Halloween*
「Trick or Treat」
にこりと笑みを浮かべてそう口にしたスザクにルルーシュは顔を上げた。
「さっき生徒会のみんなでハロウィンパーティーをしたばかりだろう?」
此処はクラブハウスにあるルルーシュとナナリーの居住スペースであったが時刻は午後十一時をまわっており、ナナリーは既に就寝している。
「でも僕たち生徒会はお菓子を配る方の役割だったでしょ? だから、さ」
しかしスザクの言葉は想定済みだった。そもそもスザクがこのクラブハウスに泊まると言った時点でありとあらゆることを予測しておく必要があるのは確かなのだ。自分はゼロであるということをスザクに隠しているのだからどんな不測の事態にでも対応出来なければならない。
「ふむ、分かった。良いだろう。そんなに言うならば仕方が無いな」
ルルーシュは机の引き出しを開けるとそこにはビニール包装されたキャンディが幾つか入っていた。それを見た瞬間、スザクが驚いたように眉を上げる。
「残念だったな。〝悪戯〟はなしだ」
ニヤリと口許をつりあげ、勝ち誇ったように告げればスザクは苦笑を零す。
「ありがとう、ルルーシュ。悪戯出来ないのは残念だけれど」
「悪戯って何を考えていたんだ? スザク」
笑みを浮かべたまま一歩彼に近寄り、ルルーシュはそっとスザクの顎へと指先を伸ばす。そうして咎めるように尋ねれば、スザクはやんわりと首を左右に振って否定する。
「何でもないよ、ルルーシュ」
しかしそれすら計算済みだ。キャンディを手に取り、スザクの前に差し出す。そうすればスザクは手を出してそれを摘む。瞬間、スザクの指先が自分の手の平を掠める。それだけでドキリと心臓が高鳴った。
「市販のもので悪いな。生徒会の方の準備に追われてしまって用意が出来なかった」
「ううん、気持ちだけで充分嬉しいよ。君だって何だか忙しかったみたいだしね」
それはそうだ。ゼロとしての活動もあったのだからそれはもう大忙しだ。しかしそれを表に出すのは少々危険だろう。スザクは軍人で、ゼロを嫌っている節があるから。
「まぁ、さっき食べてみたが結構美味いぞ。それ」
「じゃあ頂きます」
スザクは包み紙を開くと、白色のキャンディを口の中へと放り込んだ。
その様子をルルーシュはじっと見詰めたまま観察する。柔らかいキャンディをもごもごと口の中で溶かすスザクにそっと顔を寄せる。
「どうだ? 悪くはないだろう?」
「うん。美味しいよ。でも……あれ? 何だか……」
目をぱちぱちと瞬き、そうして手の甲を押し当てる。足元がふらりとふらついたのをルルーシュは顔色一つ変えずに真っ直ぐ観察していた。
「ル、ルルーシュ……君は一体……何を……」
さすがに友人から薬を盛られるとは幾ら彼が軍人であっても予想しなかったことなのだろう。スザクは眉を寄せて床へと倒れ込んだ。
「〝お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうよ〟か。だが、お菓子をやったのだから悪戯しても構わない、よな?」
まぁいつもの意趣返しという奴だ。スザクにはハロウィンでなくとも散々〝悪戯〟されていたのだから。
「まぁ弱い痺れ薬みたいなものだ。お前に抵抗されたらひとたまりもないからな」
軍人であるスザクに力で勝てるとは思わない。けれどもこうすれば勝ち目は出てくる。
「ルルーシュ……」
「まぁお前はじっとしてれば良い」
ルルーシュは倒れ込んだスザクの身体を跨ぐようにして乗り上げると、両手で彼の頬を押さえる。そうして躊躇うことなく顔を近付けた。
「っん……ふ……」
何度か啄むように角度を変えて唇を落とせばスザクは少しだけ唇を開いて更に深いものへと変えようと舌を差し出す。ルルーシュはそれを絡め取って吸い上げるとクチュリと水音が二人の間に響いた。
それだけでもうお互いに熱が昂ぶりはじめ、気が付けば唾液が顎を伝って滴る程に深く口付け合っていた。
「は……っん」
息苦しくなってようやく唇を離すと銀糸が二人を結ぶ。いつもは余裕たっぷりのスザクが珍しく息を切らしている様子に、自分だって余裕がないのは同じなのに満足げに笑みを零した。
「どうだ? 良いようにされるのは」
「……悪戯、だったよね」
「ああ。お菓子をやったんだから見返りを求めても悪くはないだろう?」
濡れた唇を指先で拭いながら彼を見下ろす。自分でも随分な言い方だとは思うが、仕方が無い。
「こんな悪戯なら大歓迎だけれど?」
額に汗を浮かべながらスザクは口端を吊り上げる。
「後悔するなよ、その言葉」
「それは君次第かな?」
挑戦的なその言葉にルルーシュは目を細めてスザクへともう一度顔を寄せ、そうして至近距離で囁き掛ける。
「まぁ、お前はじっとしているだけで良い。余計なことはするなよ」
ルルーシュは告げるともう一度スザクの唇に自らのそれを重ね合わせる。柔らかいその感触にすぐに夢中になってしまう。それでも指先をスザクの躯に這わ せ、首筋を、背中を、撫でていく。しっかりと筋肉の付いたその躯は軍人である証のように思える。スザクを自分から奪い去ろうというブリタニア軍に対する怒 りと軍から身を引こうとしないスザクに対するそれを抑えながらもルルーシュはスザクへと愛撫を施す。本当は解っているのだ。スザクには軍に入る以外に生き 延びる術は無かったのだし、一度軍に入ればそう簡単に抜け出すことも出来ないということも。
それでもどうしてもスザクに軍を抜けて欲しい。そして自分の手を取って欲しいと願ってしまうのはもうどうしようも出来ないことだった。
「……ん……っ」
唇を解放し、今度はスザクの首筋へとキスを落とす。痕を残すように吸い付けばスザクが小さく息を呑んだ。
「ル、ルルーシュ」
「黙っていろ」
スザクの着る制服のシャツのボタンを素早く外してその奥へと舌を這わせていく。いつもスザクにされるように。スザクの動きをなぞるようにして触れていく。
そうしてスザクの上へと跨がったままルルーシュは勝ち誇ったように囁き掛ける。
「もう反応しているようだな」
ズボンの上から手のひらで軽く撫でれば硬く主張するその場所がピクリと震えた。
「君だってそうじゃないか」
スザクが軽く腰を上げれば、互いの熱が布越しに触れ合った。それが予想以上に気持ちが良くて、思わず息を呑んでしまう。それでも今日はスザクに好きにさせるつもりはないのだ。主導権(イニシアチブ)を取られる訳にはいかない。
「っ、この状態で止めて欲しいならば構わないが?」
もう一度その場所を今度は先ほどよりも強く撫でる。
「それは困るな」
スザクはニコリと笑みを零した。その余裕の態度に何となく苛立ちを感じたルルーシュはスザクのズボンに手を掛け、さっさと脱がせていく。そして脚の間へと膝を差し込み膝頭を押しつける。
「いつもお前には好き勝手されているからな」
硬く勃起したその部分を今度は手のひらで包み込み、後ろに身体を引くと、ゆっくりと顔をその場所へと近付ける。
そして下着の上からそっと舌を這わせる。
「……っ」
指先を下着のウエスト部分に掛けると、スルリと脱がす。そして今度は布越しではなく、直接その部分を口に含む。初めは先端だけ。そうして段々と奥まで。竿の部分へと舌で刺激を与えながら手でも擦り上げていく。
「君が、こんなことしてくれるなん、てハロウィンも悪くはないね……」
熱い息を吐き出しながらスザクは苦しげにそう告げる。ルルーシュは溢れる苦みに眉を顰めながら一度唇を離すと、スザクの先端から止めどなく零れる液体を指に絡ませる。そうしてみずからもズボンと下着を脱いで後孔へとそれを押し当てた。
「……ん……ッ」
何度行っても慣れないその場所は自分の指ですらキュウと締め付ける。その感覚に何とかして耐えながらルルーシュは広げるように指を増やして奥を探る。
「はぁ……んっ」
充分に硬く勃ち上がっているスザクのそれを片手で掴むと、上からゆっくりと腰を下ろす。
「……ルルーシュ……ッ、きみ……」
何処でこんなことを覚えたのさ、とでも言いたげにスザクは口を開くが、その言葉は最後までは紡がれなかった。その代わり熱いそれが体内へと入り込み、二人とも小さく声を洩らす。
「ん……っ、はぁ」
少し動くだけでもグチュりと卑猥な音が室内へと響く。そうして何度か動くだけでもう身体が痺れたように動かなくなってしまう。それ程強い快楽にルルーシュはぐっと眉を寄せた。
「ルルーシュ……ッ」
スザクはルルーシュの腰を掴むと、グッと引き寄せる。
「ひぁ……ッ!」
予想していなかった更なる強い快感にルルーシュは声を上げた。ぐいぐいと内部を硬いもので擦られ、蹂躙され、それをぐっと締め付けてしまう。そうすれば更に体内でスザクが膨張し……逆効果である。
「ん、ん、あッ……ああッ」
ぼんやりとぼやけていく思考の中で、スザクが何故こんなにも動くことが出来るのか疑問に思う。
「スザ……ッ、お前……薬は……」
「……ごめんね。動けないフリしてたんだけれどもう我慢出来ない」
「え……っ?」
まさかそんな筈。ルルーシュは声を詰まらせた。
「僕にはちょっと弱かったみたい。でも君がこんなにも積極的だから嬉しくて」
ハハ、と笑みを零しながら更に奥まで入り込んでくるスザクにルルーシュは身悶える。
「んっ、そんな、莫迦な……っ」
腰を持ち上げ、そして勢いよく落とされる。狙ったかのようにルルーシュの好いところを先端が擦り、ルルーシュの前は触ってもいないのにも関わらず限界を迎えていた。
「い……あっ、ん……ッ、スザ……ッ!」
そうしてグッと再奥を突き上げられ、勢い良く精液が吐き出される。それは断続的に続き、自分とスザクの腹を濡らす。そうすればスザクもルルーシュの中に熱を吐き出した。
「ああっ、あ……っ、は……ぁ……」
全てを吐き出せばギュッとスザクに抱きしめられ、思わずその身に纏ってしまう。何だかんだ言ってこの胸は落ち着くのだ。いつもスザクに主導を握られ、何 が何だか解らないまま喘がされ、そうしてスザクから享受された熱を受け入れるだけでは厭だった。それでもそのことを直接的に伝えることは出来なくて……。 こうした手段に出てしまったけれども。
「ルルーシュ、大好きだよ」
それだけで何だか全てを手にしたような気分になってしまう。スザクはゼロを選んだ訳ではないのに。
「……ああ、俺もだ」
どうしてこんな風に裸になって互いの身体に触れ合うことが出来るのに何処かお互いに隠しているものがあるようなそんな気がするのだろう。きっと自分がゼ ロであるということをスザクに隠しているということがその最もたる原因のように思える。しかし、スザクは本当に自分(ゼロ)を選んでくれるのだろうか。
「…………っ、なぁスザク……、お前は……」
俺を選んでくれるだろうか? 他のどんな人間でもなくこの俺を。もしお前がゼロを受け入れてくれるのならばどんなものでも差しだそう。
――それが譬えこの命だとしても構わない
だからいつか……。
* * *
「覚えてる? 君が僕に変な薬の入ったお菓子食べさせてさ。まぁ十分くらいしか効かなかったけれども。でも君が珍しく凄く積極的でさ。嬉しかったんだ、あの時は」
ベッドの端に座りゆっくりと顔を上げれば満月の明るい光が窓から洩れるまぶしさに目が眩む。このところずっと被っていたものの所為で光に弱くなってしまったようだ。
「今日はさ、本当は仮装してお菓子を貰いに行く日なんかじゃなくて死者の霊が戻ってくる日で、みんな仮面を被ってその霊をやり過ごすのが昔からの慣わしだって君は教えてくれたよね」
ベッドの上に放って置かれていた仮面へと手を伸ばす。そうしてツルリとした表面を手袋越しに撫でた。そうすればいつでもあの時のことを思い出せる。
「でも僕は今日、仮面を被らないよ。だって……君が戻って来ても僕に気が付かなかったら哀しいから」
――だから戻って来たら僕に気が付いて……
ずっとずっと待っている。今年も、来年も、再来年も、十年後だって二十年後だって……。
戻って来たら君の目でしっかりと見てほしい。この優しくなった世界を。
「…………僕は此処にいるよ。ルルーシュ」
fin.
スパーク&ターボでの無配でした。
ゼロである=仮面を被る=死者に気が付いてもらえない。というネタでした。
昔のハロウィンはそんな日だったらしいので。