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Lost memory02

GEASS LOG TOP Lost memory02
約8,777字 / 約15分

(此処は何処だろう。暗くて、とても静かな場所だ)
 静寂とじめじめとした空気が辺りを包む。薄暗いその場所には見覚えがあった。先ほどまで周囲を囲んでいた青空やセミの鳴き声、ひまわりの美しい大輪は遠くへ過ぎ去り、そして木々が風に揺れて鳴る音が不気味に響き始める。
(そうだ。スザク、スザクを探さなくちゃ。ナナリーが危ないんだって、知らせないと)
 夕方のようなオレンジ色の光が障子の向こう側から差し込む。縁側では風鈴が風に揺れて音を奏でた。
 そんな中、気がつけばルルーシュはスザクを探していた。
 スザクの父親である枢木ゲンブ首相がナナリーを傷付けようとしている。それを止めなくてはならなかったことを思い出す。
 ナナリーは目も見えず、脚も動かない。そもそもまだ幼い子供なのだ。大人の男に襲われ、抵抗することだって儘ならない。
「スザク……、ナナリーが君のお父さんに……」
(スザクならきっと助けてくれる。きっと)
「助けてくれないか!? ナナリーが危ないんだ!」
 ルルーシュは目の前に現れたスザクに向かって手を伸ばす。するとスザクはゆっくりと俯いていた顔を上げた。
 しかし、そこにいるスザクは自分の知っているスザクではなかった。
「何で……?」
 目の前にいるのがスザクであることはわかるが、自分の知っているスザクには見えなかった。
「君は……誰だ?」
 スザクが静かに声を洩らした。その恐ろしく冷たい声色にルルーシュははっと息を呑んだ。
 スザクの瞳は暗く沈んだ色をしており、その表情はとても冷ややかなものだった。彼がルルーシュを見る時にこんな顔をする筈ないのに。
(スザクは親友だ……でも……)
 きっとナナリーを助けてくれる。そう信じたいのに、目の前のスザクの表情にルルーシュは凍りつく。
(こんなスザクは知らない。僕の知っているスザクはもっと偉そうで、でも、本当は優しいところだってあった。初めての友達なんだ。枢木家で信頼出来るのは彼しかいない。それなのに、どうして君は僕の名前を訊く? 知らない訳がないだろう? だって君は僕の親友なのだから)
「何を……、何を言っているんだ? 僕は……ルル、……う……っあ……!」
 自分の名前を名乗ろうとしただけなのに、何故か上手く話すことが出来なくなる。そして自分の思考が徐々にふわふわと曖昧なものへと変わっていく。
(僕は、……俺は、誰だ? いや、私は…)
 声を出そうとしたところで、頭にズキリと痛みが走る。そして徐々に頭の中が混乱していくような感覚に捕らわれる。
 自分が自分である筈なのに、まるで違う人間が自分の中にもう一人いるようだった。そう、全く見知らぬ人間が。そんな状況がどうして起こりうるだろう。
 自分は自分である筈なのに、この感覚は一体。
 それでも自分の心を落ち着けようとゆっくりと深呼吸するように息を吐き出した。そうすれば徐々にこの忌まわしい状態が静まるような気がした。
「う……ッ」
 そこに更に突然強烈な痛みが頭を襲う。そして鈍く痛みが続く頭でようやく徐々に思考がはっきりとしてくる。それはまるで悪夢から目覚めた時のような急激な覚醒だった。
「ル……」
 スザクが僅かに口を開く。そして言葉を紡ぎ掛ける。しかし、最後までは声に出さず、ゆっくりと顔を傾け、こちらを覗きこむようにしながら眉を寄せた。
「……私は……ジュリアス……、ジュリアス・キングスレイ……」
 確認するように呟けばようやく自分が自分の中ではっきりと見えてくる。この頭痛は一体何だったのだろう。まるで自分が別人に支配されたかのような嫌な感覚だった。
 目の前にいるナイトオブセブン――枢木スザクの顔を見詰めた。翡翠の瞳は暗く濁っているように見えて、彼が何を考えているのかを読むことは難しかった。
 それでもジュリアスは一瞬の動揺を押し殺し、すぐに口を開いた。
「……スザク、この有様は一体どうなっている?」
 周囲を見渡せば、そこが牢の中であるということはすぐに気がついていた。
 恐らくこの場所がカエサル大宮殿の地下にある牢であることは間違いないだろう。
 薄暗く、静まりかえったその場所には恐らくこのような牢屋が幾つかあることは把握していた。ヴェランス大公をこの場所に幽閉した筈だが、他の牢屋に人がいる気配は感じない。
 立ち上がり、幾つか牢が並んでいるのが鉄格子越しに見るが、やはり人の姿はない。
 しかし、自分たちを閉じ込めた者は自分とスザクを別々の牢にいれるのではなく、同じ牢へと押し込めたようだった。
(確かに二人入っても充分な広さはあるが……)
 この際問題なのは広さの問題ではない。記憶にはないが、恐らくこのような状態に仕立て上げたのはシン・ヒュウガ・シャイング――聖ミカエル騎士団の現総帥。彼が自分達二人を同じ牢に閉じ込めても協力して脱出しようとは考えないと踏んだのだろう。
(いや、違う。逃げられても問題ないということか……?)
 ジュリアスはスザクへと視線を戻す。彼は相変わらず黙り込んだままジュリアスの顔をじっと見詰めていた。
「おい、聞いているのか?」
 いつまでも返事をしないスザクにジュリアスは少しだけ苛つきながら左目を覆う眼帯を指先で撫でた。
 そうすればズキリと左目が痛むような気がしたが、すぐにそれは気のせいだとわかる。
「……ご覧の通りですが? シン・ヒュウガ・シャイングにしてやられました」
 スザクは淡々と感情を出すことなくそう口にした。
(それは分かっている……!)
 ギリ、と奥歯を噛みしめる。
 その態度がますますジュリアスの苛立ちを増長させるというのに。
(いや、しかし……)
 この現状をもう一度頭の中で整理する。そしてあることを思いついた。考え直してみればこの一興に乗ってやるのも悪くはないかもしれない。
 ジュリアスは急に思い直し、静かに口端を上げる。
「……スザク、退屈だな、この場所は」
 ルルーシュは僅かに目を細めた。そしてその言葉にスザクは顔を上げる。
「……此処は牢だ。仕方がないでしょう?」
 スザクはその言葉に呆れたように応える。だが、ジュリアスは今度は不快な気分になるどころか、この状況が面白く感じるようになってきてしまっていた。
「牢の中でも出来ることはあるだろう。別に独りで閉じ込められている訳ではないのだから」
 クスリ、と笑みを零しながらジュリアスはスザクのことをじっと見詰めた。
「……何を……?」
 スザクは眉を寄せてみせる。それすら愉快だった。
 ジュリアスは静かにスザクのいる方へと足を進める。そして、彼の目の前まで来ると、床に座るスザクのことを見詰めながらゆっくりと腰を屈める。
「お前は何故だか知らないが、私のことを憎んでいる。だが、それだけではないだろう? スザク……」
 至近距離でスザクの顔をじっと覗き込みながらジュリアスは更に言葉を繋げる。
「どうせ、暇なのだろう? 暇潰しの相手をしてやるよ」
 着ていたノースリーブのインナーの襟元に指を掛け、ファスナーを僅かに引き下ろす。
 目線はスザクに向けたまま、ニヤリと口端をつり上げる。
「それはどういう……」
 スザクは腰を上げ、ゆっくりとこちらへと近寄ってくる。そして上から覗き込むように、ジュリアスの顔をじっと睨みつける。
「視線だけで、人を殺せたら良かったのにな」
 ニヤリとジュリアスは嗤う。そしてスザクの後頭部へと手を伸ばしてそのまま引き寄せる。
「っ……ん……」
 触れるだけの口付け。それは一瞬のことだった。
「どうだ、暇潰しには、なるだろう?」
 ジュリアスはスザクの耳許で囁く。
「これだけで……ですか?」
 スザクは眉を寄せてそう訊ねる。どちらも互いに挑戦的で、一歩も引かない。そんなところが自分達の共通点のようだった。
「いいや、これだけで満足出来ると思っているのか?」
「……後悔することになりますよ?」
 スザクはジュリアスから視線を逸らすことなくそう告げる。しかし、ジュリアスは返事をしなかった。薄く笑みを浮かべるだけで、それがスザクの言葉への返事だった。[newpage]
「ん……ッ……」
 今度はスザクから。でも、それは先ほどの一瞬の戯れではなく、もっと深く本気の……。
「っん……、ふっ……」
 クチュ、と水音が頭の奥へと響く。
 スザクが自分のことを《そういう風》に見ていることには気が付いていた。だからこのゲームを仕掛けたのだが。
(果たしてどちらが勝つのか……)
 そもそも勝ち負けなど、はなから存在していないのかもしれないが、それでも。
「……私は、負けず嫌いなんだ……」
「知っていますよ、軍師殿」
 スザクは、ジュリアスの肩に手を添えると、ゆっくりと押すようにして、ジュリアスの身体を地面へと横たえた。背中に当たる硬質な感触に眉を顰めるが、ベッドの上ではないということが、自分達らしかった。
 これは恋や愛などではない。ただの暇潰しで、欲望の吐き出し合いで、ただそれだけのことで……。
「あ……っ、」
 裾から手が忍び込み、脇腹を撫でられて思わず声が上がる。
 そのままスザクは更に奥へと指を滑らせ、僅かに先端が尖った突起を掠めるようにして触れる。
 女ではないというのに思わぬ箇所で反応してしまう自分に驚いた。爪で弾かれ、指の腹で押しつぶされ、ゾクリと背中が粟立った。
 そんな彼に仕返しをするべくジュリアスはスザクの襟元に手を伸ばし、こちらへと引き寄せる。そしてそのまま後頭部へと手を回し、深く接吻をおくる。
 舌を絡めて、唾液を啜りながら膝を立てて、彼の脚の間へと滑り込ませる。既にその場所は硬く主張しており、ジュリアスは気を良くして膝でそのままその場所を撫でた。
「ん……っ!」
 そうすればスザクはジュリアスの舌を歯で扱きながら更なる刺激を与える。そして二人の視線は挑戦的に交わった。
スザクの指先は胸元から臍を通り、更に奥へと進んでいく。
「ッ……」
 薄い茂みを撫で、既に力を持ち始めていたそれをスザクは戸惑うことなく掴んだ。まるで初めてではないような手慣れようだ。
「……慣れているな……。男とするのは初めてではない?」
「……さぁ。キングスレイ卿も同じでしょう?」
 スザクから返ってきたのはそんな言葉で、それに少し苛々としながらもジュリアスは口を開いた。
「そんな訳ないだろう? 誰が好き好んで」
「現に今、好き好んでこの状態になっているでしょう?」
 スザクの言葉にジュリアスは眉を顰める。
「ふ……莫迦な……お前こそ、その視線、気がつかないとでも思ったか?」
「何を……?」
 ジュリアスの言葉に今度はスザクがハッと息を呑んだ。
「お前が私を見るときのその眼、まるで愛していた女に逃げられた男のもののようだな」
 クスリ、と嗤いながらジュリアスはスザクをジッと見詰めた。
 スザクが己を見るときのその表情や眼差しがある意味特殊なものであったことには気が付いていた。
 彼は自分を見る時、酷く冷たい眼をしていた。それなのに、どこかその奥底に熱のこもったそれを感じさせられる。まるで相反するそれらが一緒になっているその状態がジュリアスの関心を惹いた。
 そもそも自分としてはスザクに恨みを買った覚えはないし、好かれることをした覚えもない。それなのにスザクはジュリアスの知らない何かを知っているかのようにジュリアスに接する。
 それが何かを知りたかった。
「……そんな訳……ッ」
 スザクはジュリアスの身体を壁に向かって反転させると、後ろから彼の腕を拘束するように壁へと押し付けた。そして反対側の手でズボンを膝まで下ろすと、そのまま自身の性器を取り出し、まだ濡らしてもいないその場所に後ろから押し当てた。
「ッ……く……っ!」
 慣れていない場所に大きく、硬いものを突きつけられ、ジュリアスは呻くようにして声を上げる。そして鋭い痛みと、圧迫感に何とかして耐えながら何とか口を開く。
「……スザク……ッ、お前は……何を……知っている……ッ?」
 彼が何か自分の知らないことを知っているということは明らかだった。しかし、その内容や全体像を掴むことは出来なかった。こうした状況を利用してでも知りたかったのだ。この不可解な状況を。
「何の……ことだ?」
 スザクはしらばくれるようにそう返答する。ぐっ、と奥まで彼自身が収まった。
「あ……ッん……!」
 そこで一度スザクの動きが止まり、少しだけ呼吸を落ち着かせる余裕が出てくる。何とか息を整えながら、スザクにもう一度訊ねた。
「……ッ、お前は何を隠している?」
 後ろを振り向きながらジッとスザクのことを睨みつける。
「何も……」
 スザクはそう言い放つと、ジュリアスの腰を抑えつけ、一度、自身をギリギリまで引き抜いてから腰を打ち付ける。
「あっ!……ああ……ンッ!」
 思わず声が上がってしまう。初めての経験である筈なのに、痛みはすぐに消え、快感をつかみ始めていた。
 普通ならば痛みを感じる筈なのにスザクとの相性が余程良いのか、それとも元々そういう体質だったとでもいうのだろうか。
「あ、……んッ、そこ……ッ!」
 スザクのそれはジュリアスの好いところばかりを擦り上げる。まるでこの身体を抱くことに慣れていると思ってしまうくらいだ。
 スザクは後ろからジュリアスの身体を突き上げながら、今度は更にジュリアスの前に手を這わせる。
「あッ、ああっ……ん」
 自身の先走りの液体に濡れたスザクの手がぬるぬるとそれを扱き、同時に身体の奥深くを突かれ、すぐにでも限界が近づいてくる。
 自分はズボンを膝まで下ろした状態で、スザクに至っては前のファスナーを下ろしただけという最低限の露出で、殆どがしっかり着込んでいるような状態だった。
 そのことに気が付いてこれがどれだけ衝動的な行為であるか思い知らされる。
 しかしそのままどんどんと高められ、汗で少しべたつくのが気持ち悪いなど感じる余裕もなくなっている。それがどうしてだか厭だとは思わなかった。
「ス……、スザク……っ、もう……ッ」
 もうこれ以上は、抑えきれなかった。
「……良いですよ、これ以上我慢しなくても」
 先端に指先を立てられ、溢れ出すものを止めることなど不可能だった。ビクリと身体を震わせながらスザクの手の中へと精を吐き出す。そしてスザクはジュリアスの中に注ぎ込む。
「ッ、あああ……っん!」
 そうしていつの間にか身体を反転させられ、スザクにキスされている事実に気が付く。恋人同士がするような熱くて蕩けるようなそれはジュリアスの思考を更に鈍らせていく。
 無意識のうちにスザクに纏うように腕を回し、引き寄せていた。
 どうしてだろう。何故自分は彼に拘る? そして何故彼は自分のことをこんな風に抱くのに、普段は氷のように冷たい態度で接してくる。
(……わからない。ピースが欠けているとしか思えない……)
 ぼんやりとした頭のままそう思うが、更に深まる口吻によって正常さを取り戻せる訳がなかった。
 ゆっくりと唇が離れ、ジュリアスはギュッと瞼を伏せた。
 これは全て頭がぼんやりする所為だ。そう自分に言い聞かせながらジュリアスは静かに目を開き、スザクの顔をじっと見詰める。
「……スザク……もっと、……もっとだ」

* * *

 目の前でぐったりと横たわるジュリアスにスザクは自嘲するしかなかった。
 彼はルルーシュではないのだ。
 幾ら同じ顔で、同じ声をしていようがこれは皇帝が創り出した偽物。それ以上でもそれ以下でもない。
(でも、確かにさっきルルーシュが此処にいた……)
 向日葵のことを美しいと云い、ナナリーのことを心配する姿。
 ユフィを殺した仇であるというのに。
(ルルーシュが見ていたのは僕ではなく七年前の僕だった……)
 それがどういうことなのかは判らない。皇帝のギアスを一時的にでも破ったというのだろうか。
(そんな莫迦な)
 ギアスの力は強大だ。少なくとも自分は抗うことなど出来なかった。
(そう、今でも聴こえるんだ……)
 戦況が危機に迫る程に《生きろ》という声が。
「っ……!」
 しばらくそうして考えこんでいると、静かに近付いてくる足音に気が付き、スザクはすぐさま音のする方向へと意識を向け、警戒する。
「シャイング卿」
 足音がピタリと止むと同時に、スザクは顔を上げ、牢屋の外へと目を向ける。
 彼は供を連れておらず、どうやら一人でこの場所へと来たようだった。
 彼はスザクとジュリアスへと順番に視線を移す。気を喪った状態のジュリアスは衣服も襟元などがまだ少し乱れた状態だった。わざわざスザクが正してやる義務などないのだ。
 普段のかっちりと着込んだ状態の彼とはまるで様子が違うのはひと目見ればわかることだろう。
「枢木卿、あなたは彼とそういう関係ですか?」
 随分と率直な訊き方だなと思いながらもスザクは返答する。
「……自分はナイトオブセブンの称号を賜ったとはいえ元々は軍人上がり、これくらい珍しいことでもありませんが?」
 そう、確かに珍しいことではなかった。けれども実際に相手をしたのは軍人ではなくルルーシュだけだ。
「……それとも、あなたも興味がおありで?」
 何に、とは聞かなかった。
「ええ、今、興味が湧きました」
 シンは和かに笑みを零す。
(……まったく、これが狙いか)
 スザクはジュリアスに目を向けた。彼が意識を取り戻しているかどうかは分からなかったが、ジュリアスの狙いが読めた気がした。
「自分の後で気にならなければお好きにどうぞ」
 スザクが吐き捨てるようにそう告げると、シンは薄く嗤った。緑柱石【ベリル】の瞳を細め、自らの衣服の裾へと手を伸ばすと音を立てて鍵を取り出した。
「第十一皇子ともあろう方が……く……はは……」
 ガチャリ、と音を立てて牢の鍵を開ける。そして低い音を立てながらゆっくりと扉を動かした。
 中へ入ると静かな動作でシンはジュリアスへと近寄り、横になったままのジュリアスの腕へと手を伸ばした。
 そしてノースリーブのインナーに手を掛ける。
「……美しいな……」
 ジッとジュリアスの顔を覗き込みながら、シンは目を細める。
「眼帯や仮面で隠してしまうのは勿体無い……」
「ッ、」
 シンの零した言葉にスザクはグッと眉を寄せた。
 その眼帯はギアスの暴走を封じる為。そして仮面はゼロの正体を秘す為。
 仮面を被って《ゼロ》を演じていたのは確かに彼だ。そしてそれはテロリストの正体がブリタニア人であることを隠蔽する為であり、顔が知られていないことを良いことに何をしても逃げることを可能にする逃げ道を作る為でもあった。
 そんな卑怯な存在で、美しいという言葉とは到底かけ離れている人間だ。
 悪魔は美しい姿で人前に現れることによって、その心を奪い去ってしまうという話を何処かで聞いたことがあった。本当は醜い存在であるのに、それを隠して上辺だけの見た目を装い、そして人を騙す。それと同じだ。
「……っ……う……」
 ジュリアスの黒く艶のある長い睫毛が震える。そしてゆっくり瞼が上がり、と紫紺の瞳がシンへと向けられる。
「……シャイング卿……」
 ジュリアスは目の前にいるのがシンだと気が付くと、彼の姿を見据えた。
「……キングスレイ卿。目覚めてしまいましたか。残念です」
 ジュリアスはグッとシンのことを睨みつける。一体目を覚まさなければ何をするつもりだったのだろう。そんな意味が篭っていることは明らかだった。
「……何故お前が此処にいる?」
 供を連れずに独りでこの地下牢に来た上に、こうして牢の鍵を開けて中まで侵入してくる意味を訊ねる。
「このカエサル大宮殿は既に私が掌握しました」
 そうすれば思ってもみない答えが返ってくる。自分たちがこの場所に閉じ込められている間に何が起こったというのだろう。
「……掌握? どういうことだ?」
 スザクはシンのことをジッと見詰めた。そうすればシンはニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。
「四大騎士団の総帥たちは私が殺した。ヴェランスはもう役に立つまい。そして大貴族たちは最早私に従うしかない」
「……殺した?」
 スザクは眉をグッと寄せる。だが、ジュリアスは表情を変えることはなかった。
「そう。そしてあなた方も此処で……」
 そうシンが口を開いた時、スザクはすぐに彼の後ろへと回りこむ。
「……っ」
 シンは息を詰める。しかしその表情は苦しいものではなく、余裕すら感じられるものだった。
「おとなしく自分たちを牢から出せば危害は加えない」
 スザクはシンの背後から彼の腕を掴み、拘束する。
「くっ……ははははは……枢木スザク、お前は甘い。だから主を喪うことになるんだ。知っているのだろう? これを」
 シンは振り返るようにしてスザクへとチラリと視線を向ける。そうしてスザクは気がついた。

――ギアス

 彼の瞳は間違いない、ギアスを宿している。彼の瞳はルルーシュや皇帝が持っているあの紅い色と同じ色で染まっている。
「……止めろッ!」
 スザクは力を込めて彼を壁面に叩きつけるようにして拘束し、その力を封じようとする。
「く……ッ、私が力を使うのが早いか、それとも……」
 シンはスザクのことを揺さぶるようにそう告げる。彼は何を知っている? どうしてギアスを持っている?
 ギアスは悪魔の力だ。ユフィはそれによって殺された……。
「キングスレイ卿!」
 スザクはジュリアスに牢から出るように促す。
「ああ……」
 ジュリアスはスザクの言葉に素直に従う。ジュリアスもまたギアスを持っており、その恐ろしさを知っているのだろう。
「お前の思う通りにはさせない……!」
 スザクはそう言ってシンから牢屋の鍵を奪い取り、彼を牢の奥へと押し込めると、その扉を閉じて走りだした。シンは何も言うことなくその背中を見詰めていた。

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