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水月鏡花03

GEASS LOG TOP 水月鏡花03
約9,157字 / 約16分

「ねぇ、ルルーシュ…」
 二人とも幾度か果て、暫く休んでいるともう舞踏会も半ばという時間になってしまっていた。服を整えている彼の傍に寄り、後ろから抱きしめるようにしてスザクは囁く。
「行こう、もう何処かに行ってしまおう」
「でも、スザク…何処に…?」
 スザクの提案に眉を下げてルルーシュは困ったようにこちらを覗く。あてなどどこにもなかった。
「とにかく此処を出よう」
 スザクはそのままルルーシュの手を引き、部屋の扉を開く。しかし目の前に現れた人物にスザクもルルーシュも言葉を失った。
「え……?」
「何処に行くんだい? 枢木卿、ルルーシュ」
 扉の前に立っていたのは―――シュナイゼルだ。こんな様子の自分達を前にしても彼はいつも通りの微笑を浮かべ、焦りや怒りは感じられない。
「兄上……」
「仮面舞踏会を楽しんで貰えたようだね。主催者として嬉しいよ」
 ルルーシュとスザクの姿を見れば今まで何をしていたのか感の良い彼ならば察しただろう。それでも彼はそのことに言及することなく笑みすら浮かべてまるで社交辞令のような言葉を掛けた。
「一体…何のおつもりですか?」
 何を考えているのか解らず、単刀直入に訊けば、ルルーシュが少し焦ったようにこちらへと視線を向けた。しかし、引くつもりは全くなかった。
「何、と言われても困ってしまうね。でもそうだね…私はずっとルルーシュの幸せを願ってきた…」
 シュナイゼルはそっと目を細めた。スザクは緊張を高め、ルルーシュを庇うようにしてその前へと立つ。シュナイゼルは油断出来ない相手だと思う。
「ルルーシュ、君はマリアンヌ様に良く似ている。凛とした強さと可憐な美しさを備え持つ彼女こそ私の理想だった…。しかしマリアンヌ様は暗殺された。そう、他でもない…私の母に、だ」
 思わぬ告白にスザクは目をむいた。
「ッ、そんな!?」
 今、ルルーシュの母親を殺したのがシュナイゼルの母親だと彼は云った。ルルーシュも初耳だったようで信じられないとばかりに目を見開いていた。
「そして陛下はその事実を知っておられる。知っているのに母を罰しようとはしなかった」
「何故ッ!?」
 何故、シュナイゼルの母親は同じ后妃であるマリアンヌを殺したのに何の咎めも無しに生きている? 理解が出来なかった。
「それははっきりと私の口から云うことは出来ないけれど…。そのことで随分と君に申し訳なく思っていたよ。だからこそ援助を申し出た。そして枢木くん、君が現れた時、君ならルルーシュの騎士にふさわしいと思った。そしてルルーシュならきっと君を騎士にすると思っていたんだ」
「―――それならどうして!?」
 スザクがナイト・オブ・ラウンズに入り、ルルーシュと離ればなれにならなければならなかったのか。シュナイゼルは一体何を望んでいる?
「父上が枢木くんをナイト・オブ・ラウンズにすると決めたのは君がランスロットのパイロットだったことだけが理由ではないんだ。彼は弱者に興味がない。故に死んだマリアンヌ様は父上の興味の対象から外れた。でもルルーシュ、君は違う。君は君自身の力で生き残り、そして軍功を立てた。そんな君が唯一見詰め続けているのが―――枢木くんだった。それがどうやら気に召さなかったらしい」
 シュナイゼルは一気に告げると、申し訳なさそうに目を細めた。そしてシュナイゼルがルルーシュに入れ込んでいた意味をスザクはようやく理解した。
「…そん、な」
 ルルーシュは震えた腕でスザクの腕にぎゅっと抱きつく。
「……済まないね、ルルーシュ。でももう一つ君たちに云わなければならないことが」
 ルルーシュはそっと顔を上げる。哀しげな視線を向けるシュナイゼルが言わなければならないこと―――どうやらそれは悪い知らせのようだった。
「今日、この会場に父上が来ている。君に会いたいと、ね。君を父上のところまで連れて行く役目を仰せつかってしまった」

―――だから私と一緒に来て貰えないかい?

 シュナイゼル哀しげな微笑を零し、白い手袋に包まれた手を差し出した。ルルーシュはその手を取ることなく、スザクの腕を掴んだまま静かに口を開く。そう、これはルルーシュは元よりシュナイゼル自身も望んではいない提案なのだ。彼らもそのことは理解しており、その上でシュナイゼルはルルーシュに手を差し出している。
「…俺は…スザクと……」
「着替えは、用意しているよ。その格好では出て行きづらいだろう?」
 ルルーシュの言葉を遮り、シュナイゼルは静かに告げた。ちらりとルルーシュを覗くと、彼は諦めたように頷いた。
「……スザク、ごめん」
 謝罪の言葉と共に手を離すと、ルルーシュはシュナイゼルの元へと足を進める。もう止めることなど出来なかった。
「……ルルーシュ……」
 後ろ姿を静かに見詰めることしか出来ない自分が歯痒くて悔しかった。どうしてこんなにも思い通りにいかないのだろう。どうして人は平等に生きる道を選択することが出来ないのだろう。
 廊下を曲がる瞬間ルルーシュはチラリとこちらを振り向く。その紫紺は哀しみで染まっており、スザクは彼に向かって手を伸ばし掛けるが、それが届く筈もない。
「……何も出来なくて…ごめん」
 零れた言葉は誰にも拾われることなく、闇へと消えていった。

* * *

 兄から真実を聞いた時、既にもう後戻りは出来なかったのだと思う。
 ウィッグを外し、顔を洗う。そして衣装を急いで替えると、シュナイゼルの待つ隣の部屋へと移動した。
「兄上は…ずっと知っていたのですね…。真実を」
 ソファーに腰掛ける兄の背後からルルーシュはそっと声を掛けた。するとシュナイゼルはルルーシュの方を振り返ることなく静かに口を開く。
「済まないね…。でもあの時、まだ子供だった君に真実を話せばきっと取り返しの付かないことになっていただろう」
 シュナイゼルの云う通りだった。もし幼い頃にその事実を知らされていたらきっと絶望し、生きていく気力さえ持てなかっただろう―――譬え双子が自分のことを必要としていたとしても。
「兄上が俺のことを心配してくださっていることは、良く知っています。本当に感謝しているんです」
 その言葉に嘘偽りはない。それが譬え償いのつもりだったとしても此処まで自分達に良くしてくれた兄弟はシュナイゼルしかいなかったのだから。
「―――枢木くんと、出て行こうとしていたのだろう?」
「…ええ」
 全ては見透かされているのかもしれない。正直に頷くと、彼は立ち上がるとこちらへと向き直る。そうして眉を下げ、ルルーシュの方へと近寄ってきた。
「ルルーシュ、陛下に謁見を済ませたらすぐに二人で出ればいい。アヴァロンを用意させよう」
「…ですが、アヴァロンは兄上の……」
 まさかこの兄がこんなにも自分のことを考えてくれているとは思わなかった。
「そんなものは後でどうにでもなるからね。大切なのは君達の気持ちだ」
 優しい笑みを向けてくれる兄にルルーシュも自然に笑みが零れた。
「ありがとうございます…シュナイゼル兄上」
「愛しているよ、ルルーシュ」
 シュナイゼルは薄く笑みを浮かべ、サロンへ続く扉の前へ足を踏み出した。

 皇帝の座る席はこの大広間の一番奥、中央に置かれた玉座だった。皆が仮面を付け、踊る姿を目を細めて観察するように観賞する。普段とは違った光景は少しは退屈しのぎになるということなのだろう。
 全ての身支度を調え、ルルーシュは先程の部屋に向かった道とは違った行き方で玉座とは正反対の方向にある正面口へと向かった。正式な入場をする際はその扉から入らなければならない決まりなのだ。
 そしてルルーシュはシュナイゼルと共に広間へ再び足を踏み入れた。
「シュナイゼル・エル・ブリタニア殿下、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下、ご入来!」
 衛兵がそう大きな声で二人の入場を知らせると、貴族達は音楽やダンスを止めて玉座へ向かって道を作るように左右に退き、頭を下げた。
 カツリ、と靴音を鳴らしながら二人は真っ直ぐに足を進める。そして皇帝の前へ到着すると貴族達と同じように跪き、頭を下げた。
「陛下、ルルーシュを連れて参りました」
 シュナイゼルの報告にシャルルはニカリと笑んだ。
「二人とも顔を上げよ。シュナイゼル、お前は下がって良いぞ」
「イエス、ユア・マジェスティ」
 シュナイゼルは立ち上がり、脇へと移動する。
「久しいな、ルルーシュよ。ますますマリアンヌに似てきたか」
 ルルーシュの顔をまじまじと眺めるようにして視線を向ける皇帝にルルーシュは微かに眉を顰める。どの口が、マリアンヌを懐かしんでいる? 母を見殺しにしたその男が、どうしてその母を懐かしむような発言をするというのか。そんな資格など存在しないのに。
「ルルーシュよ、こちらに」
 呼ばれ、ルルーシュは立ち上がり、父である皇帝のすぐ目の前まで歩いて行く。怒りと絶望がひしひしと身体中を支配し、上手く歩けているかどうか少し不安になる。
「マリアンヌは良い女だった。美しく、華がある。お前のように…」
 懐かしむような声色にルルーシュは眉を顰めずにはいられなかった。どうして母を見殺しにした男が彼女のことを懐かしむことが出来る? 信じられない言葉に怒りが込み上げてきた。
「ですが……父上は、母さんを見殺しにしたのでしょう?」
 気が付けば口から自然にその言葉が洩れたが、その発言をしたことに後悔はなかった。
「…敗者は弱者である。故にマリアンヌは弱者と成り果てた。元とはいえナイト・オブ・シックスであろうものが簡単に殺された。それを弱者と呼ばずに何と呼べば良かろう?」
 信じられなかった。シュナイゼルに真実を聞く前、父は母を愛していたのだと信じていた。兄の話を聞くまでは父がそんなことを口にするとは信じられなかっただろう。しかし裏切られたのだ。やはり兄の言う通りだった。真実を知った時からこの事態を想定していた筈なのにいざ目の前で口に出されると、怒りで頭がいっぱいになっていた。
「母を殺した人を知っていたのに、あなたはそれを罰しなかったッ!」
 ルルーシュは護身用に携帯していた銃を取り出し、皇帝へと向ける。
「そう云うのならあなたが死ねばあなた自身が弱者となる!」
 もう後悔など何処にもない。これで良いんだ。

* * *

 目の前の光景が信じられなかった。ルルーシュが皇帝に銃を向けている。シュナイゼルもまさかルルーシュがそんな行動に出るとは思わず驚いているようだった。玉座を挟み、反対側に立つジノも絶句していた。
 しかし、自分も彼もナイト・オブ・ラウンズ―――皇帝の騎士だった。
 でも皇帝を害そうとしているのは愛しいルルーシュなのだ。一体どうすれば良い?
 皇帝を撃つか、ルルーシュを撃つか。きっとジノも迷っている。それでも二人のいる方向へと銃を構えずにはいられなかった。
「撃てるのか? 俺を撃てば皇帝にも当たるかもしれないぞ?」
 こちらには背を向けている筈なのに、ルルーシュにはきっと全てが解っているのだろう。こちらを振り返ることなく、声を上げた。
「愚か者が」
 皇帝は低い声で告げた。勿論ルルーシュにもその声は聞こえているのだろう。彼は眉をグッと寄せ、引き金に指を掛けた。
 ルルーシュの持つ銃の銃口は今、しっかりと皇帝の胸へと向けられている。
「この痴れ者が! 皇帝陛下の前から退きなさい!」
 第一皇女ギネヴィアが叫んだ。スザクも、ジノも、銃を構えたまま動くことが出来なかった。しかし一触即発の状態はそう長く続かなかった。
「…ええ、退くとしましょう…この男を殺したら、ね」
 ルルーシュは笑みを含んだ口調で告げると、迷うことなく引き金を引いた。

―――パァン

 時が止まったようにスザクの目には映った。いや、此処にいる全員が状況を理解出来ていないだろう。
 ルルーシュの銃口から発せられた銃弾は皇帝の胸を貫いた。深紅の血が玉座に跳ね返る。まるでスローモーションのように皇帝のずっしりとした身体が倒れ込んだ。
「ルルーシュ―――ッ!」
 ルルーシュは皇帝を撃った。間違いなく心臓を撃ち抜いた。ああ、これは大変なことになってしまった。
「ナイト・オブ・セブン、この大罪人を早く撃ちなさいッ!」
 ギネヴィアや他の皇族、貴族たちがこちらへと視線を移す。それでも、ルルーシュを撃つことなんて出来なかった。
「……出来ません、僕には、ルルーシュを撃つなんて……」
 出来ない、出来る筈がなかった。だから今すぐに彼をこの場所から連れ出さなくては。スザクは持っていた銃を下ろし、ルルーシュの立つ場所へと向かっていく。
「なら良いわ、ナイト・オブ・スリー、あなたが撃ちなさい!」
 スザクへと忌々しげな表情を向けた後、今度はジノへ撃つようにとギネヴィアは指示を出す。
 ジノは額から汗を流しながら引き金へと指を掛ける。
 (早く彼の元へ、さぁ早く!)
 あと少しでルルーシュの元へ到着する、手を伸ばせば彼に届く、そう思った時だった。

―――パンッ

 大きな銃声が再び辺りに響き渡った。一瞬何が起こったのか解らなかった。―――倒れ込んだのはスザクが正に今、駈け寄ろうとしていた人だった。そう、ルルーシュだ。
「―――ルルーシュッ!」
 彼の躯を支え、そうして振り返ると、茫然としたジノの姿が。
 ああ、彼はナイト・オブ・ラウンズだった。スザクよりも一年も前に、彼は皇帝に忠誠を誓っていた―――。
「……スザク……。済ま、ない…」
 苦しげに謝るルルーシュの身体をぎゅっと抱きしめる。どうして、どうしてルルーシュがこんな目に遭わなければならなかったのだろう。どうして、ねぇどうして。
「早くあの二人を捕らえなさいッ」
 衛兵達がこちらへ駈け寄ってくる。スザクはルルーシュの身体を抱えたまま彼らを足で蹴り倒していく。
「邪魔をするな―――ッ」
 早く、早く手当をしなければ。こんな時、協力してくれるのは誰?
 シュナイゼルに目を向けると、彼は視線だけでスザクをそっと誘導する。
 彼の元へと付いて行くと、裏口に繋がっているようで辿り付いた先はアヴァロンの格納庫だった。
「急いで、アヴァロンにロイドたちが乗り込んでいる。そこで手当を」
 既にルルーシュからはおびただしい量の血が流れ、スザクの白い服を真っ赤に染め上げていた。
「はいっ、ありがとうございます!」
 急いで乗り込み、搭乗口を駆け上がった。
「スザクくん!?」
 二人が逃げてくることを知っていたらしいロイドだったが、まさかルルーシュがこのような状態になっているとは思いもしなかったようだ。
「助けてください…ッ、どうかルルーシュを…!」
「そんな…」
 セシルは深刻な事態に狼狽えたように声を洩らした。
「とにかく止血しないと…ルルーシュ…ッ」
 ぐったりとした様子のルルーシュを用意された部屋に運び、すぐにベッドの上へと横たえる。すると、彼はゆっくりと瞳を開く。
「……スザ、ク……?」
「そうだよ、スザクだ。ルルーシュ…僕だよ」
「…お前が、無事で…良かった……」
 こんな時にでも人の心配をするルルーシュにスザクは苦笑した。でも、笑っている筈なのに目からは涙が零れてくる。
「僕は大丈夫だよ。君もすぐに良くなるから…」
 どうして…どうして涙が止まらないのだろう。ルルーシュは苦しそうにこちらを見上げ、そうしてニコリと微笑む。
「…お前と、いき、たかった」
「今からでも、間に合うよ! 此処はアヴァロンだし…何処にだって行けるッ! ねぇ、ルルーシュ…だから…!」
 ルルーシュの血に塗れた身体を抱きしめ、彼に必死に訴えかける。横に立つロイドへと目を向ければ彼は首を左右に振った。―――もう助からない、と。
 ジノの腕は完璧で、的を外す筈が無い。彼の取った行動は騎士として真に正しいものだった。でも…。
「スザ、ク…ロロ、とナナリーを、…頼む…」
「愛してるッ! 愛している、ルルーシュ。大好きだよ…ッ、だから僕と一緒に…」
 生きて、生きてほしい。今までずっと一緒に過ごしてきたようにこれからもずっと…。
 こほッ、と彼が咳をするとそれと共に血も吐き出される。いつもの白皙の顔はもう青白く、生気がない。時間がもうほんの僅かしか残されていないということは明らかだった。
「ルルーシュ、好きだよッ、ねぇ…お願いッ、死なないでッ!」
「すまない…でも…俺も、あい…してる……」
 その謝罪はスザクの〝死ぬな〟という願いには応えられそうもないという意味なのだろう。スザクはルルーシュの身体をギュッと抱きしめた。そうして叫ぶように彼の名前を呼んだ。
「ルルーシュ―――ッ!」
 彼の紫紺の眸がゆっくりと伏せられ、苦しげだった呼吸は穏やかに途切れる。まるで眠っているかのような表情だったが、彼の躯から溢れるその真っ赤な血は彼がもう二度と目覚めないことを表しているようだった。
「あ……あ、あ、…そ、んな…ルルーシュ…」
 何も出来なかった。何も護れなかった。
 涙が零れてくるのを拭いながら顔を上げる。そうして彼の言った言葉をもう一度繰り返す。
(ロロとナナリーを…急いで、アリエス宮に…行かなくちゃ…)
 ルルーシュの最期の願い。それはロロとナナリーの幸せだった。ギネヴィアや他の皇族たちが謀反を企てたルルーシュの同腹の弟妹達をそのままにしておく筈がない。
「…僕が、ロロと…ナナリーを…護るよ…ッ、だからルルーシュ…安心して…」
 絶対に僕が君の大切な人たちを護るよ。だから待っていて。僕もいつかそこにいくから。

* * *

 月日が経つのはとても早い。あの日、兄さんはスザクさんの目の前で殺された。僕とナナリーはまだ十六歳を迎えていなかった為にあの場にはいなかった。そう、行くことが出来なかったのだ。ブリタニアの社交会は他国同様十八から参加することが出来るが、皇族だけは特例で十六歳から夜会に参加出来るようになる。もし参加出来ていたら何かが変わっていただろうか…。
 窓から外を見渡し、雲に覆われた白い空を覗いていると、不意に手の甲に手のひらを重ねられた。
 あの日からもう四年が経った。兄さんと同じ十八歳を迎えた。あの後すぐにスザクさんがシュナイゼル兄上のアヴァロンで僕達と兄さんを連れ出してくれた。
 そうでなければ今頃僕らも死んでいただろう。
「ねぇ、ナナリー。兄さんは見ていてくれるかな?」
 横に座るナナリーの姿に目配せし、優しく微笑めば彼女も同じように笑みを返す。
「…もちろんです。お兄様はきっと何でもお見通しですから」
 四年ぶりに訪れるペンドラゴンはあの時とちっとも変わらない。僕達の出て行ったこの街は人々で溢れかえり、賑わっている。
 兄さんが死んだことも忘れ、人々は普段通りの生活を取り戻していた。
 第九十八代シャルル・ジ・ブリタニアは第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアによって暗殺された。そのルルーシュの同腹の兄弟である双子のロロとナナリーはその後行方を眩ませ、現在捜索中である。そして帝位は第一皇女ギネヴィア・ド・ブリタニアが継ぎ、宰相は第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアが継続して就任―――これがブリタニアの公式発表だ。
 確かに殆どがその公式発表の通りの事実だろう。しかし彼らは真実を知らないのだ。
「でもスザクさんが…来られなかったのは残念です」
「うん、そうだね…」
 僕達を兄さんが殺された後、アヴァロンへ乗せて助けてくれたスザクさんは半年前に死んでしまった。僕達の生存がブリタニア側にばれた時、僕達を庇って撃たれたのだ。
(でも、何だか安心していたようだった…)
 死に行くのにどうしてあんなに落ち着いていられるのだろう、と瀕死の彼を見ながら思った。でも、それはきっと兄さんが彼の元で死んだからだと思う。
 スザクさんの故郷日本―――エリア11の人達と協力しあって生きてきた。ブリタニアから日本という国を取り戻す為のレジスタンスにはいつの間にか黒の騎士団という名前が付いていた。黒の騎士団の皆は自分達がブリタニアの皇子と皇女であるということを知っていたけれども、その上で協力してくれた。
 ブリタニアに、世界に、その姿を晒す時だけ、正体がばれないように〝ゼロ〟という仮面を被る。仮面を被るのは僕であり、そしてナナリーでもあった。そう、ゼロは一人ではない。
 シュナイゼル兄上はあの後宰相の地位に留まり密かに皇帝となったギネヴィア姉上の動向を知らせてくれた。コーネリア姉上とユフィ姉さんはシュナイゼル兄上に協力的だった。コーネリア姉上はあの時、エリア18制定の為、ブリタニア本国を離れていた。彼女の同腹の妹であるユフィ姉さんはそんコーネリア姉上に付き、政務を学んでいる最中だった。だからあの時あの場所にはいなかった。彼女らはあの時本国から離れていたことをとても後悔している。そして僕達に協力を誓った。
 だからこそ、これ程早くにこの瞬間が訪れたのだ。
 アヴァロンの上から遠くに薄らと見える帝都の様子を確かめながら、背後に立つ人々へと振り向く。
「皆さん此処までありがとうございます。時機に全てが終わるでしょう。そうすれば日本は戻ってきます。―――間違いなく」
 藤堂や四聖剣をはじめとした面々たちが前をしっかりと見詰め、今日という日を嬉々として迎えているようだった。今日はブリタニアという国が無くなる日。
 兄さんを殺した国を終わらせる日だから。
(だから見ていてください…)
 この国の終焉を。僕とナナリーならそれを実現出来るから…。
「ゼロ、ギネヴィア陛下にご挨拶を」
 零番隊隊長が赤毛を靡かせこちらに寄ると、囁いた。ロイヤルプライベートへの傍受は既に成功しているらしい。
「ええ、すぐに準備を」
 ロロはニコリと笑みを浮かべ。手に持っていた仮面を顔に取り付ける。
「皆さん、〝ゼロ〟とは僕とナナリー二人だけではありません。ゼロとはこのブリタニアの崩壊を願う誰しもが名乗ることの出来る名前…。僕達はただの代表に過ぎません。僕は皆の気持ちを代弁するだけです」
 ナナリーの手をそっと握りしめる。そして彼女へと目配せすると、彼女も力の籠もった菫色を向けてくる。
「では行きましょう、シュナイゼル兄様が手配してくれる筈です」
 ナナリーの手を取ったまま立ち上がり、そして歩き出す。
 これからブリタニアとの全面戦争を仕掛けるのだ。自分達ならば絶対に負けることはないだろう。

 
兄さん、スザクさん、見ていてください。あなたたちの叛逆は僕達が成功させてみせますから。

fin.

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