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水月鏡花02*

GEASS LOG TOP 水月鏡花02*
約12,265字 / 約22分

 叙任式までの日々はあっという間だった。制服の採寸からナイト・オブ・ラウンズとしての心構えを聞かされたり、それから同僚となる他のナイト・オブ・ラウンズたちとの顔合わせ、皇帝からの直接の呼び出し…。
 様々な事柄に追われ、ルルーシュと逢う時間も殆ど取ることが出来なかった。彼に直接ラウンズ入りを報告することだけは叶ったが、それ以外はもうまるで自分で予定を管理することすら出来なくなっていた。
「ナイト・オブ・セブン就任、おめでとう」
 叙任式が終わるとルルーシュはにこやかにスザクへと祝辞を述べた。その笑顔はとても作り物めいているように思えた。そして何だか急に彼との距離が離れてしまったような気がして、スザクはすぐに礼を告げることが出来なかった。
 黒の皇子と一部からは呼ばれるように彼は漆黒のコートを纏い、圧倒的な雰囲気を醸し出す。アリエス宮で逢う時の彼とは纏うオーラが全く異なるのは警戒心を棄てることなく張り詰めたような空気隠そうとはしないからだ。
 彼がそこまで警戒心を露わにするのは彼がこの場にいる人々を信用していないから。根本的に彼が信頼を寄せる人物はとても少ない。
「あ…ありがとう、ルルーシュ」
 しかし此処まで彼がそういった雰囲気を隠そうとしないのは信頼関係といった意味で彼との距離が離れてしまったからなのだろう。急激に遠のいてしまった彼との距離に心が冷たく凍り付いた。
 しかし表面上では彼はつい先日と全く変わりなくスザクに接するのだ。それが余計に不安と焦燥を与えると解っていて彼はやっているのだろうか。
「急な就任で驚いたが…お前ならあの灰汁の強いメンバーの中でもやっていけるだろう」
「…そうかな」
 確かにナイト・オブ・ラウンズの騎士達は皆個性的だ。各々がそれぞれ違った強さを持ち、殆ど単独で動く。比較的自由に戦うことが赦される為にやりやすいのは間違いないだろう。それでも素直に喜べないのはナイト・オブ・ラウンズになりたいと思ったことが一度もなかったからだ。
(僕は皇帝じゃなくて君の騎士になりたかった…)
 そう、言葉に出してしまえれば良かったのに。もし、彼にそう告げることが出来たなら一体彼はどんな反応をしただろう。
 しかしこの場所は他の誰が会話を聞いているかも解らない叙任を祝う式典会場だ。誰かにそのような発言を聴かれでもしたら自分もルルーシュも無事では済まないだろう。
 それに彼は自分との信頼関係を棄ててしまおうとしているようにすら思えた。それ程ナイト・オブ・ラウンズとなってしまったことが彼の信頼を裏切るようなものだったのだろうか。
「ああ、それにラウンズといえど遠征時の指揮を陛下が執られることは滅多にない。俺かシュナイゼル兄上かが指揮官として全体を把握することになるからそれ程変化は無いだろう」
「そう、なんだ…」
 勿論そういった遠征任務もあるが、ナイト・オブ・ラウンズ独自の任務としては皇帝や主要人物の護衛任務も重要な仕事なのだという。それならばルルーシュの護衛として動くことが出来れば良いのに。そう思うが、現実はそう上手くはいかない。
「まぁとにかくおめでとう。じゃあ俺はこれで」
 クルリ、と身体の向きを反転させてルルーシュはスザクに背を向けた。あっさりとその場を去っていく彼はそのままそうして何処かへ消えていってしまう。
「あ…待って…」
 小さく洩れたその声が彼に届くことはない。
「……ルルーシュ、君はどうして……」
 彼のことを思い浮かべるだけで周囲の喧騒がぴたりと止んだように耳から雑音が排除される。ルルーシュの、彼の、優しい声色だけが何度も繰り返しスザクの耳を打つ。
 優しかった今までの時間。確かに彼の騎士になることは出来なかったけれど、あの時はまだ無条件で彼の傍にいることが出来た。
 でも、今は違う。責任のある立場に置かれ、自由に行動することなど到底叶わない。きっとアリエス宮へ行くことも自由には出来なくなるだろう。それを彼自身も解っているからこそ、スザクと距離を置こうとしているのではないだろうか。

―――ルルーシュ…何で、僕はもっと早く気が付かなかったんだろう。

 体面など体裁など、気にする必要など本当はなかったのではないだろうか。譬え彼に嫌われることになったとしても、伝えておくべきだった。
(君のことが、好きなんだ…)
「スーザク」
 後ろから突然抱きつかれ、驚いてスザクは目を見開いた。
「な…ヴァインベルグ卿!?」
「記録」
 抱きついてきたのはジノ・ヴァインベルグ。ナイト・オブ・ラウンズのナンバースリー。そしてその様子を静かに携帯電話のカメラで記録したのは同じくナイト・オブ・シックスのアーニャ・アールストレイムだった。
「ジノで良いって言ってるだろー? 堅苦しいのは陛下の前だけで充分」
 ポン、と肩を叩かれ笑みを向けられる。そんな彼らに苦笑しつつスザクはこの会場から抜けられないものか、と思案する。しかし何といってもこの会はスザクの叙任を祝う会なのだから主役が抜け出すことは極めて難しい。
「さっき…殿下と話してただろ? 仲、良いのか?」
「え、まぁ…僕が軍に入れたのは彼のお陰というか…」
 ルルーシュが居なければ今頃自分はその価値を見出されることもなくただの人質という立場に置かれたままだっただろう。そういった意味ではルルーシュの存在こそがスザクの人生を大きく変えたといっても過言ではなかった。
「スザク」
 突如ジノは真剣な表情へと変化させ、スザクの耳許へと顔を寄せ、囁き掛ける。
「気をつけた方が良いんじゃないか? ルルーシュ殿下はシュナイゼル殿下のお気に入りだろう?」
 告げられた言葉にスザクはハッとした。
「…それはどういう意味?」
「最近、ルルーシュ殿下が良くシュナイゼル殿下に呼び出されているな、という意味さ」
 そういえばジノは良くシュナイゼル殿下の護衛を任されているという話は聞いていた。その任務の中でルルーシュがシュナイゼルに良く呼び出されていることを知ったのだろう。
「でも、それは戦略会議の為じゃないのかい?」
「…それはどうかな?」
 何とも言えない表情を含むその言葉にスザクは落ち着かない気持ちを隠せなかった。
「…君は何かを…知っている…?」
 ジノはその問いに言葉を返すことなく曖昧な笑みを浮かべていた。

 式典が終わり、スザクはナイト・オブ・ラウンズが住まうベリアル宮へと足を向けている最中だった。
 少しだけ汗ばむような温かな空気の中、一列に植えられた草花が柔らかい薫りを放っている。星空が美しい夜だった。
「スザク、知っているか? 私は君が来るよりも前、ルルーシュ殿下と友人関係にあった」
 いつの間にか隣をジノが歩いており、突然そんな話を一方的に始めた。しかしその話題の対象がルルーシュであるのだから到底無視など出来やしなかった。
「…ルルーシュと?」
「私はルルーシュ様の騎士になりたくてずっとそれを望んでいたのに…。突然英国に留学することになってしまったんだ」
 ルルーシュの騎士になりたがった人物が自分以外にも居たなど初耳だった。そんな思ってもみなかったジノの言葉に動揺せずにはいられなかった。
「その時は仕方が無かったと思ったよ。だが、戻って来たら君がルルーシュ様にべったりだったし、ルルーシュ様の騎士を志願することすら叶わなかった。ナイト・オブ・ラウンズに任命されたことによって本国に戻ってきたのだからな」
 どういうことだろうか。つまりジノと自分は状況が酷似していると言いたいのか。
「しかし、最近知ってしまった。私の両親に留学を勧めたのはシュナイゼル殿下だった。突然のナイト・オブ・ラウンズ入りも…全て…」
「―――待って、ルルーシュはそんな話一言も…」
 ルルーシュには一言もそんな話を聞いたことなどなかった。シュナイゼル殿下が何かを画策している―――? そんな馬鹿な。
「お二人は…兄弟じゃないか…」
 シュナイゼルがルルーシュを兄弟という枠組み以上の目で見ているというのならそれは何を表しているというのだろう。母を同じくした同腹の兄弟であれば仲が良いのも頷けるが、母が異なる異母兄弟たちは表面上の繋がりだけで実際のところは水面下で足の引っ張り合いをしていることを長く皇宮に出入りしているスザクは知っていた。だからこそシュナイゼルが必要以上にルルーシュに肩入れするのは不自然だ。そう、何か特別な理由がないのならば。
「そんなことを言ったら私たちだって異常者扱いじゃないのか? 私もお前も、ルルーシュ殿下に焦がれている」
 それは尤もな指摘だった。つまりこの皇宮内にはそんな常識が通用しないということであり、何が起こってもおかしくないのだとジノは云う。
「私は―――諦めたつもりだった。でも、やはりあの方は私にとって大切な…」
「僕にとってもルルーシュは大切だよ。僕は―――諦めない。諦めることなんて、出来ないよ」
 はっきりと断言すればジノはきょとんとした表情でスザクのことを見詰めていた。
「なら、勝負だな。スザク」
 しかしすぐにニコリと挑戦的な笑みを浮かべ、そう宣言してみせるジノに、スザクも負けじと目を細める。
「ああ、そうだね。どちらがシュナイゼル殿下からルルーシュを護るか―――」

* * *

 今日は久しぶりに懐かしい顔を見た。ナイト・オブ・スリーのジノのことだ。彼はスザクと出会う前は良くこのアリエス宮を訪れ、アーニャと共にナナリーやロロを交えて良く遊んでいた。
 彼が留学を決めた時はとても寂しかった。大切な友人が一人外国に行ってしまうのだからそれは当然のことだろう。皇子である自分は気軽に他人に連絡を取ることは出来ないし、折角勉学に励んでいるジノを邪魔することなど出来なかった。だから彼がブリタニアを発った後、連絡を取ることはなかった。
 しかし彼は一年ほど前にナイト・オブ・スリーとなり、本国に戻ってきた。だけれども叙任式後間もなく海外遠征であちこちに飛んでいたことから殆ど顔を合わせる機会は存在していなかった。
 とはいってもやはり他のラウンズの叙任式には参加するのが礼儀であり、ジノもやはり出席していた。昔よりも背は随分伸びており、スザクと仲良さげに話すようすに気が付けば気分が急降下していた。

―――果たしてそれは何に対して?

 スザクと少々会話をしたが、その前の二人での楽しげな光景を思い出してしまい、その光景を振り切るようにすぐに会場を後にした。ジノのことは大切な友人だったが、やはりスザクのことを思う気持ちとは少々異なるものだった。
 でも、もう関係ない。スザクもジノも手の届かないところへいってしまった。ナイト・オブ・ラウンズとは皇帝の騎士であり皇帝の所有物。幾ら自分が皇子であったとしても手出しは赦されない。
 だからこそスザクに必要以上に近付かないようにと自分に言い聞かせた。そしてこの彼を想う気持ちを心の奥へと押し込めた。
「ルルーシュ」
 自室で一人考え事に耽っていると、突如名前を呼ばれハッとして顔を上げる。
「…シュナイゼル兄上……」
 部屋の入り口に立っていたのは異母兄であるシュナイゼルだった。彼はソファーに腰掛ける自分の姿を真っ直ぐに見詰め、ゆっくりと口を開いた。
「どうしたのかな? 一人で考え事かい」
 薄く笑みを浮かべながら彼はまるでルルーシュの考えていることを見透かしているかのように訊ねた。
「ええ、まぁ少し」
 曖昧に返答すると、シュナイゼルはゆっくりとこちらへと近付いて来た。
「君に、逢いたくなってね。ロロに無理を云って勝手に入らせてもらったよ。チェスでもどうかな?」
 昔はよくこの異母兄とチェスをした。最近でこそその回数は減ってしまったが、それでもたまにこうして彼はこの離宮へと来てくれる。
「ええ、お相手お願いします」
 隅に置かれていたチェスボードを取り出し、ソファーの前のローテーブルの上へと置く。シュナイゼルが白で自分は黒。これは特別に取りはからってそう決まった訳では無かったけれども、何となくいつもこの色を使っていた。
 チェスの駒を進めながら、ちらりとシュナイゼルの様子を伺うように顔を上げる。するとシュナイゼルもこちらの視線に気付いたのか淡い紫色の眸をこちらへと向けてきた。
 繊細にウエーブを描くプラチナブロンドがその白い頬へとかかり影を落とす。多くの人々はきっとこの容貌だけで彼に惹かれてしまうだろう。しかしそれだけではなく彼には多くの才能があった。そして地位も。人が欲しいと願うであろう全てのものを持っている彼は人が欲しいと望んでいるものを良く知っている。そう、ルルーシュが焦がれているものも。
「ルルーシュ、来週末にちょっとした夜会を開くことになってね。是非君を招待したい」
 シュナイゼルはその整った唇で笑みを携えながらそう告げた。
「夜会、ですか?」
「君は余りそういった場所が好きではないことは知っているよ。でもね、そろそろ立場を明確にしないと…」
 どうやらシュナイゼルは自分のことを憂慮してくれているようだった。確かに滅多にそういった場に赴くことがないのでシュナイゼルの杞憂も当然のことだといえる。
「……わかりました。それに兄上の開かれる夜会ならば喜んで伺います」
 シュナイゼルが主催するのだからただの貴族が娯楽の為に開くそれとは全く趣旨が異なる。これを断ることなど出来ないし、寧ろ自ら積極的に赴くらい彼には恩があった。
「母を亡くした時、兄上がいてくださらなかったらきっと立ち直ることは出来なかったでしょう。本当に感謝しているのです」
 そう、あれはジノが留学してしまい、スザクと出会う少し前の話だ。母が暗殺され、途方に暮れているところを救ってくれたのがシュナイゼルだった。もし、彼が手を差し伸べてくれなかったら双子たちの笑顔も二度と見られなかっただろう。
「君は、マリアンヌ様の事件にも負けずに良くがんばってきたね。私はほんの手助けをしたまでだ。だから此処までやってきたのは君自身の力だよ」
「兄上……」
 ソファーを立ち上がり、向かい側のソファーに腰掛けるシュナイゼルの隣へ向かうと、そっと彼はこちらへと手を伸ばした。
 自分よりも少し温かいその白い手が頬に触れる。優しい兄の手だ。
「ルルーシュ、夜会はただの舞踏会じゃないんだ。いつも同じような夜会にばかり招待されてもおもしろみが足りないだろう?」
「では何か特別な会なのですか?」
「この世界では嘘と真実とを上手く使い分ける。そんな仮面を一夜、楽しんでみるのもどうかな?」
 シュナイゼルの云いたいことを何となく察し、ルルーシュは薄紫の色に囚われたように言葉を洩らす。
「仮面舞踏会…ですか?」
「その通り。仮面を被り、自分ではない誰かを演じる。少しは君も世間を忘れて楽しむと良いよ」
 そっと目を細め、こちらを真っ直ぐに見詰める彼はゆっくりとこちらへと顔を寄せ、額にキスを落とした。

* * *

 シュナイゼルの開く夜会に招待されたのは自分が今まで彼に直属ではないといっても部下として世話になったからだろう。シュナイゼルと懇意の貴族や皇族達がこぞって参列し、豪奢に飾られた仮面を付けてこの素晴らしく煌びやかな夜会を楽しむのだ。
 何とか急いで用意させた衣装に身を包み、仮面を取り付ける。普段着慣れない貴族の着るようなごてごてとした装飾の施された服にスザクは落ち着くことなく辺りをきょろきょろと見回していた。
 ナイト・オブ・ラウンズならばこういった席においても騎士服を纏うのが通常だが、今回はシュナイゼルの特命によりそれは禁じられていた。ラウンズであっても参加者は参加者であり、この夜会に参加する者は誰であっても仮面を付けるべきだというのだ。
「よろしければ一緒にダンスでも」
 黒色のドレスを纏った一人の女性が声を掛けてきたのでスザクは頷く。仮面に顔を隠し、黒髪のウエーブがかったロングヘアがシャンデリアの光によって艶やかに輝いている。銀色の仮面は黒色の羽根とアメジストによって装飾しており、何とも美しいものだった。顔に直接取り付けるタイプではなく、仮面の横に付いている細い銀棒を半透明の白い手袋越しに持ち、支えている。片手が塞がれている為、どうやってリードしようか考えていると、彼女は棒を持っている方の腕を軽く上げ、その部分を掴むようにと促した。
 対して自分の付けている仮面はシャンパンゴールドのもので、銀色の宝石と翡翠がキラキラと輝いている。服は白色のジャケットとパンツ。金糸で豪奢な刺繍が施され、少し自分でも衣装に着られているような気がしてしまう。
「余りダンスは得意ではなくて…躓いてしまったらすみません」
 余りこういった場には慣れていないのだ。ダンスを踊るのも正直余り得意ではない。しかしずっと立っている訳にもいかず少しだけ踊ればそれで良いと思っていた。
「いえ、構いません」
 ステップを踏むたび、黒髪の女性の耳許に光る銀色のピアスが揺れる。そこではて、と思った。
 彼女の耳許で揺れる純銀のピアス。紫水晶と黒瑪瑙が控えめに輝いている―――これは一年前のルルーシュの誕生日に贈ったものと同じデザインだ。
 まさか、そんなことがあるのだろうか。スザクは彼女の仮面の奥をじっと凝視する。仮面の向こうに見えたのは愛おしいロイヤルパープルだった。
「……ルルーシュ?」
 返事はない。しかしそれがその言葉を肯定しているようで、胸が高鳴った。ジノにライバル宣言をしたというのにそれ以降彼と接触することすら叶わなかった。一体何か陰謀があるのではないかとすら思う程、彼との邂逅はことごとく邪魔をされていたから。
 リズムに合わせ、ダンスをしながら身体を密着させていく。仮面の隙間から見える透き通るような白い肌は薄らと頬の部分だけ染まっていた。
 幼い頃から女性に間違われるのを嫌い、少しでもそのことを仄めかすと暫く口を利いて貰えなくなるくらい怒っていた彼が、わざわざこんな格好をしてまで逢いに来てくれた。それが本当に嬉しくて、嬉しくて、今すぐに力一杯抱きしめてしまいたくなるくらいだった。
「ルルーシュ…なんだね。ねぇ、お願い。厭じゃないなら…少しだけ話がしたいんだ」
 彼は頷くと、そっとスザクの腕を引いた。導かれるままにスザクは会場の奥へと足を進める。暫く歩くと廊下に突き当たり、右に曲がる。そうして幾つかのドアを通り越して、突き当たりのドアを開けた。
 室内は電気が灯っておらず薄暗く、普段は使われていない部屋のようだった。そこで彼はようやく安心したように持っていた仮面を外した。
「…スザク……」
 囁き掛けるように名を呼びながら壁際に立つスザクの後頭部へ両手を伸ばし、仮面を外す。ゆっくりと仮面が取り去られ、目と目が合った。至近距離で見詰め合うその様子は静寂そのもので、時が止まってしまったようだった。
 薄く化粧がほどこされた彼の唇は桜色で、少しだけ艶がある。囚われたように彼へと手を伸ばし、そっと指先でその薄紅に触れると、彼は瞼をゆっくりと伏せた。
「…逢いたかった……」
 そう洩らしたのは果たしてどちらだったか。二人とも同じ気持ちだったのは確かなようだった。
「スザク……」
「ルルーシュ…君に逢いたかった。こんなにも近くにいる筈なのに表だって会うことが出来ないなんて、哀しいよ」
 もうこの想いを伝えることに対し、躊躇いはなかった。
「お前はナイト・オブ・ラウンズだ。任務でもないのに特定の皇族に頻繁に会いに行くことは禁じられている」
 それは皇帝の騎士が他の皇族に寝返らないようにするために定められた規範なのだという。それでも、ルルーシュに会えないということは本当に辛かった。
「それでも、逢いたかったんだよ。ルルーシュ……君のことが好きだから」
 やっとの思いで告げた気持ちにルルーシュは今にも泣き出しそうな顔で否定するように首を左右に振った。
「……駄目だ…駄目なんだよ、スザク。そんなことを云ったことがばれたら…お前は殺される」
 主である皇帝を蔑ろにした罪―――即ち反逆罪として処刑されてしまう、と云いたいのだろう。でも譬えそうだとしてもルルーシュに逢えないのならばそれでも構わなかった。
「僕にとっては処刑より君に逢えないことの方が辛い…」
 ギュッと彼の躯を抱きしめ、その首筋に顔を埋める。ルルーシュの甘い香りがして、どきりと胸が高鳴った。
「…ん…スザク……俺、だって…」
 抱きつくように腕を回してきたルルーシュにスザクは顔を寄せ、真っ直ぐに彼の紫水晶を見詰めた。
「じゃあ、僕を選んで…ルルーシュ。シュナイゼル殿下でもなくジノでもなくロロでもナナリーでもなく―――僕を」
 懇願に近いその言葉にルルーシュは眉をぎゅっと寄せ、辛そうな表情で口を開く。
「……好きだ、スザク…。お前のことが、好きなんだ…」
「ルルーシュッ」
 ルルーシュの告白にもうどうしようもなくなって、その柔らかい唇に噛みつくように口付けた。
「―――ん……っ」
 強引に舌を押し込み、口唇を割る。性急な行為だったが、ルルーシュは止めようとしなかった。
「んぅ…っ、はぁ…」
 ようやく解放すると、ルルーシュは苦しげに息を吐き出す。涙でうっすらと眸が潤み、それすらもがスザクを煽る材料となった。
 彼に触れたい。口付けたい。そんな衝動を抑え、彼の言葉を待った。
「……何度も、諦めようと思った。でも、駄目だ…お前のことを手放すなんて…」
「僕だって君のことを諦められる筈がないよ…」
 もう一度深く抱きしめ合うと、彼の手をそっと握った。そうすれば彼も力強くそれに応えてくれる。
「…スザク…っ」
 今まで抑えていたものが溢れ出る。彼に触れてはならない、というその自制を保つことなどもう出来なかった。
 抱きしめ合う腕の力を更に強め、そしてもう一度口付ける。柔らかな桜色に何度も、唇を落とし、彼の背をまさぐった。そうすれば彼は自分の首にその両手を回し、応えてくれる。
「好、き…」
 此処が何処かということも解っている筈だったけれども、それでも止めることは出来なかった。
 ルルーシュの身体を優しく抱き上げ、奥に置かれていたソファーへと下ろす。そして彼の上へと乗り上げた。組み敷くように両腕を彼の頭の横に置き、唇を落とす。すぐにそれは深まり、どうしようもなく身体が熱くなっていく。
「…ん、あっ…」
 首筋に舌を這わせ、鎖骨の窪みに印を刻む。デコルテの開いていたドレスだったが、肩の部分で布地が引っかかっており、胸元はしっかりと隠れている。貴婦人のように胸がないのだから仕方が無いことだったが、それでも彼の妖艶さが損なわれることは一切なかった。
 肩に留まっている布地をずらし、胸元を露わにする。平らなその場所に一つずつ花のようなしるしを残し、既にツンと尖っていたその場所へと吸い付いた。
「ふぁ…っ…」
 小さく喘ぐその声すら愛おしい。もっともっとその声を聞きたくて、スザクは集中的にその場所へ愛撫を施した。
 時折熱っぽい視線を下から向けられ、その意図を感じ取ったスザクは小声で囁いた。
「もう此処だけじゃ足りないんだね」
 するとルルーシュはパァっと顔を赤く染めて、それでもその言葉を否定することは出来ないようで潤んだ眸で頷いてみせる。
 スザクはそんなルルーシュに満足してたっぷりとした布で覆われた下肢へと手を潜り込ませた。幾重にも重なる穢れを知らぬ白いパニエを一枚ずつ捲り上げながら徐々に薄く透けて現れるほっそりとした脚を愉しんだ。最後の一枚を彼の腹の方へと捲り、ようやく露わになったその秘地へ指先を伸ばす。足先からゆっくりと上へと上がるように指先で撫でていく。膝裏に四本の指を添え、残る指は柔らかな内側をスッとなぞっていく。
「ん……」
 そうして愛を誓うように内股へと唇を落とし、下着のウエスト部分に空いていた方の指を掛けた。
「…スザ…」
 下着を下ろされると悟った彼は恥ずかしそうに自分の名を呼んだが、それを安心させるようにスザクは「大丈夫」と告げ、一気に引き下ろす。するとすでに兆し掛けたその部分が視界へと飛び込んだ。
 薄い茂みに覆われたその場所は早くスザクに触れられたくて堪らないとばかりに先端から蜜を零す。
 同じ男のものだというのに全く嫌悪感を感じないのが不思議だった。
「触るね…」
 今まで皇子である彼の浮ついた話は一切聞かなかった。ということはきっとこういった行為はこれが初めてなのだろう。心配を取り去るようにこれから自分が彼に行うことを告げれば、彼はそっと頷き、同意した。
 触れたその場所は体温が低めの彼の躯の中で熱く主張していた。溢れる先走りの液体を指先に絡めながら全体的に手のひらで覆い、扱いていく。
「ひぁ…っ、んッ!」
 初めて触れる他人の手に驚いたのだろう。喘ぎと見開かれた紫玉がそれを物語っている。スカートの中から見えるその倒錯的な光景にスザクは息を呑んだ。
「ぁ…ん、スザク…ッ!」
「ルルーシュ……」
 前から滴るその体液は後ろへと伝い、しとしとと蕾を濡らしていた。早くその部分へと侵入してしまいたかったが、焦れば彼を傷付けてしまう結果になりかねない。大切だからこそ、丁寧に愛する必要があるのだ。
 ゆっくりとその蕾へ指先を沈めていく。きついそこはキュッとスザクの指を締め付ける。
「あ…ッ」
 後孔に指を押し込まれ、その圧迫感に驚いたのだろう。ルルーシュは僅かに声を詰まらせた。
 内壁を柔らかく解すように撫でつけていく。そうして徐々にその指の本数を増やしていった。
「ん…あ…、アアッ!」
 とある一点を指の腹がなぞった時、ルルーシュは苦しげだった声を艶やかなものへと変化させた。それは先程彼の性器を直接指で嬲ってた時のようなそんな色の含まれたものだった。
「ひぁ…ンンッ!」
「此処だね」
 ようやく見つけた彼の好い部分を攻めていく。見れば先程の痛みで少し萎えかけていた前が再び力を取り戻していた。
「スザ…ッ…ァ!」
 スザクの名前を呼ぶ彼にジンと甘い疼きを感じる。早く彼の中に入りたい。そんな風に焦らされながら、ルルーシュに愛撫を重ねていった。
「…っん、スザク…ッ、早く、お前が……欲しい」
 少しだけ上体を起こし、スザクの耳許に顔を寄せた彼は囁くようにして早く一つになりたいのだ、と熱の籠もった声で告げる。もう恥ずかしがっている余裕などなかったのだろう。その言葉はスザクを誘惑するような妖艶さを持っており、限界まできていた自制を一気に取り去った。
「ルルーシュ…ッ!」
 手早く下肢を覆っていたズボンを脱ぎ去り、既にはち切れんばかりとなっていたその場所の先端を彼の蕾に押し付ける。そうして彼の唇に軽く口付けると、両手で彼の腰を支えながらグッと押し入った。
「あぁ―――…ッ!」
 慣れない痛みと、その感覚にルルーシュは叫びとも嬌声ともつかない声を上げる。それを塞いでしまうようにもう一度今度は深く唇を合わせ、その声すらをもを呑み込んでいく。
 狭いその内部はスザク自身を締め付けるように蠢き、更に奥へ、と誘ってくる。余りの気持ちよさにどうにかなってしまいそうだった。
「ルルーシュ…ッ」
 名前を呼ぶと、彼は苦しそうな表情のままスザクの顔を見上げ、微笑んだ。その表情は何ともいえない程儚く、美しかった。そんなほんの刹那の表情がスザクの熱を更に引き上げていく。
 暫く慣らすように留まってから、ゆっくりと腰を動かし始める。彼の負担が減るように、そして彼にも自分と同じように気持ちよくなってほしくて、何とか先程見つけ出したルルーシュの好い部分を探ろうとゆっくりと腰を動かしていく。
「あ…ッ、ああ…!」
 ある場所を擦り上げた時、ルルーシュの声が苦しげなものだけでなく、それとは違ったものまでも混じり始める。その場所は先程スザクが指で執拗に愛撫を施した場所だった。
 見つけたところを張り出した部分で擦り上げていくと、苦しげだったそれは蕩けるようなものに変化し、スザクはようやく安堵した。ルルーシュの腰が僅かに揺れ、自らも快楽を求めてくれているのだと思うと嬉しくて仕方がなかった。
「ルルーシュ、ルルーシュッ!」
 気が付けば何度も彼の名前を呼んでいた。
「あぁッ、スザクッ! んぁ…スザク…ッ!」
 互いに名前を呼び合い身体を密着させる。
 ぐちゅ、と淫猥な水音が耳を打つ。それでも、この行為が後ろめたいという思いはなかった。まるで神聖な儀式であるかのようにすら感じさせられた。
 潤んだ紫紺の眸は柔らかく細められ、スザクへと向けられる。激しく交わっている筈なのに、一瞬一瞬時が止まったように時が移り変わっていく。そしてその一つ一つの彼の表情を愉しみ、愛おしいと再認識する。
 ルルーシュは強く突き上げられ、シーツを握りしめて溢れる快楽に耐えていた。二人の間で擦れる性器は既に限界に達しようと震えている。スザクも同じように限界だった。
「アッ、アアアアッ…!」
 最奥を突くと、ルルーシュは背を反らせ、躯全体を戦慄かせながら達した。スザクはそんなルルーシュの躯を力一杯抱きしめ、ぐっと奥へとその熱を吐き出した。
 互いに小刻みに震えるその躯の律動を感じながら本当は〝ずっと前からこうしたかった〟と心の奥に封じ込めていた願いをこうしてようやく手に入れたのだと思いながら満足げに相手の顔を見詰めた。
「ルルーシュ…好きだよ、もう君と離れたくない…」
 ずっと伝えることの出来なかった言葉を口にすると、彼は少しだけ困ったような照れくさそうな風に眉を下げて微笑した。
「…俺もだ」
 返ってきた言葉はスザクを喜ばせるもの以外の何ものでもなく、素直に嬉しくなって彼の躯をもう一度抱きしめた。
「……ん…っ…」
 自然と再び唇が重なり、離れるのが厭だというようにそれはどんどんと深まっていく。
「ふっ…ん…ぅ…」
 舌を吸い上げ、口内を蹂躙する。柔らかな内頬を堪能してそれから上顎の方へと伝っていく。そうするだけで二人とも熱を吐き出したばかりだというのにあっという間に再燃し始める。
 それからはもう何も考えられなかった。お互いに求め合い、そして奪い合った。これ以上ないくらいに幸せな時間がそこにはあった。

Novels
  • Suzaku*Lelouch50
    • Novels42
      • Another Way4
      • False Stage110
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      • 背徳の花7
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