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背徳の花05*

GEASS LOG TOP 背徳の花05*
約11,986字 / 約21分

 夕暮れの中二人は静かに庭園の中を歩く。薔薇園には幾重にも重なった花びらが美しい薔薇の芳香が漂っていた。
 その中を静かに時間が流れていく。スザクと出会ってまだそんなに時間は経っていなかったけれども、此処まで特殊な学園で彼はしっかりと自分のことを護り、そして支えてくれてきた。
 そんなスザクをルルーシュは欲しいと云った。果てしないその想いはユーフェミアにもじわじわと伝わっていた。彼は皇位より何よりもスザクのことを望んでいる。だからといって簡単にスザクを差し出してしまって良いのだろうか? スザクはどう思っているのだろう。自分を支えたいと言ってくれたスザクは、本当はルルーシュのことを望んでいるのではないだろうかとそう思ってしまう。
 ルルーシュだけがスザクのことをあんなにも望み、スザクはそうではないというのだろうか。ルルーシュの一方通行? それでは哀しすぎる。ユーフェミアがスザクに気持ちを確認することはいけないことだろうか。
「スザク、あなたはどうしたい?」
 ユーフェミアはゆっくりと後ろに立つスザクの方へと振り返る。スザクはそんなユーフェミアを前に足を止めた。
「ユーフェミア様……解らないんです……自分の気持ちがまるで……自分ではないようで……」
「……どういう……こと?」
 スザクの戸惑ったような声にユーフェミアはそう訊ねざるを得なかった。スザクは困惑しているように見える。それはどうしてだろう。
「記憶が……曖昧なんです……。そう……ルルーシュ様に仕えていた時のことが……」
 思わぬ言葉にユーフェミアも戸惑ってしまう。一体スザクに何があったというのだろう。
「大切なものを失くした時のような喪失感はあるのに、何が大切だったのか思い出せない……そんなことってありますか……?」
 ふわりと風が吹き、カサカサと音を立てて薔薇の葉が揺れる。白い薔薇の花びらがハラリと風に舞い、地面へと落ちてゆく。
 そうして二人が見つめ合っているところに静かに人影が近付いてくることに気が付いた。白薔薇の花壇の間に、純白のドレスに黒いケープを纏ったC.C.が佇んでいた。
「C.C.……さん……?」
 ユーフェミアは彼女の名前を呼ぶ。どうしてこんなところに急に学園長である彼女が現れたのだろう。お茶会は先ほど解散したし、その場に彼女は居なかった。そしてこの時間は既に薄暗くなりかけており、花を見に来るというのにも少しおかしな時間だろう。
「やぁ、ユーフェミア、スザク。久しぶりだな」
「……お久しぶりです」
 C.C.に会ったのは神楽耶と決闘をした時以来だった。
「聞いたぞ、今度はルルーシュと決闘だと? 普通はこんなに短期間に決闘なんぞしないぞ?」
 そうは言うもののその顔には面白いものを見る時のようなニヤリとした笑みが浮かんでいる。
「ええ……。何だかよく決闘を申し込まれてしまって……」
 ユーフェミアは苦笑する。
「全く困った奴らだな。ルルーシュの奴……せっかく皇位から解放されたというのに」
「……C.C.さんも、ご存知だったんですか?」
 どうやたC.C.もルルーシュが皇帝の血を引かない皇子だということを知っていたらしい。
「まあな。何と言っても私は奴の母親に頼まれて見守ってきたのだから」
 彼女はルルーシュの母であるマリアンヌにルルーシュのことを見守るように頼まれて、この学園の学園長として彼のことを見守ってきたのだという。C.C.はそんな年齢には見えなかったが、実年齢はそうでもないらしい。
「マリアンヌ后妃に……?」
「そうだとも。シャルルにばれないように上手くやってほしいと言われてな」
 C.C.は皇帝のことをシャルルと呼んだ。それ程までに彼らと親しい中なのだろうか。そして彼女はどうやら皇帝よりもマリアンヌの方に従うらしかった。
「ルルーシュは相変わらずスザク……お前にご執心だな……お前は憶えていないだろうが、決闘が終わったら教えてやろう。お前が忘れてしまった真実を。それがマリアンヌの願いだから……」
 忘れてしまった真実……その言葉が何を表しているのか解らなかった。スザクは一体何を忘れてしまったというのだろう。彼とルルーシュとの間に何があったのだろう。
 ユーフェミアの頭の中は疑問でいっぱいだった。自分が何も知らな過ぎるせいで彼らを助けることも手を差し伸べることすら出来ないというのだろうか。
「……あなたは一体……」
 スザクは不可解なものを見る時のような怪訝な表情を浮かべた。そんな彼の表情にC.C.は眉を下げ、視線を逸らしながら哀しげな顔をした。
「私もな、見ているだけでは駄目だと思ったんだよ。お前たちを見ているとな思い出してしまう。……力によって人生を狂わされた奴らをな……。私はいつでも傍観者に過ぎなかったが……それでも苦しむ者を見続けるのは辛いものだな」
 口端だけを上げ、笑顔を作ろうとする彼女だったが、上手く笑うことは出来ていない。彼女に過去に何があったのか推し量ることも彼女に訊ねることも出来なかった。けれども彼女はこれ以上権力に振り回され、傷つく人が出ることを恐れているようなそんな気がした。
「……私はルルーシュの味方だ。だが、決闘の審判は公平にすることを約束しよう」
 黄金に輝く瞳を細め、彼女はユーフェミアとスザクを交互に見ると身体を翻し、去っていった。

* * *

「準備は大丈夫ですか? ユーフェミア様……」
 スザクは盛装の純白のドレスにそっと後ろから白いレース製のストールを掛ける。ユーフェミアはその端を手で持ち、ゆっくりと歩き出す。ふわりとストールとドレスの裾が揺れ動いた。
「ええ、あなたこそ……。私……心配だわ……まさか真剣で勝負だなんて……」
 ルルーシュから送られてきた決闘のルールが書かれた紙には剣は真剣を使うと記されていた。藤堂との戦いの時は木刀だったからそれ程大きな怪我には繋がらなかったが、真剣とあれば掠っただけでも怪我は免れないだろう。
「自分は全力を尽くすまでです……ユーフェミア様。さぁ参りましょう」
 足を踏み出すと、ユーフェミアのヒールの音がコツリと音を立てる。そして会場へと二人は向かう。
「段差にお気を付けください」
「ありがとう、スザク」
 決闘会場へと到着するとスザクはそんな彼女の手を取り、そして彼女が座る観覧席の段差を上り易いように支えた。
 日が傾き、薄暗くなりかけていた校庭に学生たちは集められた。この学園の象徴である存在《ゼロ》が決闘をするとあればそれは当然のことだった。
「ゼロ様だわ!」
「ゼロ様ー!」
 ゼロ――ルルーシュの入場に周囲は歓声を上げる。彼はいつも通り穏やかで洗練された振る舞いで、自身の席に着く。彼の席は特別でまるで王が座る玉座のような作りになっていた。そしてその彼の騎士であるジノ・ヴァインベルグが彼の手を取り、その指先にキスを送っているのが見える。
 それはもう王子様と騎士といった様子で周りからは女子だけでなく男子からも声が上がっていた。
「ユーフェミア様……」
 スザクの声にユーフェミアは視線をスザクへと戻す。
「スザク……無理はしないでね。あなたの身の安全が第一だから……」
 スザクに何かあったらいても立ってもいられないだろう。母を亡くした今、これ以上誰かが傷つくのを見たくなかった。
 皇女という立場が如何に危険で、狙われやすいかまだ実感が湧かないところがある。けれどもそれはスザクが常に自分のことを護ってくれていたからであり、危険であることを悟らせないように配慮してくれてきたから。
 母は后妃であったにもかかわらず自分の為に皇宮を去った。それがどんなに大変なことで、どんなに辛いことだったか何となくではあるが想像出来る。だからこそ自分は無事にこの生命を繋がなければならないし、これ以上他の誰も傷つかないように護りたい。そう思った。
「ありがとうございます」
 スザクは礼を述べるとゆっくりと校庭の中心へと向かっていく。彼が纏うのは純白の騎士服。そしてジノが纏っている騎士服も純白のものだった。そしてそれはルルーシュが指定した色だった。

――血の色が良く見えるように……。

 ユーフェミアは胸の前で両手を組みギュッと祈るような仕草をしながら眉を下げる。
 二人のジャケットの胸ポケットには共通して薔薇が一輪挿し込まれていた。ルールはお互いの薔薇の花弁を散らし、先に花弁が全て落ちた方が負け。相手と戦うのには真剣を用い、その使い方のルールは特別には指定されていない。
 ルルーシュは本気だった。本気でスザクを求めていた。

――それなのにどうして大切な存在である筈のスザクやジノを傷つけるようなやり方を選ぶの?

 ルルーシュの考えは自分には解らない。けれども自分は大好きな相手には傷ついてほしくなかった。
「ではこれよりルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの騎士ジノ・ヴァインベルグ対ユーフェミア・リ・ブリタニアの騎士枢木スザクの決闘を始める」
 C.C.は二人の間に立ち宣言する。
「お手柔らかに、ユフィ、枢木卿」
 ルルーシュは笑みを浮かべてマントを掲げて一礼する。ユーフェミアはそんな自信たっぷりの彼と彼の騎士を不安げな表情で見詰めながら礼をする。
「こちらこそ、ルルーシュ、ヴァインベルグ卿」
 そして決闘が始まろうとしていた。
「手は抜かないでくださいね。枢木卿、私は強いですよ?」
 ジノは囁くように耳打ちする。大切な人が望むのならば何だって捧げてみせる。彼はそう続けた。
 ルルーシュの欲しいものを手に入れる為ならば、命だって差し出すとジノは断言出来るのだろう。それが専任騎士の務めだ、と。けれどもスザクにはその気持は解らない。
「自分も負けられません。ヴァインベルグ卿……」
 そもそも元々ジノはナイト・オブ・ラウンズに入る予定だった騎士らしい。しかし、どういう経緯かナイト・オブ・ラウンズに入ることなくルルーシュの騎士となったのだという。
 つまりナイト・オブ・ラウンズに入れる程の実力を彼も持っていて、事実上のナイト・オブ・ラウンズ対決といっても過言ではない状況だった。
 枢木スザクはナンバーズからナイト・オブ・ラウンズにのし上がったこともあり、その戦闘能力の評価は極めて高かった。だからこそ次期皇帝と云われるユーフェミアの騎士として任命された。
 圧倒的な身体能力、剣技。どれを取っても一流だった。対してジノ・ヴァインベルグは考えるより先に身体が動くスザクとは違い、考えた上でその時の状況に応じて戦略的に勝ちを取りに行くタイプだった。
 ラウンズレベル同士の戦いに、観客となる学生達はいつもよりも一層注目が高まっているようにも思えた。しかし、圧倒的に人気があるのはルルーシュの騎士であるジノの方であり、スザクの方が状況的にはアウェイで不利だった。
 そう、この決闘で実際に戦うのはジノとスザクだが、ルルーシュとユーフェミアの勝負なのだ。だから圧倒的な人気を誇るゼロであるルルーシュを応援するのが大半だった。
「ユフィ、私はあなたの騎士、応援してるわよ」
 すぐ隣に座っていたミレイはウインクを送る。そんな彼女の言葉が心強かった。
「ありがとう。ミレイさん」
 ユーフェミアに出来ることはスザクのことを信じ、強い気持ちを持って応援することだけだ。
 ジノとスザクはお互いの出方を探るようにジッと見詰め合う。先に動いたのはスザクの方だった。日本刀のようなデザインの剣をジノへと向け、振り下ろす。ジノはサーベルでそれを防ぐ。キィンと金属同士がかち合う音が辺りに響き渡る。
「……ッ」
 互いの剣が打ち合う衝撃にスザクは顔を顰める。身長差もあり、確かに体格的には少し不利ではある。しかし、そんな条件でも負けるつもりはなかった。何とか互いに弾き返し、再び剣を向け合う。
「ルルーシュ様の願いは私が叶える……!」
 ジノは跳び上がり、上から剣を振り下ろす。スザクの肩を僅かに剣先が切り裂いた。そしてその部分からタラリと血が一筋垂れる。
「スザクッ!」
 ユーフェミアが観客席から叫ぶ声が聞こえた。そして胸元の薔薇の花が一枚散っていることに気が付く。
「枢木卿、ルルーシュ様はどんな手を使ってもあなたを手に入れたいと仰られました」
 二人は間合いを取りながら会話を交わす。
「……ルルーシュ様はどうして、そんなに僕を……?」
「何故解らない? ルルーシュ様がこんなにも欲しているのに、その理由が解らないというのか?」
 ジノはグッと眉を寄せる。ルルーシュがこんなにもスザクを求めているのに、その相手であるスザクは何故そんなにも自分が求められているのか解らないのだという。それはつまり何を表している? 自身に興味の無い男をあのルルーシュが好きになる訳がないのに……。
「まさか…………」
 ジノが皇宮に入った時にある噂を聞いたことがあった。ブリタニア皇族には特別な力が存在する、と。それは個人の知識や知恵や身体能力のことではない。――まさに異形の力。
 ルルーシュに聴いた話によると、彼はナイト・オブ・ラウンズとなる前、皇帝に呼び出され、そして帰ってきた時にはいつもと様子が違っていたと言っていた。そして彼はすぐにアリエス宮を出て行った、とも。
「解らないものは解らない……ッ!」
 スザクは叫びながらグッと剣を掲げた。
「……まぁ良い、とにかく私はあなたに勝つだけだ」
 キィン、と再び剣が鳴った。
 どうでも良かった。自分はもう勝つしかないのだ。喩えその結果ルルーシュから棄てられたとしても。勝つ為になら手段は選ばない。それが自分とルルーシュとに共通しているところだ。必要なのは結果。その為に自分は……。
「ルルーシュ様は……本気ですよ? この勝負でなくても構わないんです。あなたのことを手に入れる為ならきっとあの方は何でもされますよ……ほら……」
 ジノは観客席に座るユーフェミアへと視線を向けた。するとそのすぐ傍にルルーシュが近寄っているのが見えた、そしてルルーシュの手には薔薇の花が握られている。真っ赤な薔薇が。
「良く言うでしょう? 薔薇の花には刺がある、薔薇の刺に指を刺されて死んでしまったのは誰でしたっけ?」
 ニコリ、とジノは笑んだ。そんなジノの言葉にスザクは焦ったようにユーフェミアの方へと振り返る。
「そんな…………! ユーフェミア様ッ!」
 スザクはユーフェミアへと手を伸ばし、そして彼女の傍へと駆けようとしたその時だった。
 ジノは躊躇なく剣を振り下ろす。
「ッ!?」

――ザッ…………。

 スザクの足元が深紅に染まる。そして彼は地面に倒れこむ。
「スザクッ――……!」
 ユーフェミアの叫び声が聞こえる。ルルーシュは口元に薄く笑みを浮かべている。この手に持つ剣からは血がポタポタと垂れ落ちた。
 ジノはゆっくりと倒れるスザクの前へ立ちはだかり、腰を屈めた。そうしてスザクのジャケットの胸に挿してある一輪の薔薇の花をゆっくりと引き抜いた。
「……ッ、騙したのか……ッ!」
 スザクはグッとジノを睨みつける。しかし、出血により、次第に彼は抵抗を封じられていく。
「勝者、ジノ・ヴァインベルグ――!…」
 スザクはその声を聞きながらゆっくりと目を閉じた。
「……すまないな、枢木卿。全てはルルーシュ様の為に……」

* * *

 目が覚めると見たことがない天井がぼんやりと視界に入る。豪華なシャンデリア灯る光が段々とはっきり見えてくる。
「……こ、こ……は?」
 喉が乾燥して上手く声が出ずに掠れた音が喉の奥からまるで他人から発せられたもののように聞こえた。
「……スザクッ! 目が覚めたのか!?」
 パッとルルーシュの顔が視界に飛び込んでくる。自分はどうやら彼のベッドに寝かされ、そして彼が様子を見守ってくれていたらしい。
「ルルーシュ……様……」
「心配したんだ。出血が多くて気を喪ってしまって……。目が覚めないんじゃないかと……」
 彼は眉を下げ、スザクの頬へと手を伸ばして優しく労るように触れた。本当に心配してくれていたようだった。
「……ご心配お掛け致しました……それではユーフェミア様のところに……」
 そう告げようとして思い出す。自分はジノに負けた――つまり自分はユーフェミアではなくルルーシュのものになってしまったのだ。
「ユフィに会うのはもう少しその傷を治してからにした方がいい。まだ暫くは安静にしないと」
 彼はユーフェミアに会うことを禁じようとはしなかった。傷が良くなったら会いに行けば良いとまで提案してくれたが、一体彼が何を考えているのかよく解らなかった。
「……はい……」
 ルルーシュは優しかった。でも、どうして自分のことをこんなに求めているのか解らなかった。嘗ても彼の騎士であったことはあったけれども、それ程深い仲であった訳ではないし、ナイト・オブ・ラウンズに入ることになった時、彼は出世だなと喜んでくれたのだから、それを再び取り戻そうというのも妙な話だ。
「脚は全治二ヶ月だそうだ」
「……そうですか……」
 ジノに刺されたのは脚で、それにより動きに制限されてしまっていた。ベッドから上半身を起こすことは可能だが、歩くことは未だ出来そうになかった。
「ユフィの騎士が不在になってしまうからな、ジノを貸し出すことにしたよ。だからお前も安心して構わないだろう。ジノがユフィを護るから……」

――暫くお前と二人きりだな。

 ルルーシュが浮かべる妖艶な笑みにスザクはゾクリと背筋が戦慄いた。
「ずっと……お前のことを考えていたんだ。再会して、余計にその想いが強くなってしまって……少し強引な手法だったが……お前に怪我をさせてしまったし……すまない」
 ルルーシュはゆっくりとした動作で手を伸ばし、スザクの頬へと再び触れる。その指は少し冷たく感じられたが何だか懐かしい気分になる。
 以前にもこの体温を感じたことがあるような、そんな気がしてくる。確かに以前もルルーシュの騎士であったのだから手に触れたことくらいあったのだろう。しかし、それだけではないような曖昧で不思議な感覚が触れられた頬へと残る。
「ルルーシュ……様?」
 ゆっくりと彼は顔を近づけ、そしてスザクの唇のすぐ横へと唇を落とす。ちゅ、っと軽く音を立ててすぐに離れる。じっと紫紺の瞳を向けられ、見詰められると思わず緊張してしまうくらい整った彼の顔付きにスザクは息を呑む。
 こんなにも美しく、女性だけでなく男性であったとしても彼のことを手に入れたがる者は多いのに、何故彼は自分のことを欲しがるのだろう。
「……昔のように……ルルーシュ、と呼んでくれないか? 《様》なんて付けて……昔はそんなに他人行儀じゃなかっただろう?」
 ルルーシュはそう言うが、そんな記憶は無かった。本当に自分はそんな風にルルーシュのことを呼んでいただろうか。過去に思いを巡らせてみてもぼんやりと曖昧な記憶しか呼び起こされない。
「……ルルーシュ……?」
 記憶はないが、彼がそう呼ぶように言うのだから、スザクはそれに従う。そして彼の名前を呼んだ。
「スザク…………俺、は」
 ルルーシュは眉間に指先を寄せて考え込むように目を閉じる。その様子をスザクは暫く見つめていることしか出来なかった。
「……お前がユフィの騎士になったのは出世だった。ナイト・オブ・ラウンズに引き抜かれた時も……だ。なのに俺はお前の出世の邪魔をしてしまっている……」
 いつも彼が表に出る時よりももっとフランクな話し口調。彼がゼロとして学園に立つ時、いつも彼は隙のない皇子のような雰囲気を醸し出していた。けれども、今此処でスザクを気遣ってくれているのは間違いなく《ルルーシュ》で、《ゼロ》と呼ばれている時の彼とは少し印象が違うように思えた。きっとこれが本来の彼なのだろう。
「お前のことが…………好きだ……。好き……なんだ……」
 突然の告白にスザクは戸惑う。自分は男で、ジノに決闘で負けた今は彼の騎士で、それなのにどうして彼はそんなことを言う?
 彼はベッドへと横たわるスザクの上に覆い被さるようにしてスザクの身体を抱きしめた。主のことを拒否することも出来ず、スザクはただ動けずにいた。
「……スザク……」
 彼の細い指がスザクの頬を撫でる。優しく、愛おしさを向けるような触れ方だった。
「……ルルーシュ……どうして……」
 そんなことを訊いても意味があるのか解らなかった。けれども訊かずにはいられなかった。
「お前は俺を……暗闇の中から救い出してくれた。特別なんだ……誰よりも……」

――特別……。

 ルルーシュは静かにスザクの唇へと自らのそれを重ねあわせる。そしてすぐに離れ、もう一度……何度も……何度も……繰り返す。両腕を使って突き放すことも出来た。けれどもスザクはそうしなかった。何となくこの口付けに心地良さまで感じてしまっていた。
「ん…………っ」
 彼はスザクの唇を割るようにして舌を口内へと侵入させる。そうしてゆっくりとスザクの舌へと触れるように絡ませる。このキスに応えてしまっていいのか解らない。戸惑いながらも身を任せることしか出来なかった。
 いつの間にかギュッと閉じてしまっていた目をゆっくりと開くと、整ったルルーシュの顔がすぐ近くに見えた。目を閉じている彼の睫毛は長く、その細い躯からは僅かに薔薇の香りが漂う。
「ふっ……ん……」
 深い口吻に彼は甘い声を洩らす。普段のストイックな姿からは想像出来ない甘美な姿にスザクはゾクリと身体を戦慄かせた。
「……スザ……ク……」
 ゆっくりと唇を解放されれば彼は甘い声でスザクの名前を呼ぶ。そうしてスザクの上へ掛かっていたシーツを彼は剥がし取った。
「……ルルーシュ……?」
「お前は……何もしなくて……良いから……」
 彼はそうしておもむろに再びスザクへと近付いてくる。そしてベッドの上へと乗り上げ、再び口を塞がれる。今度ははじめから舌を絡めるような激しい口付けだった。
 ゆるゆると伸ばされた手はスザクのシャツのボタンを外し、その下にある皮膚へと触れる。首筋を撫でるように触れ、徐々に下へと降りていく。鎖骨の上をなぞり、そうして胸元へと辿っていく。
「ん……ッ、……ふ……ぁ……」
 ルルーシュは声をくぐもらせながらもスザクへ触れることを止めようとはしなかった。
 胸元の飾りを掠めるように撫でられ、スザクは初めてのことに戸惑う。女性のことを愛撫することは珍しくなかったが、こうして男に愛撫を受けることなど初めてだった。
「……ッ、ルルーシュ!」
 一向に止める気配もなく、その上、下肢へと触れられスザクは慌てて声を上げた。
「……お前は……何も……しなくて良いんだ。それとも厭だったか? 男である俺に、こんなことされて……」
「……いや……という訳では……ないですが……」
 ルルーシュは仮にも皇子であるし、自分は今は彼の騎士となっているのに。
 元々騎士と主との関係での恋愛はご法度というのがこの国だけでなく世界全体でのルールだった。しかし、彼はそれを無視しようとしているし、ましてや男同士。戯れという言葉ではすまないだろう。
「……なら構わないな」
 どちらにしてもスザクは脚を怪我し、余り動けないような状態だ。いや、怪我しているのは片足だけだからどうにでもなるが、それでも逃げ出すつもりはなかった。
 ルルーシュは下肢へと手を戻し、擦るように触れた。太股の内側を撫でるように、そして今度は下着の上から敏感な部分に直接……。
 目を覚ました時、既に自分の格好が上半身はシャツ一枚で下半身は下着だけだということには気が付いていた。服を着たままベッドに寝かせるのもおかしいといった判断に基いての対処だと思われたが、こうしてみると、何だか違った意味もあったのかと勘ぐってしまう。
 直接触れられたその部分が除々に熱を持ち始める。それをうっとりとした表情で見詰めながらルルーシュは下着の上から扱いていく。
「……ッ、ルルーシュ……!」
 ルルーシュは顔をスザクの下半身へと寄せると、熱を持ち硬くなりはじめていたスザクを下着から取り出した。そして躊躇うこともなく、彼はその先端にキスを落とす。その仕草にスザクはビクリと躯を震わせる。それに満足したのかルルーシュは笑みを零しながらも今度はペロリと舌を使ってその部分を舐める。するとスザクのそれは一気に膨れ上がり硬さを持つ。
 そして先端に舌を這わせながらゆっくりとした動作で幹の部分を手で握って扱いていく。
「う……っ、ルルー……シュ……」
 幾ら好きだといっても行き成りそれはないだろう、と思いながらもスザクは敏感な部分を直接愛撫され、眉を顰めながら快感に耐える。
 あの整った桜色の薄い唇がスザクのそれへ触れている。とても悪いことをしているようなそんな気分にさせられる。既に透明の液体が垂れ、ルルーシュはそれを舐め取るように舌を這わせる。
 時折チラリと赤い舌が覗き、ドキリとさせられる。それでも何とか耐えながらもスザクはルルーシュの姿をじっと見詰めることしか出来なかった。
「ん…………っ」
 ルルーシュはスザクから唇を離し、自らの着ていた服を脱ぎ始める。元々表に出る時以外はラフな格好をしているのだろう。白いワイシャツとスラックスだけの状態だったからそれ程脱ぎ着は大変ではない。
 器用に手早くボタンを外し、ベルトに手を掛ける。彼に触れなくても既に彼自身も熱を持っていることは明らかだった。
「気持よかったか?」
「え……っと……はい……」
 訊かれて素直に答えてしまう。するとルルーシュは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……その、初めて口でしたから……そうか……良かった」
 まるで学園では見せない表情にスザクは驚いてしまう。彼の素の笑みはこんなにも綺麗でこんなにも心地の良いものだったのか、と。勿論普段の作ったような笑みも美しいのだが、冷たさを含んでいて、冷徹な印象を醸し出していたから余計にそのギャップが大きかった。
 ルルーシュは綺麗だ。しかしこのような状態になっても彼のことが好きかと訊かれたらどう答えるだろう。はっきりと好きだと断言することは出来なかった。
 だからこそ、欲望のままに彼の頭を抑えつけて口淫をさせたりすることは憚られた。解らないからこそ、拒絶も出来なかった。……彼の好きにさせることしか自分には出来なかったのだ。

――自分が解らない……。

 スザクがそう思い悩んでいる間に、ルルーシュは自ら下着までもを脱ぎ去って、その整った肢体をスザクの目の前へと惜しげも無く晒した。
「っ……」
 彼はスザクの先走りで濡れた指先で自らの後孔に触れる。そして慣らすようにゆっくりと埋め込んでいく。
「ん……ッ……」
 まさか、彼がそこまでやるとは思わなかった。それも初めてといった様子ではない。初めてのことであればこのような行動には出ないだろうし、指だけだとしても挿入すれば痛みを感じる筈だ。
 前には一切触れていないのに、ルルーシュも既に先走りが滴っていた。そして彼はスザクの唇に触れるような口付けをおくると、スザクの躯を跨ぎ、ゆっくりと腰を落としていく。
「……ッ……!」
 余りのキツさにスザクは息を呑んだ。温かく、想像以上にキツく締め付けてくる感覚にすぐにでも達してしまいそうになる。
「あ……ッ、スザク……!」
 押し広げるようにして入り込んだスザクにルルーシュも背を戦慄かせながら腰を浮かし、全て出ないうちに再び腰を降ろす。
 彼がこんなことをするなんて全く想像が出来なかった。しかし、今目の前でそれが現実となって起こっている。白い肌は肌理が細かく整っており、腰は細く折れてしまいそうな程だった。すべてが人間とは思えない程整っており、けれども目の前でこうしてスザクの性器を飲み込み、感じている姿は妖艶で淫靡だった。
「……ずっと……ずっとお前と……」

――こうしたかった……。

 そう告げる彼の言葉はスザクの中に飲み込めないまま消えていく。自分が思い出せない何かを彼は知っているとしか思えなかった。そして何故思い出せないのかが全く心当たりがなかった。
 事故で意識が飛ぶような大怪我は今までしたことがなかったし、記憶喪失になったということもない。本当に一部だけが欠けてしまったというよりか曖昧な状態になっているように思えた。
 ぼんやりとはっきりしないのは一体何故だろう。どうでもいいことであればその状態であっても理解できる。しかし、そこまで重要で忘れられる筈もないことがどうしてこんなに曖昧なのだろう。
「……好き、なんだ……」
 ルルーシュはスザクの耳許に囁きかける。その声は熱が籠っていてゾクリと身体が戦慄く。気持ち良さだけではなく、何かを心が感じるような不思議な感覚。これが好きだということなのだろうか。
「ん…………ッ!」
 気が付けば彼の頭を抑えつけ、口付けていた。激しく、彼にされたように舌を触れ合わせて深く、深く。思い出すことは今は出来ないけれども彼にキスしたい、そう思った。
「んん……っ……ふ……ん……」
 舌を吸い、歯で甘噛みする。それだけでもう堪らなかった。彼の腰を両手で支え、下から腰を揺らす。そうすれば交わった部分からは卑猥な水音が響いた。
「あッ、あ……っん、あああッ!」
 彼は声を上げながら耐え切れなかったのだろう、白濁の液体を吐き出す。そしてそれによって締め付けが更にキツくなり、スザクもルルーシュの中へと解き放つ。
 二人は荒い息をしながら抱きしめ合う。そして、もう一度唇を合わせた。

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