッと寄せ、鋭い目付きで神楽耶を見据える。一体何が目的なのだ、と。
「……僕は……」
「あなたは八年前、あなたのお父上であらせられる枢木首相によってブリタニアに人質として売られた。だからブリタニアの軍人になったのですよね?」
 神楽耶の言葉は確かに事実だった。この国に来たのは自分の意思ではなかった。その上、ほぼ人質のような扱いで、親に棄てられたも同然だった。
「ああ……そうだ…………。僕は八年前にブリタニアへ売り渡された」
「……スザク?」
 スザクの答えにユーフェミアは不安そうに名前を呼んだ。
 しかし、神楽耶の言うことは間違いなく事実だった。そう、間違いなく枢木スザクは実の父によってブリタニアに売り払われた存在だった――…。
「今、わたくしの手を取れば一緒に日本に帰ることも出来ますよ」
 神楽耶は提案する。自分の手を取ればブリタニアから日本へと帰ることが出来る、と。しかし、なんと言おうがそれは今更のこと。自分は次期皇帝に仕える専任騎士なのだ。そう簡単に職務は放棄出来ないし、そもそも日本に戻るつもりなどなかった。自分を売り払った国に帰ろうなど誰が思うだろうか。帰ったところで再び利用され、政治の道具にされることは明らかだった。
「ユーフェミア様、自分は確かに八年前、日本から人質としてブリタニアへと送られました。そこで生き残るために軍人となり、そして騎士となる道を選びました。しかしユーフェミア様……私は日本に帰りたいなどとはこれっぽちも思っていません。日本は……父は自分のことを棄てたのです」
 はっきりと断言する。主に誤解されては騎士として仕えていくことは困難になる。騎士と主とは信頼し合える関係でなくてはならない。特に専任騎士の場合は信頼関係がなければ成り立たないのだ。
「……スザク、私……あなたの意思を尊重するわ」
 ユーフェミアは覚悟を決めたようにゆっくりとはっきりした発音で発言する。騎士の意思を尊重する。それは主であるユーフェミアからの信頼を凝縮した言葉だった。彼女は自分のことを信頼してくれている。その信頼を裏切ることなど出来ない。
「ふん、相変わらず自分勝手ですね、スザク」
 神楽耶は眉を寄せ、口端を上げる。
「あなたがわたくしに勝ったことがあったかしら?」
「自分勝手なのは神楽耶、君だろう?」
 昔からスザクを振り回し、自分勝手を働いていたのはどう考えても神楽耶の方だった。そんな嘗てのことを思い出しながらもスザクはじっと神楽耶へと視線を送った。これ以上勝手な真似はされたくなかった。しかし、神楽耶がこれで引き下がるとも思えなかった。
「……良いですわ。ユーフェミアさん、あなたに決闘を申し込むわ」
 決闘――それは主が騎士同士をある一定条件の下で戦わせ、勝った方が条件を呑むというものだった。
「決闘!? ちょっと神楽耶、何云ってるのよ」
 隣に居たミレイが焦ったように神楽耶へと視線を向け、牽制する。決闘を申し込むということ自体、普通はしないことなのだろう。望みを叶える可能性を得る代わりに、大切なものを奪われる可能性があるのが決闘なのだ。
 そして小さな問題でこの決闘にまで発展することはまず無い、これは全生徒が見守る前で行うことにより、この学園全体が証人となる大々的なイベントとなるのだから。
 神楽耶はその決闘をユーフェミアへと申し込んだ。
「どちらにしても決闘は受けなければ不戦勝となりこちらの勝ち、あなた方はわたくしとの決闘を受けるかそのまま負けを選ぶかしか道はないですわ」
「……だが、君に騎士はいないだろう?」
 そう、決闘は主たちがするのではない。主の任命した騎士同士が戦ってこそ、決闘なのだ。神楽耶にはSPは多くいるが、専任騎士を持ったという話は聞いていないし、専任騎士がいるならば常に彼女の傍にいるべきだ。
「いいえ、わたくしも騎士を決めました。……さぁ、藤堂中佐」
「な……ッ!」
 神楽耶の口から出た名前にスザクは声を詰まらせた。ガラリと教室と廊下を繋ぐ扉が開いた音がした。
「出ていらして」
 神楽耶が教室のドアの方へと視線を送ると懐かしい姿にスザクは息を呑む。旧日本軍の軍服を纏い、ブーツの音を鳴らして彼は静かに教室内へと入ってくる。周囲に居た他の学生たちは今まで二人のやり取りを見ないふりをしていたが、遂に彼らの方へと注目せざるを得なくなっていた。
「……スザク君、久しぶりだな……」
「藤堂……先生……」
 再会を懐かしむ余裕などなかった。藤堂鏡志朗中佐は旧日本軍において奇跡を起こし続けてきた。本来ならば戦犯となる筈だったが、その利用価値に気付いたブリタニアは彼のことを生かしたのだ。
「あなたは勝てるかしら? かつての恩師に」
 にやりと愉しげに笑みを浮かべる神楽耶にスザクはグッと眉を顰めた。

 今回神楽耶が提示した決闘のルールはこうだ。木刀で戦い、木刀を手放したら負け。または動けなくなったら負け。シンプルで簡単なルールだった。これならばそう簡単に不正は出来ないし、自分も藤堂鏡志朗も自身の力を発揮しやすい勝負になるだろう。
 しかし自分に剣道の稽古をつけたのは藤堂だ。果たして彼に勝つことが出来るか、八年前なら難しかっただろう。でも今なら――…。
 だてにナイト・オブ・ラウンズの一員となった訳ではない。ブリタニア最高の騎士となる為、自分は戦い続けてきたのだから。
 校庭には多くの生徒達が集まっていた。周囲はこの決闘を見守るように二人の姿とその両脇に席を構える騎士の主達に注目していた。ふわりと風が吹き、砂埃が舞う。全生徒に決闘観戦の招待状を送ったのは神楽耶だった。しかし、招待状の最後には神楽耶の名前と共にユーフェミアの名前もしっかりと記されていた。
 二人はそれぞれに自らの騎士を戦わせる。そして勝った方が自ら望むものを手に入れることが出来るのだ。
「では私が審判として呼ばれたので、仕方ないが審判を下そう。全く決闘とは……」
 C.C.は眠たそうに欠伸をしながら二人の横に現れる。
 黒色のドレスに身を包んだ彼女は真ん中の席へと着席する。決闘の観戦は盛装が基本であり、ユーフェミアや神楽耶もしっかりと盛装を着ていた。神楽耶は日本の民族衣装である振り袖を、ユーフェミアは羽根の模様が散りばめられたドレスをそれぞれ身に纏っていた。
 スザクはいつも通り騎士服を着用し、藤堂も軍服を着ている。そしてそれぞれの手には木刀が握られていた。
「ねぇ、スザク……藤堂さんってあなたの師匠だったのでしょう?」
 スザクはユーフェミアの席へと近づく。彼女は向かってきたスザクへ気が付くと眉を下げ、心配そうに訊ねる。
「ええ、でも、自分は……僕は……負けません」
 嘗て日本がエリア11となる前、藤堂鏡志朗はスザクの恩師だった。当時はあの強さ、あの知略に富んだ相手の隙を見透かすような戦術にスザクは為す術もなかった。けれども今ならば――…。
 今なら勝ち目は充分にあると思う。もうあの時の幼い子供ではないのだ。ナイト・オブ・ラウンズにもなり、そこから次期皇帝へと仕える専任騎士となった。弱ければそんなことが叶う筈もない。
 スザクはユーフェミアの方を離れ、決められたエリア内へと足を踏み入れる。地面にはチョークで白くラインが引かれており、そこから出てしまった場合も負けとなる。
 藤堂鏡志朗は旧日本軍の軍人だ。それこそ戦後戦犯となるかと思われていたが、その頭脳は戦後処理に役に立つとされ、彼は生かされた。その彼がどうして神楽耶の騎士なんかに……。
「神楽耶様はこれからエリア11の形だけの姫として旧日本の象徴となると決まっている。ブリタニアとの友好の証としてブリタニアの皇子とも婚約が決まっている……」
 だから神楽耶を護ることはこの国の未来を護ることと同一となるというのか。スザクは真っ直ぐに藤堂へと視線を向ける。彼も目を細めてスザクの方へとじっと視線を送る。
 視線だけで人は倒せない。それでもこの場所に確かな緊張感を産むことは出来る。これは確かにお嬢様方のゲームなのかもしれない。しかし、国を動かすような出来事に成りかねないという危惧もある。彼女達にはその力があるし、きっとその自覚もあるのだろう。だからこそ負けるわけにはいかなかった。
「騎士、というのは日本人である私には少し馴染みがないがね、しかし神楽耶様を護らねばという気持ちはきっと騎士という精神とどこか似たところがあるのかもしれない……だから……」

――だから……。

「負けるわけにはッ!」
 スザクも藤堂も足を踏み出す。木刀を前に掲げ、片足で地面を蹴る。跳び上がり相手へと狙いを定める。

――カン……ッ!

 木刀同士がかち合う音が響き渡る。一瞬の出来事に客席に座っていたユーフェミアや神楽耶を含めた生徒たちは皆、息を飲んだ。そしてユーフェミアは心配そうに、神楽耶は自信ありげに二人を見守っていた。
「ッ…………!」
 二人ともそれぞれ背後に跳ぶ。そして再び前へと駆ける。藤堂は横からスザクは上から木刀を振るい上げる。間髪置かずに動き出す二人に手に汗握る展開が続く。
「ねぇ、どうして神楽耶はユフィに決闘なんて挑んだの?」
 ミレイは自分の座る席のすぐ後ろに立つロイドに訊ねた。
「従兄妹同士、切っても切れない縁があるってことですかねぇ。エリア11とブリタニアは少々複雑ですし、あの二人の関係ももっと複雑みたい……ということでしょうねぇ」
「枢木卿は父親に棄てられたらしいですからね、自らの血縁者を恨んでいる可能性は高いと思いますしね」
 更にミレイの近くに座っていた女生徒の騎士である黎星刻は補足する。
「あら、天子様もいらっしゃっていたんですね」
 丁度中華連邦からアッシュフォード学園に短期留学中していた蒋麗華こと天子も同席していたようだった。彼女は神楽耶のことを心配しているのだろう。星刻の手をギュッと握りしめながらスザクと藤堂が戦う様子をじっと見詰めていた。
「ええ、神楽耶様は天子様の大切なお友達ですから」
「……負けないよね? 星刻……」
「きっと心配はいりませんよ、天子様。藤堂は優れた武人だと聞いています」
 星刻は天子を安心させるように手をぎゅっと包み込み、膝をついて天子の顔を覗き込む。
 そうしている間にも、木刀が弾きあう鋭い音が再度辺りに響く。
「ふっ……、スザクくん……強くなったな……」
 藤堂は薄らと笑みを浮かべる。
「今はもう……ッ、負けませんッ!」
 スザクは藤堂の台詞に答えながらも木刀を振るう。
 何度か打ち合いになって一度間合いを取るように後退する。次こそ一気に仕掛けなければ。スザクは額に汗を垂らしながら構えに入る。
 そして再び互いに駆け寄りながら木刀を振るう。
「く……ッ……!」
 今度はジリジリと木刀を合わせる。やはり藤堂鏡志朗の名はダテではない。自分の師匠なのだ。強い――…。
――でも……ッ。
 この国に来たのは確かに自分の意思ではなかった。しかしこの国の軍人になって留まろうと思ったのは確かに自分の意思だった。大切なものを護る為に……!
 とてもとても大切で、絶対に手放したくないもの。それが何かは今はもう思い出せないけれども、この国で自分にはまだやれることがあると思う。その為にユーフェミアの騎士となり、彼女を護る!
「僕は……ッ、負けない…………ッ!」
 スザクは腕にありったけの力を込めて木刀を押し返す。両足で何とかギリギリと地面に踏ん張りながら互いに譲らない状況が続くが、しかし。
「ッ弾いた!」
 外野から声が上がる。スザクが藤堂の木刀を弾き返し、そして彼の手前で木刀の先端を止めた。
 喉元に木刀を突きつけ、藤堂は目を伏せる。そして負けを認めるように木刀を地面へと置いた。
「……私の負けだ」
 潔く負けを認めるその姿勢は不正や狡を嫌うスザクと共通していた。そして、その潔さがスザクは藤堂を慕った理由の一つだった。強いだけではない。負けを認める時は認め、次に勝つための努力をする。それが藤堂鏡志朗だった。
「……強く、なったな……スザクくん……」
 藤堂はようやくスザクに笑顔を向ける。スザクの覚悟がこの勝負を通じて彼にも伝わったのだろう。日本に、エリア11に戻るつもりがないという決意を。
「枢木スザクの勝利!」
 C.C.は気怠そうに宣言する。拍手が巻き起こる中、二人は握手を交わした。
「……ありがとうございます。藤堂さん」
「スザク君、君は君が思う道を進むんだ」
 師匠からの言葉にスザクは頷く。認めてもらえたという事実が単純に嬉しかった。
「はい……! ありがとうございます……藤堂さん……」
 スザクは踵を返し、ユーフェミアの方へと駆け寄るとユーフェミアと神楽耶も席を立ち、スザクの方へと向かってきた。
「スザク!」
「ユーフェミア様……」
 ユーフェミアはスザクに抱きつく。
「スザク……良かった……」
 そんな彼女の肩をポンポンと優しく叩きながらスザクは神楽耶へと視線を向ける。彼女は眉を寄せ、不満そうな表情でその翡翠の瞳を向けた。
「神楽耶、僕の勝ちだ」
 そう宣言すると、神楽耶は悔しそうにフン、とそっぽを向いてしまう。
「本当に頑固なんだから」
 頑固なのはお互い様なのだ。それでも神楽耶は憎めないし、神楽耶も自分のことをそう思ってくれているだろう、神楽耶の様子から何処かでそう感じていた。
「それであなたはこの私に何がお望み?」
 そう、決闘で勝利した者は相手に一つ要求が出来る。神楽耶はそのことを言っているのだろう。ユーフェミアはうーん、と少し考えるような仕草をすると、パッと顔を明るくさせた。
「ギアス……ギアス五個というのはどうですか?」
「……五個? そんなに少なくて良いの?」
 神楽耶から帰ってきた言葉は思ってもみなかったもので、ユーフェミアは目をパチクリさせた。
「ええ、五個で良いわ」
「ふふ、変わった人ですね……。わかりました。ではギアスを……」
 そうしてお互いに歩み寄ろうと思っていたその時だった。
 突然にパチパチと拍手が聞こえてきた。音のする方へと振り向くと、そこにはゼロと彼の騎士の姿があった。彼は口元を僅かに吊り上げながら口を開く。
「……素晴らしい戦いだったよ。枢木卿、藤堂卿……」
 紫紺の瞳がこちらを映す。いつの間にかこの戦いの観客となっていたようだった。周囲はその白熱した戦いに気を取られて気がついていなかったし、スザク自身も藤堂から意識を逸らす余裕などなかったから彼が観客に加わっていたとしても気が付くことなど出来なかった。
 ゼロは何度見ても美しく整った容姿をしており、人の目を惹きつける。そしてその容姿に見合った美しく穏やかな仕草で見るものを魅了する。
「「恐れいります」」
 スザクもそのすぐ後ろにいた藤堂もゼロに頭を下げた。
「今日は皆さんをお茶会にご招待しようと思って来たのだけれど、こんなに素晴らしい戦いを観ることが出来るとは思っていなかった。なぁジノ」
「ええ、まさに武士の戦いというのはこのようなものをいうのでしょう」
 ジノは薄く笑みを浮かべた。この主従は本当に目を惹きつける。二人の登場に気付いた生徒達はゼロが話している為に歓声こそ上げなかったが、彼らに注目して目を離せなくなっていた。
「では改めて皆さんを一週間後にお茶会にご招待いたしましょう」
 しかし、ゼロがそう告げると、周囲からは一斉に拍手と歓声が溢れた。
「ゼロ様がお茶会を開かれる!?」
「何着て行こうかしら!」
 そんな会話が端々で聞こえてくる。
「お茶会って……私も?」
 ユーフェミアはきょとんとそう口にすると、ゼロはゆっくりと更にこちらへ近づいてくる。
「勿論だよ。ユフィ、お茶会のメインゲストは貴女と貴女の騎士ですから」
 ニコリと最上級の笑みをこちらに向ける。彼が何を考えているのか解らず、スザクはそっとユーフェミアに近付いた。
 どうして彼はユーフェミアに拘るのだろう。周囲の人間はそう思ったに違いない。しかし、スザクには彼の意図が何となく理解出来ていた。そう、真実を知る者は少ないのだ。
「そんなに警戒しなくても良いと思いますがね、枢木卿……。そう、何故なら……」

――ユフィ……貴女と私は同じ《ブリタニア》の姓を持つ者ではありませんか……。

「そうでしょう? ユフィ……いや、ユーフェミア・リ・ブリタニア皇女殿下……」
「な、に…………?」
 ゼロの言葉にユーフェミアは驚いたようにそう零す。そしてスザクだけではない……周囲は皆、息を詰まらせた。
「……ブリタニア? 皇女殿下……? ……じゃあ……《ギルフォード》……は偽名……?」
 何処かでそんな声が聞こえる。ミレイの声だ。
「おや? もしかして……内緒にしていたのかな?」
 ゼロは笑みをこちらへと向けてきた。そう、ユーフェミアは自身が皇族であると隠していた。しかしゼロはそうではない。皆、軽々しくその話題は口にはしないが、知っていたのだ。ゼロが皇族であったということは。知らなかったのはユーフェミアだけだった。
「ついつい同じ名前を持っていると知って嬉しくなってしまって……それに久しぶりにスザクに会ったら昔のことを思い出してしまいました……今は貴女の騎士なのに」
「今は……?」
 ユーフェミアは疑問の声を上げた。そう、疑問に思ったのはユーフェミアだけではなかっただろう。
「もしかして貴女はスザクに訊いていなかったのかな? 彼は貴女の騎士となる前、この神聖ブリタニア帝国第一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの騎士だった、と」
 その言葉に周囲は更にざわめきたった。ゼロが皇族の血筋の人間だということは知っていたが、皇子だということは知らされていなかったのだろう。
 そう、自分は嘗て……彼の騎士だった。皇帝直属の騎士、ナイト・オブ・ラウンズとなる前までは……。しかしこんな風にユーフェミアに教える必要が何処にある? 一体彼は何を企んでいる?
「そうでしたか……。枢木卿、事実はきちんと説明しなければ、信用を喪うと思わないか?」
 ゼロはスザクへと視線を移す。確かに彼の言うことは間違いではない。しかし、伝え方というものがあると思う。結果が全てではないのだから。
「……私は……信頼していたよ。お前のこと」
 嘗ての記憶がぼんやりと頭に浮かぶ。彼の騎士をしていたのは間違いないが、そこまで信頼されるようなことをした憶えはなかった。そう、彼はユーフェミアに嫌がらせをしているのだ。何故ならば彼とユーフェミアは皇位を争うことが出来る立場なのだから。
「では、私はこれで失礼。是非お茶会でまたお話したいな、ユフィ」
 ゼロは踵を返して彼の住む宮殿の方へ向かっていく。そして後ろにはジノが続く。皆は動けずじっとその場に立ち竦むだけだった。

Novels
  • Suzaku*Lelouch50
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